学園編 リリアside ~楽しい学校生活と怪しい影~
昨日は投稿できず、申し訳ございませんでした。単純に筆が進まなかったもので……
投稿数のつじつまを合わせるために、今日中に登場人物紹介を投稿します。
「このように、治癒魔術は傷病者の身体の自然治癒力を増大させて……」
私、リリア・フォン・ヴェルディド・フィールダーは昼下がりの王立魔術学院の教室で、治癒魔術のの講義を受けていた。春の日の午後という状況が普段なら目蓋を重くさせるところなのですが……今日の講義はそうなることはなさそうです。
「先生。治癒魔術の行使の感覚が掴めないんですが……」
「そうね……どうしたらいいかしら。ちなみに使いたい魔術は、水よね」
「はい……」
「でもユーフィリア先生は光しか使えないんでしたっけ?」
「大丈夫よ全属性の治癒魔術は使えるから。それと、先生じゃなくて先輩って呼んでね」
「ああ、すいません」
一学年の一部の魔術理論の講義は一週間前から講師が変わっています。理由は単純なことで学院からエマ先生がいなくなっているためです。
……何でも、急に何かを思いついたとのことで書置きを残して、王都の外に実地研究に行ったとのことです。王立学院の講師の先生方が追跡したそうなのですが……エマ先生の魔術隠蔽によって王都からすぐのところで足取りが途絶えたとのことで……
「さて、話がずれてしまったわね。簡単に言えば、攻撃魔術は空間上に作用させるから、魔術の現象を想像しやすいの。でも治癒魔術は基本的には生物の体内で作用するから想像しづらい……というのは分かると思うんだけど……あなた、使用属性は?」
「水と土です。ただ、土は第一階位で、水が第三階位なので……そっちを伸ばしたいなあ、と」
「なるほど、やっぱり物体に作用する土属性魔術は得意じゃないわね」
「そうなると、どうなんですか……」
「ようは自分の目で見ていないと制御が不安定になる訳だから……
講義者役は特待生クラスからエマ先生がお兄様、ユーフィリア先輩、レオン殿下の三人を書置きで指名して逃亡し、他の先生方もそれを了承したからです。先輩方なら何の問題もないとの判断だそうですが……まあ、王立学院の講師陣の先生方も忙しいですからね……しかし、そんなことをしても辞めさせられない上に、一学年の主任も続けられるエマ先生って一体……
「……と、いうように魔術というのは発動に足る魔力があれば、イメージさえしっかりしていれば誰でも発動できる。つまり治癒魔術もこのように体の構造を把握し、必要な知識は得る必要があるわ。だから私は治癒魔術の練度を上げたいのなら医術や、薬学なども学んだ方がいいと思うわね」
「なるほど……イメージするための知識ですか」
「ええ。具体的なイメージに関しては、自分に合ったものが見つかるまでは何度も試行錯誤するしかないわね。ただ、最初に覚えておきたいイメージとして水治癒第二階位の<治癒>なら……」
それにしても、ユーフィリア先輩の解説は学生だとは思えないほどですよね。お兄様の高度な理論を交えての解説も的確で、私は好きなんですが……でも、お兄様も簡単なレベルに落とし込んでの解説もできるでしょうし……
「まあ、でも、さすがは……お似合いのカップル、ですね……」
「あらリリアちゃん。まだユフィに嫉妬してるの?」
私がため息をついていると、隣の席にいたソフィアさんがそんな風に尋ねてきました。
「してませんよ。ただ……」
「ただ?」
「この間、見ちゃったんですよね」
「何を?」
「いつものお兄様とは違う顔のお兄様と、いつもの様子からは想像もつかないユーフィリア先輩の顔……それを見てたら、私に対するあの頃のお兄様の対応が……どれだけ気持ちのないものだったかが分かって……」
「ああ、なるほどね……」
あの頃のお兄様が私のことをどうでもいいと想っていたとは思っていない。きっと妹として大切に想っていてくれたのは私だって分かっている。
「まあ、私でも見たことのないくらい緩み切ったユフィの顔は……私もちょっとは思うところがなかったとは言わないわね。幼少期からユフィとは一緒にいたわけだから……」
ソフィアさんのその表情を見ていると、ユーフィリア先輩のことを本当に大切な親友だと思っていることが伝わってくる。お兄様とユーフィリア様のお付き合いはもう何年も連れ添った夫婦の様な親近感があって、兄妹や親友でも立ち入りがたい雰囲気がありますから。
「そうですか……でも、私が落ち込んでいる一番の理由は実はそこじゃないんですよね」
「そうなの……ああ、ひょっとして恋愛対象としてそもそも見ようとすらしてもらえなかったことを気にしてる?」
「うっ……はい、そうなんです……」
「そう。まあ、その気持ちは分かるわ。私も……同じような恋をしているから」
「えっ」
自分で落ち込んでいる最中でも、ソフィア先輩の表情が一瞬変わったのが分かった。そのお相手は、その恋は現在進行形なんですか、とか聞きたいことはいっぱいあったのですが……
「止めておきます」
「賢明な判断ね。もし、聞き出そうとしてたら、リリアちゃんのことも片端から聞き出してたから」
「それは……助かりました」
ソフィア先輩の顔は一瞬でいつも通りに戻っていた。こういうところは国の大臣を務める方の令嬢らしくて、さすがと思いますね。まあ、レオン殿下やユーフィリアさんもオンとオフの切り替えはすごいですけど……
「さてと、叶わない恋の話なんてしてないで、ユフィの授業をちゃんと聞いていましょうか。ここら辺は私達なら既に理解している基礎中の基礎の話だけど、意外と発見があるかもしれないしね」
「はい」
そんなこんなで、私は再びユーフィリア先輩の授業に耳を傾けるのでした……
「はあ、わたしもそろそろ好きな人を探しましょうか」
「あらリリアちゃん、諦めるの?」
「そう捉えていただいても……というか、お兄様なら確実に重婚をしても何の問題もないくらいの稼ぎは得れるでしょうけど……仮に、そうだったとして……あの二人の間に割り込む勇気がありますか?」
「ある……って言えるわけがないでしょう。あれだけ仲のいいカップルで、しかも魔術の才能は大陸随一で、人格者で、容姿端麗……そんなカップルの間に入り込めるとしたら……リリアちゃんぐらいかしら」
「今、無理って言いましたよね」
「でも、後半の条件は満たしてるわよ」
「その上で……無理だと思うんですけど」
「分かってるわよ。それじゃあ……同級生紹介しましょうか?」
授業後、校舎の外を歩きながら私はソフィア先輩からそんな提案をされた。
「えっ、急にですか?」
「急ね。ただ、そろそろかなあと思って」
「そろそろ、ですか?」
「ええ。そろそろお兄さんへの失恋のショックは冷めたでしょう」
「確かに……」
いくら初恋と言えど、さすがにフラれてから三カ月もたてば傷も癒えます。それでも引きずっていたのは、お兄様とユーフィリア先輩のあまりの仲睦まじさに傷ついていたせいなのですが……まあ、それもさすがに慣れましたし……
「リリアちゃんって、年上の方が好きでしょ」
「そうですね。頼りがいのある人ならなおさら……」
「ああ、なんとなく分かるわ……って、あれはユフィじゃないかしら」
「えっ、どこですか?」
ソフィア先輩の言葉に先輩の視線の先を見ると、確かにユーフィリア先輩がいた。声をかけようと思って近づこうとした私を、ソフィア先輩が止めました。
「先輩……どうしたんですか?」
「いや、ユフィは気にしないと思うんだけど……相手の男が少し面倒くさいのよ」
「えっ?」
確かにユーフィリア先輩の正面には貴族服を着た男性が立っていました……あれ、あの方、どこかで見覚えがあるような?
「見覚えがあるっていう顔してるわね」
「はい……」
「名前を覚えてなくても無理はないわ。有名な人だけど、表には出てこない人だから」
「面に……」
「軍務省の高位官僚の一人。先代が急死したために二十代で伯爵位を継承した男よ。性格はクズだけど、防諜部のトップだから下手に手を出すと痛い目を見るから、誰も手を出さないのよ。だから……ユフィも……」
その時、男性がユーフィリア先輩に一歩近づいて、話し声が聞こえてきました。
「ユーフィリア嬢。私と婚約するのがとても自分にとって利益があるとは思わないかね」
「思いません」
「賢い君なら分かっていると思うのだが……まさか、あの子爵家の三男などを好いているのではないだろうね」
「だったらどうだと。第一、それ以上、近づかれるのであれば批判されるのはあなたの方ですよ」
「そうかい。私は君の父上に許可を取っているのだがね」
「くっ……」
「さてと、そろそろ覚悟はできたかな」
「や、止めてくださ、い」
「さあ、こっちに来なさ……」
「イ、イヤ……」
「リリアちゃん、ダメよ」
「でも……<死毒の……」
「さあ、諦めたま……ファウウ、はっ?」
男性がユーフィリア先輩に近づき、その手を取ろうとして、私が制止するソフィアさんを振り切って魔術を放とうとした瞬間、相手の男が崩れ落ちました。さらに、その男性が倒れる速度が不自然にゆっくりしていて……
「えっ……あれって、魔術、よね」
「たぶん闇の精神治癒魔術の<眠りへの誘い>と、風魔術の<空力緩衝>です。しかもかなりの練度の……」
「だいたい予想はできたけど、やったのって……」
「ええ、たぶん……」
「詩帆」
そこには予想通り、お兄様が飛び込んできました。それにしても愛称の理由を今度お聞きしたいですね?どこから取っているんでしょうか?
「雅也……ごめん」
「いいよ。それより、こういう時は咄嗟に精神魔術を使えないのが詩帆のかわいいところだよな」
「雅也が来る前はできてたんだけどね……弱くなっちゃったなあ」
「いいんだよ。それはそれで。まあ、その内できるようになるだろう」
「そうね。今のも、ちょっと焦っただけで……雅也が撃ってなかったら、私が撃ってたから」
「じゃあ、お節介だったかな」
「ううん。嬉しかったから……」
その二人の様子を見ているのが申し訳なくなって、私とソフィア先輩はどちらからともなくその場から立ち去りました。
「ああ、もう。あの二人は……リリアちゃん、ごめんね」
「いや、いいんですけど……本当に、お兄様ももう少し周りをみてほしいです……」
「まあ、落ち着いたら戻るんじゃないの。というか、最初は隠そうとしてたのに、ばれたら早かったわね」
「……悲しくなるんで止めませんか」
「そうね。それじゃあ、食べて忘れましょう」
「あっ、食堂ですね。行きましょうか」
「と、言いたいところだけど私、今、お金持ってきてないから財布とってくるわね。少し待ってて」
そう言って、ソフィア先輩が去るのを見送ったとき、私は背後から気配を感じました。ですが、振り向くとそこには誰もいませんでした。
「うーん、確かに何人かいたと思うんですけどね?」
不思議に思いつつも、それ以上考えるのをやめてソフィア先輩を待つのでした……
「おい、お前ら。うちのリリアにどうして手を出そうとしたんだ」
「そ、それは……」
「あなた。きっと、国王派の人間の手先でしょう。もう、もう少しあなたも喧嘩の売り方考えてよ」
「そうですか……にしてもあの人たちも暇だなあ」
「そうこう言いつつ、全員気絶してるけど、どうするの?」
「放置でいいだろ。頭の中もいじくって、記憶も何もかも消しておいたから」
「あなたが私のこと以外でそこまで周り見えなくなることがあるのね」
「まあ、妹は大事にしないとな」
「シスコン……か」
「何か言ったか?」
「いいえ、何も……」




