第二十四話 七賢者第二位の魔法講義
5000PV突破しました。みなさんに感謝を。
というわけで今日もきっかり定時投稿、頑張ります。
家に戻ってきた時、最初はいきなり説明もなしで人を監禁した師匠に痛い目を見て貰おうと思った。
……だから俺は家に入るときに両手に火と水の第七階位魔術を用意していた。
「師匠、今度という今度はどうかしてます。今回こそ復讐しますから……ね。……し、師匠いったい何が……」
しかし帰って来て師匠の部屋に飛び込んだ俺は、師匠の姿を見た瞬間に両手の魔力が霧散してしまう感覚を覚えた。そして茫然とした。
「クライス君、助けて」
「とりあえず、事情を聴いてからにします」
「この状況でかい」
「この状況だからです」
……師匠は金属製の謎生物に両手両足を拘束され、その上で尻尾が炎のようになっている生物に全裸であぶられていた。つまり何者かに監禁されていた。だが、一瞬呆けた俺はすぐに冷静になった。
「いや、普通助けるだろう。師匠だからとかの理由じゃなしに一人の人間として」
「そりゃあ、僕だって相手が一般人なら即刻助けてから、治療をしてあげますよ」
「じゃあ、なんで私はダメなんだい」
「そんなの当たり前ですよ」
不思議そうに訊いてくる師匠に俺はばっさり言い捨てた。
「師匠はこれでも世界最強に近い存在である七賢者の第七位ですよね」
「ああ、そうだけども……それがこの件と関係しているのかな」
「大ありです。つまり七賢者の大半がいなくなった現在であなたを拘束できるのは一人しかいないじゃないですか」
「……セーラだけ、だね」
「何をしたのかしれませんけど、どうせ何らかの罰でしょうから助けたくないんですよ」
「ぐっ、そこまで読まれていたか」
正確に言うなら、多分セーラさんからの置手紙の内容からしてお仕置きの理由は俺の監禁だと思うので、俺に助ける義務が発生しないからなのだが。
「……でも、俺に解除できる程度の拘束なら捕まっている師匠にも解除できるのでは」
「それがね、この生物たちは私の魔力を吸い取って活動しているんだよ」
「つまり、今の師匠は魔法も使えないただの人ってことですか」
「そういうことだ……熱っ。くそっ、やっぱり魔法を使おうとすると火力が上がる」
「三日間、そのままなんですか」
「ああ、あの日帰って来てからね」
「そうですか。じゃあ、頑張ってください」
「おい、クライス君見捨てないで……」
俺は師匠の叫び声を聞きながら、ゆっくりと部屋の扉を閉じて外に出た。
「まあ、セーラさんも俺が帰ってきたことが分かったら師匠を開放するだろうし、下手に俺が触ってもろくなことになりそうもないからな」
俺は自業自得の師匠は放っておくことにして、リビングに戻って紅茶を入れてセーラさんが帰ってくるのを待つことにした。
「<送還 烈火鼠><消滅 土人形>」
「うぐっ。……もうすこしゆっくりと落としてくれてもいいんじゃないのかな」
「うるさい。これでも手加減した方よ」
「師匠、また監禁されますよ」
「うう、ぐっ」
30分後、家に帰ってきたセーラさんは先ほどの草原に行って、俺の捜索をしようとしていたらしい。ところが<星空の守り>が破壊されていたのを見て慌てて戻ってきたらしい。家に飛び込んできて、俺をひとしきり抱きしめた後で師匠を開放すると言って、今の状況な訳なのだが……
「ふう、やっと解放された。まったくクライス君、師匠を見捨てるなんてひどいよ」
「自業自得ですし、召喚魔法なんて原理の分からないもの、解除できませんよ」
「ううむ、それはそうか……ところでだ、セーラ」
「なにかしら」
「いや……この手錠と足枷は外してくれないのかい」
師匠が言った通り、確かに師匠の手足には透明な手錠と足枷がはめられていた。それも召喚魔術の影響であるらしく、魔力をたどっていくとセーラさんに行きついた。
「ってことはこの魔法は白竜の固有魔術なんですか」
「ええ、魔術というよりは能力ね。<不可視の枷>って言うのよ」
「へー、耐久性の高い魔力の枷ですか……」
「あの、無視しないでもらえませんか」
と、懇願する師匠に対してセーラさんは冷たい目で言った。俺はそれを見て、俺は師匠の今日の運命を薄々察した。
「あら、可愛いクライス君を三日間監禁して、それで許されるとでも」
「えっ。だってあんな拷問まがいの……」
「あの程度序の口よ。だから今日一日その枷を付けた状態であなたの部屋を片付けておいて」
「えっ、でもこれじゃあ魔法使えないどころか、日常生活にも支障が……」
「後、何日続けたいの」
「今すぐやります」
そう言った師匠は拘束されているとは思えないような速さで、自身の部屋を片付けだした。セーラさんはそれを横目で見ながら俺を外に出るように促し、自分も外に出るとその扉に鍵をかけた。そして俺に聞き取れないような速さで詠唱を終えると、そのドアはピクリとも動かなくなった。
「な、何をしたんですか」
「ちょっと、時空の妖精を呼び出してあの人の部屋の周りの空間を断絶させたのよ」
「そ、それはまた……」
「大丈夫よ。本気のあの人なら多少の空間の切れ目ぐらい貫通できるから」
「……そうですか」
俺は何も言わないことにした。遠くから師匠の恨み言が聞こえてきた気もしたが、それも無視してセーラさんに向き直った。
「さてと、師匠があんな状態じゃ今日の修業は休みにして魔法関連の資料でも……そういえば大半が師匠の部屋にありましたね」
師匠の部屋はいまや隔絶した空間になっている。多少無理をすれば正規の手段でなくても抜けられるようだが、あいにくたかが本のために命を懸ける気はない。
「……さて、どうしようかなあ」
「じゃあ、私が治癒魔法と召喚魔法について教えようか」
などと悩んでいると、突然セーラさんが耳寄りな提案をしてくれた。
「いいんですか……」
「ぜひ。なんでも教えるわよ」
「じゃあ基礎の基礎から教えてください」
「分かったわ」
師匠の昔話にもあったがセーラさんは治癒魔術の権威であり、唯一召喚魔法が使える人だ。アドバイスが聞けるのはそうとう有意義な事だろう。
「じゃあ、まずは治癒魔法の体系についてね」
「はい」
数分後、セーラさんは机の上にお茶とお菓子を用意すると。分厚い魔術教本を開いて、俺に説明をしてくれた。
「まず治癒魔術には分野によって三つの系統があるの。それにも属性が絡んでくるから認識は攻撃魔法と同じでいいわ」
「つまり属性の特性によって治癒の性質を変えているということですよね」
「ええ、そういうことよ。そしてこの時治癒魔術に関わる属性は水、光、闇の三属性」
そう言いながら、セーラさんは手の上に小規模な風魔術第七階位の<暴風切断術>を発生させると、それで自身の指先の皮膚を少し切った。魔法の制度は流石は七賢者と言えるもので、正確に切り裂かれた皮膚はほとんど出血していなかった。
「さてと、まずこのような外傷の場合に多く使われるのはどの属性か分かる?」
「光属性ですね」
「正解。……<治療>。まあクライス君は自前で水と光の治癒魔法が使えるからそこら辺は理解してるよね」
「はい。ともかく光属性は外科治療用と」
「そうね。このように光属性魔法に分類している治癒魔法は、再生や輪廻と言った意味が込められていて、外傷や身体欠損の治療、さらに極めると手足や臓器の再生すら可能よ。……まあ、クライス君はある程度できるみたいだけど」
セーラさんは苦笑してそう言った。
まあ俺の場合は前世の医学知識というアドバンテージがあるからな。その分有利なのは当然……待てよ、ということは。
「セーラさん、七賢者の使っていた魔術ってその現象をどれだけ正確にイメージできるかによって威力が変動するんですよね」
「ええ。私たちの魔術は魔力空間から、どれだけ正確に細かい魔法情報を取ってこられるかによって、威力どころか効果まで変動するけど……それがどうかした?」
セーラさんが不思議そうな顔をして訊いてきた。おそらく俺がかなり焦った表情をしていたからだろう。もちろんそれには理由がある。
「いや、例えばですけど……医学知識を知り尽くした人間で、なおかつ超越級に近い魔力がある人間が治癒魔法を使ったらどうなりますか」
「それは当然、さっきも説明した通りになるけど」
「つまり通常の治癒魔法とは比べ物にならない魔術が発動する、と」
「それがどうかしたの」
「いえ、まあちょっと嫌な予感がしたもので」
要するに医学的知識を持ち、おそらく膨大な魔力持ちであろう詩帆の心配である。
おそらく魔法という概念を知った詩帆は間違いなくそれを習得しようとするし、その上で自分の領分である治癒魔法に手を出さない訳がないからだ。
ただ適性が攻撃魔法ではなく治癒魔法である時点で崇められこそすれど、ひどく恐れられることはないだろうからそれだけは救いだ。
「少しだけ、妻の動向が気になったんですよ」
「あら、奥さん治療師やってたの」
「まあ、そんなところです」
「へー。再会したらぜひ一緒に来てね」
「もちろんです」
「……って、話が途中で止まってたわね」
と、詩帆の話で脱線しかかっていた魔法講義をセーラさんが再開した。
「次に水の治癒魔法ね」
「水は……体の抵抗力上昇魔法とか血液浄化魔法とか、毒素分解魔法とかがありましたよね」
「そうよ。今、挙げたのは全て使えるのかしら」
「はい」
「じゃあ水魔法の治癒は体内の機能調節や身体補助や強化系統が多いわ。そこまでは理解できてる?」
「大丈夫です。光魔法を外科治療ととらえると水魔法は内科診療の分野ですかね」
「ええ。じゃあ、そこまで分かってるなら次は闇魔法の治癒ね」
闇魔法の治癒か……闇と……回復。まったく想像がつかない。
「ふふ、まあ闇魔法の治癒は危険なものも多いから知られていないのよね」
「ああ、なるほど。通りで見かけない訳ですね」
「そうね。じゃあ想像できていないようだから一つ聞くけれど、闇魔術ってどういうものがある」
「ええっと……時間・空間関係の魔法に魔力や生命力吸収に、後は……洗脳とか幻惑……あっ、そういうことですか」
「分かったみたいね。それで、正解は」
「精神治療系統ですか」
「正解」
なるほど。なんとなく封印された理由も分かった。
「悪用した人間がでて、廃人が多発したとかですか」
「まあ、そんな感じね。本来の使用法を逸脱した使い方するから、危険なので封印したのよ」
「例えば、記憶を消す魔法とか精神を高揚させる魔法とかあったりします」
「ええ、あるわよ。……本来の目的は治療用だったんだけど、悪用がひどすぎて魔術教本も回収したわ。まあ、一部の教本は裏で売買されてたから、今も少しは残っているでしょうね」
「ちなみに僕は教えてもらえるんですよね」
「もちろんよ。その対抗術も教えてあげる。……まあ、闇魔法の精神魔術系統が使えるようになっているならすぐよ」
と言いながら、セーラさんはローブのポケットから<全治癒魔法大全>と書かれたメモを取り出して俺に渡してくれた。
「それは貸しておくわ。あっ、くれぐれも落とさないでね」
「分かってますよ」
そうして俺がメモをポケットにしまうと、突然セーラさんの眼の色が変わった。俺はその空気感に堪えられず、即刻セーラさんに声をかけた。
「……セーラさん、どうしました……」
「やっと、ね……」
「えっ」
「……やっと召喚魔法を教えられる弟子ができたわ」
「はあ」
「ねえ、考えてみてよ。あの人の攻撃魔法なら多少レベルが行き過ぎていたとしても、指導はできるわよ。でも私の召喚魔法なんて特殊すぎて教えられる技量の子なんていなかったのよ。唯一覚えられそうなマーリスさんは聞いてくれないし」
どうやら自身の魔術をようやく教えられるということに感極まっていただけのようだ。まあ、ここまでの熱だとかなり厳しく教えられそうだが構わない。師匠の様な理不尽なスパルタでなければ新技術の習得は願ったり叶ったりだからだ。
「じゃあ、ビシバシ行くわよ」
「お願いします」
「じゃあ、まずは初歩の召喚術<守護狼>を覚えていきましょうか」
「はい」
「それじゃあ召喚魔術の基礎、<召喚魔法陣>の出し方に……キャッ、何」
「なんか、空間が揺れてる」
と、セーラさんが話し始めた瞬間だった。突然、周辺の空間が揺れだした。慌てて周囲を見渡すと、その歪みの中心は師匠の部屋のドアから発生していた。
「ま、まさか」
「たぶん限界が来たのね。さあ、クライス君。衝撃に備えた方がいいわよ」
「は、はい」
「じゃあ、私の周りから離れないでね。さあクライス君、よーく見ておいてね。召喚術の神髄を見せてあげるわ…<召喚 守護精霊 光壁 完全展開>」
セーラさんの詠唱によって俺たちが光の壁に包まれると同時に、空間がまた振動した。そして最後にそこから詠唱が聞こえた。
「吹き飛ばせ…<集束流星雨 貫通弾>」
それと同時に俺たちを守る光の壁に赤い光線が着弾した。瞬間、それが爆発的に広がった。
数秒後、目がくらむような光が止むと、そこにはやはり師匠が立っていた。
読んでくださる方、ありがとうございます。




