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異世界でも貴女と研究だけを愛する  作者: 香宮 浩幸
第五章 騒乱の学園と王都政争編
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聖なる夜に懐かしき街を

クリスマス短編です。本編でもさらっと触れましたが、時系列は魔人戦争の出発前夜に戻ります。


21:25から四話を一時間おきに投稿で、一応最後は日付変わっちゃってますが12:25に投稿します。


それではMerryChristmas


師匠達が夫婦喧嘩を散々にやったその夜、とは言っても上空で結界を張ってだったので、誰も見た者はいないし、外部に被害も出てはいない。ただ、セーラさんがズタボロになった師匠を連れて帰っていっただけだ。


師匠達は王都の商業街の中心部にある高めの宿を借りているので、そこに帰るそうだが……あのグロテスクな師匠を見たら、シルヴィア王女、発狂するんじゃ……


「それはないでしょう。あの人、見かけによらず昔から冒険を続ける毎日だったらしいから、グロ耐性は高いはずよ。というか、そもそもあの二人とは別の部屋を取っているでしょ」

「それもそうか」


俺達はベッドサイドでそんな話をしながらのんびりとしていた。ここ数日は寮には戻らず、魔人たちの監視のために邸宅で一夜を明かすことが多かったのですっかり慣れてしまったが、最初は久々に一緒に生活してみてあまりの違和感のなさに驚いたものだった。容姿も相当変わってるのにな。


「さてと、そろそろ、寝ようかと思っていたんだけど……寝られそうもないんだよね」

「どうしたのよ、いきなり。ひょっとして明日の魔人との戦争が不安なの?」

「違うよ。ただ……この三日間。詩帆がずっと隣にいたのに、手を出せなかったからさあ……」

「変態……でも、いいよ……私も、雅也を、感じていたいから。はっ、きょっ、今日だけよ……ああ、もう好きにして…」

「それじゃあ、お言葉に甘えて……」


俺はベッドサイドに座っていた詩帆を押し倒すと、そのまま体を重ね合わせた…………






「雅也……激しすぎ」

「そう言う詩帆も大概だけどね」

「うっ……」


ことが終わった後で、汗を流すためにシャワーを浴びて戻ってきた俺と詩帆は再びベッドサイドで話をしていた。


「いいじゃない。こんな日ぐらい」

「その言葉、そっくりそのまま返すよ」

「……雅也の意地悪」

「冗談だよ。それより、もう寝るか?」

「さすがにもう一戦やる気もないから寝るけど……何、まだ足りないの?」

「そうじゃないよ。ちょっと調べたいことがあってさ」

「調べたいこと?」


可愛らしく首を傾げた詩帆を見ながら、俺は指先に魔力を集めて、とある魔術を使った。


「<次元空間ワールドインフォ情報干渉インジェクション>」

「何をしようとしてるの?」

「ああ。これは俺のオリジナル魔術なんだけどさあ」

「それは分かるわよ」

「はいはい。まあ、簡単に言うと俺が魔力情報を構成している量子データの組み合わせを、全て言語化できるというのは話しただろう」

「三万通りあるとかいう無茶苦茶な言語化表よね。それで?」

「簡単に言うと、この魔術は任意のある一つの事象に関する情報を次元層の狭間から呼び出す魔術。要は前世の実験装置の代わりで、師匠達の儀式の簡易版みたいなものだよ」


そう言いながら、俺は早速実演してみせようとした。


「簡単に説明するより、実演する方が早いから」

「じゃあ、魔神について」

「これで詳細説明とかが出てきたら面白そうだな。じゃあ、それで……」


魔術を<魔神>をキーワードにして発動しようとした瞬間、俺は世界が歪んだことを感じた。


「何だ……何がどうなって」

「雅也。光が……」

「空間が、裂ける……」

「ねえ、何がどうなって……」

「とにかく掴まって……」

「雅也」

「詩帆」


彼女が伸ばした手を引っ張り、そのまま抱きしめた瞬間、爆発的な光に包まれて……






「ううっ……ここは?」


まばゆい光に目を開けると、俺は公園のベンチに座っていた。意識がはっきりして周りを見渡すと真横に詩帆が座っていた。気を失ってはいるが、命に別状はなさそうだ。


「よかった……んっ、公園のベンチ。というか……ユーフィリアじゃなくて詩帆、だよな」


俺が座っていた場所は日本の公園のようだった。というか、周りを見渡すと日本人的顔立ちの人たちがたくさんいる。しかも詩帆は詩帆の姿に戻っていた。


「どういうことだ……しかも、俺達の姿は半透明だし、周りの人には視認できないみたいだし……」


とにかく魔神に関する情報を引き出そうとした結果、ここに……おそらく精神体というか霊体になって飛ばされたわけだから、原因は俺か、あの空間か、魔神か、はたまたその他に原因があったのかもしれないのだが、とにかく何らかの原因であっちの世界とこちらの世界の一部が癒着してしまったのは間違いなさそうだ。


「精神体だけが飛ばされたということは、おそらく肉体は向こうの世界にあるんだろうが……こっちの世界との時間の進み方に差があるのかどうかが問題だな……」

「ううっ……」


などと一人で考察を進めていると、詩帆が目を覚ました。


「ここは?」

「たぶん、別世界の公園。というか、俺の術式が問題だとしたら間違いなく……」

「日本、ってこと?」

「そういうことだな」

「なるほど、だから私たちの体が半透明なのね」

「それと因果関係があるかは分からないが。まあ、魔力情報の塊みたいな状態であることは間違いないかな」


俺達の体は前世で言う、魂。まあ魔力情報を核としたエネルギー体であるようだ。俺の実証実験でも試しているように、次元層に物体を送り込むには莫大なエネルギーが必要らしいので、これは必然的に起こったことだろう。


「それで、戻れるの?」

「今の時点でははっきりとは……ただ、俺の魔術が膨大な魔力を使って魔力情報を覗き見る魔術だから……」

「術式に注ぎ込んだ魔力が暴走してこうなったのなら、注ぎ込んだ魔力が消失すれば元に戻れるということ?」

「たぶんな。まあ、そうじゃなければ<次元切断ディメンジョンスラッシュ>で次元壁に穴をあけて帰ればいい。たぶん、肉体に触れれば元に戻れるだろうし」

「分かった……じゃあ、後はこの世界と向こうの世界での時間の流れの差ぐらいかしら」


帰還の方法がはっきりしたところで、詩帆が問題としてあげたのは俺と同じものだった。


「ああ。ただ、それは詩帆と話している間に特に問題がないと気づいた」

「どういうこと?」

「俺達の体感時間は変化していないということは、両方の時間の流れの位置が違っても速度は変わらないということだからな」

「つまりこっちの世界と向こうの世界の時間の流れる速度は同じ?」

「まあ、時間に速度という概念をあてはめられるかは別としてね」

「ふーん。まあ、そういうことならあまり長居しなければ問題なさそうね」

「そうだな」


当面の問題が解消されたところで、詩帆は少し笑顔になった。どうやら考えることは同じみたいだな。


「少し、昔の街並みを歩こうか」

「そうしましょう……でも、あまり変化していないみたいだけれど、この世界が私たちが元いた世界と同じだったとしたら、何年後にあたるのかしら?」

「うーん、やっぱり十五年……なあ、詩帆。電光掲示板見えるか?」

「あそこのビルの奴よね……えっ、二年前?」


そこに表示されていた日付は俺と詩帆が転生する二年前の物だった。


「どういうこと?進んでいるどころか戻っているって」

「俺にもよく分からん。時間が逆行するなんて……でも、理論上は魔術で空間に干渉可能という時点で、その応用で時間にも干渉可能だろうし……」

「つまり、魔術の影響で時間に干渉が起きて、時間が巻き戻ったってこと?」

「何度も言うが、原因も原理もさっぱりわからん。魔術だって世界の法則に則ったものである以上、世界のシステムに逆らうようなことができるわけが……」

「とりあえず、魔術と物理学の一領域を極めてるあなたでも、理解不能な現象ってことね」

「うーん、夢であるとか、魔力情報によって構成された仮想世界であるとか、色々仮説は立つけど……正解を当てるのは不可能だね」


俺も割とパニックだ。この世に魔術法則と物理法則を超越した何かが発生する可能性。ゼロとは誰も断定できないが、ゼロであると仮定しても問題ないような確率の何かが俺達に起こったことになる。


「まあ、雅也と一緒ならありえない可能性ではないから、いいけど」

「どういう意味だよ」

「何度も言ってるでしょう。雅也と一緒にいると、近所を散歩中に狙撃されたり、月に二度も銀行強盗に出会ったり、新婚旅行先で大規模テロに巻き込まれたり……余命宣告されて、諦めてたところに異世界に転生するとか訳の分からないことを言いだすし……」

「特に否定はしない」

「でも、私はそれも楽しんでるからいいわよ。さてと、じゃあまずはどこから行く」

「そうだな……じゃあ、せっかくイルミネーションが広がっているしそこをのんびり歩こうか」

「そうしよ」


俺は詩帆の手を取るとイルミネーションがされた並木道を歩いて行った。


「なんか、カップルが多いと思ったら今日はクリスマスみたいだよ」

「へー。前世ではクリスマスにデートなんて付き合い始めた大学三年の夏休み以来、一度も行ってない気がするな……いや、一度行ったっけ?」

「ええ、なぜか一度だけ行けた気がするのよね。クリスマスなんて毎年、病院が忙しすぎて私は手が離せないし……」

「うちの方は、彼女のいない院生たちが宴会やってるから……監督役で残らざるを得なかったからな……あいつら、家か店でやれよ」

「フフ……で、最後の一年はもちろん私が病院だったから……」

「でも、二人で窓からイルミネーション見れたから、それでよかったんじゃないのか」

「そうね……」


そうして歩いていると、やがて公園の出口にたどり着いた。


「こうしてると本当に前世のままよね。ひょっとして前世の私達と遭遇したりして」

「そもそも会っても見えないし、第一まだ七時だろ」

「七時に絶対に働いてるっていうのが、悲しいわね……」

「まあ、今日は日が日だしな」

「うーん。まあ、前世の思い出しても意味のない話は封印しましょう。それよりこの世界でも魔術って使えるのよね?」

「ああ。それはたぶん……<風弾ウィンドバレット>」


詩帆の言葉に、俺は頭上に<風弾ウィンドバレット>を打ち上げてみせた。


「なるほど……じゃあ、前世ではできなかったことをしましょう」

「例えば?」

「……スカイツリーに登る」

「一番頂点?」

「うん」

「詩帆にしては非常識な発言だな」

「今日だけよ。誰にも見られないんだったら……二度とないこの世界のデートで、こんな面白いことができるなら……やってみたいな、って」

「ふーん。じゃあ、行こうか」


俺は詩帆とともに、即座に前方に見えていたスカイツリーの頂上に<転移テレポート>した。


「うわあ……すごい」

「町中がイルミネーションみたいだな」


街で一番高い位置から見下ろす夜景はまさに絶景だった。さすがに寒いのである程度の風は遮断してあるが、高所特有の冷たく吹き付ける風というのがまたいい。


「雅也……この頃の私達って……」

「一番幸せだった頃だろうな……」

「じゃあ、会ってもいいか」

「どういう意味だ?」

「いや、思い出の場所を回っていきたかったんだけど……私の病気で疲れ切ってる雅也や私に会うのは嫌だなあと思って」

「そういうこと」

「でも、今の私達なら楽しそうにしてるし、会っても懐かしいぐらいかな、って」


そう言いながら詩帆は少し寂しそうな顔をしていた。


「懐かしい、というより寂しそうだな」

「だって……今も楽しいけど、夢を追って、頑張っていたの頃の方が数百倍楽しかった。あなたも隣にいたし……」

「じゃあ、帰ったら向こうの世界でも夢を叶えよう」

「そっか……うん、できるもんね」

「ああ。どうとでもなるよ。次の国王陛下は俺の親友だからな」

「レオン殿下を親友っていう雅也が少し不気味なんだけど……」

「そこをこのシチュで突っ込むなよ……」

「ごめん、ごめん。でも、元気出たよ」

「それじゃあ、どこへ行こうか」

「まずは……」


母校、よく行った店、そして自宅もちらりと覗いてみたが、やはり明かりはついていなかった。


「やっぱりまだ帰ってなかったね」

「そうだな……じゃあ、次は大学に行く?それとも病院?」

「うーん、雅也が私を迎えに来る可能性の方が高そうだから……」

「じゃあ、病院から行くか」


そう言いながら、俺と詩帆は慣れた足取りで自宅から病院までの道のりを歩き始めた。

次回投稿は一時間後です。

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