第八十四話 王軍の戦い 騎士団長side
あけましておめでとうございます。新年ですので、二本同時投稿しています。こちらは二話目です。
「団長。本当にあんな化け物に勝てるんですか?」
「勝てると信じて戦え」
「無茶ですって」
王国軍勢中央部、そこで我々騎士団は先陣が道を切り開くまでの間待機していた。しかし……
「団長。今の一撃で……ざっと百人は……消滅しましたよ」
「ああ……分かっている」
「団長。あんなのに勝てるわけがありません。一度撤退して、再考するよう陛下に……」
「無理なことは俺だって分かっている。ただ、ここで退いたところで、奴らの魔力が回復するだけだ」
ずっと分かっていたことだ。あのクライスという少年の屋敷に潜入した際、上級の魔術というものを始めてみた。あれが本当に人間のなせる業かと驚愕しかなかった……
だから、私は全てが上級以上の魔術師であるという最悪の史実を信用するのであれば、勝ち目はないという予想をしてこの地にやって来ている。
「覚悟を決めろ。どのみち王の命令は我々が退くことなど許さん」
「そんな……」
「しっかりしろ。もう前線の農民兵たちは半壊どころじゃない。全滅だ」
前方に視線を向けると、骨すら残らぬ高温で焼かれたもの。酸で全身をドロドロに溶かされたもの、土の槍で、風の刃で全身をズタズタにされたもの。そんな地獄絵図な死体ばかりが並んでいた。
「ひどい……」
「本気でやらないとお前らも数分後にはこうなるぞ」
「そ、そんな……でも、やるしかないですね」
「ああ」
そう言ったとき、陛下からの伝令役がこちらに駆けてきた。
「ご命令です」
「内容は」
「前線の農民兵では対処は不可能。よって警備隊の投入を速めろと」
「分かった」
確かに農民兵では蹂躙されるだけだが、警備隊なら勝負にはならなくとも、時間を稼ぐことは可能かもしれない。しかし……
「魔術師隊の投入は?」
「団長、分かっていますよね……」
「全員、国王の警護か……それで警備隊を無駄死にさせよと……」
本当は薄々気づいていた。この国の政治が間違っていることに。ただ、私は盲目的に王に忠誠を誓うことで、それから逃げようとしただけだ。
「魔術師の一部でも前線の防御に割けば……どれだけの兵士が救われるか……」
「そうは言っても、無理なものは無理なんです」
「団長。ご指示を。今なら農民兵が数で押さえ込んでいます。逆に彼らが全滅してしまえば不利な状態で、正規軍が戦闘を開始することになります。今しかないんです」
彼らの瞳に宿る悲痛な覚悟は、私がさせるものだ。私の裁量で……なら
「皆、しばし待て」
「団長、どちらへ?」
「国王の下へ行って、全軍の指揮権を私が執る」
「不可能です」
「誰が交渉すると言った。力づくでだ」
「正気ですか?」
「ああ」
今の国王達が倒れれば、最低限のまともな戦術に立て直せる。そう思い、国王の下へ向かおうとした私の前に、立ちふさがったものがいた。
「ジャンヌ。貴様、なぜそこを塞ぐ」
「今は、こちら側で内輪もめをしている場合ですか」
「しかし、このままではまともな戦場すら保てん」
「それでもだ。今、いくらあの愚王と言えど、トップが倒れれば士気が下がる。ましてやそれが自軍の将によってなされたものならなおさらだ」
ジャンヌ卿の意見は確かに正論だ。だが、その裏にあ奴の思惑も透けている。
「私が国王にとどめを刺せば、今後の国内統治で面倒だという理由だろう」
「違う。いくら何でもこの状況下で、そんなことを優先している余裕はない」
「それがどうした。現にお前は私の動きを邪魔している。もう手遅れに……」
その時、上空から巨大な火球が落下してきた。私は何を思ったのか、ジャンヌ卿をその影響範囲外に出るよう突き飛ばした。
「なぜ……」
「ふん。私のやり方が間違っているというのなら、殿下に任せた方がいい。それだけだ……」
そこまで言ったところで、私の意識は途絶えた。
「団長……」
高温の火球によって骨すら残さず焼かれた騎士団長と副団長を前に私は呆然と座り込んでいた。
「私を庇って、か……なら」
私は覚悟を決めると、周りに聞こえるように叫んだ。
「騎士団長と副団長は戦死された。ここからの指揮はジャンヌ・フィルシードが引き継ぐ。全軍に次ぐ。弔い戦だ、押さえ込め」
私は騎士団長たちの思いを継ぐため、そしてこの国を守るため非道な命令を兵士たちに出すしかなかった。
早く、国王達が死亡し、クライス殿が現れるのを祈りながら……
今年もよろしくお願いします。




