第七十九話 俺らしいデート先
70000PV突破しました。ありがとうございます。
そして気が付けば、遂に計百部に到達していました。これも読んでくださる皆さんのおかげです。これから先、更新がどうなるかはわかりませんが、なるべく長く更新が続けて行けるよう頑張りますので、これからも応援し続けてくださると幸いです。
屋敷に<座標転移>で戻ると、裏庭に面した一部屋で詩帆と師匠とセーラさんは迎えてくれた。
「ただいま」
「あら、おかえり雅也。それで、話はどうなったの?」
「簡単に言えば、国王陛下たち現政府上層部の方々は、全員レオンの手のひらの上で踊らされたということだな」
「ということは君が介入できるようになったということかな」
「いえ、むしろしばらくは絶対に介入できない状況を作り上げました」
「どういうこと?」
「こういうこと」
俺は手元にあった紙を広げて、詩帆に渡した。
「これは……レオン殿下の直筆、でも、どこで?」
「馬車の中でだな」
師匠に詩帆への言付を頼んでから、馬車に乗せられた俺はしばらくして馬車が止まったとき、とある人に再会したのだった。
「馬車の御者席からジャンヌさんが出てきて、俺にこの手紙を渡したんだよね」
「ジャンヌさんって、確か殿下の護衛の騎士の方よね。でも、なぜ?」
「俺を利用して政権を素早く合法的に奪取する方法を思いついたんだって」
「つまり?」
「絶対にかなわない魔人の軍勢に突っ込んで、現陛下や腐った上層部の方々には戦死していただくというわけだよ」
戦争での戦死でなら継承が楽だし、何より周りの上層部の人間も同時に葬れるのは非常に効率的だ。というようなことが書いてあって、その後に俺に国王の前で取ってほしい対応が書いてあって……正直言って、若干引いた。けど、それが詩帆を守るのに最も適切ならということで俺はそれに協力しようとしたわけだ。
「でも、その方法だと指揮官勢が吹き飛んだ王国軍はパニックにならないかしら?」
「それを防げるかどうかはレオン殿下の指揮の腕しだいだな。それができたなら、俺は王国というか、レオンに仕えることを公的に承諾して……魔人を殲滅すると」
「簡単に言ってるけど、仮に失敗したら国軍が壊滅するのよ。今後のこの国の防衛にも関わってくるし、何よりあなたが異常な魔術師だってことは分かっているけど、あなたでも百体全てをさばけるわけじゃないでしょう。下手をして、数体逃せば王都や周辺の町が……」
「そのために師匠とセーラさんに周囲を固めてもらう。ただ、レオンの統治を素早く安定させて、魔神戦に備えるためには師匠とセーラさんは封印した方がいい」
「下手に七賢者が復活したと知られて、しかもこの国の味方に付くとなったら、戦力が今回の戦いで消耗していても、まあ、まず間違いなく出兵論を語る輩が出るだろうからね」
「そんなことをして、あなたが死んだら……魔神をだれが討伐するのよ」
詩帆のその発言は的を得ていたし、事実でもあるのだが……たぶん、本音はそこじゃないだろう。
「詩帆……」
「ユーフィリアちゃん、いやシホちゃんって呼んだ方が良かったかしら」
詩帆に声をかけようとした俺を遮ったのはセーラさんだった。最近、俺の発言で心配かけることが多かったし……ここは年上のお姉さんに任せてみましょうか。
「詩帆でいいですよ」
「そう。それで、不安な気持ちはわかるわ。クライス君と二度と会えなくなったら、っていう気持ちは……私にも経験があるからね」
「はい……」
「あなたはクライス君のことが好きなのよね」
「当たり前です」
「分かってるわ。じゃあ、信じて待ってなさい……って、言われても不安なんでしょ」
「そう、ですね……」
「じゃあ、強くなりなさい」
その言葉に詩帆はうつむき加減だった顔を上げた。俺はその表情に嫌な予感がした、見ると反対側に立っていた師匠が表情で同情を表していた。
「旦那様が強すぎて、私達じゃ届かないから、だから信じて待つしかないなんてことは多々あるわ。でも、私達には、共闘はできなくても……同じ戦場で戦える力は持てるわ。だから……」
「セーラさん、私に覚えられるすべての魔術技能を叩き込んでください」
「任せなさい」
詩帆の気迫に、俺は師匠とセーラさんを交互に見ながら、詩帆に十年後は完全に負けているんじゃないかという恐怖を覚えていた
「というわけで、雅也」
「はい」
「なんで、そんなに驚くのよ。とにかく、魔神との戦闘に出向くときは私も連れて行ってね」
「……分かった」
「なんだか、その間が怖いのだけど……」
「大丈夫よ、シホちゃん。クライス君があなたを置いて行っても……私が連れて行ってあげるから」
「ありがとうございます」
「いいのよ。という訳で早速召喚魔術でも覚えてみる?普通の魔術と違って人工生命体を作ったり、人々の伝承で語り継がれることによって形質が固定化された精霊を呼び出せたりするから……」
「万能性がすごいですね」
楽しそうに魔術について話しだした二人を見ながら、俺が未来を想像して震えていると、師匠が後ろから肩を叩いてきた。振り向くと、師匠は笑顔でこう言った。
「ようこそ。人生の真の墓場へ。楽しい新婚生活はもう終わりだよ」
「絶対認めません。詩帆は可愛いですからね」
「うちのセーラも負けてはいないと思うけど……ただ、それはそれ、これはこれだね」
「止めましょう……こんな不毛な会話は」
「そうだね……ああ、セーラも昔はシホさんみたいな感じだったんだけどなあ……」
師匠達のような関係性の夫婦も悪くないなあ、とは思うが……俺は詩帆には可愛らしいままでいて欲しいな。って、話が横道にそれすぎだろう。
「さてと、それでルーテミア王国軍が到着するまではどうするんだい」
「僕が監視を続けます。偵察ぐらいなら無視ですが、攻撃行動があった場合は……先に殲滅しようかと」
「まあ、レオン殿下が簡単に、なおかつ周囲を納得させて王になれるのはいいけど……その前に王国が大打撃を被っても仕方ないしね」
「というわけで、出兵準備が完了するまで監視を続けましょうか……<遠隔視 光学反射>」
俺は話を終えると、早速魔術を用いての監視を始めた……
……三日後
「ああ、目が痛い……<快癒>……さてと、痛みはとれたな……<遠隔視 光学反射>」
あれから三日間。俺は魔人の軍勢を監視し続けていた。
「雅也。目が痛いんだったら一度休憩したら?」
「痛みは魔術で取れるからな。何より、監視は外せないでしょ」
「こまめに見るだけでいいんじゃないの」
「こまめに休憩を取れればいい」
「そうは言っても……」
夜もなるべく寝ずに、<暗視>を併用して監視をし続けていた俺の目は悲鳴を上げていた。途中で目に<身体能力強化>をかけることを思いつかなかったら、もっと悲惨なことになっていただろう。
「雅也。疲れてたら、魔人との戦闘に支障が出るから休みなって」
「前世では三徹位なら余裕だったから大丈夫」
「そう言って、三日徹夜した次の日に、病院でぶっ倒れたバカはどこのどなたでしたっけ?」
「うっ……」
「クライス君、彼女の言う通りだと思うよ。私が監視を続けておくから休みなさい」
そう言って入ってきた師匠も、連日監視を続けているはずなのだが……なぜ、疲れたように見えないんだろうか?
「クライス君。そんな大変なことをしなくても、王都の周りに風の結界を張って、それが反応したら斬り刻むような術式を組んでおけばいいじゃないか」
「あっ……その手がありますね」
「という訳でだ、それに三日経っても気づかないほど疲れているんだから……休みついでにデートがてらおつかいに行ってくれないかな」
「おつかい、ですか?」
「ああ。実は私が書いた千年前の魔人との詳細な戦闘記録が王立図書館にあるんだ。現代の魔人との相違点を調べたいから探してきてくれ」
「なんで、師匠が書いたものがあるんですか?」
「持っていくのを忘れていた。という訳で場所も分からないから頑張ってくれ」
そう言って、師匠は俺と詩帆を部屋の外に出した。
「どうするの?」
「行くよ。師匠が監視してるなら滅多なことはおこらないだろうし。それにただ休むよりも気が休まる」
「図書館だもんね」
「何でか昔から、本がいっぱいある場所にいると落ち着くからなあ……」
「そんな理由で、あなたは自室をジャンル関係なしの書庫にしてたの?」
「いや。本が好きなのはもちろんだし……色々と隠し場所を作りやすいしな」
「へー。自宅に何を隠してたのか、後で聞かせてね」
「研究関係の物だよ」
「あなたが研究関連の隠さなきゃならないような危険物を自宅に置くわけないから、疑っているのだけど」
「……たまには気が変わるときもあるって……<座標転移>」
俺は詩帆からの追及を誤魔化すように、王立図書館へと転移した。
「よし、到着」
「雅也。後で誤魔化していたものの内容は聞かせてもらうからね」
「さあ、なんのことだろうか?」
「はあ……それより、幻影はかけなくてもいいのかしら」
「ああ、かけてなかったな……<幻影>」
転移したのは王立図書館の前庭の木の影だ。そこでいつものように、雅也と詩帆に見えるように幻影をかける。今日は二人ともローブ姿なので、ただの魔術師の二人組にしか見えないだろう。
「じゃあ、行こうか」
「ええ。それにしても……意外と混乱はないわね」
「まあ、表向きはな」
三日前。魔人の軍勢が王都郊外の草原に展開されたという一報が入った時点で街の市外壁は完全に閉鎖されていた。外部からの流通が止まっているので、死活問題な気もするが、王都の城壁内には農園や漁ができる川もあるため、そこまで大きな混乱はない。せいぜい王都内では生産されていない農作物や肉の値段が少し上がった程度だ。
「でも、外にいるのは、ただの軍隊じゃなくて魔人の軍勢よ。さすがにパニックになりそうなものだけど……」
「誰も千年前に生きていないからな。この間の魔人の騒動に巻き込まれた人間ならともかく、そうじゃない人なら、精々魔術が得意な魔物程度の認識だろうよ。それに、この国はこの三十年ぐらい戦争もないしな」
「そう、か……平和ボケも考え物ね。この国の軍隊に練度ってお察しでしょう」
「ああ。正直言って、他の国との戦争でもまともに戦える気はしない」
この国の一般兵の練度は、レオン曰くそこら辺のチンピラに毛が生えた程度のレベルだそうだ。そして、まだ魔物との戦闘経験がある下級の冒険者の方が強いとも。
「まあ、平和なおかげでパニックが起こってないみたいだし、それはそれでいいんじゃないのか」
「そうね。それにあなたが守ってくれるんだから、大丈夫よね」
「急に可愛いこと言うなよ……行くよ」
「もう、照れないでよ」
思わず顔を赤くしてしまった俺は、その顔を見られるまいと足早に図書館の入り口へと向かった。
「へえ、師匠たちの活躍ってこんな伝承になってたんだ」
「うわあ、なんか、セーラさんとの恋物語までできてるわよ……英雄と呼ばれるのも考え物ね」
図書館に入った俺達はゆっくりと図書館内を見て回っていた。正直言って、師匠が書いた本があるとすれば、古すぎて間違いなく普通の書架にはないはずなので、館員に相談した方がいいのだが、俺はついでに色々と見たい本があったので、詩帆がそれに気づいていないのをいいことに、探索を続けさせてもらうことにした。
「それで、雅也……」
「どうした?」
「真面目に探してるんじゃないわよね」
「やっぱり、ばれた?」
「気づかない方がおかしいでしょう」
やっぱり詩帆にはバレていた。
「悪い、悪い。ちょっと久しぶりに王立図書館に来たから見たい本がいっぱいあってさ」
「それは私もいいのよ……デート気分味わってたしね」
「そういえば、学生時代は古書店とカフェに行って帰るみたいなのんびりとしたデートしてたね」
「ええ。あなたが准教授になってからもそう言う下町をめぐるみたいなデートはしてたわよ」
「そうだったっけ」
「あなたとのデートはね、高級レストランに行こうとかすると、なぜだかあなたのファンとかいう理系男子にあったり、マスコミに遭遇したりするから嫌なのよ」
「そういえば、一回窓ガラス突き破ってライフル弾が飛んできた時もあったな」
「笑い事じゃないからね」
「お客様、館内ではお静かに願います」
「「すいません」」
話が盛り上がって、声が大きくなりすぎていたようで館員に声をかけられた。焦って思わず声がかぶってしまって笑いそうになるのをこらえた。
「もう、雅也……」
「ごめん。じゃあ、ここからは図書館デートとして静かに楽しみましょうか」
「わっ、ちょっと雅也。いきなり手、引っ張らないで……悪くない、かも」
「それじゃあ、のんびり探索しようか」
ほんのり頬を赤く染めた詩帆の手をひいて、俺は図書館内を歩き始めた。
今日から冬季休業に入りました。という訳で更新頻度を上げられるよう頑張ります。




