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異世界でも貴女と研究だけを愛する  作者: 香宮 浩幸
第七章 使い魔と新たなる王国編
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第百話 王国新体制発足

お待たせしました。新章開始です。これからもよろしくお願いします。


章タイトルが半分空欄なのはネタバレ防止です。


王城の前に広がる広大な広場。そこに王都の人々が集まっているのを見ながら、俺は……


「ふわぁぁぁあ……眠い……」

「ちょっと、雅也。しっかりしてよ」

「仕方ないだろう。つい数日前まで最低限のレオンとの会談以外はベッドに縛り付けられてたんだから」

「私のせいじゃないわよ。あなたが、今眠いって言っているのは、昨日の夜遅くまで王立図書館から手に入れてきた論文を読み漁ってたからでしょ」

「さあて、どうでしょうねえ」

「あなた……ローブにあてると怒られそうだから、それ以外の場所に直撃させるわよ」

「すまん。冗談だって」


眠い目をこすりながら、王城の一室で詩帆といっしょにいた。眠い理由は詩帆のおっしゃる通りです、はい。


「まったく……外は十五歳の少年でも中身は四十歳も越えてるんだから、それぐらい弁えてよね」

「年齢が増しても研究に対する好奇心は変わらないけどな。詩帆も医学という学問に携わる者として分かるだろう」

「分からないでもないけど……って、重要な式典の前日に深夜までやることじゃないでしょう」

「重要な式典って……たかがレオンが国王に即位するだけだろう」

「だけって……大国の国王の即位式典よ。しかもあなたはあそこの一般民衆の中の一人じゃなくて……王宮筆頭魔術師、なんだからね」


そう言いながら詩帆は俺の方を見て、クスリと笑った。


「だから、笑うなよ」

「いや、だって何と言うか貫禄が出るなあと思って……似合ってるわよ」

「だったら笑うなよ」

「似合いすぎて笑えるのよ」

「そうかよ……」


今日はレオンの正式な王位継承の式典の日だ。ということで今度王宮筆頭魔術師に就任する俺は、王国に代々伝わる筆頭魔術師の式典の際のローブを纏っている。全体的には青や緑系統の色合いでまとめられていて、そこに金や銀の装飾がなされている感じだ。


「まあ、普段のあなたを見ている私が見ると思わず笑いがこみ上げてくるだけで、普通に知らない人が見たら、まあ風格漂う魔術師に見えるわよ」

「そうかよ……まあ、それを信じておこうか……で、詩帆はまさか俺をここまでいじっておいて、自分の服装は何も言われないとは思っていないよな」

「逆に何か文句があるなら言ってみなさいよ……」

「言ったな。じゃあ言ってやるよ……」

「ええ、どうぞ」

「可愛すぎないか……」

「えっ?」


俺のストレートな誉め言葉に、一瞬詩帆が怯んだ。


「……この状態で、他の男の前に出したくない」

「……雅也……」

「いや、正直言ってこのままずっと愛でていたいレベルだわ」

「……バカ」


さて、そんな詩帆は魔王戦争での功績で爵位を与えられるはずだったのだが、詩帆自身がこれをきっぱり拒否したため急きょ、別の褒賞に変更された。

……何でもレオン達相手に「私はクライス様の妻という立場で一生構いません」とか、可愛いことを言ってくれたらしい。


「いいじゃないか。別に二人だけなんだし」

「それでも恥ずかしいものは恥ずかしいの……まあ、頑張ってコーデを考えたから、雅也に褒められるのは嬉しいんだけど……」


そんな詩帆が着ているのは、緑色を基調とした落ち着いた色合いのドレスだ。そこまで色味がきつくないので彼女の流れるような金色の髪にも映えている。しかも普段はおろしている髪を後ろであげてまとめているので、首筋からのぞくうなじが何とも……


「痛っ……し、詩帆。一体どうした?」

「一瞬、身の危険を感じたのよ」

「そ、そうか……気のせいじゃないか」

「そう。それならいいんだけど……まあ、ともかく誉めてくれてありがとう。雅也」

「う、うん……」


そうやって微笑む姿に思わず呆けてしまうのは、詩帆に初めて恋した時からの癖かもしれない。俺がこの世で一番美しいと思えるものは、きっとこれだ。


「雅也……これからも頑張ろうね」

「ああ。まあ、とりあえず魔神を倒せないとな……」

「大丈夫。雅也なら世界ぐらいさらっと救って帰って来るって信じてるから……キャッ」


そういう詩帆がたまらなく愛おしくて、俺はそっと彼女を抱きしめた。


「うん、分かった。絶対に勝ってくるよ」

「もう……まるで決戦前夜みたいなことはやめてよ」

「詩帆が可愛いこと言ってくるから悪いんだよ」

「もう……」

「取り込み中、すまん。クライス、そろそろいいか?」

「うおう……」

「キャッ……」


気が付くと背後にいたレオンを見て、俺と詩帆は慌てて離れた。


「いつから、そこに……」

「……可愛すぎないか……」

「後半ほとんど全部聞いてるじゃないかよ」

「馬鹿雅也……」

「ははは、ユーフィリア嬢。すまない。あまりにクライスの変わりようが面白くて、つい、な」

「それにしたって趣味が悪いぞ。ノックぐらいしろよ」


詩帆に本気でわき腹をつねられながら、俺はそうレオンに反論した。


「何度もしたさ。なあ、ハリー」

「ええ。まあ、そうですね……あっ、私は部屋の外にいましたので何も聞いてはいませんよ」

「聞こえないほど二人の世界に入り込んでいたクライスが悪い」

「うっ、暴論だけど否定できない」

「さてと、そろそろ式典開始だぞ」

「もう、そんな時間か……」


見ればレオンも普段見たことがないほど豪華な、まさに国王と言った感じの衣装に身を包んでいるし、ハリーさんも普段は見ない貴族の儀礼服に着替えていた。


「レオン……」

「何も言うな。というかこれは式典用の儀礼用の正装だからな。普段着る奴はもう少し質素だぞ」

「分かってるよ。さて、それじゃあ行きましょうかね」

「ああ。急ごうか」

「ええ。式典開始までは十分を切ってますよ」


ハリーさんのその言葉に、俺達はすぐに部屋を出た。






「これは、壮観だなあ」

「そうか?見慣れすぎて、私は何も感じないんだが?」

「だろうな」


一階の王城の正面の大扉前の大部屋に入ると、そこには既に多くの閣僚陣や魔王戦争で活躍した人々がそろっていた。


「……というか、ずいぶん顔ぶれが様変わりしてるな」

「変わっていないのは半分より少ないぐらいだからな」


レオンの言葉通り、戦争の後に戦死していなかった閣僚たちの中にも相当数の不正を行っていた人物がいたため、戦争前から変わっていない閣僚は全閣僚の三割もいないだろう。


「まあ、変わった人間が多い方が組織の見直しになっていいだろう」

「引継ぎのせいで、下の方は大混乱だろうがな」

「安心しろ。一通りの作業が終わったら、順に長期の休養を取ってもらうからな」

「それだけ、激務ってことかよ……」

「ああ、レオン殿下。それにローレンス次期宰相殿にフィールダー次期王宮筆頭魔術師殿。それにグレーフィア嬢もいられますね」


そんな風にレオンと話していると、ドレス姿の眼鏡の女性が近づいてきた。


「レオン、彼女は?」

「王室庁の次期大臣リュエル伯爵だ」

「女性当主の大臣って珍しいな」

「それだけ有能ということだな」

「殿下。そこまでのものではありませんよ。フィールダー筆頭術師殿。私、エーフィア・フォン・リュエルと申します。ご挨拶が遅れましてすみません」

「いえいえ、お気になさらず。改めましてクライス・フォン・ヴェルディド・フィールダーです。今後ともよろしく」


ちなみに王室庁は前世で言う宮内庁に近いもので、王室の式典や儀礼用の物品の管理。後は王家の人々の生活の手助けや、王室の帳簿の管理を行っていた。まあ、先代の時は帳簿の管理なんかは全くできていなかったが。


「ちなみに、前職者はどうなったんだ?」

「戦死されたよ……実に惜しい人を無くしたものだ」

「何をやらかしたやつだったんだ」

「……嫌味を即刻で理解しないでほしいものだな」

「悪いな。人の裏を読むのは好きなもので」

「そうか……」


俺とのあいさつの後、リュエル伯爵はすぐに去ったので、俺とレオンの口調はため口に戻っている。公的な場所でやったら不敬罪で処罰されかねないな。特に今後は。


「それで、実際に何があったんだ?」

「それは今度話そう……ところで、だ」

「何だ?」

「お前とユーフィリア嬢の愛称のマサヤとシホって何が由来なんだ?」


レオンのその言葉に、ざっと周りを見渡したが詩帆はソフィア嬢の父のフローズ商務大臣と話しているし、ハリーさんはローレンス公爵と話していた。なら、いいか……


「……前世の名前だよ」

「どういう意味だ?」

「式典前に二時間ぐらい時間があるなら話すが……」

「分かった。じゃあ、私の方の秘め事も含めて、今度話そう」

「……分かった。ちなみに秘め事って、隠し子とか?」

「……近い、な」

「えっ……」


レオンが真顔でそう言ったので、俺は一瞬硬直した。


「まあ、それも含めてまた今度だ」

「ああ、そうか」

「皆様。まもなく、式典を開始します」


会話が終わったタイミングで王城正面入り口の前に立って、リュエル伯爵がそう言った。


「さてと、それでは行こうか」

「行ってらっしゃいませ。陛下」

「フィールダー子爵公子。まだ殿下だ」

「そうか……では、殿下、行ってらっしゃいませ」

「ああ」


そう言ってレオンはゆっくりと開く入口から、人々が集う広場へと向かった。レオンが外に出ると、先に外に出ていたローレンス公爵の下へ向かう。ゆっくりと公爵の前に歩み出ると、公爵はゆっくりと口を開いた。


「汝、レオン・アドルフ・ルーテミアは死す時まで、この国の全ての民の命をその身に背負うことを誓うか」

「誓います」

「それを為すため、私欲のためではなく、民に尽くせると誓うか」

「無論、誓います」

「では、宝冠を授かり、この国の王となることを認める」

「はい」


一連の誓いの言葉が終わり、ゆっくりと公爵の手から宝冠がレオンの頭の上に乗せられた。それと同時にローレンス公爵はゆっくりと膝をつき、レオンに頭を下げた。

ちなみにこの儀式は本来なら先代国王が生きている間に行うものなのだが、国王が存命でない場合は閣僚陣の中で最も爵位の高いものが儀式を代行するように決まっているらしい。


「ローレンス公爵。これからも我を助け、支えてくれ」

「はっ。わが命の限り、陛下に仕えましょう」

「ああ。よろしく頼む」


そう言うと、レオンは公爵に立つように促し、そのままゆっくりと演説台の方に向かった。静まり返った人々に向かって、レオンが口を開く。


「まずはわが父の非礼を詫びよう。わが父の治世にによって、多くの民に苦しみを与えたことを心より詫びたい。本当にすまなかった」


その発言と頭を下げる様子に、何人かの閣僚陣は慌てて入口から出て止めようとした。それを即座に外にいるローレンス公爵が目で制した。それを待つかのようにレオンは間を開けてからゆっくりと続きを話し始めた。


「また此度の戦争でも、わが父やその周囲の私利私欲のために多くの兵を無駄に死なせ、多くの罪なき徴収された農民兵が兵の損耗を抑えるために使われた……本当に、申し訳ない」


レオンの……国王の心からの謝罪に、人々は黙ったままだ。


「……しかし、彼らは戦場で命を落とした。そしてこの国も魔王という災害から助かった。まだやり直せる。だから私に力を貸してほしい。もう二度と父の二の舞にはさせない。だからもう一度だけこの国の王家を信じてくれ……」


そう言って頭を下げたレオンの周囲を静寂が包み……しばらくして、割れんばかりの拍手の音と歓声がその静寂をかき消した。


「さすがは、陛下ですね」

「ですね」

「皆、ありがとう……さて、先ほども話したが、此度の戦で私達は生き延びた……」


ハリーさんと言葉を交わしていると、レオンの話が再開された。


「……無論。生き延びられたのは運が良かったからではない。優秀な兵達と……二人の英雄がいたからだ。まずは、ユーフィリア・フォルト・フォン・グレーフィア嬢」


レオンの言葉に、詩帆が少し緊張した面持ちで扉の外に出る。そのままゆっくりと少し前に出たところでレオンが話を続けた。


「彼女が王立魔術学院に通う優秀な魔術師だということは知られているだろう。彼女がいなければ私の大切な右腕である友人と、その婚約者、さらにはもっと多くの前線兵士たちが殺されていただろう。その功績は多大なものであり、またその勇敢な姿勢と才能はぜひとも我が国に欲しかったのだが……生憎断られてしまったよ……彼女はある人物の隣にいたいそうだ」


詩帆の顔が赤を通り越して白くなっていた。後で慰めてあげないと荒れそうだな……というか


「れ、レオンの野郎……」

「クライスさん、諦めてください……私も同様に後でさらされるでしょうから」

「なんか、すみませんハリーさん」


ハリーさんとそんなやり取りをしていると、レオンがこちらを振り向いて言った。


「その人物は私の親友であり、同時に大多数の魔人を倒し、魔王を討伐した英雄だ。そして、今後私の国を支える私のもう一人の右腕だ。クライス・フォン・ヴェルディド・フィールダー」


その言葉に、少し腹が立っていた俺は<転移テレポート>でレオンの真横に飛んだ。


「はい、陛下」

「フィールダー卿。貴殿の功績は大変に得難いものだ。よってこの場で貴殿の子爵位の叡爵と王宮筆頭魔術師就任を確約しよう」

「……もったいないお言葉です」


ちなみに確約なのは、この式典関連が終わった後でレオン陛下として、儀礼式典を新大臣全員に行わなければならないからだ。


「うむ。それではフィールダー子爵。これからもよろしく頼むぞ」

「はい、陛下と民のためにこの腕を振るわせていただきましょう」


そう言ったところで、俺は完全に笑顔で凍り付いてる詩帆の手を引いて、ローレンス伯爵の隣に立った。


「フィールダー王宮筆頭魔術師殿。よろしく頼むぞ」

「まだ、仮ですがね」


そんな話をする中、レオンの手によって新閣僚たちが続々と発表されていった。


こうしてルーテミア王国は新しい道を走り始めたのだった。

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