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異世界でも貴女と研究だけを愛する  作者: 香宮 浩幸
第十章 俺、この戦争が終わったら結婚するんだ
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閑話 こちらの世界の愛玩動物

大変お待たせしました。


二人揃って相変わらず貴族感のない普段着で家を出た俺と詩帆は、人々で賑わう通りを並んで歩いていた。


「それで、ペットショップのあてはあるのか?」

「ええ。血統書揃いの店から、危険度の低い魔物を扱っているような店まで」

「手に持ってるリストか。その量見るに、結構前から調べてた?」

「うん。雅也とこの世界でもう一度会ったら、今度こそ、って思って……」

「そうか」

「ちょっと、何するのよ」

「可愛いこと言う詩帆が悪いと思う」


可愛いことを言う詩帆の頭を撫でる。少し髪が乱れるくらい強く……怒りつつも振り払わない彼女の様子に、ますます可愛くて撫で続ける。徐々に染まっていく頬を愛おしく眺めていたら、僅かに後方に転移して抜け出された。


「まだ撫でたりないな……」

「馬鹿。そういうのは家でして」

「家ならいいんだ?」

「ええ。二人きりの時に思いっきりやって」

「お、おう……うおっ」


照れ隠しもあるのだろうけど、ハッキリと甘やかしてと言う彼女の迫力に押されて後ずさる。すると、後ろが店の入り口だったようで、支えを失ってドアを開けながら倒れ込んでしまった。


「ちょっと、大丈夫?」

「あっ、ああ……」

「全く……意外と押しに弱いよね、雅也」

「……そうか?」

「言い淀んだ時点で説得力無いわよ」

「……それで、入り口にいつまでも居座ると邪魔だし、出ようか……」

「いえ、せっかくだから見ていきましょう」

「見る?ここ、ペットショップなのか?」


そう言いながら後ろを振り返った俺の目の前には……愛玩用魔物販売店モンスターハウスが広がっていた。


「し、詩帆……」

「け、結構怖いわね……」


確かにこちらに襲いかかってくるようなことはないが、周囲に見えるケージの中の魔物達は、かなり厳つい容姿をしていた。いや、こういうのが好きな人は好きなのだと思う。前世でも猛獣を飼う金持ちって一定数いたし。


「可愛い魔物とかいるのか……」

「い、いなくはないらいしいんだけど、そういう魔物って弱いか希少だから、こういう店には滅多に居ないらしいわ」

「へ、へぇ……しかし、妙に静かだな」

「そうよね。魔物と言っても、ちゃんと調教されてるのかしら?ペットとしてはともかく番犬としてならありかもしれないわね」

「あっ、すいませんお客さん。気づかず失礼しました」


二人で入り口近くの魔物達を眺めながら話していると、奥から眼鏡をかけて、首に厳つい蛇を巻いた人が出てきた。恐らく店員さんだろう。


「いえ、大丈夫です。こちらも声をかけませんでしたから」

「お忙しい時間でしたか?その、また後日出直しますけども」

「いや、それが急に魔物達が怯え出しまして」

「怯えだした?何かあったんですか?」

「何か強大な敵に怯えているような、そんな感じですね……」

「強大な敵……あっ」


確かに、周りの魔物達は大人しいのではなく、何かに怯えているような様子だった。そして状況から俺は一つの可能性に気づいた。


「あの、店員さん。魔物達って巨大な魔力に怯えますよね」

「ええ。基本的には上位の魔物ほど、魔力量が多いですからね」

「ああ、そういうことか……」

「詩帆も気づいたみたいだな。店員さん、ちなみに上級以上の魔術師が愛玩用として魔物を飼うというのは……」

「……お客さん、魔術師ですか……っつ、フィールダー伯、これは失礼いたしました。平にご容赦を」

「いえ。今日は一個人として来ていますので、普通に接してください」

「は、はあ……ええっと、魔術師の愛玩魔物の飼育はあまりオススメしません。特にお二人のような高位の魔術師の方には」


俺達の正体に気づいて、ぎこちない動きながら店主さんは説明を続けてくれた。


「魔物は巨大な魔力を持つ相手を畏怖します。高位の魔物、知性を持つレベルに育ったような魔物ならともかく、本能の方が強いような魔物は絶対です」

「つまり俺達みたいなのが飼おうとしても」

「怯え続けて、慣れる前に衰弱する可能性が濃厚かと……」

「わかりました……すみません、お時間お取りしました」

「いえ。お役に立てず申し訳ありません」


頭を下げる店主さんを労って、俺達は店を出た。怯え続ける魔物達に少々申し訳なさを覚えながら……


「そっか。魔物を飼うのにそんな制約ができるなんて……」

「そうだな……まあ、愛玩用として飼いたいとは思わなかったけど」

「うん。想像の倍怖かった……次は普通のペットショップに行きましょう」

「最初からそうしてくれ」

「雅也が後ずさって勝手に入ったんでしょ」


そうして話しながら歩くこと数分。詩帆が足を止めたのは、非常に格式高そうな外観をした通りの店舗だった。店名を見る限り確かにペットを揃えているみたいだな……


「ここ……?」

「ええ。何か、問題がありますか。フィールダー伯爵様?」

「ないよ。行こうか」


前世ならこういう店には少々気後れしてしまっていたが、今世では懐的にも、立場的にも何の気負いもないが、根が小市民なので普通に気後れしてしまう。

そんな思考で重たい足で店の戸を開くと、すぐに店員が寄ってくる。


「いらっしゃいませ。お客様、ご予約の方はされていますでしょうか」

「いえ、突然の予定でしたのでしていません」

「そうですか……」


近寄ってきた店員は一瞬言葉を切って、俺達二人の格好を上から下まで眺めた。そこで俺は続きの言葉を察した。


「申し訳ございません、当店は完全予約制となっておりまして」

「……分かりました。ドレスコードの必要な格式高いお店のお忙しいところに、申し訳ありません」

「また今度は予約して来ますね」

「……では、予約だけお取りします。お名前をお伺いしても?」

「クライス・フォン・ヴェルディド・フィールダーと申します」

「……はい?」


今の俺達の格好は、二人とも貴族らしい正装はしていない。一瞥して富裕層でないと判断した、あの店員は予約制であることを理由に秒で俺達を追い出そうとしたわけだ。俺はそのまま退店しようと思ったのだが、詩帆がカチンときたようなので、やることをやっていこう。


「ええっと、お客様……もう一度よろしいですか」

「クライス・フォン・ヴェルディド・フィールダー魔術相です。<亜空間倉庫ディメンジョンボックス>……ああ、ドレスコードはこれでよろしいですかね」


しっかりと役職名を言い放ち、服装を貴族礼装に、いつものローブを羽織る。青ざめる店員を睨み付ける。


「それで、この時間を予約が入っているようですし、手早くを予約を済ませて退店しますよ」

「は、はい……お、お客様、勘違いしておりました。丁度この時間は予約が……」

「へぇ……今更誤魔化せるわけねえだろ。俺はともかく、妻を安く見る店に、二度と来るか。ユーフィリア、行こう」

「はい、クライス様」

「お、お客様お待ち……」


勢いよく扉を閉じて店を出る。詩帆が俺に引かれる手と逆の手で、リストの一枚目を魔術で焼き払った。たぶんあの店が書いてあるリストのページだろう……


「雅也」

「どうした?」

「格好良かったよ」

「ああいうところこそ権威の使いどころだろう」

「そうね……スカッとしたわ」


詩帆の笑顔を横目に、服装を元に戻す。魔術での早着替えはやっぱり便利だな。


「さて、気分を切り替えて別の店を見に行こう。後は中流層向けの店とかか?」

「そうね……あっ、後は店だけじゃなくて教会が運営している保護施設もリストにあるわ」

「保護施設……へえ、そんなこともやってた、というか出来るんだ」


教会が行う動物の保護活動ねぇ。本当にこの国の教会は手広くやってるな……発案が先々代当たりだと金満教会のパフォーマンスな気がしてしまうが。


「調べたけど、野良犬、野良猫が増えた時に、王都内で病が蔓延したことがきっかけらしいわよ」

「そういえば王都って衛生観念も高いよな……こういう話は大概、師匠達が絡んでるんだろうな」

「それが珍しく賢者関係じゃないみたいよ」

「へぇ、そうなのか。じゃあ誰が?」

「千年前のグラヴィス候夫人のセレーネさんだって。王都の治療院の祖よ?」

「生憎、戦史と外交史以外はからきしでね」


グラヴィス候。本人の逸話はチラチラ聞いていたが奥さんもすごいんだな……この2人も転生者とかじゃないよな?


「はあ……まあ雅也は興味ないよね」

「いや、興味が無いと言うよりかは知らなかったという側面が強いから……今度ゆっくり聞かせてくれ」

「ええ、そうするわ。それで、行ってみる?」

「ああ。飼う飼わないは置いておいて普通に可愛い動物に癒やされたい……」

「同感。行きましょう」


そうして今度は詩帆に手を引かれて、俺達は並んで教会が運営しているという動物の保護施設へと向かった。

こちらの話は「閑話 雅也には癒やしが必要だと思うの」 https://ncode.syosetu.com/n8208ed/184/ の続きです……三年以上前の投稿です。


次回投稿は11月18日21:00を予定しています。詳細は活動報告をご確認ください。

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