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異世界でも貴女と研究だけを愛する  作者: 香宮 浩幸
第七章 使い魔と新たなる王国編
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とある賢者の回想録

お久しぶりです。受験勉強の気合入れに短編を書いてみました。

一度感想欄で書くと言っていたあの人の回想録です。


……初めて彼を見たときは、自分の目を疑った。


「せ、先生……奥様の子に、何か異常でも……」

「いえ、大丈夫ですよ」

「気を使わなくても結構ですよ。この子に関わることは奥様も何でも知っておきたいでしょうから」

「本当に大丈夫ですから、心配しないで下さい」


数年前から家庭教師兼治療術師として雇われているフィールダー男爵家で、クライスくんを取り上げたとき、私はその膨大な魔力量を感じて固まった。その魔力量は私も軽く越えていて、グラスリーさんや魔神に近いものがあった。


「ですが、先生。先ほど上のお兄様方とは明らかに違う反応をされましたよね」

「まあ、確かにそのような反応はしましたけど……」

「なら……」

「ただ、それが悪い知らせだとは一言も言ってませんよ……彼の魔力量を見るに、魔術師の才能がありそうだと思ったんですよ」

「魔術師……ですか」

「ええ、間違いありません……さて、もうミレニアさんの状態も安定したようですし、眠りを覚ましていきましょう」

「は、はい……」


フィーリアさんが私の話に納得してくれたところで、私は胸を撫で下ろした……彼女には話せない、もう一つの驚いたの理由があるからだ。


「(……この子、精神が異常だな。魂の定着具合も妙だし……何より記憶がある……前世のものみたいだけど……読めない)」


彼の中には新生児にはありえない程の記憶が蓄積されていた。そして、中の魂の定着構造も異常だった。


「(……今のセーラに近い構造だけど、妙だなあ……正しい転生に見えないこともないけど、人為的な異常性もあるし)」

「あの、コーラル先生?」

「……ああ、ごめん。少し考え事をしていただけだよ」


なんとなく、彼とは長い付き合いになりそうだと、そう思った。






彼の家庭教師になってから、その予想は確信に変わった。


「先生、今日は色々とお聞きしたいことがあるんですが……」

「その前に宿題はやって来たかい」

「はい、これです」


部屋に入ると同時に私に詰め寄る彼から、昨日渡した宿題の束を見て、いつものごとく絶句した。


「……これ、よく解けたね」

「ええ、先生に聞きたいことが色々あったので頑張りました」

「……そうか」

「あの、どこか、間違ってましたか?」

「いや……完璧だよ」


私が彼に対して出している課題はこの二年で急激にレベルを上げていた……今日の課題は王立大学入試問題レベルの数学に、七賢者の理論クラスの魔術理論の証明だった……そして、それを完璧に解答している。


「……それで、魔神戦争についてなんですが……先生、聞いていますか?」

「ああ、聞いてるよ」


彼の持つ知識レベルは危険だ。この世界に対して、あまりに過剰過ぎる。

私のことをある程度は信用しているからというのがあるからなのかもしれないが、それにしたって彼の知識は世界の活動をを壊しかねない。

更に彼は超越級の魔術師だ。その力を誤った方向に使えば、本当に世界を崩壊させることすら可能だろう。だからこそ、私はすぐにでも正体を明かして、彼を自分の監視下に置くべきだった。


……でも、できなかった。一人の魔術師として、彼の持つ知識と魔術が独力で発展していくのを見てみたかったから。


「……なるほど、納得しました。それじゃあ新しい魔術の習得の際って、その方法を応用できませんか?」

「よく気がついたね……ああ、できるよ」


……だから、たまに聞かれた時にアドバイスをするに留めた……結果、私はその発展の危険性にあの事件の日まで気がつかなかった……そう、彼が赤竜を単独討伐したあの日まで……






「……危ない…<氷神の氷結……ランス・オブ・ブリザ……


満身創痍で魔力もほぼ空の彼が赤竜を挑発して、それに向かって杖を突きだしたのを見て、私は彼が自暴自棄になったと判断して赤竜にとどめを刺そうとした……だが、彼の杖に氷属性の魔力が纏われ、彼が体の数か所に身体能力強化を施したのを確認して、私は発動を止めた。


……次の瞬間、彼に向かって飛び出した赤竜は彼を捕食しようと大きく口を開けた。そして、その大きな口の中に、突き出された杖が突き刺さった。そして、杖は一瞬の抵抗の後、赤竜の口内から頭蓋を貫通し脳に到達した。


「……あの年で、赤竜を単独討伐する、か……末恐ろしいね。しかし、あの程度の魔力でそうやって赤竜の突進を受け止めて、ましてや致命傷を与えられたのやら……早く聞いてみたい、というか、さすがにあれを見た後だといくらなんでも彼を監視下に置かなきゃ……しまった」


などと魔術考察をしながら、正体を明かす算段をしていた時だった。彼に向かって行く小さな影が見えた。おそらくはただのゴブリンだろう。それなりの戦闘能力を持ったものから見れば、野生動物とも遜色ないぐらいの戦闘能力しか持たない下級の魔物だが……今の彼には対処できない……


「もっとも、私がいなければという前提の話だが……全く、悪運の強いことだ……<岩石弾丸ストーンバレット>」


ゴブリンの脳天を打ち抜いて瞬殺した私はゆっくりと彼のもとに向かった。


「コーラル先生、なぜここに」


驚く彼に、平然と、あくまでなんともない風を装いながら、彼に何から話そうか、何から聞こうかを考えていく。


「赤竜が現れたと聞いてね、しかし一足早く討伐されていたようだね。これは君がやったのかい」

「はい、そうです」


第八階位魔術も飛び交っていたし、さっきの赤竜に対して与えた致命傷の件も気になる。さらに、全属性の魔術行使が可能な理由や、魂の矛盾、前世の記憶など、問いただしたいことはいくつもある……まあ、一つづつ聞いて行こう。


「では、先ほどの第八階位魔術も」

「……はい」

「そうですか」


彼の方も聞きたいことがありそうな顔をしているが、まあこれからいくらでも答えてあげられるし、私も質問はできる。だから、おそらく彼の質問は一つだろう。だったら、私も一番重要な話だけを先に確認しておこう。


「先生、前にもお聞きしましたが……」

「君の質問には答えよう、だがその前に私の質問に答えてくれ。<真実の眼トゥルーアイ>」


さて、彼の実力なら隠蔽は簡単だろうが……まあ、正直に答えないのなら、こっちにも色々と用意はあるんだが……


「私の質問に正直に答えてくれればいい、……君はまだ魂だけの状態の時に魔力の海を通らなかったかい」

「……それはそうですけど。なんで、そのことを知ってるんですか」


彼の反応的に、やっぱりこちらの正体にも薄々感づいているようだね……手間が省けて丁度いい。


「いつかは否定したが、改めて名乗ろう。古代に生きた七賢者の生き残り、マーリス・フェルナーだ。あらためてよろしく、クライス君」

「でしょうね」

「君、もう少し驚いてくれてもいいんじゃないかな」


……こうして初めての名乗りをぶち壊した彼は、同時に私の概念や常識も完全に壊してくれた。そして、同時に魔神討伐に対する希望も……まあ、クライス君が調子に乗ると腹が立つので絶対に言わないが……






「……あなた、そろそろ行きましょう」

「ああ、今行くよ」

「何か、考え事でもしてたの?」

「いや、少しクライス君と初めて会ったときのことを思い出してたんだよ」

「……いいわよね、あなたは」

「いきなり、どうしたんだい?」

「だって、あのクライス君の幼少期よ……絶対可愛いかったに決まってるじゃない」

「はあ……」


実際はとんでもない知識量と、転生したが故に中身が大人のためにただの小生意気な子供だったと思うのだが……それを言ったら、セーラに殺されるから止めておこう。


「……それに、クライス君を何となく、息子みたいに見てたところもあるから、その小さい頃の様子も見てみたかったから……」

「セーラ……」


セーラは幼い頃は教師になりたいと言っていたほど、昔から子供好きだった……だが、こんな屈折した千年に巻き込んだせいで、彼女には自分の子供を抱くというう夢は千年も先延ばしにされたままだ……俺のせいで潰してしまった。そのことに自分勝手な罪悪感はずっと感じている。


「……気にしないでいいよ。それより、あなたはクライス君のことをどう思ってるの?」

「えっ……うーん、そうだなあ……」


俺の気持ちを察して掛けてくれたセーラの言葉に、クライス君との生活を思い出して考える。そして結論が出た。


「……弟、かな」

「弟?」

「優秀で頭が良くて、喧嘩ばかりしている弟。息子というよりはそっちかな?」

「そう……でも、私は将来子供ができるならクライス君みたいな男の子が良いな」

「そ、そうか……まあ、魔神を倒したら、頑張らないとなあ……」


……いろいろな意味でな。あんな息子だと、親子喧嘩で気を抜いたら命まで取られそうだし……


「うん、よろしくね、マーリスさん」

「……ああ」


でも、そう言うセーラが昔のように微笑むのを見て、その辺りはどうでもよくなった。まあ、ともかく……


「……まずは魔神を倒さないとね」

「ええ。さて、クライス君に伝えに行きましょう」

「ああ……魔神復活の前兆について、な」


きっと王都で前世の妻と再会して学園で青春を謳歌しているであろう彼には申し訳ないが、急いで伝えなければならない。おそらくこの世界で最も魔神に対抗しうる力を持っているのは間違いなくクライス君なのだから。


「さて、出発しようか」

「はい。シルヴィアちゃん、準備はいいかしら」

「はい、いつでも問題ありません」

「じゃあ、行くわよ。二人とも乗って」


クライス君のいる王都までセーラに揺られて約一週間……その間に伝える内容をまとめて……


「……後は、彼の力を一度見てみようか……自分自身の手で」

「あなた、クライス君にけがはさせないでよ」

「分かってるよ……ただ、今しかできないからね」


魔神戦争が始まれば、彼を負傷させるのはご法度だし、魔神が討伐されれば私の力は一気に落ちていく……最盛期の私と彼が戦えるのは今しかないから。だから、彼の魔術に、一度だけでも全力でぶつかってみたい。師匠としてはもちろん、一人の魔術師として……


「さて、どんな理由なら彼が本気で乗って来るかな……」

「あなた、くれぐれも王都や住民に被害を出さないでね。後、シルヴィアちゃんやクライス君の想い人に手を出すのも禁止よ」

「分かっているよ……」


そんなセーラの注意を上の空で聞き流しつつ、私は久々の血の踊る魔術戦闘に胸を躍らせていた。


「……メビウスの嫉妬以来の激戦が楽しめそうだな」

「メビウス君の嫉妬ってどういうことかしら?」


セーラの厳しい追及に会いながら、私達は着実に王都へと向かって行った。

それでは、みなさん、またいつか。

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