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7合目

「何だ客か。俺はこの宿屋の主人をしているゲイルだ。で、宿泊か? 若い様だが金はあるんだろうな? 一晩銀貨4枚で食事は朝、夜つきだ」


スキンヘッドのおっさんはゲイルというらしい。


なぜか睨むような視線でこっちを見てきた。前世ならチビってしまいそうな程の迫力だが、転生したおかげか精神力も上がっているらしく冷静に答える。


「さっき盗賊の懸賞首を捕まえたんで、それくらいの金はありますよ。そう睨まないで下さい」


俺は証拠とばかりに懐から金貨を1枚取り出してカウンターの上に置いた。


おおー、と先ほどのチンピラおっさん3人組は声を揃える。だが、肝心の宿の主は金貨にはほとんど興味を示さず、俺の方をじろりと睨めつけていた。


うーん、何か気に障ることを言っただろうか・・・? いや、やはり前世からの絡まれ体質が続いているのか!?


そんなことを考えるが、「ああ、いや」とゲイルさんは、いかつい表情のまま頭をかき、首を横に振った。


「すまねえな、元からこんな顔なもんでよ。別に文句があるって言うんじゃねえんだ。ただお前さんが、懸賞首、って言ったもんだから、少し気になったってだけでな」


睨んでたわけじゃないのか。3人組のおっさんといい、人相の悪い人間が集まる場所だなあ。


「あー、つまりこんなガキが懸賞首を本当に捕まえたのか、ってことですか?」


まあ、それなら疑われもしょうがない。まだ16のガキんちょが犯罪者を捕まえて門番に引き渡したってことなんだから。そりゃ、そうだよな。


だが、ゲイルさんは「いや、それもちげーよ」と苦笑された。


「堂々としてる割には自己評価が低いんだな。いや、殊勝なだけか? 最近の若い奴にしては珍しいな。いや、なに、自分で言うのもなんだが、俺も元冒険者でな。当時は泣く子も黙る鉄壁ゲイルって言われて、ひどく怖がられてたもんさ。それは今だってあまり変わらねえ。こんな顔だしな。客だって俺の顔を見て逃げ出す輩がいるくらいだぜ。なのに、お前さんと来たら、俺に凄まれても少しもたじろぎやがらねえ。肝が据わってる証拠だ。大したもんさ」


「当然じゃよ。わしが選んだ男なのじゃから!」


いきなり口を挟んで、よく分からない褒め方をするモルテの頭を撫でながら俺は会話を進める。


「じゃあ、俺の言った懸賞首、って言葉の何が気になったんです?」


「ん? ああ、そうだったな。お前さんが捕まえてくれたのが、盗賊アーレンの野郎だったのかどうか、それが気になったんだ」


盗賊アーレン?


俺がオウム返しに聞き返すと、ゲイルさんは頷く。


「ああそうだ。ナイフ使いの一匹狼。グライヤ平原を縄張りにしている元冒険者だ。旅人や行商人を狙うコソ泥だが、元冒険者だけあってかなり腕が立つ。おかげで街の憲兵が1年かかっても捕まえられてなかった相手だ」


「あ、多分そいつですよ。特徴が全部一致してます」


「なに、ほ、本当なのか!? よく倒せたな・・・。仲間とやったのか?」


ゲイルさんが驚きながら質問してくる。俺は、うーん、と考えてから。


「そうですね、モルテと一緒にいましたね」


「馬鹿、そうじゃねえ。このチビっこい嬢ちゃんじゃあ、さすがに戦力にならんだろ。他にはいなかったのかよ。お前と一緒に戦った奴は」


いや、それがモルテなんだが・・・と言っても信じてはもらえないだろうな。彼女からとっさに身体強化の魔法を教えてもらい戦った、ってのが真相なんだが。


適当に話を作っておくか。


「いえ、モルテと二人きりでしたよ。その、盗賊アーレンですか。その時はグライヤ平原で後ろから襲われたんですが、俺は運良く気づくことができたんです。奴は自分の攻撃が防がれるとは思ってなかったみたいで、防がれたことで逆にとても驚いてました。俺はその隙をついて気絶させただけですよ」


俺はできるだけ本当に近い話をする。けっこう上手く嘘を織り交ぜられたはずだ。


だが、ゲイルさんも、それに先ほど絡んできたチンピラおっさん3人組もポカンとした表情で俺の方を見ている。な、なんでだ?


「うーん、あの狡猾と言われたアーレンが驚いただけで隙を見せるとは思えないんだが・・・」


「それに気絶させたのもなにげに凄くないか? 下手に殺すより難しいはずだぞ?」


「しかも今の話が本当だとしたら一人であのアーレンを倒したってことだぜ。すげえ」


などとつぶやいている。あらら? ちょっと意図していたのとは違う反応が・・・。


「ふ、まあ、いいか。お前さん・・・いや、コウイチロウと言ったか・・・お前・・・」


そう言ってゲイルさんは俺を物凄い形相で睨みつける。な、何だ何だ? やはり大変なことをしてしまったのか・・・???


俺はゴクリと喉を鳴らす。一体何を言われるんだ・・・?


だが、次の言葉に俺は思わず肩透かしを食らってしまった。


「お前さんは俺の恩人だ!」


そう言ってゲイルさんはいきなりカウンターに手を付くとガバっと深く頭を下げた。


「金はいい。是非泊まって行ってくれ!」


「ちょ、いきなりどうしたんですか?」


俺は驚くが、おっさん3人組も後ろで「おめでとう、おやっさん!」などといってはしゃいでいる。わけわからん。


誰か説明してくれ!


俺は疑問符ばかりを頭に浮かべる。モルテの方を見ても「さすがコーイチローじゃのー」と単に俺が周りに褒められているのが嬉しいらしく、ただニコニコしている。


駄目だこの女神。可愛いけど。


そうして、しばらくすると少し冷静になったゲイルさんが「すまん、実はな」と事情を説明してくれた。


「アーレンが盗賊になったのは、俺が原因なんだよ」


な、なんだと?


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