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1合目

俺の名前は法島ほうしま高一郎こういちろう。高校生・・・だった。


高校生なんて言うと、部活に入るなり、帰宅部を決め込んで友達と遊ぶなり、はたまた多少モテるようなら彼女でも作って楽しく過ごしたりするもんだが、俺にとってはそれこそ異世界の話だ。


小さな頃からパッとしたところのない俺は、もちろん高校生になってもスポーツできない、勉強できない、おまけに友達いないの、ないない尽くしだった。不細工だったから、もちろん彼女も出来る訳がなかった。しかもオタクだったしな・・・。


趣味と言えば孤独を癒すための登山くらいのものだ。当然ながら、体力がないから少ししか登れないし、一緒に登るような友人もいなかった。完全に孤独な趣味だ。


まあ、それでも中学生までは何とか友人も少しはいたんだ。だが、それも親の転勤にともなう引っ越しで地元から離れてしまってからは縁も切れた。


コミュ障だったから、新しい学校で部活に入ろうとしても何処からも歓迎されず、結局のところどこにも入らずじまい。


そんなわけで俺の高校生活と言えば、良く言って灰色、正直に言ってしまえば、暗黒の時代を過ごしていた。


さて、そんな俺がいつもの様にクラスメイトが皆でカラオケに行くところを、見事誰からも声を掛けられずにハブられて、一人孤独に下校していた時だ。


なかなか変わらない信号をぼけーっと見つつ、心底つまらない人生に盛大に溜め息を吐いていたのだが、急に背中を誰かに「ドンッ」と強い力で押されたのだ。


危ない!


そう頭では理解していたのだが、なぜか体がピクリとも動かす気にならず、抵抗することなく横断歩道の真ん中まで、けつまずくようにして躍り出てしまった。


背中を押されたのが突然のことだったのもあるのだろう。けれど、何よりも日頃の精神的な疲労が相当蓄積していたのだろう。


強い意志で何かに抗う、ということがこの時の俺にはできなかったのだ。


さて、当然ながら信号は赤。しかも、この道は街のメインストリートときている。あとはまあ、お察しの通りである。


車は急には止まれない。トラックだか何だかが突っ込んできて、もともと生命力の低い俺の命を見事、一瞬で刈り取っていってくれたというわけだ。


痛みさえ感じる暇がなかったのだから、きっと即死だったのだろう。


前がいきなり真っ暗になる。ああ死ぬんだな、と即死のくせに、なぜか悟ることができた。


まあ、はっきり言って良い所のない、何もない人生だったので、俺を後ろから押した人間にしろ、ひき殺した運ちゃんにしろ、そいつらを恨む気持ちは全くない。むしろ、俺が辛い思いをしながら生きるはずだった残りの人生を、ばっさりとカットしてくれて感謝したいぐらいである。親も出来の良い兄貴にしか興味がなく、俺が家にいる事が何かの間違い、みたいな扱いだったからなあ。いなくなっても誰も悲しまないし問題ないだろう。あとはPCの中身だが・・・パスワードがかけてあるから大丈夫だと思う・・・が、少しでも早く処理してくれるに越したことはない。こればかりは神頼みだ。


とまあ、そんなわけで俺にはこの世に未練も恨みもないってわけだ。早々にあの世に行くとしよう。そんなものがあればだがな。


ああ、でもそうだな。恨みはないが、文句がないわけじゃない。それは神様に対してだ。


なあ神様。どう考えてもちょっと俺のスペックが低すぎじゃないですかね・・・。頭はまあこれくらいで良いとしても、せめてもう少し見れる顔と、それなりの体力・・・要するに最低限のスペックをくれてもバチは当たらないぜ? 中学生の時に好きになった子もあっさりサッカー部のキャプテンと付き合ってたしなあ。でも、アイツ俺をいじめててスゲー性格悪いんだぜ? もうちょっと精神性みたいなものをスペックに反映してくれてもいいんじゃないかな? 俺は少なくともアイツよりは性格良いぞ? ・・・まあ、俺の容姿を考えれば、例えば俺が女でも、アッチと付き合うと思うけど。・・・と、いやいや、俺もそこまでは要求するつもりはないんだ。ただ、せめてもう少しだけマシにしてくれてもいいんじゃないかな、って思ったりするだけで・・・。


そんな風に俺が多分、完全に死ぬ間際に一瞬の思考を繰り広げていると、なぜか幼い少女の声が割り込んで来た。


「ふむふむ、精神性を反映・・・。もう少しマシなスペック、じゃな?」


そんなセリフとともに一人の銀髪幼女が現れる。


真っ暗な闇の中なのになぜかはっきりと見えた。


おいおい、死ぬ間際の愚痴にまで、美少女を登場させる俺って・・・。こりゃ相当だな。まあ、別に他に登場してほしい人物がいるわけでもないし、美少女っていうのは悪くはないか。ちょっと幼すぎるのがアレだが。


俺は自分の妄想力に呆れながらも、幼女からの問い掛けにせっかくだからと答える。


幻とはいえ、相当な美少女だ。ほぼ女の子と話す機会のなかった俺としては、妄想ですら話が出来るのがぶっちゃけ嬉しい。


「そうそう。そりゃ人間一人一人、個性があるのは分かるけどさ、俺のは色々低すぎだと思うんだよなあ。やっぱある程度かっこよくして欲しいよ。あと、もう少し体力が欲しかった。登山が趣味なんだが、この体じゃあロクに登る事ができないんだ。なんで登山口あたりでフラフラになっちゃうだよ・・・」


ふむふむ、と幼女はどこからか取り出した手帳にペンで何かをメモしている。


「分かったのじゃ。他には何かあるか?」


「え? うーん、他には特にないかな? あ、出来るなら自分一人で生きられる力が欲しかったかな。周りの人間に振り回されるのは辛かったしなあ」


「むう、なかなか抽象的なリクエストじゃが・・・。まあ、適当にしておくのじゃ!」


銀髪幼女は甘い声でそう言うと、開いていたメモをパタリと閉じた。


するとその姿がだんだんと薄れて行く。


そして10秒ほどで完全に消え去ってしまった。


ふうむ、結局なんだったのだろう、などと思っていると俺の意識もだんだんと薄れて行くのが分かった。


はっきりしていた意識が、急にぼんやりとしてきたのだ。


ああ、ついにお迎えの時が来たんだな。でも一人で行くのはやはり寂しい。


今の幼女はかわいかった。銀髪、幼女、赤い瞳に八重歯。うん、完璧。


「できれば、今のかわいい子にもついて来て欲しいもんだ・・・」


俺が呟くように言った瞬間、ついに視界も、意識も真っ暗な闇に塗りつぶされたのであった。


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