第三十八話 命知らずな襲撃犯
読んでくださる方、ありがとうございます。
:追記:九月十二日21:38 話の終わりの部分を加筆修正。
焦っていて、執筆中の覚書を残してしまった上に、いる部分を消してしまっていたので。
2017年10月18日 誤字修正
「ファア……結局眠れなかったな。さてと顔でも洗おうか」
翌朝、結局一睡もできなかった俺は外で顔を洗って目を覚ますことにした。
「…<降雨>」
第四階位水魔法<降雨>は空気中の水蒸気を凝縮させて、その名の通り雨を降らせる魔法だ。本来なら五十メートル四方に激しい雨を五分程度振らせる魔法なのだが、俺はこの魔法を改良して日頃からシャワーのようにして使っていた。……まあ、元ネタは師匠だけど。
「はあ……なんか、一回思い返すとなあ……今まで思い返さなかったのが不思議なくらい……想いが頭から離れなくなるものなんだなあ……って、俺は何を柄にもないことを言ってるんだ。……ああ、もう本当にしんみりしすぎだよ」
顔を洗って、頭がすっきりしてくると途端に昨夜、思い返していたことが急激に恥ずかしくなってきた。それにしたがって……昨日の酒の影響が頭にきた。
「うっ……気持ち悪い……くそっ、こんなになるまで何で飲んだかなあ」
「…<血液洗浄>……本当にそうですよ。あんなに遅くまで飲んでいたら、それは体に障りますよ」
「リリアか……えっと、その昨日はすまなか……」
「いえ、大丈夫です。むしろ私の方こそあんな怒り方をしてすみませんでした」
「いや、まあ構わないけど……」
二日酔いでふらつく頭を押さえていると、後ろからリリアがやって来ていたようだ。血液中からアルコールが抜けたので頭がシャンとしたが……うーん、昨日の発言はちょっと大人げなかったよな。
「いや、リリアの言葉に対して、はっきり拒絶しすぎたのは俺だしな。……リリアが俺にどういう意味でかは知らないけど、好意を持っていることは分かっていたから、な」
「い、いえ別にそういう意味の好意ではないのでお気になさらないでください」
「そうか……」
「あっ、すみません。でしたら昨日の話は出鱈目なんですか」
「そう思うのは当然だろうな。俺は、はっきりと拒絶したかったと言ったし。ただ……事実だよ」
「そう……ですか。じゃあ前世からの縁っていうのはどういう意味なんでしょうか」
「ごめん、今は言えない」
「何でですか」
俺はおそらく今後、リリアに対しては俺の素上について話すことになるだろうと踏んでいる。なぜならリリアの魔術師としての力量は超越級に片足を突っ込んでいるような状態であり、今後の魔神戦で大きな戦力になるだろうからな。当然、戦力としてカウントするためには俺の過去を含めた世界の仕組みを知ってもらうのが手っ取り早いし……どのみち親しい人間にはもともと明かす予定ではあったんだ。
別に転生したことに後ろめたいことも何もないからな……いや、あるっちゃあるけども。
「リリア、絶対にいつか話す。だから今はこの話自体を胸に留めておいてくれないか」
「……いつかは話していただけるんですよね」
「ああ、約束する」
「……はあ。でしたら今は聞きません……ただ」
「ただ?」
「絶対にお兄様の最愛の人に会わせてくださいね」
「分かったよ……ところで」
ふう、どうやら昨日の件はこれで片付いたようだな。でも一つ気になっていたことがあったんだよなあ……
「何ですかお兄様」
「そんなに薄い夜着のままで……外に出てきても良かったのか」
「へっ………はっ、早く言ってくださいよお兄様」
「いや、会話に集中してたからなあ」
「も、もう……」
結局リリアが真っ赤になって座り込んでしまったので、そのまま<座標転移>で部屋まで送ってあげた。その後で、リリアの機嫌を取り戻すのに苦労した。
……というかリリアって、やっぱり俺に対しては猫をかぶってたんだな。ここまで甘えん坊な女の子だとは思わなかった。まあ、妹としては昨日までの真面目なタイプより付き合いやすいからいいけど。
「リリアちゃん、おはようございます」
「おはようございます」
「大丈夫か。欲求不満な兄に襲われなかったか……うおう」
「…<風の弾丸> アレクス悪い冗談は止せ。いくらなんでも実の妹に手を出すわけないだろうが」
「えっ、でもリリアちゃんはそのつも……ムグッ…」
「マ、マリー様。そ、それは言わないでくださいよ」
さて、朝食をとった俺たちは再び馬車の近くに集まっていた。護衛の面々が厩舎から馬を連れてきて、馬車に繋げば、すぐに出発することとなる。
「そういうアレクスはマリーに手を出さなかったのか」
「出せるわけないだろ。一緒の部屋にリサもフィーリアさんもいたんだぞ」
「つまり同室だったら、この宿でも手を出していたと」
「そういうことだな……って、何を言わせるんだよ」
「プフッ……盛大な自爆」
「こら、リサ笑うなよ」
「ア、アレクス君。さ、さすがにみんなのいる前でこういう話は止めようよ」
「マ、マリー。そう恥ずかしがられると俺も恥ずかしいというかなんというか」
そうこうしている間に馬車に馬が繋がれ、アレクスは弁明をしきることなく御者席に座らせられて、馬車が走っている間中、気まずい時間を過ごすこととなった。
同時刻 フィールダー子爵領 領境の森の中
「ボス、お茶をお持ちしました」
「さっさと入って来い」
俺は剣を手入れする手を止めて、ドアの方に向き直った。それと同時に部下がお茶を持って入ってきた。
「どうぞ」
「おう」
俺は受け取ったお茶に口をつけようとして、すぐに異変に気が付いた。
「なあ、お前」
「なんすか、ボス」
「このお茶、沸騰してねえか」
「そりゃあ、ボスがお茶は淹れたてが良いって言ってらっしゃいますからね」
「ほう、それで」
「ですから火にかけたお湯を、そのまま火にかけた状態でお持ちしたんですよ」
「アホか、お前は。こんなに熱くて飲めるわけがないだろうが」
「熱っつ」
俺はあまりの部下のバカさ加減に、イラっときて思わず手に持っていたカップから煮えたぎっているお茶をぶっかけた。
「な、何するんすか」
「お前があほ過ぎるんだよ。普通は少しは冷めたものを持ってくるんだよ」
「へえそうなんですか。……じゃあ、次からは気を付けやす」
「ああ……まあ期待はしないでおくわ」
この馬鹿のことだからおそらく、次はキンキンに冷えたお茶を持ってやってくるだろう。中身が完全に氷でもおかしくはない。こんな奴らばかりだから俺はこいつらに本名すら教えられないのだ。どこで口走るかわかったもんじゃないからな。
……しかし、こんなやつでも組織のナンバー2なんだよなあ。
「それで、用件は何だ」
「あっ、分かってらしたか。いや、もうじき出荷でしたよね……あの奴隷たち」
「ああ。今回は向こうの協力が得れたから、貴金属の裏オークションへの出店も同時並行でやる」
「そうでしたか」
まあ、こんなところにこそこそと施設を建ててる時点で、分かってもらってるとは思っているが、俺らの仕事は裏稼業だ。まあ主には盗賊だが、裏では闇市場から人身売買にまで手を染めてる、ちょっとした一大犯罪者拠点な訳だな。
「それで、今日の夕方ごろには出発しようと思っていたのですが……」
「ああ、近くの町の倉庫に夜中の内に運び込むには、その時間に出るしかねえからな」
「それが……南方を監視していた連中が、こっちに向かってくる一台の馬車を見つけたそうで」
「軍部か。それとも民間か」
「フィールダー子爵家の家紋があったと」
「子爵家、だと」
こう見えても、昔はとある大きな商家の跡取りだった俺は最低限の教育は受けている。最低限どころか王都の王立学園高等部を出ているので、そこら辺の市民なんかよりは、はるかに頭は良いだろう。
さて、こいつらには気づけないが、そんな俺には気づけることがあった。
「一台。子爵家の馬車がか」
「ええ」
「となると……確か子爵家の三男が長女と王都に向かったと言っていたよな」
「確かそんなこともありましたねえ」
「なるほど。今の子爵領は魔人との戦いで荒廃している。複数台の馬車を出す余裕はなかったのか」
俺はこう結論付けた。
「どうします。取引は中止しますか」
「いや、その馬車を襲撃しろ」
「本気で言ってるんですか」
「本気だよ。護衛が数人に子供二人じゃたいした抵抗もできねえよ。その上で二人の子供を監禁して、優しい子爵様から身代金をせしめようじゃねえか」
「なるほど。さすがボスですね……では早速用意いたします」
「待て。取引もあるんだ。人員はお前を含めて五人もいれば足りるだろうよ」
「分かりやした。……久しぶりにこの剣に血を吸わせてやりましょうかね」
「ああ、楽しみにしている」
俺があのバカをナンバー2にしている理由は単純だ。それはあのバカが昔、故郷の騎士団にいたころ、訓練ですら相手を惨殺することで有名な殺人鬼であり。その実力はこの国随一と言われるほどの剣豪だからだ。
「子供たちは殺すなよ」
「腕か足の一本程度はいくかもしれませんがね」
俺が最低限の忠告をすると、あいつは笑いながら去っていった。……本当に気を付けてくれよ。
夕闇に染まる森の中を俺たちの馬車は高速で走っていた。
「フィーリアさん。さすがに早くないですか」
「クライス様、申し訳ございません。この地域には盗賊が出ますので、これ以上に夜が深まる前に抜けてしまいたいもので」
「ああ、そういうことですか。では馬に治癒魔法をかけておきますね…<快癒>」
「ありがとうございます」
「なあ、クライス」
「なんだアレクス」
「お前は、なんで、そんなに、こんなに、揺れる、馬車の中で、そんなに、喋れるんだよ」
「自分の体を魔法で浮かせてるから」
「おい」
先ほどスピードが上がってから、揺れが激しくなったので俺は咄嗟に風魔法で体を浮かす術を、アレクス以外の全員にかけていた。
「やっと気づいたか。ほらかけてやるよ」
「最初からかけろよ、まったく」
「魔力消費を抑えるためだって」
「そうかよ。本当か」
「お前のことを気にする気が起きなかった」
「最低か」
相変わらず馬車内の空気は、ほんわかとしていた。だから俺はいち早く不穏な気配に気が付いた。
「フィーリアさん。馬車を止めてください」
「えっ、なぜですか」
「くそっ、間に合わない……<負荷上昇>」
「キャア」
間に合わないと思った俺は咄嗟に物理魔法<負荷上昇>で馬にかかる空気抵抗と重力を倍にして、強制的に馬車を止めた。……その瞬間、馬車のすぐ目の前を巨大な岩が通り過ぎて行った。
「な、何ですか。あれは」
「フィーリアさん、中に入ってください」
「な、なぜですか」
「なぜって……盗賊に囲まれているからですよ」
光魔法で周辺の生命反応を探ると、周囲は数人の人間によって囲まれていた。
「そ、そんな……」
「護衛団、前側を固めろ。俺とリリアで側面と後方は守り切る」
「は、はい」
「分かりました」
「じゃあ、行こうか…<風神障壁>」
俺は馬車を降りる前に、ひとまず風魔法で結界を張り、遠距離攻撃を防いだ。そのまま一気にリリアとともに飛び降りる。
「…<光子障壁>」
「…<召喚 聖騎士>」
さて、前方は護衛が、左はリリアのシールド。そして右側に俺がいるわけだが、このままでは後方ががら空きである。そこで俺は召喚魔術で手ごろな<聖騎士>を呼んだ。
上級魔術ぐらいの魔力で召喚できるのに、一発は超越級魔法を受けきれるのでかなりコスパが高い召喚魔法だ。
「さてと……俺たちに手を出すとはいい度胸だな。返り討ちにしてくれようかな」
笑顔でそう言ったクライスの両手に握られた杖の魔石は煌々と光っていた。
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