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異世界でも貴女と研究だけを愛する  作者: 香宮 浩幸
第五章 騒乱の学園と王都政争編
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第八十話 彼らしいデート先

投稿遅れてすみません。寝落ちしてました。


本日は少し短めです。


「まあ、師匠の本を探すのも急ぎといえば急ぎだけど、ひとまずのんびりしようか」

「のんびり……じゃあ、お互いの好きな分野を順に巡っていきましょう」

「それをやったらお互い専門的過ぎて、片方がキツ……くもないか」

「両方とも、仕事の話は家で喋ってたから普通に基礎的なことなら理解できるし、後の趣味は似ているから私たちは中学時代に出会ったんでしょう」

「そうだよな」


図書館内を歩きながら、私と雅也は館内の巡り方を話していた。


「だから、次は私ね」

「次?別にいいけど……最初じゃないのか」

「さっきの伝記の書架に行きたいって言ったのは雅也でしょ」

「そういえば……師匠のお目当ての本がひょっとしたらあるかもしれないと思ったのと、師匠たちの伝記があったら面白いと思って最初にチョイスしたわ……」

「結構ひどいこと考えていたのね」

「そうかもな。うーん、さっきのところに後で戻って一冊魔神戦の伝記を借りて行こう。師匠たちの反応が楽しみだな」


ものすごく笑顔になっている雅也を見ると、賢者様の特訓はとても厳しかったのかもしれない。あの物理学にのめり込んでいた時の雅也の興味がすべて移った魔術の特訓でそうなったのだから、きっとそうだったんでしょうね……でも、雅也とマーリスさんの掛け合いを見ていると単純に嫌がらせをやり合っているようにも感じるのよね。


「それで詩帆が最初に選ぶジャンルは?」

「まずはこの世界の医学書のところに行こうかな」

「うん、さすがに詩帆らしいわ。そうしようか」

「らしいって言うのはどういう意味よ……ところでさあ」


雅也の発言に引っ掛かりかけた私は、その過程でふと先ほど見たものを思い出した。


「何?」

「さっきのマーリスさんたちの伝記があったじゃない」

「あったな」

「雅也って、今後魔王戦に参加したり、最終的に魔神も討伐する気があるのよね」

「もちろんだけど、それがどうかしたか?」

「私達もさっきの伝記みたいになる可能性はあるんじゃないかしら」

「あっ」


さっきまで伝記で師匠をからかってやろうかと言っていた雅也の楽しそうな表情は一瞬で吹き飛んだ。


「確かに……そう、なるな……」

「でしょう。そうなったら……私達もあんな風に美化して書かれるわよね」

「しかも実際のクライスとユーフィリアの出会いが出会いだからな」

「出会い……」


そういえば、雅也に正体を明かしてもらったのは……魔術祭の後の、舞踏会だったけど……まだ、お互いにユーフィリアとクライスとして出会った最初の日って、いつだったかしら。入学式の日だったっけ……


「ほら、王都の魔人襲撃事件の時に……」

「っつ、お、思い出してるわよ。えっ、あれが最初だっけ」

「そうだよ」


雅也の言葉にはっきりと思い出した。魔人の襲撃を受けて、レテレアを庇って戦っているときに、雅也とリリアちゃんが来てくれたのよね。その後、私が相手の策にはまって重傷を負った後、私を雅也が抱えてくれて……


「そういえば、前世でもやったことがなかったお姫さ……」

「思い出したから、言わないで」


どうやら私は自分の発言でとんでもない地雷を踏んでしまったようです。ああ、もうあの日の私。せめて意識は保ってやられなさいよ。


「分かったよ。まあ、詩帆が人前でそういうのをやられるの嫌がるのは知ってるけどさあ」

「別に家の中でも許可したことはないけど」

「分かってるよ……それで、思い出したらあの日が美化されて書かれるのがどれだけヤバいか分かるか?」

「……分かりすぎるほど分かるわ」


将来の妻を華麗に助けて、しかも相手は魔人。さらに帰りは……抱えられていたのだ。美化されたらどんなに恥ずかしいことになるか分かったものじゃない。まあ、唯一の救いはあの一番大切な私が起きた後の出来事だけは書かれないことね。あの大切な思い出だけは誰にも汚されたくないもの。


「まあ、俺としては初めて恋に落ちた瞬間と、穏やかな時間の象徴でもあるあの夕暮れの記憶さえ面白おかしく書かれなければいいよ」

「……そう」

「あれ、俺怒らせるようなこと言った?」

「言ったわよ。他のシーンでも十分嫌じゃない」


もちろん、顔が赤くなったのを誤魔化すための方便だ。雅也と思っているシーンがいっしょだったと知れたのがとても、嬉しかったから。


「まあ、そう言うなよ。さて、時間をかけすぎても嫌だし本を見ようかな」

「えっ……ああ、もう医学書の棚に着いてたのね」


話している間に、雅也は私を誘導して医学書の棚に来ていたらしい。というか、一度も館内図を見てなかったけど、覚えるぐらい来るって、どんな寂しい入学式前の期間を過ごしていたのかしら。


「雅也。書架の場所って全部、覚えてるの?」

「当然。じゃなきゃ、喋りながら案内なんてできないよ」

「はあ。一体何回来てたのよ」

「うーん、三回ぐらいかな。学院の図書館の方が魔術関係の資料は詳しかったし」

「三回……それで館内の配置図を覚えたの?」

「伊達に数万種類ある次元間の量子データの訳を暗記してるだけはあるだろ」


こういう時にふと、雅也が天才学者であったことがよく分かる。普段はいたるところが抜けたポンコツにしか見えないのだけれど……でも、そういうところが好きなのかもしれないけど。


「それで、どういうのを見たいの?」

「私はこの世界にしかない特殊な症例のまとめかな」

「ふーん。じゃあ、俺は医学史でも読んでおこうかな」






「詩帆。読み終わった?」

「ええ。面白かったわよ」

「俺も楽しめたよ。意外にこの世界の医学って進歩してるんだなあとは思った」


本の内容を見てると、現代医学では解明されているような症例が不治の病とされているものもいくつかあったけれども、やはり魔術や魔術によって生成した毒による症例などは今までにないタイプで非常に面白かった。思わず、色々なこと忘れて没頭してしまうぐらいに……


「さすがに二時間はかけすぎたな」

「すみません……」


私が本にはまり込んだのを確認した雅也は一通りの本の内容を読み上げてから、科学知識に関する書架から本を持ってきて読み始めていた。更に面白そうなこの世界の小説や、ちゃっかり魔神戦争の伝記まで借りてきていた。


「まあ、俺は待ってはないからいいけどね。それより、他に興味のある本があったら借りていく?」

「いいわ。似たような内容の本が学院にもあったから」

「了解。それじゃあ、そろそろ本題の師匠のおつかいに行きましょうか」

「そういえば、それが主目的だったわね……すっかり忘れてたわ」

「デートに意識が移ってた?それなら俺は嬉しいけど」

「違うわよ。本の話よ」

「そう……まあ、顔を見ればだいたい分かるからいいけど」


なんで、雅也はこういうところだけ気づくのか、少し不思議だ。他のところはとことん鈍いのに、なんで私が隠そうとした感情に限って当ててくるのか。そういえば、昔聞いたな……でも、雅也はなって言ってたっけ。


「ねえ、雅也」

「今度は何?」

「昔、私の感情をピンポイントで読み取れる理由を聞いたとき、雅也は何て言ったんだっけ」

「ああ、普通のことだよ」

「その内容」

「……詩帆の全てに惚れこんだのに、貴女の大切な思いに気づかないわけがない、といわせていただきましたよ」

「……」

「あれ、詩帆。どうかした?」

「むしろそここそ空気を読んでよ」


雅也と、外で前世のプライベート話をするのは絶対にやめよう、そう思えた回答だった。

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