第6話 GID特別クラス
「なるほどね、わかっちゃった♡」
教室に入って、最初は同級生がFTM(女性→男性)かMTF(男性→女性)のどちらかわからなかったほのかであったが、数分間の観察でなんとなくわかった。
席は縦に5人で4列となっていた。
学校側が席をあらかじめ決めていて
座席表は教室前面に貼られている。
ちなみに、苗字のみ書いてある。
窓側から、FTMの列、MTFの列、FTMの列、MTFの列であるにちがいないと、ほのかは判断した。
どうも、FTMの10人は全員男子のブレザー制服を着ているようである。
MTFよりFTMの方が制服にこだわりがあるからであろう。
FTMと思われる生徒は、なんとなく可愛い顔をしているし、中には第2次性徴期が始まり女性的な身体的特徴を備えはじめてしまった子がいた。
じっくり見るとわかるのである。
その結果、同じ列に同じ部類の生徒がいるということがわかってきたのだった。
MTFの方はちょっとわかりずらかったが、FTMほど顔は可愛くないし、男性の制服が似合ってしまっている子はMTFだってわかった。
教室の中で女子の制服を着ていたのは4人で、ほのか以外は3人だったが、その3人もMTFだということが観察の結果わかる。
きれいにおかっぱボブにカットされた子はわかりにくかったが、後の二人は、全然女子の制服が似合ってなかった。正直言っていかにも女装という感じだった。
おかっぱボブの子は外見は全く女の子だったもののMTFの列にいたから、最終的にMTFだという判断がついたのである。いわば消去法だった。
いろいろ観察しているうちに、教室に若い教師が2名入ってくる。男性の教師と女性の教師だった。
二人とも20代か30代前半という感じである。
男性は背はそんなに高くなかったが、実にイケメンで爽やかな感じだった。
女性の方も、グレーのスーツを着ていて、メイクもナチュラルだったが、ロングヘアと細身の体型が美人を強調する華やかな人物で、教室の中がパッと明るくなったような気がした。
まず男性教師が挨拶する。
「みなさん、私が担任となった福田仁です。希桜学園にようこそ。そして、GID特別クラスであるTクラスにようこそ。希望と不安でいっぱいになっている皆さんだと思いますが、私が責任をもって、みなさんの学園生活をフォローしていきたいと思います。よろしく。」
そのイケメンぶりにMTFのメンバーはちょっとうっとりする。
女性教師も挨拶した。
「私は副担任になった成沢由紀子です。私も福田先生と同様に、みなさんが快適な学園生活を送れるよう、サポートします。みなさんは全国で初めてのGIDだけのクラスです。いろいろ戸惑いもあるでしょうけど、なんでも相談してくださいね。」
(うわーっ、美人で、仕事できそうっ。FTMの人たち、けっこうときめいているんじゃないかなあ。女の人好きだろうから。
それにしても、20人しかいないクラスに二人の担任がつくなんて、意外。学校側の力の入れようがわかるなあ。性的な問題を抱えている生徒たちだから、カウンセラー的に男女一名づつ付けたんだろうなあ。)
ほのかは学校側の受け入れ態勢を分析してしまった。
そして、いわゆるオリエンテーションが始まる。
学校内での過ごし方や授業のカリキュラム、時間割等について、プリントが配布され、説明が行われた。
(わーっ、保健体育の時間がけっこうある。これは一般クラスとは違うんだろうなあ。)
説明と質疑応答は2時間に及んだ。
通常のクラスとは異なる決まりがいっぱいあり(トイレや更衣室についても説明があった。)、教師も事細かく説明せざるを得なかった。
なんとかその時間が終わると、担任の福田教諭が意外な動きをする。
「みなさん、お疲れ様でした。
最後に、私と副担任の成沢先生の自己紹介をビデオで紹介させてください。
まずは私の中学、高校時代の記録をお見せします。」
福田教諭はリモコンを押し、教室の窓についている遮光のカーテンを閉め、教室の前面に画像を写すためのスクリーンを下ろす。
そして、教師のデスクの上にあるパソコンを触って、画像を映し出す。
写し出されたのは、可愛い女子中学生の写真だった。
希桜学園の制服ではなかった。
ロングヘアでアイドルのような可憐な女子だった。
その女子の制服姿、ジャージ姿、スクール水着姿等が次々と写し出された。
中学時代を終え、途中から高校生の写真となる。
高校生ではちょっとギャルっぽい茶髪のミニスカギャルとなっていた。
(あれっ、福田先生の記録から見せるって言ってたけど、女の子の写真ばっかだから、成沢先生の中学生の写真かなあ?)
ところが、その写真はたぶん突然変化を遂げる、
映像に高校2年生と表示される。
ギャルだった女性の写真は、突然、少年のように短髪の女性の写真になる。髪の毛をバッサリ切っていた。
そして、髪の毛をショートにしたあともしばらくはミニスカ制服だったが、夏休明けと表示されたあとの画像は驚くべきことに男子の制服を着ていた。
(えっ、もしかして・・・)
ここで、映像がストップした。
「みなさん、もう気付いたと思います。今の画像は私が福田ひとみから福田仁に移行するときの記録でした。」
そのことばに、クラス全員が息を飲んだ。
(福田先生って、FTMだったんだ!すごいっ。全然わかんなかった。
ということは、成沢先生は・・・)
続いて、成沢教諭のビデオが流された。
なんと、中学生時代は丸刈りの坊主頭で野球部の選手だった。
やんちゃな男の子といった印象である。
そして、予想通り、高校入学後に容姿が変化した。
最後に福田教諭が説明する。
今のが成沢先生が成沢幸雄から由紀子になった記録でした。
再び、クラス全員が唖然とする。
いつの間にか、教室の前に出てきた成沢教諭が説明を始めた。
「みなさん、私たちのケースではご覧になったとおり、性を移行するための取り組みは高校1年の夏休からでした。私も福田先生も遅かったなあと振り返っています。みなさんの場合は中学1年の最初から、その取り組みができるのです。まだ、悩んでいることはいっぱいあると思いますが、私たちが経験をもとになんでも相談に乗ります。だから、一緒に学校生活を楽しみましょう。」
(二人とも私たちの人生の先輩なんだ。すごい学校だ。)
ほのかは、学校の姿勢が本気であることに今更ながら驚いた。
「それから、」成沢教諭は追加のアドバイスを加えた。
「みなさんには現在個人差があります。
もうすでに、心の性に近い容姿をしている方もいるし、まだ、全然近づいていない方もいらっしゃいます。
でも、これは一時的なものと思った方がいいでしょう。
あまり現在の容姿にこだわらないでください。
あなた方は成長期の入り口にはいったばかりなのですから。
これから容姿や体型、顔はどんどん変わります。
今は心の性に近い容姿をしていても、成長すると、望まない容姿に成長してしまうかもしれません。
逆に、今は心の性とは全く違う容姿をしていても、長い間に見事に変身を遂げるケースも多くあります。
10代とはそういったものなのです。
みなさん、油断をせずに、自分が望む性に近づくための努力をしてくださいね。」
(私、このクラスの中では、もっとも自分が望む性の姿に近づいているって思っていたけど、それは奢りだ。
確かに先生が言うように、成長すれば、どうなるかわからない。ホルモン投与をする予定といっても、
それだけで済む話じゃない。
いい話を聞いたっ!今の自分のポジションに安住せず、きれいな女性になるために、今日からすごい努力しようっ!)
ほのかは自らを律することを決めた。
なお、成沢のアドバイスが的を得ていたことは中学2年から3年にかけて判明するのである。