閑話 とある貴族子女の本音
前話の続きです。
「もう、見えなくなっちゃいましたね」
「そうね……」
私の唯一の親友は、あれだけ止めたのに、結局旦那様の待つ戦場に行ってしまった……きっと行くって分かってたけど……
「行っちゃった、わね」
「ソフィアさん?」
「いや、本当にユフィはクライス君が大好きなんだなって思っただけよ」
「今さらじゃないですか……ソフィアさんも行くって分かってましたよね」
「ええ、どれだけ止めてもね……」
そう言って、私はぼんやりと東の空を見つめ続けていた……けど、あることに気づいた。
「リリアちゃん」
「は、はい」
「私はもう少し、外の空気を浴びてるから、先に戻っていて」
「……ソフィアさんも戦場に行かれる気はないですよね?」
「ユフィじゃないんだから……少し早起きしたから眠気覚ましに庭を歩くだけよ」
「分かりました……先に戻って、朝食の準備をしてますね。ソフィアさんもこちらで食べて行かれますよね」
「ユフィ達が戻ってくるまではここにいるから、お願い」
「分かりました」
少し怪訝そうな顔をしながらも、リリアちゃんは屋敷に戻ってくれた。それを確認した私は、そのまま屋敷から離れた方向に進んで、庭の隅で……
「……ユフィの、バカ……なんで、残ってくれなかったのよ」
一人、うずくまってふるえていた。泣いてはいないわよ、絶対。
「死ぬかもしれないのに、なんで行けるのよ……本当は止めたかった、でも、あんな目をされたら、昔の話を聞いてたら、止められるわけ、ないじゃないの」
たった一人の親友だ。成り上がりと散々ないじめを受けた中で、唯一隣にいてくれた大切な、大切な親友だ。そんな人を、死地に行かせるなんて、嫌だった。
前の魔王戦争のときは、きっと大丈夫なんだろうと思ってた。でも、そんなことなかった。
その後も、クーデター事件でも、リリアちゃんのときにも……魔神が関わってなくても簡単に人は死ぬんだって、栄達を極めた魔術師でも命の危機に瀕するんだって実感した。
その最高峰、七賢者が殺されたような相手に挑む……行ってほしくなかった。本音を言うなら結界を貼ってまで監禁してくれたクライス君に感謝すらしていた……でも、結局行ってしまった。
「……あなたが、いなくなったら、私はまた一人よ。でも、知ってるから、分かってるから止められなかった……本当は力ずくでも止めたかった。いや、止めなきゃ駄目だったのに……バカ、バカ、私の……」
そう叫びながら、壁に向かって叩き付けた手を……後ろから伸びてきた腕が止めた。
「君のそういう泣き方は昔から変わらないな」
「……泣いてません」
「目元まで真っ赤にして、それを言うかい」
「うるさいですよ……なんで、いるんですか」
「白龍が王都内に現れたと聞いたからな。王都内も落ち着いたし、行軍前に少し様子を見に来たら……君が泣いてたから」
なんで、この人はいつもタイミングが悪いんだろう。いや、タイミングがいいのかもしれない。
「だいたい状況は分かったよ。君がらしくなく泣いてる理由も含めてね」
「だから泣いてません、泣いてないですけど……貸してください」
「あんまり時間はないけど……少しでも楽になるなら」
「今だけは……忘れてていいですか」
「僕も忘れるから、おいで」
そのまま私は彼の胸に飛び込んで……泣いてはない、だけど、スッキリするまでずっとそこにいた。
今後、掘り下げたい二人ではあるんですが……しばらくは秘密の関係を続けると思うので、本編に絡むのはまだまだ先の予定です




