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異世界でも貴女と研究だけを愛する  作者: 香宮 浩幸
第六章 王国魔人戦争編
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第九十七話 死線彷徨って

遅くなってすみません。


何があったんだっけ……確か……魔人達を掃討したあと……魔王が暴走して……魔神の眷属とか名乗る奴が現れて……その後……俺、勝てたんだっけ?


朦朧とした意識の中で意識だけが覚醒したような、そんな不思議な感覚の中で俺の頭の中には様々な事象が流れていた。


確か……魔神の眷属……アルファに……そうだ、心臓を貫かれて、必死で抵抗して……詩帆ともども殺されそうになったのを……師匠に……助けられて……それで……詩帆……あれ……なんだ、これ……


「なんだろう……なんだか、何か、忘れてはいけない記憶が欠落しているような……」

「ようやく気が付いたか?」

「誰だ」

「誰だとは失礼な……まあ、失われた君の一部とでも言っておこう?」

「どういう意味なんだよ……」


俺が目を開けると、そこは白い靄に包まれたどこまで続く空間があった。そして、正面には見知らぬ男が立っていた……いや、どこかで見覚えがあるような……


「まあ、それを自分で思い出せなきゃ介入する気はないよ」

「そうかよ……それで、ここは?」

「君の精神体、すなわち魔力によって繋ぎ止められてる魂が弱っているのを利用して、僕が介入して作った君の夢の中」

「夢の中……」


確かに言われてみれば自分の姿は湊崎 雅也に戻っていたし、何よりこの不思議な空間が夢でないのだとすれば幻影だとしか思えないが……そんな魔術を使われている形跡もないしな。


「納得してくれたかい?」

「まあ、それなりには……それで、何か目的があるから呼び出したんだろ?」

「ああ、もちろんその通りだよ」

「だったら早くしてくれ。早く目覚めないと詩帆に心配をかけることになるからな」

「詩帆、詩帆と言っている割には……何も覚えていないんだね」

「だから、どういう意味だ」

「君の過去に関する話さ」


俺が詩帆の名前を出した途端、相手の機嫌が悪くなった気がするが……まあ、今はそんなことを気にしてもしょうがないだろう。


「だから過去ってどういうことだ。この世界に関わるものだとしたら、俺が関係している記憶は十五年前からだ。中身が子供じゃないんだから、いくら何でもちょっとしたようなことならともかく……アルファに指摘されるような大事は起こしていないはずだ」

「……本気で言っているのか」

「ああ」

「……じゃあ、分かれた時、記憶の整合性がとられて……」


俺の発言にブツブツと言い出した男はやがて、顔を上げて言った。


「……――――って名前で思い当たることは?」


その名前を聞いた瞬間、頭の中がずきんと傷んだ。その後から洪水のように何かが溢れてくる。


「……なんだ、これ……記憶、なのか……なんだよ、これ……真っ暗で、気持ち悪い……異常なほどの……怒りと……憎しみ……」

「やっぱりキーワードを与えてやれば思い出すか……ただ、概念的な物しか出てこないな……もう少し、具体的な記憶から解放してもらわないと……しまった」

「うわあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………」


俺の頭の中に入ってくるそのイメージは強く強く増していって……だんだんと自意識と、その感情のもととなった物の区別がつかなくなって……


「……<記憶改変ブレインメルト>……危なかった」

「はっ……えっ……」

「危なくお前が思い出す前に壊れてしまいそうだったからな……お前の魂が壊れれば、俺も消える。だから止めただけだ」

「今のは……うっ……」

「思い出すのは後にした方がよさそうだな……」

「だから、だったら教えろ……」

「お前が自分で全てを思い出してくれないと……俺とお前は敵対することになりそうなんだよ」

「だから……」

「……時間切れだ。お前の魔力量が一定まで戻った。俺の作ったこの魔術空間はお前の基礎魔力反射で消し飛ぶだろう……その前に俺は消えるよ」


そう言って男はゆっくりと俺から離れて行く。俺は離れて行く男に手を伸ばしながら叫んだ。


「俺が過去に何をしたって言うんだよ」

「……そうだな。ヒントぐらい教えてやろう。もう一度……から……まで……順に思い出して……ことがなかったか書き出してみろ。その空白期間が……の記憶だ」

「待て。重要なところが聞き取れて……」

「それは……ない。お前の意識は……本当にもう時間切れだな。では、また会おうか」

「待ちやが……」


それを言いきる前に俺の意識はかき消され…………






「……や」


遠くから声が聞こえた。


「……あや」


それは、とても懐かしく、温かい声……それに導かれるようにして俺は再び目を開いた。



「…雅也」

「……んっ、詩帆か……」


目を開けると、そこは王都の邸宅の寝室だった。白い靄などかけらもない、いつも通りの部屋。


「雅也……大丈夫?すごくうなされてたけど」

「ああ……それなら……何の夢を見てたんだろうか?」

「聞かれても分からないわよ……ただ、私の名前は呼んでた」

「じゃあ……詩帆に追い回される夢とか……」


先ほどの白い空間での出来事はなぜだか詩帆には言わない方がいい気がしていた。なぜかは分からないけど……何かすべてを壊してしまいそうな気がして……


「それって雅也は何をしたのよ……」

「さあてな……うっ」

「雅也」


少し笑いかけた時、胸から腹にかけて引き攣るような痛みが走った。


「痛っ……なんで、光魔術と水魔術で完全に再生されてないんだ」

「あなたの魔力と生命力が枯渇しかけてたからよ……アルファが消えた後、大変だったのよ……全身から血の気が引いてるし、ガタガタ痙攣してたし……本当に……死んじゃうかと思ったんだから……」

「ごめん……」

「……帰ってきたから許す……」

「ありがとう……」


そう言いながら、泣きそうになっている詩帆を胸に抱きしめる……少し傷が痛かったが……まあ、これぐらいは妻を心配させた罰で、夫を助けてくれた妻へのご褒美としておこう。


「……はっ、ごめん。傷、痛むよね?」

「まあ、大丈夫だよ……それで俺は何日寝てたんだ?」

「三日間」

「そんなにか……」

「ええ、だから心配したって言ったでしょ。さっき、いきなりあなたの魔力と生命力が増大して……私がどれだけ泣きそうになったことか……」

「そうか……」


いきなり大幅な変化があったということは……間違いなく夢の中の男が何かしていたのだろう……魔術関連や物理学関連の脳領域に変な物でも仕込まれてないよな……


「どうしたの、難しい顔して?」

「えっ……いや、王国軍はどうなったのかと思ってな」

「どうもこうも、あなたが介入した後は撤退中に転んで軽傷を負った人ぐらいしか出てないわよ。それで今は王都に戻ってきている最中よ」

「えっ……なんでそんなにかかっているんだ?」

「……色々と、その……やっておきたいことがあったらしいわよ……まあ表向きは亡くなった兵士たちの遺品回収と、展開した兵団の撤収作業。後はちょっとした地形の整備をやるってことになってるらしいけど……」

「ああ、なるほど……」


つまり不穏分子になりうる可能性のある重鎮を戦場で秘密裏に暗殺する期間を設けた訳か……


「その話は精神衛生上、今は置いておこうか。それで、俺はどうやってここに?」

「セーラさんにすぐに屋敷まで運んでもらえたのよ」

「……そうか……で、その師匠たちは?」

「あんたの後始末」

「荒らした地形のか……」

「正解よ……山脈を作って崩壊させた跡とか……地殻まで貫通した穴を埋めたりするのは……さすがに普通の人じゃ無理だから」


確かにやったな……思えばやりすぎ感も否めない。正直言って、全力で実験中の魔術を撃ち込めるに快感に酔ってた部分もあるからな。


「結果的に……暴走した魔王や、アルファとの戦いでは死にかけたわけだし……気を付けないとな……」

「本当よ……で、戦いの話はもう終わりにしましょう」

「そうだね……ひとまず今だけは……」

「ええ、忘れましょう……」


そう言って詩帆は俺の隣に腰かけて、肩を寄せてくる。そのまま上目遣いで俺を見上げてきて……あまりの可愛らしさにたまらなくなった俺は、そのままその唇を自分のもので押さえ込んだ……


「……雅也……」

「詩帆……お前、重傷を負った人間に……いきなり何を誘惑してくれてるのかな?」

「あら、あなたが抑えればいいでしょう……私はどちらでもいいのよ……」

「お前なあ……俺が抑える気ないの分かってて言ってるでだろ」

「うん……好きにして……」

「声色に籠った意味が、絶対に違うだろ……ああ、もう知るか……」

「「クライス君……」」

「クライス様……」

「クライス……」


俺が詩帆の夜着の襟元に手をかけたところで、部屋の扉が開いて師匠とセーラさん、シルヴィア王女、レオンがほぼ同時に入って来て……状況を察して声を抑えた。


「そういえば……雅也が目覚めた時に、セーラさんの召喚獣の梟に……そのこと伝えたわね……」

「それで……たまたま、王都の門まで戻っていたから……偶然隣にレオン殿下もいたから連れてきたのだけれど……」

「邪魔したな、クライス。みなさん帰りましょう」

「待て、お前。俺をこんな気まずい空間に置いて行く気か?」

「……楽しめよ」

「おい、待て……あいつ、今の話を一体どこに広める気だ……いや、言わないか……やばいな、究極の弱みを握られた気がする……」

「クライス君、横を見た方がいいと思うぞ」

「えっ、横……」


そこにはいろいろな意味で顔を真っ赤にした詩帆がいた。


「待て、詩帆。今のは不可抗力だろ。それに俺は今、重傷を負って……」

「そんなことは分かってるわよ。だから腹は立つけど……どうしようもできないから……ああ、もう……雅也、歯を食いしばってちょうだい」

「えっ、どうして……はい」


こうして師匠たちが微笑ましく見守る中で、俺は照れまくった詩帆に本気で頬を張られるのだった。

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