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異世界でも貴女と研究だけを愛する  作者: 香宮 浩幸
第八章 魔神討伐戦編
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第百二十八話 日常~貴族子女の恋バナ~

皆様、お久しぶりです。この度、無事に大学に合格し、執筆を再開できることになりましたので、予定通り本日より本編の更新を再開させていただきます。


エイプリルフールネタでもなんでもありませんがお楽しみください。本日五話投稿の一話目です。


秋の日の午後、少し肌寒くなった空の下、私は友人とゆったりとお茶を楽しみながら、その友人のとあることをからかっていた……


「それで奥様……少し太ったかしら?」

「太ってるんじゃなくて、妊娠です。後まだ三カ月少々だからお腹が出たとか言われるほど大きくありません」

「……その若さで妊娠なんて嘆かわしい時代ね。若者の性の乱れね」

「一応成人はしてますし、ちゃんと夫との間にできた子供なんだから歓迎されるべきよ」

「あら、まだ夫じゃなくて婚約者でしょう」

「昔の話したわよね。それを聞いたなら夫って言う意味はわかるでしょう」

「ちょっとからかっただけじゃない。そんなにむきにならないでよ、ユフィ」

「ソフィアの方こそ、からかうのも程々にして」


王都を騒がせたクーデター未遂事件から早一月が経った。そのクーデターでユーフィリアは人質として囚われていたはずだし、私も王城に突入したりもして、その混乱の中心にいたのだけど……なんだか、そんなことがあったのが夢だったと思えるぐらいこの一月は平和ね。


「ごめんなさいね、ユフィ。あまりにあなたが幸せそうだからついついからかいたくなっちゃって」

「程々にしてよ、本当に……」

「ええ、あんまりお母さんにストレスをかけるとお腹の子にも悪いと思うから」

「そう思っているのなら、是非ともやめて……」


そんな風に私の前でため息をついたユフィは、今年で十六歳という若さでお腹に子供がいる。まあ成人はしているから貴族の娘なら結婚して子供がいるのは普通ではあるのだけど……やっぱり、この年で友人のお腹に子供がいるっていうのは不思議な感じね。


「……それで、旦那様は優しくしてくれてるの?」

「ええ……過保護すぎるぐらいに、ね」

「例えば?」

「そうね、例えば……ええっと妊娠が分かってからは、仕事も用事もなかったらずっといっしょにいてくれるんだけど……」

「うん、確かにそうね」

「……も、もちろん、見てても分かると思うけど学校とかもね。で、それに家にいるときは料理以外の家事はあらかた彼がやってくれるし、後、最近は……って、何を言わせるのよ」

「別におかしなところはなかったと思うけど……ごくごく普通の優しい旦那様じゃない。それに、今のは完全にあなたの自爆だし……」

「それは、そうだけど……」


どうやら私達の見ている前以上に、二人きりでいるときは甘々な空気を醸し出しているようね……というか、十五歳の異性同士の付き合いじゃない……いや、別にそれで間違ってないわね。


「……ユフィ、楽しそうね」

「……うん、とっても」


そう言って愛おしそうに自分のお腹をなでるユフィを見ながら、私は彼女の愛しの旦那様のことをふと思った。

ユフィの夫であるクライス君は、私達の学校のクラスメイトであると同時に私達の国、ルーテミア王国魔術省の大臣であり、王宮筆頭魔術師でもある世界最強クラスの魔術師である人物だ。

正直つい先日まで私は、クライス君は世界の理から外れた異常者だと思っていた。ただ、そのつい先日のこと、私を含めた極めて少人数は彼とユフィのとんでもない秘密を聞かされ、それがあながち間違っていなかったことを知らされた。


「……十五歳の反応じゃないわよ、それ」

「そうかしら?」

「と、言おうかと思っていたのだけど、よく考えたら普通に精神年齢は四……」

「ソフィア、さすがに怒るわよ」

「あら、さっきから何度も怒っていた気がするのだけど」

「それは、それよ」


ユフィの表情に十五歳の少女の妊娠に対する不安気な感じは何もなくて、それより長年待ち望んだ待望の子供ができたお母さんのような穏やかな表情に見えた。いや、実際にユフィの状況はその通りなのよね……


彼女は一度死んで、この世界で生まれ変わった、らしい。原理も仕組みも聞いてはいるけど、私には理解できなかった。まあ、賢者様達ですら理解できないようなユフィの前世の世界の技術だから当然だとは思うけど……というか以前にその話を聞いたときにクライス君と同じ世界でいっしょにいたユーフィリアですら、


「……普通の人間には絶対に無理です、雅也がおかしいだけですから」


と、言っていたので、やっぱり向こうの世界でもクライス君が常識はずれすぎるだけ、ということみたいだけど。


「ソフィア、いきなり遠い顔をしてどうしたの?」

「あなたとクライス君の前世の出会いを聞かされた時を思い返していたのよ」

「いきなり何の話?」

「ユフィの今の顔を見てたら、同級生に見えなかったのよ。それで普段あまり考えてなかったけどユフィって……私より年う……」

「ソフィア、いい加減にして。あくまでユーフィリアは十五歳よ。前世の記憶を引き継いでいるとはいえ、それは揺るがないわ」

「う、うん。えっと、その、ごめんなさい」


私の言葉を遮って、食い気味にかぶせられたユフィの言葉は今まで感じたことがないぐらい冷たかった。ええ、二度とユフィに年齢の話はしないようにしましょう……


「でも、別に見た目が老けているとか言っているわけじゃないんだから、そんなに気にしなくてもいいんじゃないかしら。むしろ大人びてる、って言いたいのよ」

「気にする、気にしないの問題じゃないのよ。ただ、言われて気分のいい話ではないでしょう」

「そうかもしれないけど……」

「全く気分はよくないわよ。いつもいつも雅也と一緒にいると、とても二十代の空気感がないだ、隠居夫婦みたいだ、好き勝手言われて……」

「ああ、前世のトラウマね……」

「トラウマじゃないわよ、ただ色々と言われた記憶を思い返してただけよ」


ユフィの過去の話は何度か聞いたことがあるのだけど、私が聞いた範囲でも、幼い子供が耐えきれそうもない出来事が彼女の身に起こっていたみたいね。あんな出来事をくぐり抜けたら、誰でも多少なりとも人生に達観ぐらいするだろうと思う。

だから、まあ、そう言われるぐらいは仕方ない気もするわね。クライス君の方は聞いたことがないけど……とてもじゃないけどまともな人生を歩んでいたら、あんな風にはならないと思うし。


「分かったわよ。ユフィの精神年齢の話を出すのは禁止ね」

「ええ、そうして。次に言ったら絶交するから」

「……本気でされそうだから気を付けるわ」

「気を付けてよね。本当に、この子のためにもストレスをかけさせないでよ」

「よくよく分かってるわよ。大事な旦那様の子供だものね」

「ええ……って、いい加減恥ずかしいんだけど」


そう言って頬を赤らめながらお腹をなでるユフィをからかうのは……さすがに、止めておきましょうか。前世で叶わなかったささやかな願いが、ようやく叶ったみたいだから……


「んっ……それでソフィア」

「何?」

「私の恋の話ばっかり引き出して、不公平よ。ソフィアの方こそ、誰かいないの?」

「誰かって?」

「とぼけないで。あなたが気になっている異性、誰かいないのかって話よ。あなた、一度も言ったことないわよね」


……なんて、珍しく優しいことを考えていたら、私に矛先が向いたわね……


「確かにそう、ね……」

「でしょう、で、誰?」

「ええ、いないわ」

「それは知ってるわよ。気になってる人ぐらいいないの?」

「いないわね」

「ほら、昔から知っている人とか、学校の友人とか……」

「昔から知っている人はだいたい同性なのよね。ほら、私の父って過保護でしょう」

「言われてみれば、そうよね」


私は周りが思う以上に箱入り娘だと思う。七歳になって王立学院に入学するまでは両親が同行しないと家の庭にでることすら許してもらえなかったし、男の子と会うなんて以ての外という過保護っぷりだ。まあ、学校の中で聞けばそんな貴族子女はいくらでもいたから、それは普通かもしれない。ただ、娘を嫁に出したくないという一心で成人した娘に一つも見合い話をよこさない、貴族の父親の溺愛度は流石に周りに引かれる気がするわね。

……あれで、普段は優秀な商務大臣だから、周りも言いづらいのかしら。


「うーん、たしか貴族同士の舞踏会にもほとんど出てなかったわよね」

「ええ、つい最近、レオン陛下が即位されるまでは年に二回の建国記念と国王の誕生日の時以外はほぼ断ってたわね」

「じゃあ、学校は?」

「子爵の分際で商務大臣に成り上がった父の娘として、当時のお偉方の子息に嫌われてた私に近づく物好きなんてほとんどいなかったわよ」

「それもそうね……」


実際、一時期は本当にひどかった。特に女性同士の陰湿ないじめは心に来るものが多いと、毎日のように勉強させられた。まあ、中等部に上がってからはあしらい方も多少は身について、ずいぶんと楽にはなったのだけど。


「でも、今の特待生クラスはそんなことないんじゃない」

「確かにそうね」


貴族やその子女の二人がユフィの親族になっている普通ならありえないクラスだし、残りはほとんどが平民だから、変な嫌がらせは皆無だ。特待生クラスのカリキュラム上、中等部時代のクラスメイト達とは顔を合わせずに済むので、確かに非常に楽になったと思う。


「なら、一人ぐらいいないの、気になってる人」

「あの変人だらけのクラスで好みのタイプがいるって相当じゃないかしら?」

「ちょっと、その中の一人が夫の私はどうなのよ」

「変人同士、天才同士でお似合いだと思うわよ」

「悪意しか感じないのだけど」

「悪意しか込めてないもの」

「どういうことよ」

「そのままの意味よ」


ユフィをからかいながら、話題を逸らす。私の好きな異性を聞かれたときに昔からしていたことだ。分からないよう巧妙に話題を逸らす術は日々、上達している。だから今日もそうする、いやそうなると思っていた。


「はあ。まあ、別にいいのだけどね、変人で」

「えっ……なんで?」

「前世の頃からそういう風に見られるのは慣れてるもの。それに……お似合い、って言ってくれたでしょう。その言葉が普段辛辣なソフィアから引き出せただけで十分よ」

「それを、笑顔で言い切れるユフィって……すごいね」


純真にただ純真にそう言うユフィの姿を見せられて、思わず本音が出てしまった。普段だったら、絶対に出ることのない本心からの言葉。慣れないその発言のせいで、少しだけガードが緩くなってしまっていたかもしれない。


「ソフィアに素直に褒められると、なんだか裏がありそうで怖いのだけど」

「あら、私だってたまには本音が出ることもあるかもしれないわよ」

「そう……って、誤魔化されかけたわね。それでソフィア……本当に一人もいないの?」

「そうね……もちろん、いないこともないわよ」

「やっぱり言わないわよね……えっ?」

「何を驚いているのかしら。私だって友人に恋の悩みの一つや二つ、相談ぐらいするわよ」

「えっ、うん……で、で、誰なのよ?」

「それはね……」




……思い返すのは初めて社交の場に出た日。慣れない空気感の下で笑顔を取り繕って過ごしていた私。そうして疲れ切って、それでも必死で父の後を追って挨拶回りを続けて、そして……あの人に声をかけられた。


「君、大丈夫?」

「えっ……私、ですか?」


最初は、自分に声をかけられたなんて思わなくて、今思うと失礼すぎる対応をとってしまったと思う。でも、そんなことを気にせず、彼は言葉を続けた。


「辛そうな顔をしているけど、こういう場は初めて?」

「えっ、は、はい……恥ずかしながらこの年まで家を出ることも少なくて、こういった場に出るのは今回が初めてです」

「別に恥ずかしがらなくてもいいんじゃないかな」

「えっ?」

「僕だって今日が初めての場だよ。君と立場は同じだろう」

「えっ、ええと……」


それはそうだろう。なにせ、この集まりは彼の誕生日を祝うものなのだから。なんて思う私を見透かしてか、彼は軽く笑って言った。


「そんなにかしこまらなくていいよ」

「で、ですが……」

「大丈夫、誰も見てないから」

「えっ……って、ここ」


彼について行くうちに、私は父と離れ、奥に入り込んでしまっていた。まずい、こんな場所で彼と一緒にいるのは、その、相当まずい噂が立って下手をすると……


「少しなら大丈夫だよ。だから休んでいったらいい」

「は、はあ……でも、私……」

「噂にはならないさ。私の家庭教師がどうにかするから」

「か、家庭教師の先生?」

「そこは気にしなくていいよ。それより、せっかくこんな状況になったのも何かの縁だし……一つお願いがあるんだけど?」

「な、何でしょう」

「だから、そんなにかしこまらなくっていいって。それで、お願いなんだけど……二人っきりのときだけでいいから…………」


その後、彼の言った言葉はすごく刺激的だった。絶対にダメだと分かっているのに、私は、その提案を了承してしまった。それから、私は彼とこっそりあって他愛もない話をするだけの不思議な交流を始めた。


それが、私の誰にも話せない、ほのかな初恋、だった……




「……ううん、やっぱり内緒」

「結局、言わないのね……」

「ええ。でも、いるって言っただけでもずいぶんな進歩じゃないじゃないかしら」

「そう言う言い方もできるかもしれないけどねえ……」


私の恋の相手は、絶対に口に出してはいけない相手。それでも、あの不思議な関係性も気が付けば無くなってしまっていたけど、明確な拒絶な言葉はもらっていないから……私も、少しぐらい夢を見たっていいでしょう。


「はい、これ以上口は割らないわよ」

「はあ、まあソフィアらしいけど……」


自分でも不思議なほど彼に惹かれている自分に気づいたのは……彼に絶対に手が届かないと、そう気づいた後だった。でも、手が届かない夢も持つことぐらいは自由だと思う。


「いつか聞かせてね」

「うん、いつかね」

「いつになるんでしょうね」

「さあ、どうでしょうね」

「話す気ないでしょ」

「話すわよ、絶対に」


どちらかが結婚して、本当に叶わなくなってから話す。だから話すということに嘘はない。それに……




「……名前で、呼んでくれないか」

「えっ」

「同い年の友人として話してくれないか。お互い、立場なんて気にしないで」

「そう言ってくださるのは大変光栄なんですが、やっぱり……」

「抵抗はあるよね、当然だよ。だから、慣れた後でいいよ」

「ということで、僕から呼ばせてもらうよ……ソフィア」


後で気づいたけど、彼は私を知った上で声をかけてきたのだろう。そんなことに後から気づいて、彼の前で赤面する羽目になった。そんなことも、もっと小さな出来事も全部、大切な思い出……




もう、今となっては呼んでくれない、呼ぶことのできない、お互いの名前。でも、彼が言わなくなってくれたのは良かったかもしれない。だって……


「……また呼ばれたら私、今度こそ、好きな気持ちを抑えられそうにないから」

「ソフィア、何か言った?」

「いいえ、独り言よ」


まあ、彼が結婚するまでは一人の女の子として夢を見させてもらおうかしらね。

面白かった点、気になる点、どんなことでも気軽に感想を書いていただけるとありがたいです。

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