第八十六話 王軍の戦い 王宮筆頭魔術師side
読んでくださる方ありがとうございます。
すいません。今日は忙しくて書けなかったので、やれるところまでは更新しますが……三本は厳しいかもです。何とか冬季休業中に六章の大半を終わらせられるよう調整していきます。
「完全な劣勢だな」
陛下の天幕の前で私は一つ呟いた。
「前線の農民兵は完全に溶けたと言っていいだろう。また、後続の警備兵団も時間の問題か……いや、ここに魔術が撃ち込まれても何もおかしくないのか……」
転移魔術や遠距離視魔術を魔人側が手札として持っている可能性は非常に高い。距離や単純な防壁などは何の意味もなさないだろう。そもそも、我々が前線に立たねばならない状況で、農民兵たちが次々に消えていくのを見るのが不甲斐ない。
「……くっ……」
「グスタフさん。今、国王陛下に進言しても無駄ですよ。ここは機会を待ちましょう」
「機会など待っている間に、全ての一般兵が死ぬぞ。そうなる前に前線に立たずして、何が王宮魔術師だ」
「気持ちは分かります。しかし、あなたが死ねば……」
「そんなことは覚悟の上だ」
「……えっ」
私を制止しようとする部下に向かって、私はそう言い放った。
「私がこれまでしてきたことを鑑みれば、私はたとえ万の民を救ったとしても、許されるものではない。それがたとえ陛下の命令であったとしても、行ったのは私なのだからな」
「し、しかし……あなたが死ねば……ここの兵たちはどうなるのですか。あなたが死んで、陛下が生き残れば、軍の上層部にまともな人間はいなくなります。そうなったら……」
「私の後任なら、いる」
王太子に付き従うハリーという魔術師、エマ令嬢、軍務大臣の娘、というか殿下でも十分にこの国の筆頭魔術師程度なら務まる。それに私の前任も王都で生きているはずだ。何より……国王に堂々とケンカを売ったあのガキ魔術師がいる。
「だから、心配ないよ」
「それでも……」
「落ち着け。あの王太子が現国王を生かすとは思えない」
「いや、仮に現国王が撃てたとしても……あなたがいなければ戦線が……」
「それこそ、もう問題はないだろう。さてと、話がそれだけならもう行かせてもらうよ」
「……」
うつむく部下の横を抜けて、私は陛下の天幕へと向かった。
「陛下。承認していただきたいことがございます」
「ふむ、導師か。申せ」
「私達、筆頭魔術師団を前線に向かわせる許可を」
「ならん。それでわしが死んだならばどうするのだ。第一、軍務卿からは戦況有利だと聞いておる。なぜ、援軍を出す必要があるのだ?」
「どういうことですか。今、前線は……ゴフッツ……」
「陛下。どうやら彼は陛下を暗殺しようとしているようです。おそらく魔術師隊が減って、防御が薄くなったところを殺害する計画でしょう」
「何。ふむ、よく気が付いてくれたグレーフィア軍務卿」
気が付けば、私の腹部を貫通して紅い刀身が見えていた。後ろを見ると軍務卿の姿と、私に刃を向けた護衛の男がいた。
「き、貴様……」
「……筆頭魔術師殿。お疲れ様。これで魔術省の権限も俺の物だ。それにうるさく嗅ぎまわれる魔術師の犬たちともおさらばだな」
「この、状況で、欲に溺れる、か……」
「この状況?あんたなんかいなくても、騎士団まで全投入すれば、奴らも魔力枯渇して終わるだろう。そうしたら、俺が実権を握れるだけの美味しい戦争だったという訳だよ」
「ふざ、ける、な……」
この国に仕えてきた自分が憎かった。もっと早く国に反乱を起こし、現政権を潰していれば……、もっと早く……
「お前たちは、魔術を知らない」
「あん。知らなくても、魔力を枯渇させるまで打ち続けさせれば問題ないだろう」
「奴らの魔力はまだ、ほとんど減っていない」
「はあ、そんな訳が……」
「そう、思うのなら、そう思っておけ……死ぬまでな」
「んっ、どういう意味……」
朦朧とした意識の中でも、私は強大な魔力を感じた。次の瞬間……爆炎が戦場を覆った。
「……<水霊装甲> <地神要塞>」
私は先に詠唱を始めていた二つの術を放った。防御範囲は魔術が影響する範囲全て。ただし……
「ゴウオウアアァァアァ」
「陛下……ウワアアアァァァァ」
私たちのいる場所は除いた。これが奴らの、そして私に対する報いだと思って……
灼熱の中、意識を飛ばされぬよう術式を維持しながら、最後に思う。
「……家族のことは、頼みました」
誰に、とも思えない。私に頼む権利はないから。だけど、ただ願うだけならいいだろう。
最期に意識が飛ぶ寸前、体が浮くような気がして、昇天とはこういうものかと、そんなどうでもいいことも思いながら、私は……
気になる点や、面白かった点など、感想をいただけると嬉しいです。作品向上の機会にしたいので。




