〜旅立ち〜
〜リン〜
何が起きたのか理解するのに時間がかかった。
「俺は親父の遺品を整理してて、そしたら魔王の剣が出てきて、てことは俺の親父が伝説の勇者で・・・ってそんなわけないか。そもそも親父はそんなに年寄りじゃねーし」
ふと剣を見ると手紙のようなものが一緒に置いてある。
『〜リンへ〜
こうやって手紙を書くのは初めだな。本当に不本意だがお前の夢を認めてやることにした。
親らしいことはあまりしてやれていないがどうしてもパン屋を継がないというのなら俺も精一杯お前の夢を
応援してやることにした。じいさんの形見だが我が家で一番貴重なものだ。これくらいしかしてやれること
はないががんばれよ。気が変わったらいつでもパン屋を継いでくれてもいいからな。誕生日おめでとう。 』
無地の紙に几帳面に並んだ文字を見て涙がこぼれた。
「親父。ありがとう」
俺は旅立ちの決意を固め幼馴染のメルのところに行くことにした。メルは泣きはしたものの決して引き留めたりはしなかった。いつかまた戻ってくる、そう告げてメルの家メルの家を後にした。
「ずっとずっと待ってるから!絶対に絶対に待ってるから!きっと、きっと戻ってきてね!」
メルが別れ際に叫んだ。
「おう!俺は冒険者になるんだ。いずれこの村に戻ってくるぜ」
不思議なことにメルは拗ねたような諦めたような顔をした。怒らせてしまったんだろうか。女心は難しい。
別れも告げ店も当分閉めることにした。店のパンと剣を持って、俺の冒険人生はスタートした。