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異世界でも貴女と研究だけを愛する  作者: 香宮 浩幸
第八章 魔神討伐戦編
176/253

第百三十一話 日常~何年かぶりの考査とクラスの喧騒~

更新再開記念五話連続投稿。


本日四話目です。五話目は一応、本編投稿の定時投稿時間21:27に投稿します。


「聞いてないぞ、今日からテストだなんて」

「当然でしょうね。あなた、ほとんど学校に来てなかったし」


朝の王立魔術学院。一学年特待生クラスで響いた叫び。中身の精神年齢からは考えられない至極平凡な駄目学生の典型的セリフを吐いた俺は静かに詩帆にたしなめられた。


「いや、詩帆とは何度か家で会ってたんだから教えてくれてもいいだろ」

「あなたが聞かなかったから言わなかったのよ」

「それはひどいだろ」

「あなたが毎日仕事の愚痴しか言わないからよ。愚痴以外の会話で事務連絡なんてしたくないじゃない……ただでさえ妊娠で不安なのに、話せる時間短いし……」

「うっ、悪かった……ごめん」

「分かってくれた?」

「はい、すいません、以後気を付けます」

「じゃあ、範囲教えてあげるわ」

「ああ、ありがとう」


そう言いながら、詩帆は今日のテスト教科の教科書を開きながらクスッと笑った。


「どうした?」

「いや、何か懐かしいな、って」

「何が?」

「こんなこと、あなたと出会った直後はよくあったでしょう」

「そう、だな……」


詩帆と出会った前世の中学時代。席が隣同士で、俺が小テストの日程を忘れることはよくあったので、そんなときは呆れながらこんな風に範囲を教えてくれた。


「最近は学生気分味わえる機会も減っちゃったから余計にかな」

「そうか……じゃあ、学校に来た日ぐらいは思い切り楽しませてもらおうかな」

「そうして……湊崎君」

「だな、洲川さん……いや、やっぱり俺は詩帆って呼ぶ方がいいかな」

「私も雅也って呼ぶ方がいいかな」

「ユフィ……学校で演技するの、やめたの?」

「クライスもそれでいいのか?」


中学時代の会話を思い出しつつ、ダラダラと詩帆と喋っていると呆れた顔をしたレオンとソフィアさんが同時に声をかけてきた。


「完全にいつも演じてるキャラが崩壊してたぞ」

「知ってるよ。別にもう演じるのも面倒だし、詩帆と雅也もお互いに呼び合う愛称ってことにすればいい。後、俺も正式にユーフィリアと婚約した扱いになってるからこれぐらいはいいかな、と思ってな。腐敗官僚も一掃したし、今の俺を妬む相手がいても潰せやしないから」

「国王陛下の友人で、現代最強の魔術師で閣僚職に就く伯爵……まあ、確かにそうだが……」

「だろう。という訳で、気にしないことにした」

「まあ、この二人がいちゃつくのなんて今更か……」

「家ではともかく、学校でこんなにはしてなかったぞ」


レオンのため息に反論をしながら横目で何も言わない詩帆を見ていると、ソフィアさんが楽しそうに微笑みながら詩帆に声をかけた。


「ユフィも開き直ったってことかしら……相当大胆になったものね」

「……」

「さっきから黙ったままだけど、どうかした?」

「……完全に雅也に流されてた」

「えっ?」

「……マタニティブルーじゃないけど、ちょっと精神的に弱ってたとはいえ……ああ、もう……最悪……」


そう言いながら詩帆は机に突っ伏してしまった。


「うん、今の奥さんに精神的ダメージを与えるのも悪いな、後のフォローをまかせた」

「お、おい……レオン、逃げるな」

「フフッ。久々に可愛らしいユフィも見れたし、勉強に戻るわね」

「ソフィアさんまで……ちょっと」


さらりと逃げた二人を目で追いながら、周囲に目を移すと俺の後ろの席ではリリアがため息をついていた。


「はあ……お兄様も少しは場をわきまえて欲しいですね……シホさんと再会するまではもう少しまともだったと思うんですが……箍が外れた、ということでしょうか」

「リリア。冷静に分析されるとさすがに恥ずかしいんだが」

「冷静に分析されると恥ずかしくなるようなことを公衆の面前でやらないでください」

「それは、そうだけど……」


リリアの冷たい目線に耐えかねて目を逸らすと……ティシリアさんが悶えていた。


「ユ、ユーフィリアさん、があんな風に笑うの、可愛い、な。それにクライスさんのあの温かい対応……私も、ああいう恋がしてみたいな……」

「ティシリアさん、本人の前で憧れるとかやめて。いや、魔術については言われ慣れたけども」

「はっ、わ、私。今、心の声が出てましたか?」

「ええっと、はっきりと」

「っつ……わ、私。少し顔を洗ってき、きます」


そう言いながら教室を飛び出していくティシリアさんを目で追うと、後ろの席では……


「ああ、恋というものは何と美しいのだろう。愛というものは何と素晴らしいのだろう……」

「zzz」


ジェラールは相変わらずと言った様子で一人で訳の分からない……いや、何となくわかることを言っているし、タウラスは爆睡していた。おそらく昨日、遅くまで勉強していたのだろうが、テスト前に大丈夫なのだろうか?


「クライス、ちょっとここの部分教えてくれないか」

「エドワード、お前はマイペースだな」

「そうか?」

「……まあ、いいか。そういえばルークは?」

「さっき、こんな中で勉強できるわけないだろってブツブツ言いながら教室その外に出て行ったぞ」

「そ、そうか……悪いことしたな」


そんな中、俺の席に近づいてきたエドワードが教科書を開きながら質問をしてきた。授業はまともに聞いていないが、一応学年首席だしな。それに師匠に十歳になるまでにこの世界の高等学院レベルまでの知識はあらかた叩き込まれているから、まあ何とかなるだろう。


「それで、その前に今日の範囲教えてもらっていいか」

「ああ、それはいいけど……何で、知らないんだ?」

「学校に来てないからだよ」

「ああ、そういえばそうか。でも、テストの日程なんて掲示板に張り付けられてるんだからチラッと見て帰るか、誰かに<転写コピー>使ってもらえばよかったのに」

「それはそうだが、そもそもテストがあることを知らなかったんだよ」

「ふーん。あっ、今日の範囲は……」


今日のテストは「応用魔術知識論Ⅰ」、「歴史」、「数学」の三教科だった。今学期に入ってからはまともに授業に出れていないが、まあなんとかなりそうだ。師匠が言うには俺が十歳になるまでにはルーテミア王国高等学院で履修する内容の大半は教えていたそうだから、本当に授業に出なくてもなんとかなりそうだな。


「ああ、範囲は分かった。ありがとう」

「おう。それで、この数学の問題なんだが……」


いくら高校と言っても、この世界ではそこまでの高等数学は発展していない。高校ではやっても高次方程式や連立方程式、後は図形の話なら三平方の定理程度が関の山だ。一度論文を見たことがあるのだが、王立大学では三角関数やベクトルの研究もされているみたいだ。

現代物理学者としては、微分・積分計算や軌跡、それに空間ベクトルの話なんかを広めて研究に打ち込みたいところだが……まあ、全て終わってからだな。それに今はテストが優先だ。


「……と、こんなところかな」

「ああ……お前、本当に授業出てないんだよな。魔術でこっそり聞いてたりしないか?」

「いや、本当に聞いてないけど、どうした?」

「ものすごく分かりやすいぞ。下手な教師の授業よりはるかに。一度も聞いたことないような解き方があんなに分かりやすいとは思わなかった」

「っ……そうか」


それは、そうだろう。何せこの世界ではまだ研究されていない公式や解法を俺は山ほど知っているのだから、少し不自由なこの世界の計算方法に嫌気がさして、使ってなかったら……つい癖で。


「クライス、家庭教師とかしてたのか?教え方も先生みたいだったぞ」

「そうか……そんな経験はないんだが……」


そうだろうよ、前世では大学准教授で普通に教壇にも立ってたからな。


「まあ、ありがとう。おかげで何とかなりそうだ」

「ああ……」

「で、クライス」

「何だ?」

「後ろで並んでる人たちの話は聞かなくていいのか」

「えっ?」


エドワードの言葉に振り向くと……


「クライス。もう少しで解けそうなんだが、この部分、もう少し分かりやすい方法ないか?」

「クライス君。魔術発動に関するテスト範囲の応用問題なんだけど……」

「わ、私も一つお聞きしたいことが……」

「お兄様。私もお願いしていいですか?」


レオン、ソフィアさん、ティシリアさん、更にはリリアまでが並んでいた。そういえば、一学期の期末考査は詩帆にベッドに括り付けられてて行けなかったから、これが俺の初めての王立魔術学院定期考査か……もう少し、加減して教えればよかった。


「レオン、ソフィアさん。虫が良すぎませんか」

「悪かった……今度、王命でお前に長期休暇を出してやる」

「ユフィの機嫌を取るの、付き合うから、お願い」

「最低だ、この人たち……まあ、いいや。恨みもあるんで先にティシリアさんとリリアの方を聞きますからね」

「ああ、それで構わないよ」

「まあ、あの点に関しては私達が悪いですしね。じゃあ、ユフィ」

「さっきの話聞こえていたのだけど。別に機嫌は悪くしてないわよ」

「どう見ても機嫌が悪そうだけど」

「あなたの発言のせいよ」


ソフィアさんと詩帆が口喧嘩を始めたが放っておこう。あれはあの二人のスキンシップみたいなものだし。


「さて、ティシリアさん、リリア。同時に聞くから分からないところを見せてくれ」

「はっ、はい……えっと、ここなんですが」

「私はこの問題の解説のこの部分が分からなくて」

「ああ、だいたい分かった。じゃあ、まずは……」


そうして、二人に同時に教えていく。二人とも特待生クラスにいるぐらいなのでもちろん基礎は完璧だから、少しヒントを出せば解けるようですぐに終わった。続けてレオンの疑問に答えていく。ちなみにソフィアさんは喧嘩が終わった後で詩帆に聞いていたので俺が解説する必要はなかった。喧嘩するほど仲がいいようで何よりだ。


「……で、解けたか」

「ああ、納得したよ」

「それでいいか」

「ああ……奥さんの機嫌も直って良かったね」

「一言余計だ……全く、最近会える時間短いんだからその時間ぐらい配慮してくださいよ上司」

「ああ、分かっているよ。上司として君たちの関係性が円滑に進むよう協力しよう。式場は王家の力を使ってどこの教会でも取れるから安心してくれ」

「話が飛びすぎだろ。もっと直近のことに気を使ってくれ」

「そうでもないと思うが……」

「どういう……そういうことか……」


レオンの視線の先を見ると、幸せそうな顔をした詩帆が遠い目をしていた。


「雅也と二回目の結婚式か……ドレス、何がいいかな……それに」

「詩帆」

「ま、雅也……ええっと、な、何?」

「少し寝かけてたんじゃないのか、疲れてるんだよ、きっと」

「そ、そうね」


危なかった。自分の妄想中の独り言が周りに漏れてたなんて気づいたら、今度こそしばらく機嫌を直してくれないだろう……本当に、色々と心労もあるんだろうが緩みすぎですよ詩帆さん。


「さてと、質問も一段落したし、そろそろ俺も自分の勉強をさせてもらおうかな」

「そうしたら……そういえば範囲は分かったの?」

「エドワードに聞いた……明日の範囲聞き忘れたから、後で教えてくれ」

「ええ、分かったわ」

「さてと、それじゃあ問題集でも少し……」

「皆さん、席についてください。テストを始めますよ」


俺が問題集を開こうとした瞬間、エマ先生がテスト用紙の束を持って入ってきた。


「えっ……俺、全く勉強してないんだけど」

「まあ、あなたなら何とかなるんじゃない」

「何とかって……」

「クライス、頑張れよ」

「レオン、てめえ……」

「クライス君、前を向いてください」


こうして俺はこの学校初めてのテストを一切勉強せずに受けることになった。ちなみにその結果は……


「あなたって勉強に関しては嫌味よね……何で一切授業を聞いてない雅也に私が負ける教科があるのよ」


……と、詩帆に言われたということだけ言っておこう。

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