とある夫婦と桜の話
おまけです。
ある晴れた春の日の夜。俺は街から少し離れた丘のふもとに来ていた。
「それで、なんでいきなりこんな時間に連れてきたの?」
「まあ、それは見てからのお楽しみってことで……」
「何、まさかヤバいものじゃないでしょうね」
「それは絶対にないと保証する」
「そう……じゃあ、とりあえずは信用するわ」
「というか、こんなただの丘に何があるっていうんだよ」
そんな風に騒がしく、彼女と丘を登って行った。そして、頂上に着いたところで彼女が息をのんだのが分かった。
「綺麗……」
「だろ……」
そこには巨大な桜の樹が一本だけ、ぽつんと立っていた。その枝には満開の桜が咲き誇っていて、満月を前にしてまるでこの世界の物ではないかのような美しさだった。
「……いつ、見つけたの?」
「子供の頃、あちこちを回ってた時にたまたま……で、近くに連れてきたら、必ず見せに来ようと思ってさ。まあ、前回は時期が合わなかったから二回目になっちゃたけど」
「そう……」
「で、一応儀式的なものはやったけど、そういえば改まっては一度も言ってなかったことを思い出してさ。だから、あの日の光景に近いここで、言っておきたいなって」
「何を?」
そうやって首をかしげる彼女をまっすぐと見つめて言った。
「……――――」
その言葉に彼女は微笑みながら泣いていた。そんな彼女がたまらなく愛おしくて、俺は彼女を抱きしめて、そのままその唇に自分の物を添えた……
俺達の影は月明りの中で桜の樹の影に遮られ、誰にも見られることのない二人の時間は永遠に止まっているかのようだった。
いつとも、だれとも言いません。ご想像にお任せします。
それでは本当にまた、半年後にお会いしましょう。




