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異世界でも貴女と研究だけを愛する  作者: 香宮 浩幸
第八章 魔神討伐戦編
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学園編 リリアside ~恋のおわりとはじまり~

無茶苦茶普通にお休みしてました。今日から更新再開します


お兄様が魔神を討伐してから一週間。王都は変わらず、何も知らず平和な時間が過ぎていました。


「誰も、お兄様達の死闘を知らない……これで、よかったんですよね」


王都内の話題は、先日のクーデターの後の人事のことや、この前までの紫色の空に関する様々な噂……それから先週動いていた軍の不穏な動きや、王都中央協会の崩壊の陰謀説。


「軍が動いたことは、空の色の変化での混乱を最小限に抑えるため……それが公式見解でしたか。それで多くの人は納得したみたいですね」


本当はもしもお兄様達が魔神を倒せなかったときのための保険。一秒でも長く盾となって、王都の市民を逃がすための最終手段だった。


「後、教会の件は確かに教会暗部の陰謀論ではあるんですが……壊したのは私ですからね」


教会暗部に連れ去られた私は……最終的に暴走して……


「全身の魔術回路をズタズタにして、つい一昨日までなんの役にも立てずに、家に引きこもっていたんですからね」


本当なら魔神討伐のその場には私もいるはずだった。この国の超越級魔術師の一人として、その場でお兄様や賢者様達を助けるはずだった。でも、魔術すらろくに使えなくなったあのときの私は大人しく待っているしかなかった。


「皆さん、無事でしたけど、傷だらけになって帰ってきて……お兄様なんて」


帰ってきたお兄様は、見た目にはかすり傷程度でしたが、体内は瀕死の重傷だったらしく、治療を施された後、今でもベッドで絶対安静を言い渡されています。


……私がいても、ほとんどの負傷は魔神との一騎打ちで負ったものだから、関係ないとお兄様は言ってくださいましたが……やっぱり、色々と考えてしまいますね。


「まあ、いまさら何を考えても仕方ないことですね……切り替えましょうか」


王都内の平和な喧噪の中で、色々なことを考えながら歩いていた私は気がつくと目的地にたどり着いていました。

悩みを頭の中から振り払って、私はその店の中に足を踏み入れました。


「いらっしゃい、リリアちゃん……魔術能力も少しは回復したようだね」

「お久しぶりです、レイスさん。セーラさんとユーフィリア義姉さまのおかげで、王都を一人で歩けるくらいには、なんとか」

「それは何よりだね。それで今日の用件は?」

「このローブの修繕をお願いしたくて」

「……ああ、先日の一件でか。少し見せてくれ」


魔術堂の店主、レイスさんに<変異空間イリュージョンルーム>から取り出したローブを渡す。かつてこの店で頂いた、とても希少なローブだ。


「ふむ……所々痛んでいるのと、袖の……これは魔力的な焼けだね」

「直りますか?」

「素材自体はあるからね。激しい破れもないし、焼けている部分もそんなに広範囲じゃないし……一時間半ほどもらえるかな」

「分かりました……修繕費は?」

「素材費だけを君のお兄さんに請求させてもらおう。この間、クライス君にはこの店の魔道具商としての認可を取る際に、便宜を図ってもらったからね」


魔術堂はその性質上、今の王国には正式な認可を取っていなかったそうで、そのあたりを誤魔化して営業許可と店舗登録をお兄様がすませたそうです。店の土地の維持や管理に下手な労力を使わなくてすむようになって助かったらしいですが……身内のためにポンポン職権乱用していいのでしょうか?私の件も、お兄様が事後処理の中で揉み消したと聞きましたし……


「……すみません、ありがとうございます」

「気にしないでくれ。後、君のお兄さんは法を掻い潜る真似はしても、倫理に背く真似はしないだろうから、そんなに心配しない方がいいと思うよ」

「そうなんですが……職権乱用で後が怖いと言いますか」

「それこそ心配無用だろう。今の彼を表立って批判できる存在などいないよ」

「それが余計に問題な気もしますが……」


一線を画した国家最強の魔術師で、魔術省大臣と王宮筆頭魔術師を兼任し、国王の友人であり、閣僚陣の中でも力を持つ宰相、財務相との関係性も良好なお兄様を批判するのは国を敵に回すことと大差はないでしょう。


先の戦乱や権力譲渡の際に、敵対勢力に対して恐怖と武功を見せつけていますし……本当に私のお兄様は


「お兄様が、遠くに行ってしまった気がします」

「王国の英優にして、世界を救った英雄か」

「はい……」


この王都で、魔神討伐のことを知っているのはあの場にいた6人を除くと、私、ソフィア先輩、陛下、宰相閣下、騎士団長、そしてレイスさんです。マーリスさん曰く、出立を知っていた面々はともかくレイスさんに話したのは、全ての過去を知っていて魔神に対する知識も深いレイスさんに隠す必要もないからだそうです。


「まあ、君の前ではただの妹好きの優しいお兄さんだろう」

「そう、なんですけどね」

「なら、それでいいと思うがね。まあ、全て終わったんだ。考える時間も悩む時間もたっぷりある」

「……そうですよね。終わったんですもんね」


そうなのだ。私達には時間がある。お兄様達が命がけで作り出してくださった未来がある。だから、今は……


「少し、のんびり日常を享受しようと思います」

「そうしなさい。では僕は裏で作業をしてくるから、もし客が来たら呼んでくれ。君の知り合いだったら見て回ってもらってかまわないから」

「分かりました」

「ああ。後、カウンター内のお茶は好きに淹れて飲んでくれ」

「お気遣いありがとうございます」


そのままローブを持ったレイスさんは店の奥に消えていった。とりあえずお言葉に甘えてお茶を淹れて、私はカウンター近くの椅子を一つ引き出してそこに腰掛けました。


「ふう。じゃあ、時間潰しに本でも読みましょうか」


変異空間イリュージョンルーム>をしばらく探って目当ての本を見つけた私は、入り口の方に注意を傾けながらページをめくり始めました。しかしこの魔術、使い勝手悪いですね。早くお兄様が改良した<亜空間倉庫ディメンジョンボックス>を使えるようになりたいところです……


「さてと、どこまで読んでいましたっけ、たしか栞が……」

「リリアちゃん、久しぶり」

「ソフィア先輩?なんでここに?」

「普通に散歩していたらリリアちゃんを見かけたから、様子を見に来たのよ」

「そうでしたか……とりあえず、隣にどうぞ」


自分の名前を呼ぶ声に顔を上げると、そこにはソフィア先輩が立っていました。隣の席に先輩が座ったところで、淹れていたお茶を二つのカップに入れます。


「ソフィア先輩、どうぞ」

「ありがとう……勝手に淹れてもいいの?」

「さっきレイスさんには許可は頂きましたよ」

「そう、それならありがたくいただくわ」


二人でお茶をすすって一息ついたところで先輩がおもむろに、口を開きました。


「それで、リリアちゃん。体の方は大丈夫なの?」

「お兄様と同じく過度な魔術の使用は禁止ですけど……王都内で自衛くらいは何とか」

「そう……」


魔神戦で全身を肉体的にも魔力的にも損傷したお兄様と同じく、私も<神罰バニッシュメント>を無理に行使した反動で、魔術回路に魔力を通すと擬似的な痛みを感じるようになっていました。

セーラさんが言うに、その状態で下手に魔力を流し続けると体内魔力がうまく保持できなくなり、最悪の場合死に至るそうです。

大規模な超越級魔術の行使は未だに負担が大きいので禁止されたものの、ひとまず模造魔術の中級までの行使は問題ないとのことで気分転換を兼ねて私はここに来ていたのでした。


「それで、クライス君は?」

「お兄様は……未だに……ユーフィリア義姉様とセーラさんに拘束されています」

「絶対安静ってことね」

「はい。息を吸うように魔力を流してしまって痛みに悶絶してる姿をよく見ます」

「ユフィもそのことを愚痴ってたわね」


私以上に重症のお兄様は、一週間ぐらいでは全然療養期間が足りないようで、あと二週間前後は魔術使用禁止の上での絶対安静で、超越級魔術の行使は一ヶ月は禁止だそうです。無茶ばかりするお兄様も、さすがに今回は動けないので大人しく安静にしているのが何よりです。


「それで、リリアちゃんは今日は何をしに来たの?」

「今日はローブの修繕に」

「そう……直りそう?」

「レイス先生が言うには、問題なく修繕できるようですよ」

「よかった……」

「あの、本当に先輩が気にする必要はないですからね。全員無事戻れたわけですし」

「気遣いありがとう……そうね、それでリリアちゃんに気を遣わせたら余計に悪いわね」


教会での監禁の際、一緒にいたソフィアさんには、私が暴走して……死にかけた原因の一端が自分にあると思っている節があるのだと思います。そんなことない、と言いたいのですが、でも、あの状況を考えると、私にはなんと言っていいか……


「あの、せん……」

「そうそうリリアちゃんに、聞きたいことがあったの」

「は、はい。なんでしょうか」

「見た?」

「な、何をですか???」


ソフィアさんの無表情な目と声に、私は先程までの思考を全て飛ばされて、動揺してしまいました。


「ええっと、何のことですか?」

「一週間前。ユフィがセーラさんと一緒に魔神のもとに向かった後よ」

「……わ、私はすぐに屋敷に戻りましたから、外でソフィア先輩が誰と何をしていても私は知りませんよ」

「……明らか見られてるわね」

「み、見てません……み、見なかったことにしました」


見てしまったんですよ。一度屋敷に戻ろうとした後、やっぱり心配になって様子を見に行ったら……ソフィア先輩とあの方が……その、抱擁してるのを。


「はあ……油断した。普段だったら絶対にあのタイミングであんなことしなかったのに」

「……ごめんなさい」

「いいのよ。あそこで注意しなかった私の方が悪いんだし」

「……」

「それで、相手まで分かった、わよね?」

「……ええっと、お茶淹れなおしますね……あっ」


重い空気に耐えられなくなった私は、席を立ってカウンターの裏に回りました。ですが少し焦っていた私は、カウンターに積まれていた本の山を崩してしまいました。


「リリアちゃん、大丈夫?」

「は、はい。崩れただけです」

「よかった。とりあえず積み直しましょう」

「はい……あれ、なんでしょう、これ?」

「写真、かしら?」

「ですね……魔術師の方、ですかね?」


崩れた山の間から出てきた写真立て。そこに入っていた写真には紺色のローブ姿の青年が写っていました。


「レイス先生の若い頃、っていうのは違うわね」

「ですね……でも、どこかで見覚えがあるのと、あと、私……」


その顔と雰囲気に、私は……なんと言いますか、ドキッとしてしまったと言いますか……端的に言うと、その……


「……タイプです、割と。というかお兄様に雰囲気が似てます」

「そう?クライス君より理知的で、モテ男って感じがするけど?」

「ソフィア先輩のタイプとは違うからじゃないですか?」

「……ねえ、やっぱり見てたわよね。後、そういうのじゃない……から」

「言い淀むのは怪しいですよ、先輩」

「うっ……リリアちゃん、このこと本当に口外しないでね?」

「分かってますよ、それぐらいは」

「大きい音がしたけど、大丈夫かい?」


ソフィア先輩と写真の男性について喋っていると、店の奥からレイスさんが出てきました。その片手には私のローブがありました。


「レイス先生、お邪魔しています」

「ソフィア嬢、いらっしゃいませ。それで、なにかあったのかい?」

「いえ、そこの本の山を崩してしまったので……すみません」

「ああ。そこの山はたまに崩れるんだ。片付けてなくてすまないね……あっ、メビウス様の写真、こんなところにあったのか」

「メビウス様……七賢者のですか?」

「ああ。創設者がメビウス様だという話はしただろう。その当時の写真なら何枚か残っているよ」

「なるほど……これがあの二人の幼馴染みの賢者様ですか」

「そうだね」

「リリアちゃん、さっきから静かだけど、どうしたの」


お兄様に対しては憧れとか、家族としての情愛とか、そういうのの上に恋愛感情があったんです。親愛とは違う恋愛感情が間違いなくありました。けど、けど……あの、絶望の中で包み込まれたあの温もりと、あの言葉とあの……


「メビウス様、か……また、会ってみたいな」

「クライス君や、賢者様によれば生きていそうだという話だからね。魔神も倒れたし、案外すぐに会えるかもしれないよ」

「生きていますよ。だって私を助けてくれましたから」

「リリアちゃん、どういうこと?」

「秘密です」


あのときの言葉の意味まで分かった。だから確信した。私を助けてくれたのはメビウス様だ。そして自分でも単純だと思うけど、私はメビウス様に……


「まさかメビウス様に会ったのかい?」

「詳しくは言いたくないですけど、はい」

「そう言うなら深くは聞かないが……」

「リリアちゃん、あなたまさか」

「ソフィア先輩?」

「そんな顔で見ないでよ。わかったよ私のことを詮索しないでいてくれるなら、そっちも詮索しないから」


……親愛や尊敬抜きの、恋をしてしまったみたいです。

しばらく毎日投稿続けたいですね……高校時代の執筆体力が欲しいです。

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