第百十九話 重く軽い帰省
読んでくださる方、いつもありがとうございます。本日二話目の投稿です。
ブクマ二百件突破したのを記念して、と言うか嬉しすぎて筆が進みました。誤字が多かったらすみません。
同日23:38追記 と思ったら気づかないうちに百九十九件に下がってました。誤報でした、すみません。
「みなさん、お待たせしてすみません」
「大丈夫だよ。俺達もずっとだらだら喋ってただけだか、ら……」
休日の朝。俺の屋敷の庭に集合して<座標転移>でフィールダー子爵領に向かおうということで、俺達は準備に手間取っていた詩帆を待ちながらのんびりと談笑しながら時間を潰していた。と、そこに遅れてきた詩帆がやって来たのだが、俺はその姿に思わず息をのんだ。
「あの、変、かな?」
「……今すぐ部屋に戻ろうか」
「えっ、やっぱり変だった……じゃあ、今すぐ着替えて……」
「馬鹿。こんな綺麗な君を人前に出したくないだけ……ゴフッ」
「お兄様。気持ち悪い発言は慎んでください」
「気持ち悪いか。好きな女の子に対して当然の反応……ゴフッ」
「雅也。恥ずかしいからいいかげんにして」
「すいません、でした」
普段のローブ姿や伯爵令嬢らしい豪奢なドレスとは違ってシンプルな白いワンピースに着替えた詩帆は本当に可愛かった。顔立ちも相まって本当に人形のようだ。それを集約して言葉にした結果、リリアと詩帆に一発ずつ叩かれた上で精神ダメージを喰らうことになった……今後は二人きりの時以外は発言に注意しよう。
「それで……本当におかしくない……その、婚約者の、ご両親に、挨拶に行く、令嬢の服として……」
そう、今回の帰省の一番の目的は俺と詩帆の婚約報告である。もちろん俺が貴族位を得たことによる爵位や財産の継承権の放棄の手続きなどもあるにはあるが、あくまでそれはついでだし。
「ルーテミア王国の貴族的なルールとしてなら問題ありませんよ。と言うかその辺りはだいたいどこの国でも似たり寄ったりですが、よっぽど奇抜な服でなければ問題ないかと」
「私も同意よ。こんな清楚な雰囲気漂わせて、文句を言う相手方の親はそうはいないと思うわ」
「後、お父様はこういう清楚な女性に弱いのでおそらくドンピシャかと。お母さまもそういうタイプですし……まあ、内面はそうでもないのですが、それは……ユーフィリアさんも同じですし」
「そう言われてしまうとそうだけど……ともかく、大丈夫そうで安心しました。ありがとうございます」
シルヴィアさんもセーラさんも大絶賛でリリアに至っては裏話まで用いた断定だ。それに至ってようやく詩帆も安心したようでいつものように穏やかに微笑んでいた。するとそこで何かを思い出したかのように後ろを振り向いて、その人物に声をかけた。
「ああ、そうでした……フィーリアさん、ありがとうございます。私じゃどうしても決めきれなかったので」
「いえいえ、クライス様の婚約者で、しかも魔王戦争の英雄でもあるユーフィリア様のお力になれて、光栄ですよ」
「それは……」
「英雄と呼ばれるのは嫌がっておいででしたね。失礼しました」
「確かにフィーリアさんがいてお父様の趣味を外すわけがなかったですね……よく考えてみれば当然でした」
そして今回の旅行の同行者には俺の子供の時からの世話役であるフィーリアさんも含まれている。この半年間、フィールダー子爵家の王都屋敷で使用人として働いていたのだが、夫である執事長が子爵領勤務であることもあって、俺達の生活も安定したのを機に子爵領に戻ることになった。もっとも、元々はもっと早くになる予定だったのだが……
「すいません、色々とあったせいで遅くなりまして」
「いえいえ、私としては様々なことが経験できましたし、何より王都での生活はそんなに悪いものでもありませんでしたし」
「いえ、色々とまずい事件に巻き込まれた僕の責任ですので」
「しかし、その全てを解決されて今では伯爵となられました。その軌跡を真近で見られたことは幸運ですらあります。良い土産話ができました」
「はあ。まあ、そう言っていただけるのなら」
「なにより、婚約の報告に向かう旅に同行させていただけるのはとても光栄ですから」
「……はうっ。もう、フィーリアさん、さっき落ち着いていたんですから婚約とか蒸し返さないでください」
「これは失礼しました」
詩帆が初めて俺の両親に会いに行って、しかも婚約報告をするというのにものすごく緊張しているのが伝わってくる。両親の性格をよく分かっている俺としては、心配するほどでもないと思うのだが……まあ、分かっていたとしても緊張はする、か。
「詩帆」
「な、何かしら」
「緊張するな。大丈夫だから」
「な、何が」
「俺が付いてるし、第一俺も伯爵だ。両親が許してくれないのなら強引にでも娶ってやる。だから安心しろ」
「う、うん……」
「し、ユーフィリア義姉様」
詩帆の耳にそう囁くと、そのまま詩帆は顔を真っ赤にしてうずくまってしまった……復旧には時間がかかりそうだし介抱はリリアに任せようか。
「クライス、お前なあ……何を言ったのかは知らないけれど、そういうことは二人きりの時にやれよ」
「そっくりそのままブーメランだからな。おまえの王都行の時のマリーとの会話をそっくりそのまま聞かせてやろうか」
「……そうだったか?」
「とぼけるな」
「クライス君、少しいいかな?」
「はい、こいつはどうでもいいので」
「おい」
絡んでくるアレクスを無視して、師匠の方を振り向くと師匠が至極まともなことを聞いてきた。
「それで、転移先はどこにするんだい?下手に領主館の近くとかにすると人を巻き込みかねないよ」
「領主街から少し離れた街道の上空です。そのために馬車を用意したんですから」
「なるほど。確かに転移系の魔術。しかも王都と子爵領を一瞬で移動できるというのは伏せておいた方がいいからね」
今回、俺達は馬車で王都を出て、俺の魔術で上空を高速で移動して一週間で到着したということにする予定だ。それでもだいぶ無理があるが、まあ俺の魔術の異常性は今更だからな。後、そのおかしな点に気づきそうな魔術師は大体が俺の部下だからというのも安心材料の一つだ。
「とにかく、一般の人々に異常な転移魔術が知られなけらばいいですからね」
「そうだね……さて、それじゃあそろそろ行こうか。さすがに君のお父さんは領主だから王都で起こった出来事の大半は把握しているとは思うけど……まあ、文書じゃ得られる情報もあくまで重要なものだけだろうから、中心人物であった君の話は色々と聞きたいだろうし」
「そうですね……まあ、重い話も色々とありますから。でも、ただ実家に帰るだけですからね」
「ああ、気楽にいこう。私は君の父親と会うのは五年ぶりになる訳か……さてと、どう誤魔化そうか」
五年前、師匠が俺を連れ出した時には色々とはぐらかしていたが、今回はそうもいかないだろうしな……まあ、それは今のように師匠が頭を抱える話だし、俺が気にする必要はないな。
「さて、と……リリア、詩帆は?」
「大丈夫そうですけど……本当に私に介抱を押し付けないでくださいよ」
「妹を信頼してるんだよ」
「誤魔化されませんよ、それぐらいの言葉じゃ」
「……うん、俺の妹だわ」
「どういう意味ですか」
「そのままの意味だな」
本当に最初に会った頃のお兄ちゃん大好きっ子だったリリアが懐かしい。今では外では聖女、俺には悪態をつく可愛くない妹だ。まあ、詩帆もそういうタイプだし、そういう甘えてくるところが可愛いと思える俺はやっぱりシスコンなのかもしれない。
「さてと、皆さん。そろそろ馬車に乗り込んでください。出発しますよ」
そう声をかけると各々馬車に乗り込み始めた。ちなみに今回用意した馬車はもちろん行きに使ったものとは違う。行きに使った馬車では六人以上は乗れないからな。だから俺が十五人乗りの大型の馬車を買って、さらに三頭の馬を借りてきた。
「でかい馬車だな……で、いくらしたんだ?」
「馬の貸し出しも一括でやったから馬車の値段は知らないけど……合計で金貨五十枚ぐらいは出したかな」
「つまり……五十万アドル、ってことか?」
「そういう計算だけは早いのな、お前」
「そういう計算だけ、ってのは余計だ」
日本円にして五百万円の買い物。前世でも普通に躊躇する額だが、この世界ではたいしたことなく感じてしまう……うーん、浪費と詐欺には気を付けよう。
「アレクス君、クライス君、早く乗ってください」
「ああ、今乗る」
ちなみにこの馬車の席は電車の座席のようになっており、最後尾と右前方側面、前方以外の場所にぐるりと囲むようにして席があるという感じだ。俺は魔術行使のために視界がいい前方の御者席に、馬の手綱を取るフィーリアさんの隣に座った。向こうに転移して、地上に着いたら中に戻って前側の席に座る予定だ。
「それでは、皆さん行きます。フィーリアさん大丈夫ですか?」
「はい、いつでも……ああ、ただ馬たちが驚くかもしれませんので、急激に景色が変わらないようにできませんか?」
「それならお任せください……<幻影>……これで大丈夫かと」
俺の見せた幻影によって馬たちは転移した後、地上に設置するまでは俺が作った仮想の風景を見ることになる。これなら大丈夫だろう。
「では、いつでも構いません」
「分かりました……<座標転移>……<空中歩行><不可視化>」
「……一瞬で景色が……これが転移魔術ですか」
俺が移動させた場所はフィールダー子爵領の南部の森の端。その上空に外から見えないようにして、空中に足場を作って馬車を移動させた。さすがの俺でも半分近い魔力がもっていかれたが、まあ今日は師匠とセーラさんもいるし仮に竜が出てきても問題ないだろう。
「このまま足場を前方の街道に向かってゆっくりと下げていきますので、そのまままっすぐ進んでいただければ」
「ええ、行きでも同じ工程があったので問題ありません、では馬車を動かしますね」
その言葉と同時に手綱が振るわれ、幻影ではまだ王都にいるはずの馬たちはゆっくりと動き出した。地面に着く直前ぐらいに王都の門を出て街道の景色につなげてやれば違和感はないだろう。などと考えながら幻影をいじっているうちに、馬車は非常にスムーズに街道に着地した。
「見事な手綱さばきですね」
「いえ、クライス様のスロープのつなぎ目が綺麗だったおかげですよ……それでは中に戻っていただいて問題ありませんよ。門が見えましたらお知らせします」
「分かりました。ではお願いします」
そう言って馬車の中に入ると、全員思い思いにくつろいでいた。馬車の後方では師匠たちが三人で何やら魔術談義をしていて、中央部では久しぶりの帰郷に喜んでいるアレクス達が三人で外の景色を見ながら騒いでいた。そして最前方で楽しそうに会話をしていたリリアと詩帆が俺に気づいて声をかけてきた。
「お疲れ様です、お兄様。後十分ぐらいで領主街ですか」
「だいたいそれぐらいだと思うよ」
「えっ、もうそんなにしかないの……まだ言う言葉考えてないのに」
「いや、男性が女性の家に行って娘さんをくださいと言うならともかく、逆ならそこまで考えなくても」
「色々とあるのよ。雅也も手伝って、と言うか手伝いなさい」
「命令系かよ」
「お兄様、私も手伝いますから」
「ああ、頼む」
こうして領主街に着くまでの間、俺は不安そうに思いを巡らす詩帆の言葉と言うか愚痴をリリアとともに兄妹揃って聞き続けることになるのだった………
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