第十七話 幼き賢者たち
読んでくださる方、いつもありがとうございます。
三日間ほど、ネット環境のない場所にいますので、予約投稿を使わせていただきます。
ということで本日は二話投稿します。
「<蘇生>、<霊魂再生>………お母さん、お父さん戻って来てよ」
何もかもが焼け落ちた村の中心で一人の少女の悲痛な声だけが響いていた。俺はその声を聞くに堪えなくなって、セーラの手を取った。
「セーラ、もういいよ。十分頑張ったよ。だから……止めよう」
「いやだ。きっと私の蘇生魔法に込める魔力が足りないだけだよ。だからもう一回、<霊魂再生>、あっ……」
俺は魔力不足で意識を失いかけたセーラを抱きとめた。
「もういいって言ってるだろう。セーラ落ち着けよ」
魔人に村が襲われてから3日。俺たちは夜はメビウスの結界に隠れながら、昼はずっと家族たちを探していた。セーラの呼び出した鳥や犬も動員して探したが生命反応は見つからず、今日になって俺たちの家族の亡骸が見つかった。
「いくら蘇生魔法と言っても限度があるよ。決して君の技量が足りない訳じゃない」
「もう……大丈夫だよ。だからさ、せめて……ゆっくり眠らせてあげよう」
「………………うん」
村中の人々を集めて、セーラが浄化した町はずれの丘にメビウスが結界を張って俺が火をつけた。
「みんな一緒だから、きっと寂しくないよね」
「ああ、きっと」
「そうだと思おうか。……みんなのためにもね」
空に立ち上っていく煙を見ながら3人でひとしきり泣いていた。その時だった。
「メビウス、今、音がしなかったか」
「向こうの草むらだ。まさか、まだマジンが生き残ってったのか」
「マ、マジン、いや、来ないでください。<聖……」
「まっ、待ってくれ。怪しいものじゃない」
草むらの中から聞こえたのは男性の声だった。どうやら、ひとまず人間のようだ。
「頼むから魔法は撃たないでくれよ」
「あの、どちら様でですか」
「ああ、すまない。王国第一騎士団の副団長をやっているカールという者だ」
「なぜ、王都の騎士団の方がこんなところに」
安心していて失念していたが、メビウスの言う通りだ。王都とここでは距離が離れすぎているし、この村の事件が外に伝わっているとは思えない。
「実は麓に王国軍の演習場があるんだよ。そこで数日前から訓練をしていてな。それで、そのときにふもとの村の住民が、最近ここの村の人を見かけないと言うので調査に来たんだ。そこで、君たちに会ったというわけだ。それで、いったい何があったんだ。村は壊滅していたが」
「む、村……。お母さん、お父さん……あっ……うっ……」
いろいろと思い出してしまったせいか、セーラがいきなり倒れた。慌てて駆け寄って、支えてやる。
「セーラ……」
「うっ……うう……」
「………少し熱があるな」
「すいませんカールさん。話は後にしてください」
「もちろんだ。麓の訓練場に医務室がある。そこまで連れて行って、彼女を休ませよう」
カールさんの案内の元、訓練場にたどり着いた俺達はすぐに治療術師の先生にセーラを診てもらうことができた。先生によると疲労と精神的なショックが原因だろうということで、しばらくセーラを休ませてもらうことにした。
「すまないね。お疲れのところ、こんなところに呼び出して」
「いえ、僕たちは全然」
「まあ、セーラも休ませてもらってるしな」
「そうか、ありがとう。……では、本題に入らせていただこうか」
セーラを休ませた後、俺とメビウスは騎士団長の下に連れていかれた。何でも村で何が起こったのかを聞きたいということだが、それにしては警戒が厳しい気がする。本来、このような聴取など団長が出張る場面ではないしな。
まあ、セーラの安全のためにも引き受けるけど。
「それで、いったい何があったんだい」
「マジンと名乗るものが村を襲撃したんです」
「魔人、だと」
「ご存じなんですか」
「ああ、最近王国中で魔人と名乗るものによって破壊行為が繰り返されているんだよ」
「そんな風にのんびりしている場合じゃないぞ。カール、今すぐ討伐隊を組め。絶対に逃がすな」
「は、はい。すぐに」
一気に空気が変わり、大騒ぎになりそうだったので、とっさにカールさんを止める。
「落ち着いてください。もう、マジン……魔人は僕たちが全体討伐しましたから」
「君たちがか」
「はい。なんならマーリスが上級魔術の連射でもお見せしますが」
「なんで、俺なんだよ」
「攻撃魔術はお前が専門だろ」
「ま、まあ、そうだけどさあ」
と、二人で無駄話の体になったところで騎士団長が割って入る、
「そうか……分かった、信じよう。本当なんだな」
「はい」
「嘘つくメリットがねーよ」
「そうか………。それなら君たち、王都に来る気はないか。村が全滅したというのは分かった。それを考えての提案なんだが」
騎士団長さんが申し訳なさそうな顔をして言った提案だが、普通に考えて俺たちにデメリットはない。むしろ帰る家を失った俺たちにとってはメリットだらけともいえる。なので当然のように即答した。
「分かった。俺はそれでいい」
「いいですけど、最低限の生活の援助を受けさせてください。僕たちは未成年ですから。そのかわり、王国のためにできることはしますよ」
この時、メビウスは間違いなく俺たちが王国に使われることを予想していたのだろう。だからこそ、このような取引を吹っ掛けたのだろうが。まあ、後で考えると王国騎士団が出るほどの厄災を三人で片づけたのだから当たり前だとは思う。
「分かった。それぐらいなら上と掛け合ってみよう」
「なら、僕も了承します。後、セーラにも相談する時間をください」
「ああ。王都への出発はいつでもいいから。きっちりと話し合ってくれ」
その後、目を覚ましたセーラにそのことを相談したのだが、少し大変だった。
「……という訳なんだけど、セーラも王都に行く気はあるかな」
「行かなかったらどうなるの」
「うーん、近くの孤児院とかかな」
「……私は足手まといなの」
「いや、そう言う訳じゃあ……ゴメン、言い方が悪かったね」
そう言いながら、セーラは泣いていた。思えば、聞くまでもなかったかもじれない。彼女にとっての知り合いはもはや俺たちしかいないのだから」
「……私を置いていかないで」
「うん、わかってるよ」
「ああ、ひどいこと言って悪かったな」
「……いっしょにいてもいいの」
「「ああ、いっしょに行くぞ|(行こう)」」
そう言って、ホッとしたのかまた泣き出してしまったセーラを慰めるのに苦労した。……というか気が付いたら三人とも寝ていた。
そうして次の日の朝、魔人討伐の報告をする兵士たちとともに俺たちは王都へと旅立った。
場をしんみりとした空気が包んでいた。
「……師匠、こんな過去があったんですね」
「ああ、思い出したくもないがね」
「すいません、思い出させて」
「良いと思うわよ。この人も整理するきっかけが欲しかったでしょうし」
「そうですか……。そういえば、メビウスさんは今はどこにいるんですか」
そう聞いた瞬間、二人が苦々しい顔をした。
「……なんか、お亡くなりになったという感じでもなさそうですけど」
「うん、まあしいて言うなら行方不明かな」
「行方不明。でも次元間の情報を使って探せるんじゃ」
「それがねえ……探せる場所にいないみたいなのよねえ」
訳が分からない。この世界の全ての情報は紛れもなく次元間にあるはずだ。ただの村人の情報ならまだしも七賢者とまで呼ばれた人間のパーソナルデータが全く得られない訳がない。そこから探れば居場所程度の情報はすぐに見つかるはずなんだが……
「分からないって顔してるね。まあ、最後まで話を聞きなさい」
「じゃあ、お聞きします」
「ああ。……じゃあ続きを話そうか」
そう言って師匠は王都についてからの話を語り始めた。
「……王都に着いた私たちは、まず国王と謁見することになった……」
王都では意外なほどに歓迎された。特に、国王様の対応はとってもフレンドリーで、こっちが困惑するほどだった。
「余がルーテミア王国国王、ルーテミア七世である。三人とも、顔を上げて良いぞ」
「「「は、はいっ」」」
「ふむ、君たちが魔人を討伐した子供たちか」
「はい……」
「本当に若いな。確か10歳だったか」
「はい……」
「うむ、若き賢者殿達か。……おぬしら、緊張しておるのか」
緊張しすぎて、ほとんど内容は覚えていなかった。だが、国王様が俺達を呼んだ呼び方が民衆に浸透し、町の人からも「賢者様ー」と呼ばれるようになるとは全く予想がつかなかった。
イレギュラーな出来事はそれぐらいで、王都での生活は割と快適だった。王宮筆頭の魔導士隊が俺たちの指導に当たってくれたし、王城や王立図書館にも出入り自由だった。それに、魔物の討伐などでの収入もあったので3人での生活は割と楽だった。
やけに待遇がいいなと思っていたら、後で顔なじみになった魔導士隊の人から魔人討伐の戦力として王国が当てにしているからだと聞かされた。後で、国王からも同じようなことを言われたが、そのおかげで多くの特権には引け目を感じなくなったので逆に良かった。
このころすでに、王宮筆頭魔導士よりも俺たちの魔力や魔法のレパートリーははるかに多かったが、まだ子供だった自分たちには、いろいろと助かった面も多かった。
そうして俺たちの王都での生活はあっという間に5年が過ぎた。
「マーリス君。掃除終わったけど、部屋に戻る?」
「いや、ここでそのままこれ読んでるよ」
「分かった。メビウス君はどうするの」
「僕もこのまま新術式の記述を続けさせてもらおうかな」
「了解。じゃあお茶でも入れてくるね」
俺達は自分たちの稼ぎで購入したそれなりの規模の屋敷のリビングでくつろいでいた。せっかく広い家を買ったのについついみんなで集まってしまうのはもったいない気もしたけど。
「そういえば、魔人の襲撃事件、最近減ったよねえ」
「確かにそうだね」
「この周辺のは駆逐しつくしたんじゃねえのか」
「あるいは、一か所に集まってるのかも」
「セーラ、それシャレにならないから」
メビウスが茶飲み話中にセーラが言い出した発言を制止した。まあ、そりゃするわな。
「ごめんごめん。まあ確かにそうだね」
「集まっているというのは、その上位の存在である魔王や魔神がいるってことだよ。いくらなんでも不謹慎だから止めておこうね」
「だな」
「もう、二人そろって責めないでよ」
この5年間で俺達3人の心の傷は少しずつ塞がっていたようだ。きっと数年前ならこんな不謹慎なネタで笑うことなどなかっただろうし。
「まったく、ほんとに来たらどうするんだよ」
「もちろん倒すに決まってるだろうが」
「ハハハ、確かにそう……」
「賢者の皆様、ご在宅でしょうか」
そうやって笑いあっていたタイミングで外から見知った声が聞こえた。
「はい、いますよ。ああ、今開けますね」
「メビウス君か。雑で悪いがこの場で話を聞いてくれ」
「どうしたんだよカールのおっさん、そんなに慌てて」
外にはいつもの鎧を着た騎士団副団長のカールさんが立っていた。しかも相当慌ててきたようで全身汗だくである。
「実は……」
「まさか魔王が出たとか」
「……せ、正解です。な、なぜ分かったんですか」
「マジでか。勘って当たるものなんだなあ」
「あ、当てた理由は今はどうでもいいのです。大至急、王城にお越しください」
「分かってるよ。よし、みんな行こうぜ……セーラ、どうした」
そうして声をかけようと後ろを振り向くと、セーラが顔面蒼白で座っていた。
「ど、どうしよう。私があんなこと言ったせいで」
「大丈夫、絶対に偶然だから」
「ああ、それに仮にそうだったとしても、倒せば問題ないだろ」
「うん、そう、だね。……頑張ろうね、いっしょに」
セーラがそう言って、顔を上げると俺は即座に魔力を練り始めた。
「じゃあ、カールさん。僕たちは転移で王城に向かいますから」
「ああ、分かった。私はこのまま戦場にむかう」
「分かりました、気を付けて下さいね」
「よし、じゃあ行くぞ…<転移>」
王城の正門前に転移した俺たちは、門番を顔パスでくぐり抜けて王城へと飛びこんだ。
読み続けてくださればうれしいです。
二話目は二時間後です。




