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異世界でも貴女と研究だけを愛する  作者: 香宮 浩幸
第二章 魔法修行編
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第二十二話 現代魔法と賢者の魔法

読み続けてくださる方、ありがとうございます。

 

「クライス君、朝だよ。起きなさい」


 ふっと目を開けると、見慣れない景色が視界に入った。

 数秒の思考の後、師匠の家の中であることを思い出した俺はそのまま二度寝をしようとした。


「クライス君、起きる気はないんだね。そうか……じゃあ仕方ないか」


 どうやら起こしに来た師匠も諦めてくれたようだ、このまま二度寝を堪能……


「これでも喰らってもらおうか、<雷爆雨サンダーレイン>」

「……してる場合じゃねえ。<地神要塞アースフォートレス>」


 師匠は恐ろしいことに起きない俺に向かって、第七階位の雷魔法を放ってきた。俺が防御しきれなかった範囲が雷の雨によって一瞬で削り取られた。


「いきなり何するんですか。後一秒反応が遅かったら死んでますよ」

「起きない君が悪いからね。私は悪くないよ」

「というか、家が半壊しましたけど………大丈夫ですか」


 師匠の放った魔法によって、俺のベッドの周辺だけでなくその後ろの壁まで焼き尽くされていた。


「どうりで冷気が身に染みると思いましたけど………って、師匠。大丈夫ですか」

「………これ、セーラにばれたらまずいよね」

「でしょうね。早く直した方がいいんじゃ」

「そうだね、さっそく直そうか」

「二人とも、朝ごはんできたわよ」


 師匠にとって最悪のタイミングで部屋に入って来たセーラさんは状況を一瞥した後、一拍置いてからあきれた声で言った。


「まあ、遅かれ早かれ、こんなことをやらかすとは思っていたけど……とりあえず、マーリスさんの部屋は壁が直るまではそこになるから」

「それは……いくらなんでもひどいんじゃないかい」

「だったら、最初から壁を壊さなければいいでしょ。さあ、朝ごはんにしますよ」


 師匠の反論はあっさりと無視された。まだ、二日目の俺でもセーラさんの対応は予測できた。まあ、誰でもそうする気がするけど。




「セーラさん、ごちそうさまです。……それで師匠、昨日の話についてなんですが」

「ああ、というかいろいろ話したけど……どの話のことだい」

「星魔法についてです」

「……過去の話じゃないんだね。あれだけ話したんだけどな」


 そう言いながら師匠は肩を落とした。言われてみればたしかに、昨日の話の大半は師匠の過去についてだったな。そっちを聞いた方がよかったかもしれない。


「すいません、それだったら過去の話でも気になる点はあるので、そちらからでもいいですけど」

「いや、どっちでもいいんだが……まあ言っても無駄か」

「えっ、なんか変なこと言いましたか」

「いや、そうじゃないけどね。……ただ、小さいころのメビウスを思い出しただけだから」


 その言葉でセーラさんが苦笑しているのを見ると、いい意味で言っているとは思えないのだが……まあいいや、一旦スルーしておこう。


「それで、師匠たちの魔法の発動の仕組みをお聞きしたいんです」

「なるほど、やはりその話からか。それじゃあ、そこから話そうか」

「後、できれば星魔法の件も……」

「うん、後で第九階位までの全ての魔導書を貸すよ。イメージが分かれば、あのレベルの魔法なら普通に発動できるだろうし」

「ありがとうございます」


 そこまで言ったところで、師匠は本棚の中で散乱している資料の中から一冊の手帳のようなものを取り出した。


「これには、昔から私が分かりやすいように魔法技術をまとめてあってね」

「へえ。あっ、そういえば昔の師匠って感覚派の魔法使いだったって言ってましたよね。要はその手帳って師匠の感覚で書かれた覚書みたいなものですよね」

「そうだけど……何か不都合があったかな」

「いや、俺がその内容を理解できるかなあ、と……」


 そう言うと、師匠はものすごく心外そうな顔をして、黙った。


「あの、師匠………」

「………」

「あの、黙らないでもらえますか」

「………」

「あなた、子供みたいに拗ねてないで早く話した方が師匠の威厳はなくならないと思うのだけど」

「いや、セーラさん、もうそんなものほとんどありませ……」

「分かったよ、話そう」


 弟子への威厳というワードが効いたのか、渋々ながら師匠は話しだしてくれた。


「昨日も言ったように、現在使われている魔法は私たちが外部にある魔法情報をこの世界の外側の壁に特殊な結界を張って張り付けたものだ」

「そう言ってましたよね。ところで、なんで魔法情報を使えば魔法が使えるんですか」

「簡単に言うと……そうだね、私たちの感情にエネルギーがあるという考え方。もっとわかりやすく言うなら考えることにエネルギーが発生するというかなんと言うか………メビウスの資料を見せた方が早そうだね」


 そう言うと、師匠は席を立って昨日のメビウスさんの遺書を持ってきた。


「これには、ところどころに魔神の能力を解明する過程で生まれた魔法行使に関するメビウスの考察が載っていてね」

「なるほど、というかメビウスさんってホントに何者なんですか」

「異常なぐらいの理論派の魔法使いよ」

「それじゃあ説明になってない気もしますが……まあ、少し見てみましょうか」


 メビウスさんの書いた遺書を見ると、なるほどな。確かにとても分かりやい。


「ええと、この世界の人々は二層の肉体を持っていると。一層はこの世界の実体を持つ肉体。もう一層は魔法行使を行ったり記憶や精神をつかさどる肉体がある……あの、ここから先は字が汚くて読めないんですが」

「ああ、メビウスとこの人の研究資料関係の字は私以外は解読できないぐらい汚いから。メビウス君は手紙とかはそうでもないんだけど」

「人の字を暗号みたいに言わないでくれないかい」

「あら、事実でしょ」


 さて、師匠とセーラさんが穏やかな痴話げんかをしているうちに解読を試みてみようか。

 確かに汚いけど、ある程度の法則性はありそうだ。……あっ、何か読めてきた。まあ、元の字はきれいだということもあって水輝君の手書きした研究資料の考察よりは読みやすいな。


「何とか解読できました……たぶん」

「ええ、書き出してある部分はあってるわよ。たった5分かそこらで、よく読めるわね……」

「まあ、もっとひどい字の人を見たことがあるので。じゃあ、まとめるとこんな感じですかね」

「ああ、ほぼその通りだ」

「つまり魔法とは自身の精神体から発生されるエネルギーを利用する技術、ということですか」


 解読してみるとメビウスさんの遺書の内容はこの世界の魔法発動の仕組みをほぼ完全に説明していた。


「この世界には、肉体と精神の二層の世界に同時に存在する物質がある」

「それが、私たちが〈魔粒子まりゅうし〉と呼んでいるものよ」

「魔粒子は、私達が精神体から放出したエネルギーの量と、それに含まれる意思の方向性を世界の境界を通じて魔法情報にアクセスするための中継点となっている、と」


 そこまで読んだだけで、現代(いま)の魔術師が模造魔法しか使えない理由は分かった。


「要するに、現代の人間の魔力は師匠達の時代の人間に比べて少ないという事ですね。つまり、自身が発せられるエネルギー量が少ないから次元の壁を透過させて魔力情報を得られない」

「まあ、他にも理由はあるけどおおまかに言えばそうだね」

「そういえば、なぜ現代の人間はエネルギー量、いえ魔力が少ないんですか」

「あくまで仮説だが、魔神に奪われているんだろうね」

「魔神に………でも、封印されているんじゃなかったんですか」


 ふと思ったが、なんだかとんでもない話を聞かされた気がする。本当にこんな話を簡単にしていいものなのだろうか、いやそもそも本当なのか。

 まあ、師匠たちの魔法技術の高さや、俺の正体を言い当てたことから魔神のことや次元間にある魔法情報に何もかかわっていないということはないだろうし……ともかく、今はそれでいいとしよう。


「メビウスが行った封印はあくまで一時的なものだった。事実、魔神の封印から時間が経つにつれて、魔術師の絶対数は大きく減っている。千年前と比べると……大体十分の一になったんだったかな」

「もしかして、そういったことも次元層の情報から知れるんですか」

「一応ね。ただ、特定の時期にしっかりとした儀式を行わないと魔法情報以外はそう簡単に手に入らない」

「正確には、魔法構成にかかわるための情報、要はこの世界の魔粒子と相性がいい情報は簡単に引き寄せられるのよ。ただ、政治とかの情報になってくると引き寄せるのに手間がかかるの。その差はよくわかっていないけど」


 なるほど、やっぱり師匠たちの言っている魔法情報とはやっぱり俺が発見した<次元間の量子データ>とほぼほぼ同一のものようだ。

 しかし、次元間の量子データって本当になんなのだろうか。この世界を構成している情報を発生させているのか、それともこの世界の情報をコピーして保存しているのか……

 俺の定説では後者だったが……って、今は昔の研究を思い起こしているんじゃなかった。


「つまり、魔力とはその魔法情報から生み出されたエネルギーが精神体に宿るという解釈でよろしいでしょうか」

「そういうことだ。まあ、僕は勘でやっているからよくわかっていないけどね」

「まあ、細かい理論面は私に聞いてくれれば分かる範囲でなら教えるから」


 気になる、さらに細かい話は師匠に聞いても分かりそうもないし……セーラさんにありがたく聞かせてもらおうとしよう。


「とりあえず、魔力についての基本の話はこれでいいかな」

「はい、つまり魔力量が異常な俺は師匠たちと同系統の魔術が使えるということですよね」

「ああ。というか、すでに使っているけどね」

「……へっ」


 それはおかしい。俺は今まで術式をアレンジしたことすらない。魔導書に書かれていたものをそのまま使っていただけだし。


「まあ、気づいていないだろうね。言っておくけど現代の魔術師は魔術の規模さえ変更できないからね」

「本気で言ってます、それ。いくらなんでも不便すぎるんじゃ」

「でも、そうすることで下手に魔力を込めすぎて暴発したり、込める魔力が少なすぎて発動しないということが限りなく減るでしょ」

「まあ、それもそうか」


 つまり、俺はとっくに魔導書以上のことができたと言う訳だ。このことを赤竜戦の前に知っていたら、もっと楽に戦えたかもしれない。などと思っていたら、師匠がさらなる衝撃を与えてくれた。


「ああ、一つ言い足しておくと欠点もあるから」

「欠点、ですか」

「当然、自由に魔法がいじれるぶん、それ相応に魔力消費量が増える」

「えっ、ということは……」

「多分、赤竜戦の時にきちんと模造魔法が使えていたら魔力消費量は半分ぐらいに抑えられただろうね」


 もう、開いた口が塞がらない。本当にこの話を赤竜戦の前に聞きたかった。


「まあ、失敗は気にしない方がいい。それにやり方を工夫すれば模造魔法よりも魔力消費量が減るから」

「はあ、なんだか訳がわからなくなってきましたけど」

「大丈夫よ。多分、言ってるこの人も何を言っているのかよく分かっていないから」

「まあ、正直言ってね」


 とりあえず、細かい理論の話は後にしよう。もう俺は物理学者ではないのだから。まあ、後できっちりと理論は固めるけど……これはもう、体に染みついた癖だからな……仕方ない、よな。


「とりあえず、模造魔法の実践指導から始めようか。超越級魔法や魔術理論の話はその後ということで」

「はい、よろしくお願いします」

「ああ。さてと、とりあえずまずは星魔法の教本を……」


 意気揚々と立ち上がった師匠が後ろを振り向き、ぐちゃぐちゃの本棚の前で視線が止まった。そのまま、ゆっくりと俺の方を振り向く。


「とりあえず、教本を探すのが最初の修業ということで」

「師匠、それは片づけが面倒くさいだけじゃないんですか」

「いや、修業だよ。隠れたものを探し出すなんて修業の定番……」

「あなた、クライス君に本棚を片付けさせるなら、あなたはさっき壊した部屋の修理をお願いね。あっ、私は手伝わないわよ」

「やっぱり、覚えてたか…… <転移テレポート>」

「逃げるなら、どうなってもいいということよね。…じゃあ、私も容赦はしないわよ。…<竜化トランス 白竜ホーリードラゴン>」

「……これ、家が壊れないか。<地神要塞アースフォートレス>、<爆炎障壁ファイアーウォール>。……これで保つといいんだけど……」


 セーラさんが家の外に飛びあがった瞬間、世界最強の夫婦喧嘩の開始を予想した俺は、即座に自分が張れる最大規模の結界魔法を張った。


 その後、即座に師匠の家に立てこもった。あの夫婦喧嘩の仲裁は……危険すぎるからね。後、精神衛生上、聞き覚えのある男性の叫び声は無視することにして、指示通りに本棚の整理をしておこう。



 数時間後、ローブ中をズタボロにした師匠とセーラさんが戻ってくる頃には本棚は元通りに整理され、俺は星魔法の教本を読みながら紅茶をいただいていた。


 その後、終日師匠が意識を取り戻さなかったため今日も修行らしいことはできなかった。

辛辣なもの、誤字・脱字の指摘。何でも構いませんので感想は気楽にお願いします。



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