表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界でも貴女と研究だけを愛する  作者: 香宮 浩幸
第三章 魔人の復活と王都への旅編
50/253

第四十話 厄災の兄妹

読んでくださる方ありがとうございます。PVも15000手前でうれしい限りです。


三連休中は一日二話投稿です。


ちなみに今話で第五十部目です。これからも頑張ります。


2017年10月18日 誤字修正


「で、アジトの秘密通路の場所はここかな」

「は、はい。確かこの岩のところだったと思いやす……」

「そうか……まあ、よくよく見たらあからさまに岩が浮いてるからな。まあ一応チェックしておこうか……<音波診断ソナー>」


さて、ゾディアを案内役にして街道をそれて山の中の細い道を行くこと五分。俺たちは森の開けた場所にある大岩の前にたどり着いた。


「お兄様、どうですか」

「ああ、奥にずっと続いているみたいだよ。ついでに岩にも動かせるように色々仕掛けがあるみたいだから……まあ間違いなく、ここだろうな」

「<音波診断ソナー>って便利な魔法ですね。……私には覚えられないんですか」

「うーん、これも光風土の三属性合成魔法だから……合成魔法を覚えないと厳しいかな。そもそもリリアは土魔法使えないしなあ」

「……そうですか。少し残念です」

「ただ、光魔法や風魔法にも似たような探知系の魔法があるから……そっちを教えてあげるよ」

「そうなんですか。是非お願いします」


そうしてたどり着いた大岩の先を<音波診断ソナー>で探ったところ、どうやら隠し通路は存在しているようなので、後は盗品を運んだ馬車が来るまでは待機だ。


「それにしても……一応、この盗賊団って数百人規模なんだよなあ」

「ああ、そうらしいぞ。……なあ、ゾディア」

「は、はい。たしかにそうでありやすが……」

「いや、それを理解してるのは分かっているんだ」

「じゃあ、何か問題でもあるのか」

「いや、大ありだよ。……どうやって数百人規模の戦闘集団相手に、捕虜の案内役を連れて五人で勝とうっていうんだよ」


アレクスが待機中に発した疑問は確かにそのとおりである。護衛達はさすがに非戦闘員の女性陣だけを置いていくわけにもいかなかったので、一人残してきた。だから盗賊団のアジトに潜入するのは俺とリリア、アレクス、護衛二人の計五人。後は案内役のゾディアがいるのみなのは確かだ。

ちなみにゾディアの手足は逃げ出さないことを条件に俺が再生してやった。そこまでやって歯向かう気も失せたようで、従順になってくれたのは好都合だった。


「しかも数百人規模って言っても、百人少々じゃないんだぞ……推定五百人規模ってお前……」

「落ち着け。五人って言っても、その内訳を考えろ。そのうち二人は高位魔術師だぞ。一人でも盗賊団程度なら数千人規模でもつぶせる。というかそんなに不安なら、俺が召喚魔術で軍団でも作ってやろうか」

「いや、人員が多くてもアジトみたいに狭い中じゃ、動けないだろ」

「……それが分かっているなら、少数精鋭で侵入がベストに決まってることもわかるだろ」

「……そうだな」


アレクスはよく分かっていないようだが、広域範囲魔術が複数使える上級魔術師は一人だけで一国の軍とでも戦争ができるような常識外の存在なのだ。

リリアは攻撃魔法の習得度はそれほどでもないが、俺や師匠が指導すれば間違いなく大陸最強クラスの魔術師になれる可能性がある。というかさっきも言ったように現在の実力でも千人規模の盗賊団程度なら余裕なのだ。


「このゾディア程度が戦力のトップである時点で、正直言ってリリア一人でも十分制圧できるんだよ」

「どういう意味だ、ゴラァ」

「もう一回喰らいたいか……<暗黒…」

「すみませんでした」

「分かればいいんだよ。それでアレクス……」

「まあ、お前もいるし何とかなるか」

「そういうことだな」


正直言って奴隷さえいなければ、山ごと超越級攻撃魔法で吹き飛ばしてもいいぐらいだ。だが、まあ今回は俺はあまり手を出す気はないのだが……


「と言っても今回は俺はあまり手を出さないぞ」

「……どういう意味だ」

「私が制圧するという意味です」

「本気で言ってるのか、クライス」

「ああ。だからリリアなら余裕だとさっきから言ってるだろ。……何よりリリアがどれぐらいできるのか見てみたいからな」

「お兄様の期待に応えられるよう頑張ります」

「そういうことだから。リリアの護衛頼んだよ。俺は自由に遊撃しながらフォローするから」

「……分かった」


若干不満そうだったが、アレクスも引き受けてくれたのでこれでリリアへの近接攻撃も大丈夫だな……まあ、俺が全員に結界魔術ぐらいはかける気でいたから、多少の攻撃は問題ないんだけどな。


「クライスさん……そろそろ馬車が来るかと」

「ずっと<音波診断ソナー>で見てたから分かってるよ。じゃあ全員、一旦茂みに隠れてくれ。魔法で全員の姿は相手から認識不能にするから、リリアが馬車を吹き飛ばしたらそのまま突入してくれ」

「分かりました。……馬車の人員は」

「俺が最低限の止血だけして、魔術で眠らせる」

「了解です」

「じゃあ全員散ったな。……<召喚サモン 不可視の妖精インビジブルフェアリー


俺が召喚した<不可視の妖精インビジブルフェアリー>の効果で全員の姿が消えた。それと同時に大岩が静かにこちら側に向けて動いた。


「おーし、見張り。異常はないか」

「以上なしだ」

「そんじゃあ、馬車出すぞ。……もう少し岩出せ」

「了解です」


大岩が少しづつ動き、数人の男たちとともに馬車が出てきた。完全に馬車が岩の外に出た瞬間……すさまじいい暴風によって馬車と男たちが上空に吹き飛ばされた。飛距離は……三十メートルぐらいか。って、普通に死ぬじゃねえか。


「…<神撃の旋風グリムニール>」

「リリア……さすがに第九階位風魔法はやりすぎだと思うんだけど」

「そうですか……当然の報いです」

「まあ、そうだろうけど…<空力緩衝エアクッション> <治療リカバー> これで死亡は回避かな」


馬車ごと落下してきた男たちを風魔法で受け止めて、全身に負った切り傷を魔法で治療した。そのまま洞窟にリリアたちが飛び込んでいくのを光魔法の<生命探索ライフエクスプロール>で確認しつつ、俺もその後ろから通路に飛び込んだ。


「お兄様」

「なんだ、リリア」

「少し手荒な方法で全員を通路の奥まで飛ばしますから・・・・・・・結界魔法を張ってください」

「…<風霊庭園ウィンドガーデン>」

「行きます…<突風ウィンドブラスト>」

「ガフッ……ク、クライス何を……」

「俺はやってないからな……歯を食いしばっとけ」

「なんなんだよーーー」


リリアの発言にやばい気がして、とっさに超越級の風の結界魔法を張って良かった。そうでなければ重傷者が複数人出ていたかもしれない。






「出口ですね…<気流操作ウィンドコントロール>」

「……<負荷上昇オーバーロード>」

「ふう、びっくりしましたね」

「そうですね、隊長」

「ウゲッツ」

「グベッツ」


体感で五百メートルほど続いた通路を二分ほどで通り抜け、着いた先は馬車や荷物が大量に詰まった車庫兼倉庫というような場所だった。


「痛いじゃないか、クライス」

「ふざけんなよ。壁にぶち当たって死ぬかと思ったじゃねーか」

「ごめんごめん」


ゴール地点ではリリアは風を操作して減速して着地し、俺は重力を操作して着地。護衛の二人も正面にあった藁束にぶつかって無傷だったのだが、なぜかアレクスとゾディアだけは正面の壁にぶつかっていた。……日頃の行いって大事ですね。


「というか、もう少しお前ら柔らかく激突しろよ」

「無茶言うな」

「もう、侵入がばれて……囲まれたな。これじゃあ透明化も無意味だし……リリア、そっち側のやつら全員吹き飛ばせ。こっちは俺がやる」

「分かりました」


アレクス達が壁に激突した音で、完全に位置がばれてしまった。既に数十人に囲まれているが……仕方ない。隠密潜入策は中止だ。


「掃討してやろうじゃないか…<雷爆雨サンダーレイン>」

「はい、そうしましょう…<死毒の霧アシッドミスト>」


俺の詠唱で発動した雷が当たった人間が一人づつ麻痺して昏倒していく。さらにリリアが発動した麻痺毒の霧によって盗賊団員たちが一斉に倒れ伏す。


「このまま進みます。みなさんはリリアの護衛を優先してください」

「了解しました」

「クライスはどうするんだ」

「もちろん…<麻痺の雷撃スタンボム>…遊撃だよ」


アレクスの疑問に答えつつ、集団から離れていたおかげでさっきの広域魔法を回避した奴らを片っ端から雷魔法で気絶させていく。そのまま倉庫のアジトへの出入り口まで全員を引き連れて向かう。もちろん、並び立つ盗賊団を吹き飛ばすのはリリアに譲ったけど。


「<大地神の大槌ストーンハンマー> お兄様、次はどっちですか」


出入り口を問答無用で<大地神の大槌ストーンハンマー>でぶち破ったリリアが俺に振り向いていった。その言葉で通路に出ると、確かに左右に通路が分かれている。


「ゾディア、アジトは一層構造だよな」

「へい。この階だけですが……」

「奴隷の管理場所と親玉の場所はどっちが近いんだ」

「それはボスの部屋です」

「リリア……生命反応が弱っている人間がここから右に進んだ先にいる」

「了解しました。右ですね…<大海衝ダイダルウェイブ>」


リリアが発動した第九階位水魔法<大海衝ダイダルウェイブ>はその名の通り、巨大な波を発生させる魔術だ。狭い通路でその効果は抜群で、通路を塞いでいた盗賊団たちは一人残らず流されていく。


「リリア、この先に奴隷の集められている場所もあるから注意してくれよ」

「分かってます。……じゃあ解除して…<突風ウィンドブラスト>」

「うん、これならいいか…おっと、水を蒸発させないと危ないな…<爆炎障壁ファイアウォール>」

「「「グギャア……」」」

「……鬼だな。この兄妹」


アレクスのコメントは華麗に無視して、リリアの水魔法の後を低温の炎の壁で押して蒸発させていく。多少悲鳴がうるさかったのでこちらも片っ端から闇魔法の精神魔法で眠らせていく。


「お兄様。……今ので何人ですか」

「三百人少々かな」

「まだ半分ですか……じゃあ、ペースを上げましょうか」

「そうだな」

「おい、クライス。ここじゃないか」

「んっ、何が」

「ボスの部屋」


ここまで通った部屋の扉は全て<錬金アルケミス>で壁と融合させたので中にいた人間はそう簡単には脱出できない。さっきの人数カウントは俺が<生命探索ライフエクスプロール>で数えた人数も含めているから、実は部屋の中の人間は始末していない。ただ無力化したも同然なのでいいだろう。


「そうなのか、ゾディア」

「へ、へい」

「そうか……リリア」

「はい…<暴風切断術ウィンドカッター>」

「ウギャアア」


さてリリアが放った巨大な風の刃はボスの部屋を貫通し、轟音と悲鳴を響かせた。というか、あの威力を見るにひょっとしてリリアも超越級魔術師なのか。……俺の影響なのか、天才なだけなのか、はたまた偶然か。まあ今はボスの治療を優先しよう……直撃してたらほぼほぼ時間はないし。


「ウッ…グッ…ゲホッ」

「無事……じゃなさそうだな」

「お前ら……官憲か……」

「いや、フィールダー子爵家三男のクライスだよ」


部屋に入ると腹の半ば程からおびただしい量の血を流している男が倒れていた。どうやらこの男がボスのようだな。


「ボス……すみません」

「ゾディアか……まあ、期待はしていなかったから安心しろ」

「そうですか……」

「さてと、死なせる気はないからな……<完全治癒ディバインヒール>」

「ははっ、傷が一瞬で治るか……子爵家の三男が天才魔術師だというのは本当だったか」

「さっきの風魔法を撃ったのは妹の方だけどな」

「子爵家は安泰か」

「で、ボス。名前は何て言うんだ。こいつに訊いても知らないって言うんでな」

「こいつらに言ったら、どこで漏れるか分かったものじゃないからな……セルウィグ・ガールドだ」

「ガールド。それってあのガールド家か」


男の発言にアレクスが反応した。どうやらそれなりに有名な家のようだ。俺も記憶の片隅にあるんだが……何をした家だっけ。


「アレクス、何した家だったっけ」

「忘れたのかよ。王都でも最大規模だった商家の名前だよ」

「そして今代国王の不興を買ったために、冤罪をでっちあげられて潰された家だよ」

「それで盗賊になったのか」

「ああ、表を歩ける身体じゃなくなっちまったんでな」

「そうか……そういえば奴隷の管理場所は」

「この廊下をそのまま進んだ先だよ」


男の素性も訳アリのようだが、今はそれよりも奴隷たちの安全を確保する方が先だろう。


「ウェグスさん達とアレクスはこいつを拘束したら追いかけてくれ。俺とリリアで先に奴隷たちを解放する」

「分かった。気をつけろよ」

「お前こそな。リリア行こう」

「はい、お兄様」


廊下に飛び出た俺とリリアは自身に<身体能力強化ステータスアップ>をかけると、攻撃してくる盗賊団員たちを無視して、ひたすら奴隷たちの場所まで最高速度で突き進んだ。

次回更新は二時間後です。


気になる点があれば感想欄までお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ