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異世界でも貴女と研究だけを愛する  作者: 香宮 浩幸
第十章 俺、この戦争が終わったら結婚するんだ
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賢者編 マーリスside ~模擬人生遊戯~


「師匠、この部屋の物は全て捨ててもいいんですよね」

「誰がそんなこと言ったんだい。いらない物は捨ててくれて構わないが、いる物は置いておいてくれ」

「いや、この埃だらけの倉庫でどれがいる物かなんて判断つきませんよ」

「別に、整理してくれと言うわけじゃない。あくまで明らかなゴミを処分してくれれば、後は家の外に運び出してくれれば構わないよ」

「……ここの場合、ゴミかと思った紙に興味深そうな魔術関係の記述があったりするので逆にゴミを判断する方が難しいんですが?」

「そこら辺の判断を出来るから君を呼んだんだよ」

「いいように使われている気がするんですが……」


千年近く魔術で補修を繰り返して住んできた我が家。その中には膨大な量の物が詰まっている。無論、ある程度は整理しているが、どうやってもあまり入らない倉庫の管理は雑になりがちだ……まあ、セーラが管理している部屋の方は整然と物が並んでいるけれど。


「はあ……文句言っててもどうしようもないので進めます」

「そうしてくれると助かるよ」


この家を二人揃って長期間不在にするにあたって、こうして最低限の整理をしてから家を空けようという話になった。倉庫の扉を開けて、絶句した私はとりあえず助っ人として頼れる弟子を召喚したというわけだ。


「はてさて……ん、師匠、これなんです?」

「何か変な物でもあったかい?」

「いえ、変な物というか……前世で見たことがありそうな形のボードだなあと思いまして」


私以上の実力を持つ弟子、クライス君。彼は別の世界からの転生者でもある。その彼が、倉庫の山の中から取りだしたのは、何かのゲーム盤だった。


「ん……ああ、君の世界でもスゴロクみたいなゲームは存在するのかい」

「こっちの世界でも双六って言うんですね……」

「ああ、発祥は東方でね。元々はダイスを使うそうだね」

「……まんまだな」

「まあ、単純なゲームはどこの世界でも開発されるからね。発祥も古代魔術文明以前のようだから、魔力空間の情報から同じなになっていてもおかしくない」


スゴロクというゲームの内容は至ってシンプル。自分の手番にルーレットを回し、出た目の数だけコマを動かし、最初にゴールに辿り着いた物が勝ち。ただ、このゲームは最初にゴールした者が勝利ではないという点が基本ルールと異なる。


「何か、マスの中に職業選択とか……結婚、出産とかもありますね……うわっ、生まれもランダム選択なのか……やっぱりこれって……」

「面白そうだろう。ラニアさんとジェニスさんが商会で作って売ろうとしてたんだよ、新しいスゴロク……模擬人生ゲームだったかな?」

「まんまでは……その二人って、この世界の人なんですよね?」

「まあ、確かに発想は奇想天外だったね、二人とも。その娘さんも含めて……」


そのゲーム盤を見ながら、私は遠い日の思い出を振り返っていた……






「はい、注目。ちょうど、みんないるわね」


ある休養日の午後。食堂でくつろいでいた俺達のもとに、ラニアさんとジェニスさんが大きな箱を持ってやってきた。


「何ですか、今回は……危険な新製品モニタはしたくないんですけど」

「今回は、そういうのじゃないから大丈夫よ」

「まあ、そういうことなら面白そうなので見ます」

「マーリス、前の実験の時も同じやりとりしてませんでしたか?」

「まあ、何かあったらマーリスが引き受けてくれるってことでいいじゃないか。スリフ」

「……そうですね」

「……(付き合いだした途端に恐ろしく甘いわね)」

「セーラ、何が甘いんだ?」

「こっちの話だから大丈夫」


俺達が話をしている間に、ラニアさんとジェニスさんが机の上に文字が大量に書かれた板を置いていた。それと同時に、俺達それぞれの前にも板が置かれる。


「それで、今回は何をするんですか」

「今回はこのゲームのモニタをしてもらおうと思って」

「ゲーム、ですか?」

「……見たところ、東方のスゴロクみたいなゲームですか」

「さすがメビウス君、相変わらず知識豊富ね」

「メビウス、スゴロクとは?」

「簡単に言うとダイスをふって出た目の数だけコマを進めて、最初にゴールに辿り着いたプレイヤーの勝利っていうゲームだよ」

「なるほど……」


要は運ゲーだろという言葉は、面白そうだと目を輝かせているスリフちゃんに配慮して黙った。だが、運ゲーにしては眺める盤面に書いてある言葉に色々と違和感がある。


「あれ、最初についたプレイヤーが勝ちなんだよな」

「僕が知ってるルールだと、そうだね」

「それだとコマを進める場所に書かれるのは、それらを有利、不利にする文言だと思うんだが……」

「何これ……試験で満点、+300アドル。鬼ごっこ中に転倒して骨折、-1000アドル」

「こっちは初デート、-500アドル。魔術に関する研究成果で表彰される、+3000アドル……何ですか、これ?」


盤面には現実に起こりそうな出来事が書かれており、その横に金額が書いてあった。


「……つまり、このゲームは最速でゴールするのではなく、コマを進める中で最もお金を稼いだ人間が勝利、ということですか?」

「メビウス君、正解よ。この模擬人生ゲームは、人生を疑似体験しつつ、ゴールに着いたときにもっとも総資産が多いプレイヤーの勝利よ」


つまり基本的なスゴロクのルールを変えているということか……結局運ゲーだが、確かに内容は面白そうだ。


「まあ……やってみるか」

「そうね。ゲームだから事故は起きないし」

「ラニアさん、コマをいただけますか」

「はい、じゃあメビウス君はこっちのコマね」

「コマに意味があるんですか?」

「ああ、性別でコマを分けてるの」

「何か、意味があるんですか?」

「それは……後のお楽しみよ」

「わかりました」


ラニアさんの含みのある言い方に嫌な予感がしたが、まあゲームだし余程のことは起きないだろう。横のジェニスさんもニコニコしてるし……うん、ジェニスさんが止めなかったんだから大丈夫だな。


「じゃあ、まずは全員ルーレットを回してくれるかい」

「これですね……私からで、いいですか?」

「どうぞ、スリフ」

「では……」


スリフちゃんから時計回りに1から10までが書かれたルーレットを回していく。それぞれ数値は……

スリフ → 9、メビウス → 7、セーラ → 10

マーリス → 1、ジェニス → 5、ラニア → 4


「じゃあスリフちゃんとセーラちゃんは貴族ね」

「貴族、ですか?」

「ええ。それでメビウス君と、ジェニスさんが市民。残った私と、マーリス君が農民よ」

「これ、何が変わるんですか?」

「一部のコマの指示内容が変わるわ」

「本当ですね。褒賞の額が増減したり、休みの数が変わったりするみたいですね。後は、これ貴族の方が払う金額が大きくなったりします?」

「そうね……まあ、後は実際にやってみましょう」


そうしてラニアさんの号令一下始まったゲームの内容は……


「私からですね。ええっと5が出たので、学園の試験で優秀な成績を収める、+500アドルですね」

「次は僕だね……10で、魔術式の研究発表で魔術省から表彰される、+10000アドル」

「メビウス、すごいです」

「あくまでゲームの中だからね」


まずはどうも幼少、学生期のようだ。メビウスとリリアちゃんは学問系で現実同様優秀な成績を収めているようだ。


「やったわ。山で見かけた魔物を討伐。+5000アドル」

「何か、さっきからそんなマスばかり止まってないかい……僕の方は両親の手伝いだね、市民だと+1000アドルか」


ラニアさんは、野生児のような活躍を見せ、怪我も多いがそれ以上に冒険で大きな利益を出していた。一方のジェニスさんは親の手伝いや、自分の企画で堅実にお金を稼いでいた。


「……教会での奉仕活動……先のマスには進めるけど、資産増加に繋がらないのね」

「いいじゃないか。減らないだけ」

「マーリス君は、遊びで事故を起こし続けて借金ゾーンに入ったもんね」


セーラは、教会や孤児院での奉仕活動マスに多く止まっていた。そして俺は、なぜか止まるマス、止まるマスで事故を起こし続け、6人の中で唯一の借金地獄に突入していた。


「いいんだよ。この感じだと、成人後もあるんだろう。成人してから一発当てればいいだけだ」

「それ、さっきも言ってなかったかしら。ええっと5だから……ラニアさん、ここって?」

「強制的に止まるマスね。条件が揃うまで動けないから、しばらく休みね」

「条件が揃っ……ラニアさん、何なんですか、このマスは?」


追加で進む奉仕活動系のマスに止まり続けていたセーラは、誰よりも先に進んでいた。そして強制停止のマスで止まることになったようだ……条件が揃わないと、進めないらしいが内容を読んだセーラの頬が赤い。一体、何が書かれていたのだろうか?


「次、俺だな……あっ、俺も10出たからそのマスでストップだな」

「あっ、丁度良かったわね。異性コマが揃ったから、結婚イベントよ」

「結婚イベント?」

「ええ。異性二人の資産を合算して、ここからは一つのコマとして動かすの。あっ、身分の変更についてはボードを見てね」


結婚。確かに模擬人生ゲームと言っているのだから、そういったマスもあるだろう……偶然とは言え、セーラと結婚か。


「セーラ……」

「な、何?」

「幸せにする」

「馬鹿言ってないで、ルーレットを回して!」


照れまくっているセーラの言葉に、マスを見ると貴族と農民の結婚の場合、10か9が出れば貴族、6から8が出れば市民、1から5が出れば農民になるらしい……


「まあ、魔術師だし勿論成り上がってセーラを迎え入れると言うことで……」


ルーレットを回す。先程まで悲惨な結果しか招いてこなかった、その目は、ピタリと10で止まった。


「じゃあ、二人の資産を合算して……マーリス君の借金がセーラちゃんの総資産と同額だから0ね」

「そんな不幸な偶然、ありますか?」

「追い打ちだけど、それだけじゃないね。貴族としての結婚式予算が凄いから、全員から祝儀が発生するけど余裕で借金まみれで結婚生活がスタートになる」

「最悪じゃないですか」


ラニアさんとジェニスさんが淡々と、結婚の処理を進めていく。その中で横で黙っていたセーラが我を取り戻したように、口を開いた。


「マーリス君」

「どうした?」

「……マーリス君、散財しそうだから、結婚したら私が会計管理するからね」

「……ああ」

「マーリス、セーラさん、イチャつくのはゲームの後でね」

「「イチャついてない」」


こうした、ドタバタを何度もしながらゲームは進んでいった。


「……メ、メビウスと結婚」

「あくまでゲームの中だけどね」

「……ゲームの中だけ、なんですか?」

「……この場ではノーコメントで」


「新しい商会を起こす……まだミリィが小さかった頃を思い出すね」

「あの頃は、ルーテミアに来たばかりで、右も左も分からなかったものね」

「ああ。さて、こっちの商会も大きくしようか」

「ええ。頑張りましょうね、あなた」


「マーリス君、また魔術で市街に被害出したの? 私が稼いだ給与、大幅にプラスだったのに」

「いや今回は、だろ。俺の番で、大きなプラス出た時もあったろ」

「それ以上に、被害出してる回数が多いのよ」

「……ねえ、二人ともゲームだよね。普段よく聞く会話にしか聞こえないんだけど?」

「未来が目に見えるわね」


「商会が順調に成功していくわね……現実ではありえないほどに」

「本当にね。マスの比率的には不幸も起こる筈なんだけど……まあゲームでくらい最高の方がいいか」

「そうね。あっ、娘が結婚したわ」

「相手はどいつだ!」

「ジェニスさん、ゲームの中よ、ゲームの中」


「子供、子供が5人目……」

「スリフ、ゲームの中だから」

「メビウス……盛んすぎます」

「ゲームの中だから!」

「……メビウス、何人子供欲しいですか?」

「……ええっと、ノーコメントで」

「ゲーム終わったら、いいですか?」

「……ま、まあいつかね」


「マーリス君が魔術省大臣に……国が終わるわね」

「うるせえ……でも、大臣は俺もなりたくないけどな」

「あら、この国の魔術のトップだし興味はありそうだけど?」

「嫌だよ、貴族になって国の運営するとか」

「確かにそうね。マーリス君は王宮筆頭魔術師とか、いいかしら?」

「まだ、そっちの方が性に合ってるな」




こうして、様々なイベントをこなし……


「4以上なので、これで私とメビウスもゴールです」

「スリフ、お疲れ様」

「さてと、それで結果は……メビウス君とスリフちゃんの圧勝ね」


全員がゴールした。トップは三男三女を設けて、市井の魔術師として財を築いたメビウスとスリフちゃん。


「そのまま私達が2位ね……実際もこういう人生を歩みたいわね」

「そうだね。まあ、少しでも近づけるよう努力しよう」


2位は、自身で築いた商会で多くの財を成したラニアさん、ジェニスさん夫妻。子供の数も女の子一人で、上手くいったら現実でもこうなりそうだ。


「マーリス君が町を破壊しすぎなのよ」

「それは否定しないけど、ゲーム的に言うならセーラが奉仕系のマスであんまり稼げてないからじゃないか?」

「あら、町の破壊と奉仕活動を同列に並べるの?」

「……何も言えないな」


最下位は魔術省大臣にまで上り詰めた俺と、セーラのペアだった。俺の給与や、様々な褒賞は大きかったが、それ以上に全体を通しての損害が大きすぎた。


「それで、みんなどうだった?」


ワイワイとプレイ内容について語り合っている俺達に、ラニアさんが問いかける。色々あったが、答えは勿論……


「「「「面白かった(です)」」」」


その後、もう1ゲームやった。その日は今でも思い出せるくらい楽しい一日だった。






「結局このゲーム、発売されたんですか?」

「発売されたよ……大ヒットしたんだが、さすがに千年経ったらどこかで失伝するよね」

「要はスゴロクですし、普通に現代まで残りそうですけどね」

「まあ、あの後魔神の騒動もあったからね……」

「ああ……」


このゲームはカーテス商会で発売され、その後王都中でブームになった。だが、こうして現代までは残ることはなかったようだ。


「まあ、私達のように劣化防止を魔術的に施してまではいなくても、どこかに残っているかもしれないけどね」

「だと、いいですね……」


あの、楽しかった思い出を共有できるのもセーラと、後はひょっとしたらメビウスに可能性があるくらいか。いや……


「クライス君」

「どうしましたか、師匠?」

「これ、王都に持ち帰って、プレイしないかい」

「……いいですね。たぶん詩帆も、勿論リリアや、何ならレオンも楽しんでくれると思います」

「決まりだね。じゃあ、これは残すとしよう」

「はい」


あの頃はもう帰ってこない。だけど、私は何の因果か千年後に未だ生きている。なら、今の知人達と新たな思い出を作ればいい。


「じゃあ、さっさと片付けましょうか」

「クライス君、後は頼んだよ」

「師匠が手伝った方が判断が速いじゃないですか」


優秀な弟子と騒ぎながら、私はあの頃の思い出を胸に千年後の世界を生きる。

投稿が遅れまして大変申し訳ございません。


今後の予定等は、活動報告をご覧いただければと思います。

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