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第5話 私立希桜学園

4月になった。


ほのかは東京都の某所にある私立学校である希桜きおう学園に入学した。

この学校は中高一貫教育が売り物で、勉強、スポーツに秀でた学校である。


ユニークな教育法を多用しており、全国から生徒が集まってくる。

施設は充実しており、全国から生徒が集まるということで学生寮も完備している。


そんな名門校が今年から新たな制度にチャレンジした。


GID(性同一性障害、性別違和)クラスの設置である。


背景としては、全国で増えつつあるLBGTの波と支援の動き、それに呼応するためであった。


GIDの子供については、急速に増えており、

日本の学校は具体的な対応を求められている状態にあるのだが、

多くの学校、市町村は非常に対応に苦慮していた。


そこに、あえて切り込もうというわけだ。


なぜ、中学高校でのGIDへの対応が必要か?


それは制服の存在が大きい。


基本的に多くの小学校には制服がない。私服による通学が一般的である。

私服ならば、服装で性的なものを排除することができる。

例えば、FTM(男性になろうする女性)の女子なら、全くスカートをはかず、ずっとズボンとかショートパンツで過ごすことができる。

MTF(女性になろうとする男性)の男子はさすがにスカートを履いて小学校には行かないだろうが、ユニセックス的な服装というかファッションは可能である。


ところが中学校に入学して着ることになる制服は男女を明確に区別する。


それは、GIDにとって辛いことであった。


特にFTMの女子は絶対スカートを履きたくないと思うようである。

女性のファッションの象徴であるスカートはとても受け入れられなかった。


一方、MTFのほうは制服がブレザーズボンならFTMほどの抵抗はないと思われるが、

詰め入りの学ランは嫌がられるようだ。

いかにも男って感じになるからである。


実際、全国で制服を着たくないというFTM、またスカートを履きたいと希望するMTFが多く発生していた。

市町村、学校の対応は混乱を極めた。

ごく少数の学校が、自分の心の性別の制服で許可すると表明したが、それでは全国的に、散発的に発生する需要には対応できていなかった。



そうした状況に目をつけたのが希桜きおう学園である。

実験的な試みではあるが、全国からGIDを集めて、後悔のない青春を送ってもらおうと考えた。

新たに設置する特別クラスでは、自分の心の性別にあった制服を着てもいいと決めてしまった。

画期的な動きとしかいいようがない。


ただし、募集にあたり、ある程度学力や容姿、性格、家庭環境を考慮した。

肉体的な性と心理的な性が異なっているという点は確かに重要であったが、入学してから、問題を起こすようでは本末転倒となる。

だから、他の生徒同様、中学入学にあたっては、試験があった。

そして、面接も行い、まともな人格をもった人間であるか、性別を超えても大丈夫かを確認した上で、

入学を許可するという作業を実施した。

それは、進学校としては当然の動きなのである。



ほのかは、すべての点で、問題なく合格点だった。

ほのかは希望する特別クラスにMTFではトップの評価で入学することになった。(それは本人も家族も知らないことではあった。)




そして、入学式の日がやってきた。

ほのかは希桜学園の中学部の制服であるセーラー服を着て出席する。

(ちなみに高等部はブレザー制服)


あこがれの制服を着て、これから同学年となる300人近い男女を会場で見ながら、


(ついに女子中学生として過ごす毎日がやってきたのね。)

と感慨に浸るほのかだった。



入学式の翌日は、丸一日、学校での過ごし方を案内されるオリエンテーションの日。

授業は3日めからだった。


その日は学校における毎日の授業に関わる説明に加え、1年間のタイムスケジュール、学校独自行事の説明、学校施設の利用方法など学校生活一般の説明が行われることになっていた。


ほのかは、3階建の後者の1階に設けられたGID特別クラス(校内では、Tクラスと呼ばれた。trans sexual のTである。)の教室に、オリエンテーションに間に合うように到着する。


(このクラスで3年間すごすのね。

うーん、なんか感動しちゃうなあ。

あっ、でも希望して、許可されれば一般クラスに編入もできるんだっけ?

まあ、それは成り行き次第だなあ。希望するかわかんないや。)


(それにしても・・・)

ほのかは教室内を見回し、自分の席(黒板に書かれていた)を探して、座ろうとしているクラスメイトの動きを見ながら思った。


(ううっ、ぱっと見では、誰が男子なのか女子なのか判断できない・・・)


そう、12歳から13歳の男女の体格はあまり変わらない。

まだ、子供っぽいのである。


それ以外にも、混乱する理由があった。


まず、髪の長さが同じくらいの生徒が多い。みんな女性のショートカット程度の長さだった。


FTMはみんなショートカットにしているはずであった。

小学校の時から、短くしている子もいれば、中学になって短くした子もいるだろう。

いずれにしろ、髪の毛はいつでも短くできる。


MTFの方は小学校を卒業して、これから髪の毛を伸ばしていこうという段階であり、長い髪の子は少ないのだろうと思い当たった。


教室を見渡しながら、髪の毛が長い生徒はほのか以外には、きれいにカットされたおかっぱボブの子一人だけだった。



そして、わかりにくくするもう一つの原因が肝心の制服だった。


心の性と同じ性の制服を着ることを許可しているクラスだったが、それは強制ではなかった。

男の制服でも、女の制服でも、好きな方を選べたのである。


つまり、男の制服をきているからFTMで決まりっていうわけではなかった。


とりあえず、肉体的な性の制服で通学を始め、慣れてきたら心の性に合わせた服に変えるというのもありだったのである。


ほのかが数えてみると、クラスメイトは全員でMTFが10人、FTMが10人、計20人(応募は全国から殺到したのだが、学校側はまだ実験段階と考え20人に定員をしぼって初年度を開始することにした。)いるはずなのだが、

女子の制服であるセーラー服を着ているのは、ほのかを入れて4人だった。

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