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異世界でも貴女と研究だけを愛する  作者: 香宮 浩幸
第七章 使い魔と新たなる王国編
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第百二十七話 魔神復活の刻迫る

という訳で、長かった七章本編もこれで終わりです。ついでに章タイトルも正式版になっております。


ここまで読んでくださった皆さん、ありがとうございます。本編はしばらく休載させていただきます。


詳細は一時間後に活動報告であげさせていただきます。


「やっぱり前の主については話さないのね……主に対する忠誠かしら?」

「それもあるにはあるが……一番の理由は前の主に契約で縛られているからだな」

「契約……闇魔術精神魔術系の派生技術かしら?」

「ええ、相当強固に縛られて、話そうとすれば神経に作用して激痛が生じる」

「でも、不死鳥なら、痛みを端から無効化すれば平気なんじゃない?」

「無効化できるなら最初からそうしている。そうできないよう色々と細工がなされているのでね」

「破ってあげましょうか?」

「興味本意ではやめてくださいよ……下手に術式をいじったら存在が消える」


セーラさんは相手のもと主のが伝説に近い人物ということで、なんとかその話を聞き出そうとしていた。そんな様子を眺めながら、俺はのんびりとお茶を飲んでいた。


「ふう。ここも随分と久しぶりだな……前に来たときは、シルヴィアさんを送って行って、すぐに帰ったし……本当に約七カ月ぶりか……」

「何をお爺さんみたいな発言をしているのよ」

「そうは言っても、俺も詩帆も精神年齢は五十手前だぞ」

「それは、それ。体は十五歳でしょ」

「それはそうだけどな……」


セーラさんの書斎を覗いていたらしい詩帆が、そんな風に俺に絡みながら隣に座った。


「私にも、お茶をもらえるかしら」

「……どうぞ」

「……お茶を飲む片手間で<亜空間倉庫ディメンジョンボックス>を開いて、目的の物を完璧に把握しているとか……はあ、追いつくのは一苦労ね」

「別に追いつかなくてもいいだろう。俺の隣に立つだけで十分だろう」

「意味、同じじゃない?」

「じゃあ、言い換えよう。俺について来て、追いすがっていればすぐに越えられる」

「妙に上から目線ね?」

「この世界では魔術の実力以外で詩帆に勝っている面なんてほぼ皆無だからな。それぐらい誇らせてくれ」

「他にもいろいろあるじゃない」

「そうか?」

「……いつも私はあなたに救われてるから、ね」

「んっ、何か言ったか?」

「別に」


冷たい声とは裏腹に、詩帆は少し機嫌よさそうにお茶を飲み干して……むせた。


「ゲホッ、ゲホッ……」

「落ち着けって……」

「落ち着いて……ないけど……気にしないで」

「気にしないけど……大丈夫か?」

「大丈夫だから……ちょっと焦って飲んだらむせただけよ」

「焦った理由が気になる……けど、聞かないから安心しろ」

「そう、それならいいのだけど」


詩帆の視線が緩んだのを確認して、俺はそっと心の中で胸をなでおろした。そこで同時に一息をついた詩帆が周りを見渡してから、師匠とシルヴィアさんがいないことに気づいたようで俺に怪訝な視線を向けた。その視線に答えて、俺は口を開いた。


「師匠は地下にいるよ。シルヴィアさんは少し自室を整理してくるって」


シルヴィアさんの自室は、俺が修業期間に使っていた部屋だ。全ての荷物は俺の<亜空間倉庫ディメンジョンボックス>に入れるか、師匠の書斎に戻しているので、綺麗な空き部屋になっていたそこをシルヴィアさんが使っている形だ。


「そう……で、あなたはホルスと話さなくていいの?」

「俺は今後、一緒に過ごす予定だからな。そこでいつでも喋れるから、今、焦って聞き出す必要がない……後、今セーラさんの質問タイムを邪魔すると、後が怖いしな」

「それは、確かにそうね……」


セーラさんは狂気じみた喰らいつき方で、ホルスに質問を続けていた……セーラさんと師匠って本当にお似合いな夫婦だな。自身の魔術分野に対する貪欲すぎる愛がすさまじい。


「それで、師匠さんは何をしに地下室に降りたのかしら?」

「うーん、昔の仲間たちへの挨拶と……後はいつものじゃないか」

「いつもの?」

「ああ、そういえば言ってなかったな。師匠は……」

「……すっかり忘れていました。セーラさん」


俺が詩帆に師匠がやっている魔神の魔力のトレースについて話そうとしたとき、珍しく声を荒げたシルヴィアさんが部屋に飛び込んできた。そして、そのままセーラさんの方へ向かった。それに合わせて、ようやく質問地獄から逃れられるといった感じで、ホルスが俺の肩に飛んできた。


「セーラさん、そういえばディアミスはどうなったんですか?確かセーラさんが確保したって聞いたんですが」


そのシルヴィアさんの言葉に俺は瞬時に記憶を漁った……ディアミス……誰だったっけ……


「ディアミス……ねえ、雅也。誰なの?」

「……ディアミス、ディアミス……ああ、思い出した、シルヴィア嬢の弟だ」

「つまりフォレスティア王国の王太子ってこと?」

「そうだな……そういえば、シルヴィアさんってフォレスティアの王女だった」

「忘れないでよ。それで、その弟君がどうしたの?」

「いや、詩帆には言いづらいんだけど……その弟君が、興味本位であのクーデターに参戦してたんだよね」

「ひょっとして、私を昏倒させた魔術師かしら?」

「だろうな。詩帆を反撃どころか逃走すら許さずに気絶させられるとしたら、そいつぐらいしか可能性がありそうな奴はいないし」


そういえば、ディアミスはエリザベート姫を監禁していた隠し独房で俺が撃退してから消息不明だったな。いや、セーラさんが拘束していたことは知ってる。俺は詩帆とレオンの行き先を奴から聞き出したのだから……んっ、じゃあ、あいつはあの後、どこに行ったんだ?


「セーラさん、それで弟はどこに……」

「ああ、そういえば、忘れていたわね……どこに監禁したかしら?」

「わ、忘れてるんですか……」

「大丈夫よ。片端から探せば、どこかにいるから……でも、たぶんあの時に使ったとしたらこの子でしょう……<召喚サモン 次元喰らいディメンジョンイーター 秘密の部屋ルーム>」


セーラさんの詠唱とともに、部屋の真ん中に暗い穴が開いた。そしてそこから、ゴトリと音がして何かが転がり出てきた。


「ああ、これだったみたいね」

「あ、あのセーラさん……確かにディアミスですけど……氷漬けですよね?」

「そうよ」

「ディアミス……せ、セーラさん、大丈夫なんですか?」

「落ち着いて、シルヴィアちゃん。死んではいないから」

「は、はい……」

「なるほど、凍結させて仮死状態にしているんですか?」

「うーん、詩帆ちゃん惜しいわね。どちらかといえば<氷結領域アイシクルフィールド>に近いかしら」

「つまり、氷魔術の概念を持って相手の動きを制限しているだけと」

「そういうことよ。時が止まっていたのは次元喰らいディメンジョンイーターの効果で、特殊な<亜空間倉庫ディメンジョンボックス>に入っていたからよ」

「なるほど……」


確かに<生命探索ライフエクスプロール>で見る限り、ディアミスの生命力に異常はない。さすがはセーラさんだな……ただ、


「セーラさん、なんだか魔力が少しずつ目減りしている上に、生命活動に必要なギリギリのラインで止まっているんですが……」

「ああ、それはこの氷を作り出した召喚獣の効果よ……<召喚サモン 冥界神の眷属プルーティア 死の霊鳥ヤタガラス>」

「……お呼びですか……セーラさん」

「この氷を溶かして」

「はい……終わりました……では、さっさと帰してください」

「暗いのはいつものことだけど……何を急いでいるの?」

「召喚獣対抗麻雀大会です。不戦敗になった蒼不死鳥のようにはなりたく……って、ここにいたんですか」

「待て、不戦敗になってるのか」

「はい」

「主、一度戻してくれ」

「いいけど……お前ら、たかが麻雀に必死すぎるだろう」


そう言いつつ、俺とセーラさんはほぼ同じタイミングでホルスと 死の霊鳥ヤタガラスを送還した。


「本当に召喚獣たちはいろんな世界の文化を引っ張ってくるから楽しいわね……」

「さっきの発言だけ聞いてるとただの麻雀にはまり込んだ学生ですけどね……うーん、水輝君と話、合いそう」

「本当ね……はあ、水輝、ちゃんとやってるかしら?」

「大丈夫だろうよ。夏樹さんもいるだろうし……」

「いるって確信してるということは、何か細工をしたの?」

「少し、な……」

「ううっ……」

「ディアミス……」


水輝君の現在を詩帆と論じていると、ディアミスがゆっくりと目を開けた。それに気づいてシルヴィアさんが駆け寄った。


「シルヴィア、姉さん……ううっ」

「無理はしない方がいいわよ。罰がてら、私との魔術戦で怪我したところは一切治していないから」

「そんなのは、どうでもいい……それより、姉さんも、賢者もいるなら丁度いい……遊びに来てたのも、事実だが、伝えなくちゃ、ならないことが、あったんだ」

「先に言いなさいよ」

「それを言う前に凍らされたんだよ……とにかく、俺はどれぐらいこうなってたんだ?」

「約一月ね」

「じゃあ、後一か月か……」

「どういうことだ?」

「それについては私が話そう。たぶん、私と同じ話だろう」

「師匠?どういうことですか」


ディアミスの話を遮ったのは、いつの間にか地下室から戻って来ていた師匠だった。


「どうもこうもないがね……魔神復活のリミットが正確に把握できた」

「それって……」

「ああ、君の思う通りだ」


魔神の復活に足る魔力量は、それに近づけば近づくほど、正確な量が掴めるほどに強く観測できる……つまり


「魔神復活のリミットは……」

「もう、ほぼない。断言しよう、一月後、魔神がこの世界に再び現れる……そろそろ覚悟を決めなくてはね」


師匠のその言葉に部屋は完全に沈黙に包まれた。


この時、俺は魔神をどのように倒すか、などということに思考を既に移動させていた。


だが、それがどれだけ甘い考えだったか、それを思い知らされるのはもう少し先の話だ。なぜなら、俺達は魔神が本当は何なのか、何も知らなかったのだから。


だけど、その時の俺は不謹慎にも笑っていた。再び自分の全力を出せる相手に出会えるということが楽しみで……


俺は、どこまでも無知で愚かだった……ただ、この世界にそれを指摘できる人間は、まだ……






いなかった――――――



非常に意味深なエンドですが、本編は来年四月一日まで更新を止めさせていただきます。詳細は活動報告に上げます。


最後に、面白ければ、ブクマ、評価などいただけると嬉しいです。

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