第二十三話 再びのスパルタ修行にさすがにキレそうです
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「<星光>……あの、師匠。魔力は消費されてるに、何も起きないんですが……」
「だったら成功してるから大丈夫。少し待ちなさい。後、もう二歩ほど下がった方がいいよ」
「二歩、ですか。じゃあ一、二と。これでいいです……んっ、何かが降って来……うおうっ」
師匠の言葉通り、二歩下がった瞬間。俺が先ほどいた場所をかすめるようにしてに巨大なレーザーが降り注いだ。
「すごっ……ところで師匠」
「なんだい。見事に成功しているよ」
「これって第三階位星魔法ですよね」
「ああ、その通りだよ。まあ、合成魔法は難易度が高いことを考慮して第三階位が最低レベルだけどね。で、それがどうかしたかい」
「だから、第三階位にしては威力が高すぎませんか」
師匠の夫婦喧嘩から三日が経った。その三日間の間で基礎的な魔力の制御方法を習った俺は普通の模造魔法を使えるようになっていた。
そして今日から、師匠の住む山の、男爵領とは逆側の麓にある広大な草原で、星魔法の修練に入ったのだが……
「ああ、それがどうかしたのかい」
「いや、おかしいですよね。魔力消費量は他の第三階位合成魔術とほとんど変わらないのに、半径五十メートルがクレーター化するって」
他の第三階位の魔法はせいぜい、属性を持たせた弾丸を生成したり、他人にちょっとした幻影を見せるぐらいだ。ところがこの魔法は、同じ第三階位にもかかわらず威力がけた違いに違う。
「設定を失敗したとかですか」
「いや、設定どおりだよ。ただ環境魔力の取り込みがほかの魔法に比べて激しいんだよ」
「なんで、そんなことになるんですか」
「いや、威力を高めようとしたんだと思うんだが……たしか、星のエネルギーと位置関係を利用するとかなんとか……」
「素直に星魔法の専門はラニアさんだったから分からないって言った方がいいわよ。だから私にもさっぱり分からないわ」
今日は珍しく俺の修業に付き合ってくれていたセーラさんによると、星魔法の設定は星の専門家であったラニアさんが取り仕切っていたらしく師匠たちはほとんど全貌は知らないそうだ。
「ただ、どういった現象かは分かるから一応、模造魔法でなくても使えると言ったところでね」
「なるほど。とりあえず威力の大きさの理由は分かりました。それでは次はなんですか」
「ひとまず、原理は分かっただろうから普通の属性魔法については君一人で問題ないだろう」
師匠が珍しく俺をほめちぎっている。……なんだか嫌な予感がするな。
「まあ、そうですね。………んっ、まさか師匠……」
「ああ、私とセーラは帰るから。すべての魔法を習得したら帰っておいで<星空の守り×3>、じゃあね、クライス君…<転移>」
「ちょっ、ちょっと待ってください」
師匠がそう言って消えた瞬間、巨大な結界が幾重にも重なり太陽光を遮った。そして内面には幻影によって形作られた星空が浮かび上がった。
しばらく茫然としていた俺はふっと気が付いて、結界の解析を行うことにした。
「さてと、どんな結界だ……くそっ、初日と同じ結界か。この硬さだとそう簡単に破れないし、魔法の構造も分からないから解除できないし……しかも、あの師匠のことだから自動修復ぐらいは組み込んでそうだな……」
結界を見る限り、穴は全くない。ということは……やっぱり、こうするしかないか。
「はあ、まあ仕方ない。早く覚えるとしよう。早速、教本をっと………あらっ、なんか落ちてる」
師匠が置いていった魔道教本の方を振りかえると、その隣にメモ用紙が落ちていた。近づいてみるとセーラさんの綺麗な字でこんなことが書いてあった。
<クライス君へ>
マーリスさんを止めようかと思ったのだけど、止めたらどうやってもそれより危ないことをしそうだったので止めなかったの。
とりあえず、召喚魔法を利用して作った家が近くにあるからそこに行ってみて。一週間分の食料と着替えは置いておいたから、大事に使ってね。
こんなことしか、やらなくてごめんね。ただ、一週間たってもあなたが戻らなかったらあの人に言って、即座に結界を解除させるから。
それじゃあ、がんばって。 セーラ
「セーラさんありがとうございます。これでとりあえず餓死だけはしなくて済みそうだ。さてと……」
セーラさんの手紙を考えれば一週間たてば救出されるわけだが、そこまで甘えるわけにもいかないだろう。
「こうなったら一週間で全属性魔法、マスターしてやる。………という訳で、まずはその家を探しますか」
~10分後~
「……全く見つからない。ほんとにあるのか、というか結界広すぎないか」
辺りが結界に使われている第七階位星魔法<星空の守り>のせいで薄暗くて見えづらいせいもあって一向に見つからない。仕方なく途中から風魔法の<空中歩行>を使って上空から捜索することにした。
「ええと、どこだ……。あっ、あそこが光ってる。多分あそこだな……<転移>」
飛び上がってからぐるりと周囲を見渡すと、うっすらと光の漏れている場所を見つけた。そのまま、そこを目指して転移で飛ぶ。
「サイズ的には5メートル四方か。おっ、トイレと風呂も外に付属されてる……本当にセーラさん様様だな」
転移で飛んだ先にあったのは小さな木の小屋だった。
「とりあえず、風呂とかは置いておこう。食料品とかが置かれてるみたいだし、先に中に入るか」
中に入ってみると天井に魔法の明かりが浮かんでいた。調べると、どうやら光魔法の<光球>を周囲の環境魔力を利用して、長時間発動させているようだ。
「便利な魔法の使い方するなあ。……あっ、そういえば魔道教本置きっぱなしだ」
うっかりしてたな。まあ、結界内には魔物とかはいそうにないから大丈夫だろうけど。魔導教本は自然現象ぐらいじゃどうにかならないし。
「さて、どうするかなあ……まあ、取りに戻るしかないけど」
そう言って、俺はひとまず小屋を後にした。
「あった、あった。意外と早く見つかったな」
大体のあたりに転移してから、暗闇の中を<光球>で照らしながら歩いていると、なんとか元の場所に戻ることができた。そこには当然、分厚い魔道教本が積み重なっている。
「どう持ち運ぶかな……身体能力強化をかけて運んでもいいけど疲れるし、まあこれを使ってみるか。……<変異空間>」
第六階位闇魔法<変異空間>は発動者のみが触れられる亜空間を生成する魔法だ。その広さは発動者の魔力量に比例するため、俺が使うと相当な量が入る。俺よりかなり魔力の少ない師匠ですら底が見えないと言っていたので、多分東〇ドーム何個分とかで表現できるぐらいの体積はあるのだろう。
当然、全ての魔道教本は俺の<変異空間>に入りきった。取り忘れがないかを確認して、俺はまた転移を使った。
小屋に戻った俺は<変異空間>から取り出した魔道教本を机に置いて、セーラさんが用意してくれた物資を確認していた。
「肉に野菜に魚、果物とかお菓子まである。というか一週間の量じゃないよな、これ」
セーラさんも<変異空間>を使えるはずなので、きっとそこにずっと入っていたのだろうが、どう考えても多すぎる。
「着替えはちゃんと七日分か。にしても貴族なんかよりははるかにセンスいいよなセーラさん」
領地にいる間は俺の服はずっと、白に金のラインが入った The貴族という感じのジャケットに白いズボンと赤いスカーフを合わせるという死ぬほどダサい格好だった。前世で服装に無頓着だった俺でもさすがにあの格好は嫌だった。
師匠の家に来てからはセーラさんが楽しんで、俺にいろんな服を作ってくれたので、初日に着ていた貴族服はセーラさんに布地として使ってもらった。
そういえば、セーラさんとか子供好きなのに子供いないんだよな。まあ、できない人もいるから不思議ではないか。
一通り全ての物資を確認した後、俺は再び魔道教本に目を向けた。
「さてと、とりあえず衣食住は問題なさそうだし、そろそろ修練に移るか」
さて今現在、第九階位までの魔法で俺が覚えていないのは火、水、土、風、光、闇、氷属性の第九階位魔法。雷属性の第八、第九階位魔法。そして星魔法の第四階位以降だ。
なぜ第九階位の魔法ばかり習得できていないかというと、第九階位の魔法は使える人間が少なかったため写本された数が少なく、手に入らなかったからである。
魔導書の中でも、初級の魔導書は千年前だとほとんどの人が使えていたこともあって、写本ぐらいなら簡単に手に入る。中級や第七、第八階位の教本もも有力商家や貴族家なら簡単に手に入る。それが第九階位になると途端に激減する。
なんでも千年前でさえ、使えていた人間が十万人に一人程度だったそうでほとんど写本が存在しないらしい。しかも現存するものの大半を各国の王宮や王立学院がおさえているために、貴族でも簡単には手に入らない。
まあそもそも、魔法使いの発生率が下がった現代では第九階位を使える人間は1億人に一人程度らしいのでそれでも問題ない気はするが。なんせルーテミア王国の人口が数千万人だし。
「ともかく、得意魔法の第九階位から攻めてみますか」
一通りの魔道教本を流し見た俺は、まず得意魔法の光魔法の第九階位<神槍>から試してみることにした。
「ええっと、<神槍>。光魔法の最高位術であり光魔法唯一の攻撃魔術。浄化能力も高く、アンデッドに対してはとても効果的。魔法自体は上空から光の槍を目標に打ち込むという、しごく単純なものだが膨大な光魔力を抑えきる力量が必要……か」
魔術書で一通りの情報を得た俺は、そのまま魔導書を<変異空間>に入れると、杖を上空に向けてからこの魔法を唱えた。
このとき、下手すれば結界ぶち破れないかなあなんて思って超高空から高魔力で発動しようと思った俺はバカだったのかもしれない。
空が、いや正確に言うなら三重になっている師匠の結界が割れた。と同時に俺は正面からの爆風で吹き飛ばされた。咄嗟に風魔法の<空力緩衝>を張ってダメージを軽減する。
「あっ……やらかしたな、これ」
目を開けた俺の前には<星光>であけた穴とは比べ物にならないほどの巨大な穴、いやクレーターが完成していた。
「魔力を込めまくったとはいえ、第九階位魔術の異常性がよく分かるよな。まあ、師匠には及ばないみたいだけど」
俺が上空を見上げるとすでに結界はもとのように閉じられていた。あれだけのダメージを負ったなら解除されてもおかしくはないのだが、さすがは賢者ということだろうか。俺はそれを見ながら大きく息を吸うと、再び他の魔導書を亜空間から取り出して読みだした。
三日後の朝
「さてと、これで全部かな。9属性の全魔術習得完了。……じゃあ、手始めに」
わずか三日で全ての魔術を網羅した俺は閉じ込められている間にたまったストレスを発散すべく、最大規模の魔術で結界を破ろうとしていた。
「…星魔術第九階位<流星群>」
俺がそう唱えた瞬間、無数の流星が瞬時に三重の結界を消滅させた。俺はそのまま転移で上空に飛び、結界を脱出した。
……数分後
「……し、師匠いったい何が……」
意気揚々と飛び出した俺は、帰りついた師匠の家で信じられない光景を見ることとなった。
そろそろ執筆速度的に誤字・脱字を大量にやらかしていそうなので、読みづらかったらすみません。




