どうしてこんなことに
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太陽が照りつける広大な平野。そこでは二つの大きな群が衝突していた。
一方は人間。手に持つのは剣に槍、弓に盾。皆バラバラだ。彼らに共通しているのは目に宿した戦意とその思い。自分たちの街を守ること、それが彼らの胸に抱いている決意だった。
もう一方は多種多様だ。醜い顔をした緑色の小鬼が手に棍棒を持って人に殴りかかる。体長が三メートルほどもある牛の顔をした生物が手にした斧を横に薙ぎ、赤い液体と肉の破片が飛び散る。他にもさまざまな特徴を持つ者が入り乱れていた。その中には……人の姿も混じっていた。
「新人の子は手柄立てないと殺されちゃうわよ。ほら、がんばりなさぁい」
上官から脅しとも声援とも取れるものが飛んでくる。自然と手にしているパンを握る力が強くなる。前から鎧を着た敵兵が武器を掲げ躍りかかってきた。
──やばい。そう思った時。
そこに割りこむように飛び込んできた一つの影。影に引き裂かれた敵兵は鎧の継ぎ目から赤い鮮血をまきちらした。苦しげな声を漏らすと、そのまま地面へと崩れ落ちる。
「おいしっかりしろ愁。気抜いてると死ぬぞ」
「わ、悪い……助かった」
愁は目の前の人物を見つめる。彼はこの世界に来てから知り合った人物で、名前は竜司。襲いかかってくる敵をバッタバッタと切り伏せている。その姿は人……ではない。全身を覆う深緑の鱗に、今も敵を薙いでいるのは緑色の尻尾。彼は蜥蜴人と呼ばれるものを憑依していた。ソレが人語を流ちょうに話している姿は、初めてみる日本人なら腰を抜かすに違いない。
愁は深く深呼吸をすると、手に握る食パンに魔力を通す。その白く柔らかく小さかった食パンはだんだんと大きくなっていき。愁を超す大きさへと変貌する。命令すると、獣のような唸り声を上げて近くにいた兵士へと躍りかかっていった。
「司令官見つけたぜー」
血なまぐさい戦場に場違いな無邪気な声が聞こえた。声の方に顔を向けるとそこにいるのは少年だった。ギラギラ目を光らせ、司令官──愁の後方にいる上官を指さしていた。
「あれで間違いないよな!」
「はい。奴はネーヴェル・ドグルマ。四天王の一人です」
少年が傍を取り囲むようにしていた人物たちの一人に声をかけると、そいつはかしこまった言葉を返していた。
「それじゃあいくぜー。ふぅうう……どりぁああああ!」
馬鹿らしい掛け声とともに、少年が激しい光に包まれる。次の瞬間、その光は勢いよく射出された。轟音を立てながら愁の傍を通過すると、上官のいるあたりに直撃した。 爆裂音と共に土が舞い上がって振りかかってくる。愁は顔を手で覆い、それを凌いだ。
「なんでこんなことに……」
耳障りな喧騒を聞きながら、ぽつりとつぶやく。愁は自分がどうしてこんなことをしているのかと誰かに問いただしたかった。
そう、あれはいつも通り学校が終わった帰りのこと────