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異世界でも貴女と研究だけを愛する  作者: 香宮 浩幸
第十章 俺、この戦争が終わったら結婚するんだ
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閑話 可愛い嫁×可愛い動物は至高

昨日のお詫びです。


「ここよ。キルト教王都動物保護局」

「……思った以上に大きいな」

「王都の衛生環境整備のために教会の資金だけではなく、国費も投じられてるみたいよ。後、動物好きの貴族からの寄付金もかなりあるみたい」

「……それ、中抜きと汚職の温床になってないか?」

「前国王陛下の時代に、国費の投入を止められたことならございますが、教会でのこの施設の運営は厳格に行われていますよ、フィールダー魔術相」


教会の運営する施設にたどり着いた俺たち二人が、その施設の巨大さに目を丸くしていると、後ろから声がかかった。

ん、この声……そして俺をこういう呼び方するってことは……


「……ディティス教皇……ご挨拶が遅れまして失礼いたしました。どうしてこちらに……」

「ご存じの通り、こちらは教会の施設ですので視察です。完全にお忍びのようでしたのでお声がけはしないようにと思ったのですが……少々聞き捨てならない話が聞こえたもので」

「は、はは……前国王の治世の記憶が色濃いもので、邪推が過ぎました」

「そうですか……まあ、推論であれば実際に見て回ったうえで忌憚のないご意見をお聞かせください」

「……そうさせていただきます」

「では、私はほかに公務がありますので」


そう言ってディティス公は、すでに後ろにとまっていた馬車に乗り込み、その場を去っていった。


「雅也……外でああいうこと言わないでよ」

「いや、まさかいると思ないだろ」

「教会施設よ……仮に、教皇様にお会いしなくても、信徒でもああいう言い方怒ると思うけど?」

「軽率な発言でした。以後、気を付けます」

「よろしい……教皇陛下にああ言われたのもあるけど、しっかり見ていきましょう」


そのまま詩帆に手を引かれる。ペットを飼うことについて、詩帆が非常に前向きなのもあってか、今日は彼女に主導権を取られてばかりだな……後、最近の仕事疲れか俺の口が悪いの申し訳ないな。


「詩帆、ごめんな」

「ん?何が?」

「その、いろいろと……」

「歯切れの悪い雅也、珍しいね」

「その、せっかくの楽しみ……ずっと待ち望んでた時間なのに、なんだか色々と水を差しちゃってる気がして……」


そう謝ると、詩帆はキョトンとした顔をした。そして……


「そんなの気にしないよ。疲れてる雅也って口悪くなりがちだし」

「やっぱりか……」

「うん。でも、こうして付き合ってくれるでしょ」

「いや、それは当然」

「雅也……全部ぶつけて。ずっと言ってるでしょ、どんな貴方でも受け入れるって……だって私を、こんな面倒くさい私を雅也は受け入れてくれたんだもの」

「……」

「今度こそ、今度こそは庭のあるお家で、子供と、ペットと幸せな家庭を作ろ」


そう言う詩帆の手は震えていた。過去を思い出して、強い想いと紐づくせいか、嫌なことを思い出してしまったのだろう。その手を強く握る。


「ああ。大丈夫。今度は幸せになろう」

「うん…今度は、今度は大丈夫だよね」


詩帆の手の震えが止まる。遠くを見ていた目の焦点が戻る。ポンと彼女の頭を叩いて、今度は俺が手を引く。


「家は買ったし、子供はできたし、最後はペットだな」

「……うん」


儚げにそう微笑んだ彼女の手を引きながら、施設の扉を開けた。




受付を済ませ、動物たちのいる部屋に通される頃には詩帆はすっかりいつもの調子を取り戻していた。


「可愛い……あの、この子たちは触ってみても大丈夫ですか?」

「はい、この子たちは大丈夫ですよ。受付でもお話ししましたが、一部の子たちは、人に対して強い恐怖を持っているこもいるので……」


通された部屋には大小様々なケージが並んでいた。この部屋は犬が中心のようだ。説明の通り、確かに奥の方では壁際に引いて、怯えていそうな子も見える。だが、部屋の入り口付近の子達はそうでもないようだ。


「かわいい……」


まず詩帆が目を付けたのは茶色の子犬たちだった。その数五匹が、一つのケージの中で走り回っている。詩帆が近づくと、撫でて、とばかりに走り寄ってくる。


「この子たちは、どういう経緯でここへ?」

「王都の食堂で飼われていた母犬が、野良犬と子供を作ってしまったようで、その子供全員は養えないとこちらに来られました」

「へえ、市民からの持ち込みなんてあるんですか?」

「王都では法律で、自身の飼っている動物が産んだ子供を適切に管理しないと厳罰に処されますから。それでも捨てる人間はいますが、教会に持ち込めば少額費用で、なおかつ一番穏便ですので」

「なるほど」


詩帆が、寄ってくる子犬たちを撫でているのを眺めながら、職員さんと話をする。そのあたりの話を聞くと、ペットに関する愛護法は現代日本より厳しそうだ。


「シホ様。よろしければ、柵の中で遊んでいただいても大丈夫ですよ」

「いいんですか」


詩帆が意気揚々と柵の中に入っていく。そのまま子犬たちと鬼ごっこを始めた。

詩帆の白いロングスカートを追いかけて子犬たちが走る。追いつけなくて転んだり、疲れてた立ち止まったり、それを見て満面の笑みを浮かべる詩帆……えっ、可愛すぎないか?


「可愛い……天使かな?」

「聖職者として賛否あるかと思いますが、まるで聖画のようですね。マサヤ様」


今日は特に変装はしていないが、賓客対応されるのは少々面倒だったので前世の名前で受付をした。顔がわかる人間がいるかもしれないが、偽名を使った時点で察してくれるだろう。まあ騒ぎになったらその時考えよう。


「……はっ、すみません一人で楽しんでしまって……そ、そのほかの子も見させていただいても」

「ええ。構いませんよ、ほかの部屋を見られますか?」

「えっと、もう少しこの部屋を見させていただいてもいいですか?」

「勿論です」


はっ、と我に返ったように頬を染める詩帆……眼福だな。しかも、さっきまで遊んでいた子犬たちに手を振っている……いや、もう五匹とも引き取っちゃうよ、俺?


「あの子は……?」

「あの子は、先日一緒に暮らしていた男性の方が……かなり高齢だったんですが、お亡くなりになられて、それでうちに引き取られた子です」

「そうですか……」


詩帆が目を止めたのは、入り口近くにいる中で人懐っこそうな子犬や若い犬たちの中で、唯一ほとんど動かず眠っている老犬だった。


「大事にされてたんでしょうね」

「ええ。この年まで元気に生きてることが何よりの証拠でしょう」

「うん、そうね……」


詩帆がゆっくりとその老犬の背中を撫でると、薄っすらと老犬は目を開けた。しばらく、詩帆はその老犬と目を合わせながら、背中全体を撫で続けていた。


「すみません。この子に治癒魔術を使ってあげてもいいですか?」

「治癒魔術、ですか?」

「この子、腰を痛めてるみたいなんです……加齢による体の痛みは取れませんが、これは、別、みたいなので」

「かまいませんが……その、うちでは対価はお支払いできません。予算がカツカツなので治療魔術の代金など」

「……一瞬ですし、今日ご案内いただいたお礼ということで<快癒ハイキュア>」


その言葉と同時に、老犬が目をしっかりと開いた。そして立ち上がると、詩帆の方によって行き……


「ワン」


と吠えて体を伏せた。その頭を詩帆が優しく撫でた。


「痛くなくなったのなら良かった……最期の時まで、少しでも楽だといいのだけど」

「あ、あの……今の光魔術第五階位……光の中級魔術をあんな簡単に使われるなんて……」

「ここを回る間は詮索しないでいただけますと助かります」

「は、はあ……」


そういえば当たり前になっていたが、治癒魔術……中級魔術の無詠唱行使って、超絶高等技術だったな。


「というわけで、他にも案内よろしくお願いします」

「わ、わかりました……」


そうして、引きつった笑顔を浮かべた担当者に、そのまま夕方頃まで案内をしてもらった。




「詩帆、よかったのか?」

「うーん、担当者さんには申し訳なかったけど」

「それは、まあ寄付金置いてきたからトントンということで」


夕暮れの中、俺と詩帆は帰路についていた。結局俺たちは、いや詩帆は今は飼わないという結論に達した。


「いや、ものすごく可愛かったよ。触れ合った子たちはみんな飼ってあげたい」

「じゃあ飼えばいいと思うけど。俺も眼福だったし」


猫の部屋で、座っている詩帆に猫が上りまくって猫まみれになって、立てない……と困ったようにしている詩帆。眠るハムスターを手に乗せて、温かいと頬を緩ませてる詩帆。ウサギに餌をあげて、その食べる様子にご満悦の詩帆。肩に鳥を乗せて、少しポーズを決めて、その直後に照れる詩帆。


今日の詩帆の様子を思い返すだけで十日は寝ずに働ける。一緒にいた担当さんも幸せそうな顔をしていた。まあ、結局引き取らずに長時間拘束してしまったので申し訳なかったが、そこは最後に身分を明かしてそこそこの額を寄付しておいた。


「確かに魅力的だけど……でも、手が足りないよ?」

「人を雇ってもいいし、そのために召喚獣を常時維持してもいい」

「……うん、そういえば私達貴族だし、今は魔術もあるんだった」


前世では少々厳しかったが、今は広い屋敷に、一生あっても使い切れない財貨に、便利な魔術まである。ペットを山のように飼うことは可能だ。


「ああ、何なら動物園すら運営できる」

「動物園……ふふっ、そうだね。あっ、でも今飼わないって言ったのはそういうのが理由じゃなくて……」

「それが理由じゃない?」

「……まずはこの子に愛情を注いであげたいな、って」


そう言って、詩帆は愛おしそうにお腹を撫でた。


「もちろんペットに対する愛情と、子供に対する愛情は別物だと思うのだけど……子供には全力の愛情を注いであげたいの……でしょう」

「ああ……」


幼いころに両親を失った詩帆、幼いころから両親に愛情など注がれなかった俺。こうして大人になった今、子供に寂しい想いをさせたくないのは共通の想いだ。


「そうだな……うん、そうしよう」

「あっ。だから、いつか……」


詩帆のその言葉に、俺は微笑んで彼女の手をギュッと握った。そして夕暮れに染まる街の中を、彼女と並んで家路についた。







~十年後 とある貴族邸~


「お父様!」

「お母さま」

「なんだ……こんな朝早くから」

「どうかしたの?」

「私、欲しいものがあるんです……というか、教えていただきたいというか」

「欲しい……教えてほしい?」

「僕も、教えてほしい」

「まあ、落ち着いて。二人に必要なものなら、そして俺とお母さんで教えられることならちゃんと教えるから」

「わかりました……その……召喚魔術を教えてください」

「……教えてもいいけど、ちゃんと大事にするんだぞ」

「ペットが欲しいみたいなやり取りですごい話してるわね……召喚魔術って第十一階位の超高等魔術よ?」

三年以上も引き延ばした閑話の最終話でした。

次回投稿予定は変わらず11月25日(土)21:00です。


投稿予定の詳細は活動報告をご覧いただけますと幸いです。

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