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異世界でも貴女と研究だけを愛する  作者: 香宮 浩幸
第六章 王国魔人戦争編
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第九十二話 超越級魔術師の児戯

遅くなってすみません。読んでくださる方、いつもありがとうございます。


明日は遅らせないようにしたいですが、最低限、日付が変わるまでには投稿します。


「ふう……賭けは成功だな」


魔人達が魔力となって霧散していったのを確認してから、俺は結界を解除した。

しかし……真空状態にして、魔人が吹き飛ぶかどうかは半分は賭けだった。逆に言うと半分は成功を確信していたということなのだが。


「雅……慣れないわね……クライス様……魔人が一瞬で吹き飛んだように見えたのだけど……一体どうしたの?」

「周りを結界で囲って真空にして、気圧差で破裂させた」

「エグイことするわね……でも、あなた、この間、<身体能力強化ステータスアップ>で強化すれば、宇宙線さえ光魔術で防げれば宇宙に行けるとかって言ってなかったかしら?」

「<身体能力強化ステータスアップ>がかかっていたらな。まあ、長時間滞在するなら空気も必要だとか言う話もあるけど……」

「じゃあ、魔人達は<身体能力強化ステータスアップ>をかけてなかったの?」

「かけてたよ。ただ、効果が落ちてた」

「どういうこと……?」


詩帆が不思議そうにしているが、それはそうだ。なにせ、単純に真空にしただけでは<身体能力強化ステータスアップ>をかけた人間の体を即座に吹き飛ばすことはできない。まあ、普通の人間相手なら、周りとの気圧差が戻る前に、魔力が切れるから勝てるけども。


「<身体能力強化ステータスアップ>は体内の物質、基本的には水分子同士の結合を魔力で強めることで身体を強化している。まあ、五感の強化とかは厳密に言うと違うんだけど、ここでは割愛するな」

「ええ……」

「で、俺が真空にするために何をしたか覚えてるか?」

「空間中の酸素と水素を爆発させたわね」

「それで、だ。爆発によって周りの温度が急激に上昇したらどうなる?」

「なるほどね……水分が蒸発するわね」

「ああ。実際には爆風に対応してあいつらも結界を張っただろうから、そこまで急激な温度変化ではなかったと思う。だが、周囲が真空なら温度が六十度近くにもなれば、水分は蒸発する。そうなれば、自然と身体能力強化の効果も落ちるという訳だ」


風霊庭園ウィンドガーデン>の中の気体の状況を正確にコントロールできたおかげで、可能になった魔術だ。師匠たちはただの風属性の防御魔術と言っていたが、この魔術は気体の流れをせき止めることができるので、いろいろと便利に応用できる。


「なるほど……で、それだけの効果を得るのに使った魔力は……」

「気体の分離は、それほど魔力がいらないし、窒素を個体にするのも分離した窒素を冷やすだけでいいからな。後は結界と種火ぐらいしか使ってないから……ざっと上級魔術二発分ぐらいかな」

「それで上級魔術が直撃しても死ななかった魔人を十体近くも仕留めるってねえ……」

「コスパがいいだろう」

「それで、周りがドン引きしてるけど……」

「えっ……」


その言葉に周りを見渡すと……


「俺達があれだけ苦戦した魔人をいとも簡単に……」

「上級魔術二発分って……エマさんが上級魔術三発ぐらい打っても、全て防がれてたのに……」

「勉強に……ならない。レベルが違いすぎる……」

「化け物、だろ……本当に子供か……数千年の時を生きた賢者とかじゃなくて……」


割と傷つく目線で見られていた。


「い、いいよ、別に。実験成功したし」

「フフフ……まあ、いいんじゃないの。あなたらしくて」

「どういう意味だよ?」

「天才過ぎて、波長の合う人以外、離れられていくこと」

「うっ……いいよ、別に……ユーフィリア嬢がいてくれるなら、な」

「……公衆の面前で照れさせるようなことを、さらりと言わないでよ」

「うおう……危ないだろう」


照れながら、詩帆が飛ばしてきた氷の槍を火の壁で消し去る……と、その時……周りからの視線が変わった気がした。


「わあ。ユーフィリア令嬢のああいう表情、初めて見ましたね」

「ええ。いつも貴族令嬢らしい微笑みを崩さない方だものね……」

「……ああいう姿を見てると、あの二人が学生だとことを思い出しますね」

「学院ではあんな感じでしょ。まあ、とてもいい私の補佐よ」

「あの野郎……戦場で美人といちゃつきやがって……」


微笑ましいものを見る視線、からかいの視線、凶悪な妬みの視線……さっきより危険になった気もするが……まあ、まだましか。


「クライス様……後でお話がありますから」

「俺は悪くないだろう」

「だいたいの原因はあなたです……」

「おい、二人とも」


二人で言い争いを始めたところに、突然レオンの怒号が飛んだ。その声に顔を上げながら、俺は広域結界を発動させる……直後、そこに複数の上級魔術が直撃し、反射される。


「気づいてるよ……<反射結界フォースシールド>……詩帆、下がってろ……」

「雅也、待って。私も……」

「……後ろでレオン達の守りを担当してくれ」

「でも……」

「悪いけど、お前が横にいると……全力が振るえない」

「……分かった。じゃあ、こっちは任せて」

「……ああ」


詩帆が隣にいると、本気で戦闘能力が落ちる。詩帆の防御にもつい、手を使ってしまうからな。なにより、周囲に味方がいないのなら外部の損害は一切気にせずに戦える。


「じゃあ……後で、ね」

「分かってるよ」

「うん……<転移テレポート>」


詩帆がレオン達の下に<転移テレポート>で移動したのを確認して、俺は視線を前に向ける。


「うーん、魔術考察と詩帆との会話に集中しすぎたかな……」


気が付けば、前方の山脈は中心部が崩壊し、そこから魔人達が現れ始めていた。山脈を上空から越えてきたものも含めると、その数はざっと三十体。さっき前線でハリーさん達を救出するときと、今ので二十体程度は倒しているので、姿が見えない五十体はまだ山脈の向こうだろう。おそらく魔王もそこだ。


「……さてと、どうしようかな」

「若き魔術師よ。よくぞ同胞たちを屠ってくれたな」

「だいぶ喋り方が流暢だな」

「魔神様が千年間、何もしていなかったとは思っていまい」

「なるほど、魔力情報を千年間取り込み続けた結果、人工生命体を作る際のそれの思考プロセスの強化につなげられたってことか……」

「どうとでも言うがいい。どの道、貴様に残った魔力では、もう勝ち目はない」

「……はあ、お前ら「魔人・・」って言うぐらいなんだから、もう少し相手の魔力量ぐらい見れるようになれよ」

「どういう意味だ?」

「こういう意味だよ」


そう言いながら俺は普段は抑制している魔力を開放した。正直言って、魔術学院で色々とやらかした時点で魔力を隠蔽する必要はない気がしていたのだが、この間師匠に全力で解放していると周りの魔力の少ない人に悪影響をもたらすと言われたので、俺はずっと普段は魔力を抑えている。


「な、なんだその魔力は……」

「なんか、聞くところによるとお前らの崇める魔神様並みらしいぞ。ついでに言っておくと、さっき使った魔力程度は回復済みだ」

「なっ……」

「後……<光線レーザー>」

「グギャアオ……な、なぜ気づいて……」

「<隠密ハイド>か<透明化ステルス>は知らないが、魔力反応があれば普通に分かる……それで、お前ら……どうするんだ?」


背後からこっそり忍び寄っていた魔人の四肢を太陽光の周波数をいじって、増幅した<光線レーザー>でぶち抜いて、動きを止める。魔術でもなんでもない光なので<光線レーザー>はすぐには止められないから便利だな。まあ、土属性の物理的な結界を使えば簡単に止められるんだが。


「……くっ、全員やれ……<暗黒破壊槍デスブリンガー>」

「無駄だよ。というか、俺相手だとただの上級魔術なんて、子供が駄々こねてるようなものだぞ……」

「全方位から撃ち続ければ、同じこ……<暗黒障壁ダークシールド>」

「撃てば、撃つだけお前らの魔力が枯渇するだけだぞ」

「こんな……ありえん、上級魔術を複数発同時に反射する結界など……」

「可能だよ。この結界は魔術の運動エネルギーを吸収して、静止した魔術から魔力を吸い出して魔力の塊として反射せてるだけだからな」

「そんな、魔術。属性が介在しない魔術など……」

「そんな魔術、古代からいくつもあるだろう」


そもそも属性のくくりに入っているだけで、治癒魔術や転移魔術は全て基本的にはイメージとして属性が連想されるだけで、そもそも属性は必要ないはずだ。

事実、俺や詩帆ならやろうと思えば魔力を利用して臓器の再生すらできるだろう。まあ、イメージ力が重要となる魔術の特性のせいで消費魔力が馬鹿にならないので絶対に使わないけど。


「そ、そうだが……こんな魔術、狂って……だが、消費魔力は多いはず……」

「さっき言っただろう。この結界は魔術の運動エネルギーを魔力に変換して吸収している。その術式起動に魔力を持っていかれるぐらいで、大した消費はない」

「そんな……」


とは言っても、超越級の魔術師以外なら割と馬鹿にならない量の魔力を喰うが。というか、この世界でこの魔術をまともに運用できるのは俺ぐらいだろう。まあ、範囲を限定すれば師匠やセーラさんぐらいには使えるかもしれないが……運動エネルギーの概念を理解していないと厳しいかな。


「……っつ……ならば……」

「……何を考えたかはだいたい読めたけど……好きにすればいい……」

「そうさせてもらおう……はっ、転移ができない?」

「……<座標固定結界ホールディングフィールド>……大方、レオン達に手を出そうとしたんだろうが、させるわけがないだろう。いくらユーフィリアが守りについてるからって……俺が後ろを抜かせるとでも……」

「なら、直接突破するぞ」

「……」

「おい、馬鹿。止めろ……」

「グギャアアアアア……」

「一体何が……」


転移を止められた魔人の一部が、直接俺の後ろを抜けた。が、その直後に身体の前面をズタズタにして倒れた。


「何がどうなって……」

「地上と上空の気温差と気圧差をおかしなことにしてある。地上は千度で二気圧、上空はマイナス二百度で真空の一歩手前。それを俺の後方の数百メートルにわたってわずか一ミリの境界で作った。結果、そこに発生した猛烈な上昇気流が削りとったってわけだな」

「な、何を言って……」

「分かる訳ないよな。さてと、そろそろ勝負を決めようか……<超電磁砲レールガン>!」


俺は魔人達の中心部の地面に<超電磁砲レールガン>を叩き込んだ。


「なぜに、地面に……外したのか」

「そんな訳がないだろう」

「じゃあ、何をする気だ」

「さて、問題です。風魔術で加速をかけた秒速二十キロのアダマンタイト製の三キロの弾丸。これの空気抵抗を弾丸を起点とした風魔術の結界で抑えて、地面に打ち込みました……さて、どうなるでしょうか?」

「だから、何を言って……」

「正解は……地殻を貫通する」

「どういう意味だ?」

「すぐ分かるよ」


その時、弾丸の着弾点から、マグマが吹き上がった。そのマグマは周囲にいた魔人達を即座に飲み込んだ。結界の展開を間に合わせたものもいたが、そういう奴らの結界も数秒後にはマグマの質量と熱で崩壊するだろう。


「さて……あいつら何秒持ったかな」


マグマが魔人達の全てを飲み込んだのを確認して、俺はマグマをすぐに冷却するとそのまま残りの魔人達のいる山脈の山頂へ<転移テレポート>した。

遅くなった言い訳です。


冬休み終わりで、いろんな意味で忙しかったもので……

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