第八十三話 王軍の戦い エマside
あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。
そして、年内400pt突破しました。今年も、精一杯連載を続けていこうと思いますので、応援していただけると嬉しいです。
という訳でキリよく新年より第六章開始です。短いのは仕様ですのでお気になさらず。後、二話連続投稿してます。
王国軍が魔人たちの展開していた場所へ行軍し始めて数時間後。
展開し始めた軍の後方に私はのんびりとついていた。まったく、生徒達には魔術実験で王都の外に行ったと言い残したけど……一体どう思っているのかしら。
「エマ・ローレンス公爵令嬢殿。御加減はいかがですか」
「殿下……お気遣いありがとうございます。ただ、今の私は公爵令嬢ではなく、一介の魔術師として扱ってください」
「ああ、そうさせてもらいます。エマ先生」
私をこの行軍に呼ばれたのは、レオン殿下でした。本来なら私の様な一介の魔術教師が話せるわけもないのだけれど、生憎私の出目は少々特殊だ。
「しかし、私は構いませんが……良く父から許可が取れましたね」
「それに関してはこちらの信用で何とか」
「そういえば、ハリー様はあなたの護衛魔術師でしたね」
「いえいえ、そんな役職なら私の信頼にはつながりませんよ。彼は次代の宰相です」
「あら、それは父ががっかりしそうですね」
私の出目を簡単に言えば、公爵家の庶子。本来なら庶子であるので殿下と会話をするには位が足りないだろうが、私には千年に一度と呼べるほどの魔術の才能があった。
だからこそ、私は庶子でありながら、他の正妻の子供たちと何ら変わらない生活ができ、同時に私を長女として扱ってくれたためにこのような立場になっているのですが……
「先生。最近の学校の様子はどうですか?」
「そうね……って、これはあなたを生徒として話していいのかしら?」
「ええ、エマ先生」
「そう……クラス全員で魔術指導実習に押しかけて、レイス先生にご迷惑をおかけしたのが最も大きな出来事かしらね」
「それは……んっ、それで、クライスとユーフィリアさんは?」
「しいて言うなら変化はないわね。ただ、微妙な動作は増えたわね。さらっとクライス君が手を引いてたりするし……結婚願望の塊を舐めないでほしいわ」
「アハハ……そうですか」
そんな風に苦笑いしていたレオン殿下の表情が突然、変わった。
「しかし、先生……やっぱり王宮魔術師になられる気持ちはないんですか」
「嫌よ。あんなお飾りだけの役職に封じられるぐらいなら毎日、外で竜でも狩っていた方がいいわ」
「先生らしいですね……」
私の魔術の才能は圧倒的に攻撃に向いていた。だからこそ公爵家の長女という立場で私は冒険者となることができたわけだ。もっとも、さすがに危険が過ぎるので、わずか二年で引退して今は王立魔術学院の講師をしているのだけれど……
「ところで結婚したいのなら……ハリーでいいのでは。絶対に悪いことはないと思いますよ」
「嫌よ。幼馴染だからよく知ってはいるけど……お父様は彼のことを気に入っているし……」
「だったら、いいじゃないですか」
「あのねえ。あなたがハリー君を次代宰相にしたい魂胆は見え見えなんだけど、それに私を巻き込むのは止めてもらっていいかしら」
「でも、先生もなんとなく昔から一緒にいたから気まずいだけで……嫌だとは思っていませんよね」
「うっ……」
確かにハリー君は私の王立魔術学院初等部からの幼馴染だ。付き合いも長いし、性格も好みだ。
「ただね。何となく親の婚姻に乗ったみたいで……嫌じゃない。せっかく、貴族令嬢の常識を無視して魔術学院の教師なんてやっているのに」
「でも、ハリーと結婚すればその仕事は続けられると思いますよ」
「そうなんだけど……でもね……」
「……こういうタイプ面倒くさいな……」
「何か言った」
「いえ、特に何も」
レオン君の話に乗ることになるというのも癪……でも、彼が国王になったら、強制的に婚姻っていう線も……
「とりあえず、殿下……」
「はい」
「しばらく時間をください。少なくともこの戦争が終わってしばらくするまでは」
「分かりました」
強引に結婚させられるぐらいなら自分から告白してやろうという決意を固めて、私はようやくこの場が戦場であるということを思い出した。
「それで、そろそろ関係ない話は終わりにしようかと思うのですが……先生、何かお聞きしたいことがありそうですが?」
「ええ。二つほど」
「一つ目は?」
「あなたたちはこの軍勢で魔王に勝てると思っているの?」
「逆にお聞きしますが、先生は勝てるとお思いですか?」
その言葉で、彼も勝てると思っていないことがうかがえる。彼の目的は王宮政治に通じているものなら簡単に分かる。おそらく戦争という場で合法的に現国王を葬り去りたいのだろう。ただ、この戦場では仮にそれが成功したとしても、勝てるかどうかすら怪しい。
「思ってないわよ。そうね、全体の一パーセントも帰還できれば上出来じゃないかしら」
「そうですね。それはハリーとほぼ同じ判断です」
「じゃあ、なぜこの状況下であなたは軍勢にいるのかしら」
「この軍が勝てなくても……勝てる人間はいるからですよ」
そう言ってレオン殿下が王都の方を振り返ったのを見て、私は一人の生徒の顔を思い浮かべた。そして納得した。
「超越級の魔術師、ね……それなら確かに」
「ええ、現代の賢者ならどうとでもなるでしょう」
「良いネーミングセンスね。なるほど、確かに彼なら……」
「彼に出発前に周辺被害を出してもいいかと聞かれて、そんなことにならないよう兵士たちの指揮は任せろと言ったら、彼はなんと言ったと思いますか」
「さあ?」
「五分あれば殲滅してやる、だそうです」
上級魔術と超越級魔術。前者が天変地異だとしたら、後者は世界の法則を無視する真なる魔術と呼べるもの。私は文献でしか見たことはないけれど……
「まあ、彼が出てくるのなら確実ね。それじゃあ、第二の疑問よ」
「はい」
「どうしてハー……ハリー様のように優秀な魔術師指揮官がいながら、なぜ私を呼び出してまで指揮官に任命したの」
「それこそ単純ですよ。ハリーは私の右腕です。魔術師たちだけを任せておけませんからね。まあ、一般兵の方はジャンヌに任せられますし」
なるほど。つまり私の役目は……
「ハリー様の代理ということね……理解したわ」
「それはなによりです。さてと、談話はここまでです。そろそろ所定の位置に展開しましょう」
「ええ」
「それでは健闘を祈ります」
そのまま殿下たちのもとを離れようとしたとき、後ろから近づいてくる足元に振り向くと、そこには見知った顔がいた。
「エマ嬢……」
「ハリー様。どうなさいましたか」
「死なないでくださいよ。死んだらあなたの御父上に……殺されかねませんから」
「ご忠告、感謝するわ」
「では、それぞれの戦場で」
そんな遠回しな幼馴染の心配を受けて私は戦場を進む。やがて、私が所定の位置に着くと魔術師たちが待機していた。一番魔力が多くても第四階位程度だが、ハリー様が鍛えていた精鋭たちなら何の問題もないだろう。
「さてと、目的は兵力を損耗しないことよ。後から魔人を殲滅する役は来るのだから、私たちがすることは王国軍の消耗を最低限にすること。以上、厳守して」
私はそんなことを言いつつ、高ぶる気持ちを抑えながら、体内でゆっくりと魔力を練り始めていた。
そして、遂に王国軍の先陣が魔人たちと接触した。
別途で新連載上げさせていただきました。そちらも是非。




