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異世界でも貴女と研究だけを愛する  作者: 香宮 浩幸
第八章 魔神討伐戦編
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第百三十六話 世界の危機の目の前で

令和初更新です。更新予定が大幅に遅れたことを心よりお詫び申し上げます。


今後は確実性のある時以外は更新予告をしないようにします。


……立場だとか、自分の安全だとか、そんなことは考えもしなかった。ただ、目の前の彼女が危ないと思って、気が付いたら体が動いていた。


「……ソフィア……」


魔術を発動する余裕は頭の中になかった。そのまま地下室に飛び降り、衝撃を殺しつつ前に飛ぶ。そして、ソフィア嬢の上に覆いかぶさったとき、ふっと冷静さが戻る。


「馬鹿か……俺は国王だっていうのに……第一、飛び込んで何をする気だったんだよ……」

「……レオン……君」


薄らと目を開けたソフィア嬢の上で、私は自嘲するように呟いた。国王として、馬鹿どころの、考えなしどころの騒ぎじゃない……二度と、こんなことは起こしてはいけない。為政者として国家元首として、感情に流されるような軽はずみな行動は……


「皆、すまない……」


一瞬のうちに流れる思考の中、少しでも身を守ろうと魔術を行使しようとしたが、もう、遅かった。


発動するより、落下の速度の方が速い。それを確信した私は、ゆっくりと目を閉じた……だが……いつまで経っても衝撃は訪れなかった……






……轟音とともに教会の天井がレオンとソフィア嬢の上に降り注ぎ、細かい破片が巻き起こした砂煙が周囲を覆う。


「雅也、どうなの?」

「この短時間で普通に魔術行使が間に合うと思うか?」

「えっ……ま、まさか……」

「落ち着け……今、レオンに死なれたら困るし……そもそも、ここにいるのは並の魔術師じゃないだろう……」


俺がそう詩帆に言いきったとき、教会の敷地を覆っていた砂煙が晴れる。そこには……予想以上の光景が広がっていた。


「まあそうは言っても、間一髪だな……まったく、気持ちは分からないでもないが無茶するよ、ほんと」

「クライス君もシホさんにそんなことを言っているが、十分焦っていたよ」

「放っておいてください。結果的に間に合ったんだからいいじゃないですか」

「まあ、そうだね。ただ、この状況で召喚魔術はどう考えても使えないだろう」

「僕も焦ってたんですから、そこは勘弁してください……」

「レオン陛下。すこしは国家元首としての自覚がついたかと思っていたんですが……まあ、何事もなさそうなので何よりですが」

「しかし、まあよくも生身で地下室に飛び降りれるよな……下手すれば怪我じゃすまないぞ」


ソフィアさんの上に覆いかぶさったレオンの上に俺が<反射障壁フォースシールド>を展開し、ハリーさんが<大地神の巨槍アースランス>を用いて、落下してきた天井を串刺しにして止めていた。

そして俺とハリーさんの動きを読んでいたのか、師匠は<突風ウィンドブラスト>で倒れている教会関係者達の上に破片が降り注がないようにしていた。


「レオン、無事か?」

「ああ、助かった……無茶な行動をしてすまなかった」

「謝るのは後にしてくれ」

「ああ、今は救出が先だね。クライス君、分かっているとは思うが……」

「あれだけ言われて、同じ失敗はしませんよ。これだけ空間が荒れていたら転移を含めた空間干渉系の魔術は下手に使うと暴走しますね。ということで……<空中歩行ウィンドウォーク>」


地下室に飛び降りたレオンの方向に向かって空中に足場を作る。それを確認して、ソフィアさんを抱えたレオンがゆっくりと上がってきた。


「へ、陛下……す、すみません……も、ものすごくご迷惑を、おかけしてしまって」

「気にしないで構わない。私が反射的に飛び込んだだけだ。むしろ私の勝手な行動で私が負傷していれば、君に迷惑が掛かったかもしれない……謝るのは私の方だな」

「い、いえ、そんな、お、畏れ多い……」


襲われたショックもあるのだろうが、ソフィアさんが珍しく顔を真っ赤にしてテンパっている……まあ、この二人は無事に助け出せたので問題ない。レオンのもとにハリーさんが、ソフィア嬢に詩帆が近づいていくのを横目で見ながら、再びリリアの方に目を向ける。


リリアの魔術は今は安定してるから下手に手を出さない方がいいだろう。問題は残りの司祭服姿の三人をどうするか……


「あれ、なんで、教会が、こんなことに……」

「セラ教皇。今までどちらに」

「私は、教会の、孤児院の、視察に……それで、一体、何が?」


緊迫した状況には似つかわしくない間延びした声で俺達に声をかけてきたのは、全身を黒い修道服に包んだおっとりとした女性。教会庁大臣にして、教会のトップであるセラ教皇その人だった。


「教皇、時間がないので率直にお聞きします……教会の暗部をご存知ですか?」

「暗部……それが、邪霊討伐部門のこと、であるなら……」

「端的に言います。邪霊討伐部門が私の妹、リリアとフローズ子爵令嬢のソフィア嬢を拉致し、抵抗したリリアの魔術が暴走しました……この状況はあなたの指示ですか?」

「いえ……邪霊討伐部門、に関しては、祖父の代から、教皇や教会庁とは、独立して、動いていました」

「つまり、あなたの指揮下にはないから責任はない、と言うつもりか……ディティス公爵」


状況を確認するために教皇に詰め寄った俺の後ろから、レオンが冷たい声で言い放った。その声に先ほど、国王としては論外の行動をした焦りなどはなく、冷徹な為政者の言葉の重みがあった。だが、教皇はその言葉に対して、一瞬にして纏う空気を変えた。


「いえ陛下……管理責任は私にあります。処罰に関しては後日お受けします。しかし、ひとまずあそこに倒れている背信者・・・に関してはひとまず私に引き渡していただけませんか」

「どういう意味でだ……」

「邪霊討伐部門は教会の中で唯一、教皇が触れられない領域でした。教会の情報網や資金力を用いて暗殺者まがいのこともしていたようですので、証拠を集めていたんです……」

「……現行犯で捕らえられているから、証言や証拠から邪霊討伐部門を潰せると……」

「そちらも処罰するなら変わりませんよね……その後であれば、私は辞職にしろ降爵にしろ、陛下のおおせられる如何様な処分も受けましょう」

「……そうか」

「ですが、彼らは貴族子女誘拐事件の主犯であるのは間違いないでしょう。この場で処刑したいというのならお好きになさってください……フィールダー王宮筆頭魔術師」


先ほどまでの穏やかな空気と変わって、冷たく言い放った彼女は……なるほど、さすがは千年以上も続く巨大宗教組織のトップだ。普段の姿とどちらが素かは分からないが……こういう言い方もできるわけだ。

しかし、俺に最後の感情的になりかねない判断を振るのは、俺のことを試しているのか、舐めているのか……


「クライス、どうする?」

「決まってますよ……今は、生かします……」


突風ウィンドブラスト>で三人の男達を巻き上げ、周囲の地面に落とす。


「……こちらも証言が必要なのは事実ですし……」


ソフィアさんの傷を診ながら話を聞いていた詩帆が、本気でキレそうになっているところを見ると、リリアがされたことは相当のことだったのだと容易に想像がつく……目の前のリリアを見ていれば、殺してやりたい気持ちはますます膨らんでいく。ただ……


「……その上で、リリアが味わった以上の地獄を見せてやらないと割に合いません」

「まあ、何と、過激な、考えでしょう」

「いえ、当然でしょう。この危機的状況で自身の利益を巧妙にかすめ取ろうとするあなたには負けますが」

「……何のことですか」


いや、まだまだ若いな。彼女よりも年下・・の自分が言うのも何だけど、教会のドロドロした部分に触れて、あの若さで教皇らしさは身についているんだけどなあ。そんなことを思いつつ、薄く笑いながら、強がる彼女に答える。


「この状況で調査と彼らに対する処分をあなたが行えば、あなたは千年蔓延った教会の暗部を掃討した偉大な教主様だ……」

「……私は、自分の罪を雪ぐために……」

「それなら、どうぞご自身が罰を受ければいい……さて、こちらもあまりゆっくりしている余裕もないので、この話は後にしましょう……レオン……陛下。後のご判断はお任せします」


教皇の穏やかな雰囲気が明らかに変わっていた……まあ、彼女にも前教皇の娘だという重圧もあるだろうし、早いところ功績が欲しいのは分かる。だが、今回は少々大人げないが容赦してやる時間的余裕がない。恨みぐらいは買うかもしれないが、そんなことは今はどうでもいい。


「……教会の自浄作用に期待したいところだが、今の我が国の上層部以上に教会の現状は不安定だ。よって、今回起こった事象が魔術的な大規模災害であることも鑑みて、魔術省に以後の調査を命ずる」

「かしこまりました」

「陛下……魔術省も、先刻の反乱騒動で内情が不穏であることに変わりは……」

「その内乱の後、フィールダー大臣が不穏分子を一掃した」

「しかし……」

「これは王命だ。従ってくれ」

「……分かりました」


深々と頭を下げたセラ教皇の肩は震えていた……しかも俺に対しては人でも殺しそうな目を向けてるな……精神年齢は意外と低そうだ。と、そんなことを考えていると、後方の魔力の質が急激に変化し始めた。その変化に慌てて振り向くと、リリアの様子を観察していた師匠と目が合った。


「クライス君、政争も結構だが……どうやら状況が悪化した」

「……っ、これは……」

「世界の壁が破れる前兆だ……早急に術式を停止させるか、術者を封じるか……どちらにせよ時間はない」

「術者を封じるのは最終手段ですよ……」

「分かっている……ただ、最悪の可能性も考慮する必要もある」


リリアのいる術式の中心点から、膨大な魔力が吹き上がる。その魔力は慣れ親しんだようで、普段は絶対に触れることのない……俺の魔力質によく似た、魔力情報を構成する膨大なエネルギーを内包した魔力。


「……レオン、今すぐ俺と師匠達を除いた全員を教会の周囲から退避させてくれ」

「それは、ユーフィリア嬢も含めてということかな」

「ああ……何が起こるか全く予想がつかない」


世界の壁が破れて、次元間の膨大な量の魔力が流れ込めば……自身の魔力をズタズタにされて、即死する。この世界の全ての物質が魔粒子を微量でも含んでいる以上、それは前世の放射線と何ら変わらない。


「とにかく、危険なことは間違いない。だから、周囲の人間を避難させられるだけさせておいてくれ」

「わかった……必ず戻って来い。さっきのことも謝らなければならないからな」

「ああ、後でソフィア嬢について話を聞かせてもらう」

「絶対に言わないから安心しろ……ただ、彼女の説得は任せる」


離れながらハリーさん達に指示を飛ばし始めたレオンの後ろから、ソフィアさんの治療を終えた詩帆が近づいてきていた。


「雅也。私も……」

「子供にどんな影響があるか分からない。離れてくれ」

「……だけど」

「それに、詩帆じゃ今のリリアに何もできない」


リリア自身は術式の保護下にあるようだが、あの術式の中心点は既に高濃度の魔力が吹き荒れている。正直、リリアに干渉できるのは膨大な魔力を持ち、魔力質が非常に似通った俺だけだ。だったら、ただでさえ動けない詩帆を連れて行くメリットは皆無だ。


「魔神戦が控えてるんだ……今、この場で死んだりしないよ」

「……分かった。リリアちゃんを、お願い」

「言われるまでもない。行ってくる」


そう言い切って、俺は振り向く。詩帆の足音が離れて行くのを聞きながら前を向くと、師匠が苦笑していた。


「マサヤ君、かっこよかったよ」

「茶化さないでください……それで、どうするんですか」

「君の見立て通り、私達もリリアさんに近づけないのは同じだ。全面的にフォローはするが、中央付近では私達の遠隔魔術は霧散する」

「最後は俺次第だと……」

「クライス君が魔力を使い果たしたら、私達には回収もできないわ……賢者なんて呼ばれてるのに、情けない限りね……リリアちゃんを救うためには、あの術式自体の魔力情報に干渉するしかないわ。あの高密度の魔力の中で、それを行うのは……」

「……言いにくいが、ほぼ無茶に近い。空間の法則を魔術で操る君ならできる可能性はある、という程度だ。だからこそ最悪の場合は……リリア嬢の命を奪ってでも術式を破綻させる」

「でしょうね……」


七賢者の二人が不可能に近いと言い切る術式……言われなくても不可能に近いのは分かっている。それでも……


「……詩帆に約束しちゃいましたし……」


そう呟きつつ、俺は強引に空間を捻じ曲げ、教会の元地下室の場所に転移する。そして、複数の魔術を同時行使しながら、最後にこう呟く。


「兄として、妹の初恋を潰した以上は、リリアが幸せになるまで守るって、そう決めてるんです……前世では、守れなかったから……」


膨大な魔力の奔流の中で自身の魔力を必死で練り上げていく……脳内を魔術制御領域が大半を占めていく感覚の中で、俺は残したわずかな思考領域から過去の記憶を振り張った。

Twitterでも更新状況や作品の端書みたいなものを時々呟いてます。感想欄では答えづらいこともDM等でお答えできる場合もあるかと思いますので、興味のある方はフォローしてくださると嬉しいです。


@kurais_kamiya

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