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異世界でも貴女と研究だけを愛する  作者: 香宮 浩幸
第九章 つかの間の平穏と来訪者
215/253

次元層間量子情報に関する基本定義

湊崎 雅也, 洲川 水輝

Basic Definition of Inter-Dimensional Quantum Information

Masaya Sozaki, Mizuki Sugawa

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

西南大学大学院物理学研究科

Graduate School of Physical Sciences, Seinan University

フィールダー伯爵邸書斎


「湊崎先生、質問です」

「水輝君、何かな?」

「……次元層の狭間の量子データって何なんですか?」

「それは俺らの研究命題だろう。即答できるなら研究なんて止めてる」

「そんなことは分かっています。魔術の存在を踏まえた上での再定義をしようかと思ったんですが、せっかくなら理論提唱者の湊崎先生に解説していただこうかと」

「今のお前なら、もはやこの分野に関しては俺以上の第一人者だろうに……」

「魔術に関しての話まで踏まえたら、先生以上の専門家だとは口が裂けても言えませんよ」

「わかった、わかった……で、どこからまとめればいい」

「一般的に言う次元との相関性を含めたところから、お願いします」



「初歩の初歩からか……とりあえず水輝君、まずは次元層の狭間について説明して」

「次元層の狭間。湊崎雅也先生が提唱した名称であり、僕らの世界で一般的に言うなら"虚無の空間"。宇宙背景放射の外である空間のことです」

「ああ。物理学的に次元と言われる空間定義とは異なる言葉だ。昔の俺が、同一の名称があるにもか変わらず、勢いで命名したのは反省点だな」

「はい。物理学でいう次元という空間の象限的な話とは異なった空間。一言で言うなら既存物理学の法則性を無視した特異点的空間であると言えます」



「空間理解としてはその通りだ。では、その空間中にある構成物は」

「大別すると二種類。一つは前世の物理学で扱ってきたような物質、人が触れることが可能な……という定義を付けると、この世界だと間違いになるんでしたっけ?」

「この世界では空間壁の扱いが前世と異なるからな。まあ、空間壁の話は後にしよう」

「はい。空間中の構成物は物理学で定義するような物質と、量子データを構成する高エネルギー物質の二種類です」

「ああ、あってる。俺達の理論で定義している次元層の狭間は、基本的に後者の量子データを構成する物質の密度が非常に高く、純粋なエネルギーに近い状態と、量子データの形を取っている物質に大別される。前者の一般的な物質の方は、後者のエネルギー密度との比較により、一箇所に集約され、個々の宇宙、物理法則の支配する物質空間を形成する」



「正直、未だに物理学の法則の外にある世界、というのが信じられませんけどね」

「観測してしまった上に、俺なんか目視確認してるからな。次は、量子データを構成する高エネルギー物質についてだ」

「結論から言うと、よくわかりません」

「専門家だからこそ、言い切れる話だな。同意見だ」

「前世で観測される物質とは桁違いの高エネルギーを持っており、生成原理も不明。また、集積するとデータの構造となり、それを適切な形で物質世界に展開すると、その事象を物質世界で実行可能。意味が分かりません」

「魔術みたいな面倒なことしなくても、文字通りエネルギー体を直接操作しての爆弾として使っても、星一つくらいなら消し飛ばせるからな。まあ、エネルギー体そのものを変質させることが不可能に等しいから、実用化できそうになくて良かったよ」



「えっ、でも魔術って量子データ、つまり魔力情報や魔力を変質させていませんか?」

「変質はさせてないよ。魔術は量子データを元に、高エネルギー体である魔力を用いて、それより低位のエネルギー体である物質を変換する操作だ」

「でも、確か前に負の魔力を、正の魔力に変換するみたいな魔術があるって言ってませんでしたか?」

「それは、魔力の付加要素の話だな。この場で言う変質させるっていうのは鉄を金に変えるみたいな話だからな」

「どう違うんですか?」

「魔力の付加要素というといくつかあるんだが、一つはわかりやすく属性だ。属性というのは魔力情報の構成形式の違いによる差異だ。人によって、自身の保有する魔力の構造によって、引き寄せられる魔力の適性が変わるっていう話だな。これは物質の構成の話だから、データとして引き出す以外に利用しない以上、変質の話とは関わらない」

「それはわかってます」

「ああ。で、正の魔力、負の魔力っていうのは物質の反物質みたいな話じゃない。正確に言うとそれに相当する粒子の生成は可能だから、先の懸念はあながち間違ってないけど、前世の半陽子生成みたいにとんでもないエネルギーを必要とするから、コスパが悪すぎて実用化の意味がない」

「いや、魔術なら保存を考えず、生成さえできれば行使できますから、対策はいるのでは?」

「あのなあ。もっと少ないエネルギーで、魔力使って天災起こす方が効率いいだろ」

「確かに」

「正の魔力、負の魔力については……うん、一度休憩としようか」

「雅也、水輝、お茶入れたんだけど、そろそろ議論は終わった?」

「水輝さん、湊崎先生。クッキーを焼いたので、休憩にしませんか」

「雅也義兄、気づいてたの?」

「詩帆がタイミング伺ってたのに俺が気づかないわけないだろう」

「……えっ、これ量子データと魔力の関係議論してました?」

「してたな」

「水輝さん、呼んでくださいよ!」

「えっ、聞きたかった?」

「当たり前じゃないですか!湊崎先生と、洲川教授、この分野の2トップの対談ですよ!」

「悪かったって」

「水輝さん、酷い……えっ、もう終わっちゃいました?」

「終わってないよ。休憩終わりから参加する?」

「勿論です!」

「とりあえず休憩しましょう。あっ、私は頭が痛くなりそうだからパスするわ」

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