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異世界でも貴女と研究だけを愛する  作者: 香宮 浩幸
第九章 つかの間の平穏と来訪者
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第百五十二話 魔術省副大臣後任者

投稿が二日遅れました。急がしかった上に筆が中々進みませんでした。


カップルのイチャイチャ話ならスラスラ書けるんですけどね。


明けて翌日。俺は魔術省に行く前に王城の謁見の間を訪れていた。


「フィールダー伯爵、まずは復調おめでとう」

「陛下にお言葉いただき、恐悦至極です」

「誰にも知られず世界を救った英雄の一人だ。私一人の言葉ではむしろ足りんだろう」

「もったいないお言葉です」


俺が立つ正面の玉座に座っているのはレオン・アドルフ・ルーテミア今生陛下だ。そしてその両脇に立っているのが国王の側近、宰相ハリー・ハイドリー・フォン・ローレンス伯爵と、騎士団長のジャンヌ・シルフィード卿……つまりだ。


「そろそろ茶番は終わりでいいか?」

「たまには形を整えるのも必要だろう、クライス?」


いつものメンバーであり、俺とレオンは場所は場所だがタメ口でも問題なかった訳だが、レオンの遊びに付き合わされ、儀礼的な挨拶を装ったやりとりをしていた。


「さて、やはり儀礼と立場に則って話すのは面倒だな」

「だったら最初からこのメンバーなら、速度優先してくれ。魔術省に行ったら俺の仕事は山積みなんだ」

「分かっている。さてと、一応ユーフィリア嬢やマーリス殿、後は絶対安静だったお前からも聞いてはいるが改めて魔神討伐の顛末について聞かせてくれ」

「まあ、それがメインだよな」


俺の寝室にもこの一ヶ月でレオンは何度か訪れている。その時に、復調したら一度顔を見せろとは言われていたし、ことの顛末について再度俺の口から聞きたいとも言っていたので、既に話す内容はまとめてきている。


「魔神に関しては完全に消滅させた。やった当人である俺は勿論、師匠やセーラさんも魔神の存在が消滅したことを確認している」

「魔神を討伐した方法と、お前が消滅させたという根拠は?」

「魔神は相当のダメージを負い、魔力空間に逃亡した。それを追って対魔神用魔術<世界崩壊ワールドエンド>を用いて魔神の負の魔力を通常の魔力に分解することで消滅させた。俺としては負の魔力残渣がなくなるまで術式を継続させたことが消滅したと判断した根拠で、師匠達は魔力空間の魔力情報を全て精査した結果、魔神の存在の消滅を確認してる」

「まあ、以前聞いた通りか」

「ああ」


魔神との戦闘が終わって王都に帰還したときにも、ほぼ同様の説明が師匠からなされているはずだ。ちなみにその時の俺は、ちょうどテディベア手術の真っ最中だったので会ってはいない。なので俺がどうしたかを説明したのはその一週間後くらい、ようやくベッドの上で起き上がれるようになった頃だったけど。


「改めて、クライス、お疲れ様。そしておかえり」

「おかえりは詩帆に言われたからもう十分だよ」

「別に言ってもいいだろうに……まあ、とにかく世界に危機を救ってくれたこと、感謝する」

「師匠達にも、な」

「もちろんだ。シルヴィア姫やディアミス王太子は滞在自体がグレーゾーンだから後々としても、マーリス殿とセーラ殿にはきっちり褒賞も考えている」

「貴族位とかじゃないよな?」

「今の王国制度的には、それが一番無難だし、楽なんだが……まあ、あの二人は嫌がるだろう」

「かと言って、財貨は無駄だろうし、どうするんだ?」

「二人に欲しいものを聞いた」


師匠とセーラさんがほしがるもの……何だろう?


「今後、超越級魔術の行使方法を広めることに協力して欲しいというのが一つ。もう一つは国の戦力としては賢者殿達を使わないこと。その二点の確約を求められた」

「それって褒美じゃない気がするんだが?」

「ああ。だから色々と別の形で用意したよ」

「別の形?」

「王都内の平民街の一等地、それから王立魔術学院の研究室と講師の椅子」

「住居と職場か。確かに、それなら褒美になるな」


王都内の一等地。おそらくレオンが懇意にしているあの不動産屋の管理している住宅だろう。そして王立機関の雇用先、確かに千年間半分幽霊のようだった師匠達に与える褒美として居場所と身分は最適だろう。


「でも王立魔術学院なら管理は魔術省だろう?俺は何も聞かされてないんだが」

「その辺りは副大臣が処理したよ。詳しくは後で副大臣に聞いてくれ」

「ああ……そういえば、俺への褒美は?」

「王国を守るのは臣下の義務だろう?」

「そうだな……」

「冗談だ。お前にはものでなく、権利を与えようと思っている」

「権利?」


権利と言ってもこれといったものが思い当たらない。家もあるし、研究室なら学院の卒業さえすれば特待生の俺は必要なら一室、研究室がもらえるし……貴族位とかか、あるいは王立図書館関係かな?


「ああ。三つほど用意した。まあ、既にユーフィリア嬢に伝えてあるから、帰ったら聞いてくれ」

「なんで俺に対する褒美の話を俺が今聞けないんだろうな……」

「その方が面白いからだ」

「お前なあ……まあ、いいや。褒賞なら悪いことにはならないだろうし」

「ああ。さて、本題に入ろうか」


ニヤニヤと笑っていたレオンが顔を引き締めたのを見て、俺も思考を切り替えた。


「まずは例の件だ」

「ハリー、報告を頼む」

「フィールダー大臣にお伝えしておかなければならないとは山ほどあるんですが、魔術省関連のことは後ほど省の方でスクウィード子爵とアディウス士爵におまかせします」

「山ほど……それで、ローレンス宰相からお伝えしておきたいことは」

「三点ですね。一つ目は教会庁の件です。詳細は後ほど確認していただいた方がいいかと思いますが、魔術省主導で教会の内部調査を行い、教会暗部組織の摘発と解体を行いました」

「……首謀者は?」

「軍務省、私の直属で追加調査を入れましたが……暗部の独断専行だったということしか。その命令を出した司教に関しては判明しましたが、解体された暗部も含めてトカゲの尻尾切りでしょうね」


千年以上続く教会暗部、おそらく現教皇も最低でも把握はしている可能性が濃厚だが、その尻尾はつかませてくれなかったか。


「確認した関係者、指導者に関しては処罰はすんでいます」

「また同様の行為を起こす可能性がある以上、俺としては完全解体したいところですが……難しそうですね」

「ああ。手は尽くしたが、俺の情報網でもその先はつかめなかった」

「リリアの安寧のためにも、全て潰したかったけど、まあ王国の情報網と捜査網の全力で分からないなら……尻尾を出させる方法を何か考えるだけだ」

「それについてはまた後日だな」

「ええ。続けて二点目は……」


一ヶ月の間に俺が聞いていなかった連絡事項の伝達は、そのまま一時間ほど続いた……






「で、このまま仕事か……」


王城を出て、魔術省内の通路を歩く俺は、そんな愚痴を吐いていた。


「そもそも、この一ヶ月で起こった事象、面倒な案件多過ぎなんだよな。その上で魔術省の仕事もあるとか……一番嫌な一ヶ月に魔神も出てきてくれたもんだよ、本当に」


その後聞かされた二点は閣僚会議でのみ認識されているもので……まあ、できることなら面倒そうだし見ないことにしておきたい案件だった。


「まあ、前世と違って見て見ぬふりはできないんだが」


前世でなら、無視できた。俺は一介の科学者で、自分の研究倫理だけは守り通したが、それ以外の行動原理は自分の研究と詩帆以外はどうでもいい、だ。

もちろん、出会って世話になった人たちくらいは俺の研究に起因する迷惑が被らないようにして……いや、とある二組のカップルには全部押しつけたけど。


「でも、面倒なことに今はルーテミア王国の魔術省大臣、か……まあ、せっかく新たな人生だ。少しくらいは違った生き方をするのもいいし……」


色んな、面白い人たちに会った。新しい世界の家族もいる。そんな国を守りたいと思うのは……


「俺としては、若干違和感だけど、自然な感情だろう」


自分でもよく分からない感情を、そう言葉にして思考を仕事に切り替える。色々と考える間に魔術省大臣室についていた。


「さて、どれだけ仕事がたまってるのか……はあ、<座標転移トランスポート>が使えれば王城からこの部屋まで一瞬で飛べるのにな」


そう愚痴りながら、大臣室の重い扉を開けて中に入る。するとそこでは二人の人物が待っていた。


「フィールダー大臣、職務復帰おめでとうございます」

「フィールダー伯、お久しぶりです」

「ええっと、アディウス士爵は分かるんですが……なぜシェルビィア館長がここに?」


中にいたのは前副大臣で、今も魔術省内で多くの業務を抱えているアディウス士爵。そしてもう一人は以前王立図書館で出会ったシェルビア館長だった。


「会ったときにも言いましたが、館長職はあくまで出向先です。所属は魔術省魔術管理部でした」

「でした……ということは、あっ……スクウィード子爵」

「はい。この度、陛下より魔術省副大臣を任命されました、シェルビィア・フォン・スクウィードです。フィールダー大臣、今後ともよろしくお願いします」


そう言って、深く頭を下げるシェルビィアさんを見て、完全に納得がいった。これがスクウィード子爵の名前の見覚えのあった理由か。


「ええ、こちらこそよろしくお願いします」

「シェルビィア子爵は魔術省時代には、私が副大臣だったときの補佐を務めて頂きました。とても魔術の活用や平和利用に造詣の深い素晴らしい魔術師です」

「そこまで褒めて頂けるとは。士爵には、色々と教えて頂きました。感謝しています」

「陛下の御身を危険にさらした私に、こう言ってくださる方、とも言えます」


アディウス士爵の息子、レオンは王国にクーデターを起こし、レオンを殺害する一歩手前まで行った。本来なら一族郎等全員処刑でもおかしくはなかった。

しかし俺が口を挟んだことと、新政権樹立直後に処刑で前王のような残虐性を国民に植え付けたくないというレオンの思惑で、レウスの親族は爵位の降格や、王城の修繕費用に充てられる多額の賠償のみとなった。


だが、そうは言っても王制国家で国王暗殺を企てた人間の身内という状況に、省内でもアディウス士爵に冷たい目を向けるものも多い。


「背後事情は色々と把握していますよ。息子さんの行動は弁解の余地がないとは思いますが、あなたの教育が全て間違いだったとは思いません」

「……ありがとう。あなたに私の席を譲ることができて、本当に良かった」

「せっかく同じ魔術省で働けるようになったんです。最後にご指導ご鞭撻のほどお願いします……フィアニスさん」

「シェルビィア君……」

「泣かないでくださいよ。外ではあなたの立場もあるでしょうから、副大臣として動きますが、こんなときくらいはこれでいいでしょう。大臣は、そういったことは気にされませんよね?」

「ああ。というか、聞くまでもないだろう。調べているなら」

「それもそうですね。フィアニスさんの助命嘆願を最初に行ったのは大臣でしたね」

「そういうことだ」


情報収集能力、倫理観、人格……どれを取っても文句の付け所がない。アディウス士爵の補佐をしていたということは、仕事能力は申し分なさそうだ。そしてここまで上れるということは魔術の実力もかなりだろう。


「ひょっとして王立図書館に出向されてたのは?」

「まあ、次期副大臣はほぼ私に決まりかけていましたからね。亡き前大臣は厳格な方でしたから、それを遅らせてフィアニスさんの退任時に私がいなくなるよう図られたようですが……」

「結局、上手くはいかなかったと」

「ええ。まあ、このような形では無く自力で戻る手段も考えていたのですが……陛下と大臣のおかげで予定よりも早く省に戻れました」

「それは何よりです。今の王国に優秀な人材を遊ばせておく余裕はないですから」


戦争からの電撃的な王権委譲に、クーデターでルーテミア王国の目下最大の悩みは人材不足だ。前国王に関わっていた人間を処罰した結果、穴あきだらけになったポストを埋めるため、大混乱が生じている。ただ、その中でも大打撃を被った魔術省だったが、どうにかなりそうだ。


「スクウィード副大臣。あなたが来てくれて、とても心強いです。是非、私に力を貸してください」

「まだまだ未熟ですが、全身全霊を持って、職務にあたります」

「よろしくお願いします。もちろんアディウス士爵も、今後とも力を貸してください」

「首の皮一枚繋がった老骨ですが、こんな私にもやれることがあるのなら」


にこやかに握手をする俺とシェルヴィアさんを見ながら、アディウス士爵が微笑んでいる。そんな平和な光景は、シェルビィアさん……いや、スクウィード副大臣の一言で破れた。


「では、そろそろ貯まっていた業務を進めましょうか、大臣」

「ああ」

「それから大臣がいなかった間の懸案事項の中で優先度の高いものの処理を……」



その日、深夜まで業務をして帰った俺は帰った瞬間、詩帆に本気で怒られることになった。だがその後、魔術省は業務改革を続け、全省庁の中で最も優秀な人材が集まる、とまで言われるようになるのだが激務に追われる俺たちにはどうでもいいことだった。

何とか帳尻を合わせるよう善処します(9月16日午前二時半過ぎ)

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