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異世界でも貴女と研究だけを愛する  作者: 香宮 浩幸
第九章 つかの間の平穏と来訪者
222/253

賢者編 セーラside ~楽しいデートで終われない~

一週間と一日と一時間遅れです。誠に申し訳ございません。

そして、賢者編ですが、短めですがもう一話続きます。

「おっ、あっちの方からいい匂いがする」

「本当だ……よさげな店があったら、そこでお昼かな、今日は」

「俺としてはセーラとメビウスがいる時点で、その選択肢しかないな」

「レパートリーに加えろってこと……あんまり凝ったのは一朝一夕じゃ無理だよ?」

「別に凝った料理の店じゃなくてもいいんだが……」

「えっ。せっかく普段食べられない料理のお店に行くなら、凝った料理がいいな」

「セーラがそう言うなら、そうするか」


ただ市に行くだけなのに、ちょっとした騒ぎになっちゃった。そんな七賢者達らしい出来事の後で訪れた異国市は、人生で見たことがないほどの人で溢れていた。


「スリフちゃん、大丈夫かな?」

「魔物の死骸の中で、キラキラした目で素材集めてる子が、人混み苦手って……人の精神って不思議だな」

「人に好き嫌いがあるなんて普通だよ。マーリス君、そういうこと言ってると嫌いになるよ」

「悪い、悪い……普段の様子見てると、そんな風には見えないから、色々思うことがあるだけだ。スリフちゃんをああしたのが、どんな奴らなのか、ってな……」

「……マーリス君って、本当に優しいね」


マーリス君は本当に優しい。言動は粗暴だけど、自分のことより他人を優先する、どんな人にも親身になってしまう、そんな私が知ってる中では人に一番優しい人だ。だから、私はこの人が好き。


「優しい?それとは正反対じゃないかな、とかってメビウスあたりから皮肉が飛んできそうだが?」

「さすがのメビウス君でも、それは言わない……と、思うけど」

「セーラも自信なさそうじゃねえかよ」

「うう……とにかく、今日はせっかくのお出かけなんだし、彼女の私をしっかり見てほしいかな?」


リリアちゃんの服選びにはラニアさんと二人で全力を出したけれど、元々私が言い出したおでかけなのだから、自分の服だって全力で選んでいる。お気に入りのスカート丈の短い青いワンピースに、白のセーター、秋らしい帽子を合わせて、普段はしない三つ編みもしてみた。

ラニアさんお墨付きの自信作なので、恋人にはどうせなら褒められたい。


「……ああ、似合ってる」

「それだけ?」

「……可愛いよ」

「……ありがとう」

「……マーリス、セーラ」


言わせた私も、言ったマーリス君も真っ赤になっていると、後ろからメビウス君の声が聞こえた。振り返ると、気づかないうちにずいぶんと離れていたみたいだ。


「メビウス、呼んだか?」

「……スリフちゃんと、そこの露店見てくるから」

「わかった……って、これこの後合流できなくないか……消えた」

「……本当にすごい人混みだね」

「どうする?本当にこのまま離れたら合流できないし、追いかけるか?」

「……ううん、いいかな」

「どうして?スリフちゃんも外になれてないし、まとまって動いた方が……」

「メビウス君がついてるし、何よりスリフちゃんは今の様子だと頼りないけど、七賢者の第三位だよ?少なくともマーリス君が心配するような危険とは程遠いでしょ」

「それもそうか……」


マーリス君と自分に、ほんの少し嘘をついた。今の意見も本心ではあるのだけど、何よりできればメビウス君とスリフちゃんとはいたくなかった。


メビウス君からの好意なんてずっと気づいてる。マーリス君もメビウス君もわかりやすすぎるから。でも私がマーリス君に告白したら、メビウス君は当たり前のように身を引いた。そうして、それからずっと幼馴染として傍にいてくれてる。


スリフちゃんはメビウス君のことがたぶん好きだ。同時にメビウス君の感情にも気がついてる。相手が八歳だからとか関係ない。全部分かっていて、メビウス君をはっきりと振ることのできない私は卑怯だ。


「セーラ、どうかしたか?」

「ううん。ちょっと心配だっただけ」

「そうか。まあ、もう追いつけないし、いつまでも悩んでても仕方ないし……デートするか」

「……うん」


でも今の状況を壊したくない卑怯な私はまた一つ嘘をついて、手を引かれるままに異国市を歩き始めた。


「で、何から見たい?」

「うーん、やっぱり異国装束かな?」

「つまり服だろ。いいよ、行こう」

「行こうって、場所のあてはあるの?」

「勘だけどな。あの辺りじゃないか」


遠目で、色とりどりの屋根が広がっている様子が見えた。<遠隔視リモートアイ>で様子を見ると、確かに衣服を扱った露店が多く並んでいるようだった。


「マーリス君、あのあたりであってそうだよ」

「そうか。じゃあ、このまま行こうか」

「うん……というか、すごい勘だね」

「だろ。まあ、運が良かっただけだよ」

「そういうの含めて勘だと思うけど」


進むにつれて人混みの女性比率が上がってきた。露店が並んでいるエリアに来た頃には、周囲の男性の数は数えるほどになっていた。その様子に少し居心地悪そうにしはじめたマーリス君の手を強く掴み直して、私は改めて周囲を見回した。


「王都の有名店の名前も結構あるね」

「へー。俺には全然分からないけど」

「マーリス君。興味がないなら全部覚えられないのは仕方ないとしても、あの辺りの店は王都で知らない人がいないくらいの店だからね?」

「興味がないことだと、とたんに記憶力が悪くなるからな、俺」

「少しくらい覚えようとして欲しいかな?」

「別に覚えなくても、メビウスが横からいらないレベルで知識を提供してくれるし、必要なことはセーラが教えてくれるから問題ないだろ」


メビウス君は……何でも知ってるから少し例外かも知れないけれど、自分の興味のある話題に詳しい男の子は趣味が合うってことだし、悪くない。でも……


「まあ覚える気はないけど、セーラが楽しそうに喋ってるのを聞くのは好きだぞ」

「素でそういうのを言っちゃうのがマーリス君だよね……」

「どういう意味だよ?」

「やっぱりマーリス君が好きだなって話」

「なっ……」


……こんな風に言ってくれて、実際どれだけ興味のない話も、ちゃんと聞いてくれるマーリス君が好き。


「……こんな公衆の面前でいきなり告白するなよ」

「言いたくなったんだもの、いいでしょ。ほら、行こう」

「うわっ……と、この辺り見ていかないでいいのか?」

「この辺りの店は、普通に異国市じゃなくても見に行けるから。言ったでしょう異国装束が見に行きたいって」


遠目に見えるルーテミアでは見ないようない装束の店に向かって私は力強く歩き出した。遠い異国への憧れと、大好きな人の隣にいる嬉しさで早まる鼓動が、なんだかフワフワとした気持ちを感じさせた。




「大満足♪」

「セーラが満足そうでよかったよ……<変異空間イリュージョンルーム>がなかったら、荷物の重さに辟易してたな」

「便利な魔術だよね。あれだけ服を色々と買ったのに、手荷物が全く増えてない」

「あんなに着るのかよ……」

「説明聞いてなかったの。南方民族の衣装は、山岳地帯での激しい寒暖差に耐えるために重ね着をするもの。で、東方の服は元々、夏の衣装を冬でも着れるように重ね着が可能な構造になってるの。つまり複数枚で一着の構造なのよ」

「……でも、セーラが着れそうにない小さい衣装も買ってなかったか?」

「スリフちゃん用よ」

「そうかよ……」


異国の様々な衣装を見て歩いて、試着して、購入して……連れ回してしまったマーリス君は少し疲れた顔をしていたけれど、すごく楽しかった。すっかり満喫した私は、マーリス君とレストランのテラス席に座っていた。


「そういえば異国料理を楽しみたいって言ってたけど、ここって普通のレストランじゃないのか?」

「普段はね。でも、さっき東国服のお店で教えてもらったんだけど、異国市の期間は東国の料理人が来てて、東国料理が食べられるんだって」

「なるほどな。注文はどうするんだ?」

「東国料理の方はコース限定なんだって。結構いいお値段だったけど、入るときに二人ともコースでって言ってきちゃった……いいよね?」

「ダメって言うわけないだろう」


色んな異国風料理を食べ歩くのもいいかなとは思ったのだけれど、少し人の多さに辟易していたし……何よりこっちの方がデートっぽいと思ったから。


「コースのメニューは?」

「一品目と一緒にお持ちしますって」

「そうか。楽しみだな」

「だね」


そんな和やかな空気で会話をしていたときだった、通りの方が俄に騒がしくなってきた。そして、甲高い女の子の声が聞こえた。


「やめて」

「だから別に出すもん出せば、何もしねえよ……あっ?」


その女の子の声が見知った声な気がした私は、席を立ってテラスの通り側に駆け寄る。声の方向を見ると、やはり見覚えのある姿が見えた。その瞬間、私の隣でローブが翻った……




―――五分前 ―――


「メビウス……」

「うん」

「美味しいです、これ……味わったことのないタイプの甘味ですけど、すごく美味しいです」

「それはよかった……でも、そんなに食べられるの?」

「魔術を使うのには頭を使いますから糖分は必要です」

「そうかい……」


魔道具を扱う怪しげな通りを抜けて、メビウスの勘の赴くまま人通りがそれほど多くない通りを抜けて行った先。大通りのすぐそばの小さな東国の菓子を扱うお店。そこで東国茶と、メニューの全ての東国菓子を注文した私は、テーブルの上のお菓子に舌鼓を打っていました。


「メビウスも、好きにとってもらっていいですよ?」

「じゃあ、少しだけ」

「あんまり甘い物好きじゃなかったですっけ?」

「いや、そんなことはないよ……ん、確かにこの甘さは珍しい。なんだろうな、砂糖と豆かな……」

「この皮ってなにでできてるんですかね……」

「たぶん何かの穀物粉を蒸したものかな?うーん、異国の料理って面白いな」


メビウスもメビウスで、料理を眺めて楽しんでいるようでよかったです。やっぱり二人っきりに……いえ、マーリスとセーラと別れて正解でしたかね。


「私は足りなくなったら追加注文しますから、遠慮なく食べてくださいね」

「うん。でも、僕はスーが美味しそうに食べてる姿を見てる方がいいかな……」

「……あの、メビウス、食べにくくなるんですけど?」

「ふふふ……それより、お兄ちゃん呼びじゃなくていいの?」

「……今は、メビウスって呼びたいんです」

「よう、お二人さん、少しいいかい?」


呼びかけられる声に顔を上げると、周囲を物騒な男達に囲まれていました。メビウスも一緒だからと少し気を抜きました。索敵魔術くらいは常時展開しておけば……


「見たところ、貴族出身の魔術師の兄妹ってところか?」

「……」

「それで、何でしょうか?」

「いや、何……ちょっとお兄さん達に色々とお裾分けしてくれねえかな、と思ってな。なあに身ぐるみ剥いだりはしねえよ」

「王都の人間じゃなさそうですね」

「ああ、商隊護衛で北方から来たんだが、若干懐が寂しくてな。ちょいと小金稼ぎだよ」

「相手にする人間を間違えたな……スリフちゃん?」

「……」

「お兄ちゃんは血気盛んだが、妹さんは怖くて声も出ねえみたいだな。ほら、この距離で魔術師に何もできねえだろ、出すもん出してくれりゃさっさと消えるからよ。それとも嬢ちゃんは他の出すもの出して……」

「……やめて」

「あん?」


あの日の情景が蘇る……


「やめて……」

「スリフちゃん……落ち着いて……」

「やめて」

「だから別に出すもん出せば、何もしねえよ……あっ?」


怖くて仕方なくって、私は自分だけの世界に閉じこもるために、魔術を使った。

次回投稿は2時間後9月19日0:00を予定しております。

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