これから...1-1
「ソーマ、心折れたかな...。普通だったらこれくらい日常茶飯事なのに...」
「...アデル...、それはお前だけだと思うぞ。逆に聞くけど、毎日目の前で人が死んだり、人を殺したりしているのは、おかしいと思わないかい?最近は物騒な世の中になってきたけども...、お前のせいなのか?」
アデルに凄いオーラ(可愛い)を見てもらえなかったことを残念に思い、ため息をつきながらアデルの質問に答える。
ただ、返ってきた返事に疑問を持ったのかケーラの方を向きなおった。
「え、普通だろ。毎日、刺客が襲いに来たり、強盗が入ってきて防犯用魔道具で血まみれになってるし。それに......」
「いや、それ以上はもういい。アデルに聞いた私が悪いんだ......。」
ケーラが頭を抱えてしゃがみこんだ。
会話が途切れる。
ようやく、今の状況を飲み込めたのかアブが復活した。
ファルサはまだ固まっていて、ソーマは膝を着いた状態のままだ。
「本当に、あなたが...。いや、あなた様がかの有名な魔道具の革命娘と呼ばれるドクス・ケーラ様なのですか?あの御方は今年75歳の元不老族長で見た目は25歳ほどだと思っていたのですが......。」
アブが最初に話しかけてきた時とは、全くとして対応や言葉遣いが違うことに若干ムカつきながらも答える。
「.........。仕方ないでしょう。見た目が10歳ほどの可愛い女の子が実は魔道具の革命娘と呼ばれていたら各国の王族や貴族が無理やりにでも引き込もうとしたでしょう。そんな困っていた私に手を差し出してきたのがここの店主のアデル・リシュタインです。」
「おい、ケーラ。お前も態度と口調変わっているぞ。」
「.........。」
アデルに心を読まれたかのように言われて、言葉に詰まるケーラ。
しかし、顔色は変えずにいることがこれまで生きてきた経験から学んでいるのだろう。
無言になったことで返事を待っていると勘違いしたアブは言葉を続ける。
「で、では...。まさか本当にそうなのですね。こんな薄汚れた店で会えるとは、私は幸運の女神【テュケ】に微笑んでもらっているのでしょうか......。」
周りには、血が飛び散っていている状況でも自身が尊敬している人と話せたことの方がアブにとっては重要なことらしい。
ケーラは若干引きながらも自分が割り込んできた理由を思い出して顔の下半分を右袖で覆った。
「アデル、この店の奥に縛られている肉を何とかしてくれないか?魔道具を選ぶのに気が散るから......。」
「......あの野郎...、俺の店を薄汚れたなんて言いやがって...。後で半殺しにして......。」
アデルはアブの一言が心に響いたようで周りに聞こえないようにブツブツと呟いている。
そんな様子に呆れながらもケーラはもう一度少し大きな声で話しかける。
「アデル。この状況を何とかして欲しい。あれを片付けてくれ。」
「......ちっ、もう少しいたぶりたかったな......。......分かったよ。片付ければいいんだろ。片付ければ。」
「...それが最近まで師匠だった私に言うことか...。」
ケーラの呟きは誰にも反応せずに虚しく消えていく。
アデルは店が汚くなった原因でもあるミーレスに近づくと足元にある血まみれの四角い物を掴む。
それを口元に近づけて物に向かってささやきかけた。
「...幻影の魂魄よ。今、願いは果たされた。夢から皆を解き放ち、常世に返したまえ。」