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異世界でも貴女と研究だけを愛する  作者: 香宮 浩幸
第八章 魔神討伐戦編
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第百四十二話 帰りを待つだけは嫌だから

なんとか書けました(7/24)……どうにか後二話くらいはストックを増やして、投稿再開を迎えたいですね。

そして800ポイント超えました。皆様ありがとうございます


~同時刻 魔神出現地点直下


魔人の軍勢は、一つの街程度なら一撃で崩壊させるような魔術を、たったの一点に浴びせた。そこにいたのはたったの5人。その5人がただの人間であれば過剰火力どころか、二発目以降は無駄撃ちでしかない。

だが結果として、その集中砲火された魔術は一発目すら無駄撃ちだったと言える。なぜなら……


「……<流星雨メテオレイン>」

「……<召喚サモン 赤竜インフェルノ 灼熱竜の豪炎インフェルノフレア

「……<神撃の旋風グリムニール>」

「……<絶対領域マイラボラトリー 操作コントロール 重力系グラビティ>」


魔人達が、聞こえた声の方向に、寸分の隙なく魔術的な障壁を張った。しかし咄嗟に張られた薄い障壁一枚は紙のように砕かれ、灼かれ、裂かれ、潰され、その直後に魔人達も同じ運命をたどることになった……


「いくら何でも先制攻撃であの火力はやりすぎでしょう……まあ、いい目くらましになったのでやれるだけ効果範囲広げてやれましたが」

「クライス君、無駄話をしていないで一体でも多く狩るように」

「言われなくてもやりますよ」


魔人達の出現から魔術の着弾まで3秒あったか……そのごくわずかな時間で魔術師達は各々その死地から脱し、同時にカウンターを叩き込んでいた。そのまま再び4人は地面に降り立った。


「見たところ今ので千体ってところですかね……その軽く2,300倍はいそうですが?」

「しかも今ので吹き飛んだのは僕たちのいた地点の直下にいた魔人が大半だ。魔王はかなりの数残っているし……ここからは今みたいな手は通用しないだろうし……ね」

「師匠、油断は禁物……っつ」

「君もね」


降り立った俺たちに対して魔人達は、一瞬の硬直の後に全力で向かってきた。向かってきた魔人を魔術で相手にしながら、後方からの魔術弾を障壁で防ぐ。


「これは、悠長にしてると物量で押し切られるな……」

「全くだね……眷属と魔神は堂々と魔人達の軍勢の後方に浮かんでるよ」

「ホルス、行けるか?」

「弾幕掻い潜って、行けるには行けると思うが……魔神達相手となると、1分持てばいい方だぞ」

「向かわせたところで、か……」


俺たちが魔人の軍勢の攻撃を避けている間に、魔神本体と眷属二人はその軍勢の後方に移動していた。転移で即座に距離を詰めたいところだが、眷属の一人の魔術特性上、それができない。だから地道に魔人達を突破するしかないが……少しでも、手間を減らせないかな。


そんな思考をめぐらせていた俺の目線の先で、直進する光線が魔神に向かって突き刺さった。


「ダメね。この距離じゃあ、さすがにあたらないか」

「精度的には完璧でしたね……結界ですか」

「みたいね。これはある程度魔人と魔王を減らさないとあいつらとまともに戦う余裕もないわよ」

「言われなくても、ですよ」

「とりあえず、この場で防戦していても埒があかないわね……ディアミス君、後ろをおねがい」


セーラさんの声に、完全に気配を消していたディアミスが俺たちの背後で<召喚魔法陣サモナーズサークル>を高速展開した……しかし適性なのか慣れなのか、俺なんかより圧倒的に展開が早いな。


「<召喚サモン 黒竜>」


召喚された黒竜が俺たち四人の背後に降り立つと同時に、そのブレスで後方の魔人達を焼き払う……この世界最強の一角、竜のブレスでも魔人達を倒すには至らない……それは魔神の存在がこの世界にとって異質な証左でもある。


「……だれかが、俺の世界のだれかは知らないけど、厄介な異物持ち込んでくれたな」

「クライス君、行くわよ」

「了解です……<超電磁砲レールガン>」


討伐するには至らなくても、足止めにはなる黒竜を背に、俺達は魔人達を捌きながら眷属と魔神の見える方に飛び込んだ。

再び押し寄せてくる無数の魔術と刃の中、俺の思考はただ目の前の戦いに研ぎ澄まされていく……




~同時刻 王都西通り フィールダー伯爵邸~


「ユフィ、中に戻りましょう」

「……ソフィアはリリアちゃんを連れて、中に戻ってて。私はもう少ししたら行くわ」

「ユーフィリアさんも一緒に戻りましょう……その、お体に障りますから」

「リリアちゃん、ありがとう。でも気にしないで、本当に少し試すだけ……」

「……はあ。さっき試したでしょう。この結界は今のユフィには破れない。だからもう、無茶をするのは……」

「無茶はしないわよ。もう少し試すだけ……」

「それ、手を血まみれにした貴族令嬢の言葉じゃないわよ」


雅也において行かれて、また、彼一人にかかえさせてしまって……それが悔しくて、でも、その判断が正しいのも事実で、何もできない無力さに自分が嫌になって……散々泣いた。この世界に来て、初めて人目もはばからず泣いたかもしれない。


気がついたら、何も考えず力一杯結界を殴りつけていた。ソフィアとリリアちゃんに止められていなかったら、痛みか心労かで気を失うまで叩いていただろう。


「……それでも、もう、守られてるだけなのは嫌なのよ」

「ユーフィリア……義姉様の気持ちは分かります。けど、今無理をしても何にもなりません」

「……せっかく、彼を守れる。守れなくても隣で立てる、彼を支えられる力を得たのに……待ってるだけは嫌だ」

「わがまま言ってないで、現実を見なさい。今のあなたにできることは、待つことだけよ」

「わがままじゃない。ただの権利よ。彼の妻としての権利。だから、行かなきゃダメなの……」


不安で、不安で仕方なかった。もう彼一人でどこにも行かせたくなかった。せっかく、せっかく何もかも失って、また会えたのに……また、突然失うなんて嫌だ。


「雅也がいなくなったら、私は一人になっちゃう……他の誰がいても、彼がいなきゃ、嫌だ……せっかく会えたのに、また、見つけてくれたのに」

「だったら、帰ってくるのを信じて待ちなさい……それとも、クライス君のことを信じられないの?」

「信じてるよ……でも、だから隣にいたい」

「ええっと、どういう意味ですか?」

「ずっと信じてた。雅也が何度も私を救ってくれた。ずっと私を守ってくれてた……もちろん私が彼を支えてた自負もあった……でも、初めて、彼を守れる力をもらったの」


きっと、雅也がいなかったら前世の私はもっと前に死んでいた。彼がいたから生きてこれた。前世では彼に守られて生きながらえた……最期の最期。私が前世での生を終えるその瞬間まで、彼は私を守って、私を救ってくれた。

だから、今度こそ、やっと力を持てた。今世では、彼を私が守れる……そう、思ってたのに。


「結局……また、守られるだけなの。こんな力を得ても、私は……」

「ユフィ、いつまでもいじけていないで現実を見なさいよ。あなたのお腹の中にいる子はどうするのよ。その子を戦場に連れて行くとか正気なの?」

「守るよ……子供一人守れないで雅也を守るなんて言えない」

「……はあ。母親として、どうかと思うわよ、その発言」

「最低なのは自覚してる」

「……止めても無駄なのは分かってたけど、はあ。まあ、好きにしたら」

「ええ、好きにさせてもらう」


そう言ってお互いに笑った。何もかも吐露して、やっと落ち着いた。同時に私がそこに行きたいわけも、天秤にかけるものの重さも改めて感じた。そっと、お腹をなでて呟く。


「駄目なお母さんでごめんね……」

「本当にね。普段は冷静なのに旦那様が絡むとどうにもできない乙女なお母さんよね」

「放っておいて。人として、医者として間違ってるのは分かってるわ。でも……これだけは譲れないの」

「ユフィが考えなしに言ってても、それを考えてないとは思ってない……それを天秤にかけても行きたいって気持ちが強いんでしょ。だから止めない、というかとめられない」


そう言って呆れたようにため息をついて黙ったソフィアと入れ替わりに、リリアちゃんがゆっくりと口を開いた。


「あ、あの……でも、やっぱりこの結界を破るのは不可能です。私も魔力をほぼ奪われたので感覚的な物ですけど、この結界はこの屋敷を360°覆っています。だから、ここを出るためには結界に直接干渉するしかないです」

「やっぱり地面の下まで念入りにやったのね、雅也……どこまで過保護なのよ」

「あら、妊娠中の自分の奥さんの考え方と行動力をよく理解した対応だと思うけど」

「……うるさい」


雅也はあの咄嗟の状況で、この結界を構築する魔力を自分が出さないことで魔神戦に備え、さらにこの大規模な結界に干渉可能な私とリリアちゃんの魔力を抜き取り、もしものためにソフィアの魔力を抜き取らなかった代わりに、ソフィアの魔術ではどうしようもできないように地面の中まで結界を伸ばした……手の出しようのない完璧な対応ね。


「というか、絶対に事前に計画してたわよね」

「ええ、最初からユフィを行かせる気はなかったんでしょうね」

「バカ雅也……」

「と、とにかくこの結界を抜け出す方法は現状……」

「あるわよ」

「ない……えっ?」


雅也は、この結界を貼るときに、最期の油断をした。完璧な対応の裏で、私達を舐めてくれたわね。


「これが雅也の十八番<反射障壁フォースシールド>なら手が出せなかったけど……魔力を使い切った私達に対する油断と、私達の魔力適性を効率よく使うためか<光子障壁フォトンシールド>なの」

「つまり、魔術で普通に負荷をかければ破れる……ってことですか?」

「そういうことよ。だからソフィア、少し魔力を貸し……」

「その必要はないわ」


私がソフィアに魔力を借りようとした瞬間、突然屋敷の上に大きな影が覆い被さり、次の瞬間、結界が砕け散った。その様子に顔を上げると、そこには羽根を広げる白竜……いや


「セーラさん?」

「あってると言えばあってるけど、違うと言えば違うわね。この白龍は私が召喚して、一時的に私の意識を乗せた存在。まあ、分身みたいな物だと思ってちょうだい」


そう言って、白龍はゆっくりと地面に降り立った。そしてそのまま私を見て続けた。


「どんな言葉をかけようかと思っていたのだけど……親友さんに先を越されたみたいね」

「これでもユフィの親友を自負していますから。こういうときは賢者様にも負けませんよ」

「頼もしいわね……シホちゃん、来るのね?」

「迎えに来てくださったんじゃないんですか?」

「あなたが自暴自棄になって行くって言うのならそのまま帰ってたわ」

「……数分前だったら危なかったですね」


ソフィアとリリアちゃんがいなければ、たぶん、そのまま壊れてしまっていたわね……戻ってきたら、ちゃんとお返ししないとね。


「でも、今は大丈夫そうね」

「はい。全部かかえて、それでも、間違っていても雅也の隣で生きます」

「そう……それじゃあ、せっかく叩き割ったこの結界の魔力、無駄遣いしないようにね」

「勿論です……<自動魔オートマジック力回復リジェネレーション>」


周囲に散った結界の魔力を一気に吸い込む。魔術を分解した残りを、更に自分の魔力に変換させて取り込むため、かなり効率は悪いけど、リリアちゃんの分とあわせれば……余裕で自分の魔力を全快させるのには足りる。


「……終わりました」

「じゃあ、行くわよ。既に戦闘は始まってるわ……何度も聞くけど」

「覚悟はできてます。急ぎましょう」

「クライス君、想われてるわね……行きましょうか」


そう言って背を向けた白龍の上に飛び乗った。


「ユーフィリア義姉様。私の分もお兄様のことをよろしくお願いします」

「分かってる。任せておいて」

「ユーフィリア……行ってらっしゃい」

「……うん、行ってくる」


リリアちゃんの力強い応援と、ソフィアの歯切れの悪い挨拶にそう返す。それを待っていたかのように、白龍が飛び上がった。次の瞬間、後ろから声が響いた。


「ユーフィリア。絶対にみんなで帰ってきなさい」

「もちろんよ」


そう親友に叫びかえした私を乗せたまま、白龍は速度を上げて東の空に向かっていった……

次回投稿はちゃんと本編で明後日の21時の予定ですが……ストックの状況によっては少し卑怯な手を使うかもしれません。

筆が進んでいれば、明日辺り何かあがるかもですね。

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