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俺と彼女達の下半身事情-魔物娘と過ごす日々-  作者: 黒箱ハイフン
第二部 二話 『我家と交流……えぇ、我家と』
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085 『伝えたかったこと』

「あっ、主さま、ここで降ろしていただけるでしょうか」


「ん、分かった。けど、こんなところでいいのか?」


 霜が望んだのは、浮神神社へ続く石段を昇ったところで、鳥居を潜ってすらもいない。本当に、ここでいいのだろうか? 別にここまでくれば、仲間で抱き上げていくのも変わらないのだけれど。


「はい、主さま、ありがとうございます。ここで――いいえ、ここがいいんです、うちは」


 そう言って、霜は神社ではなくその反対方向、町のほうへと視線を向けた。彼女に習って、俺もその景色へと目を向けてみる。


「んー、もしかして、うちを見たかった、ってことなのか?」


 そこからは、基本的に背の高くない一軒屋が多く立ち並んでいるおかげで、俺の家を含めて、あたりの家が一望できた。霜は、彼女自身でもある家を、見たかったということなのだろうか?


「えぇ、主さまのおっしゃる通りなのです。うちは最期に、うちが建っているこの町を、こうやって見てみたかったんです。ふふっ、家であるうち自身が、その建っている場所を見てみたいなんて、おかしな願いですよね?」


「それはそうかもしれないが、自分のことを、自分の居場所を知りたいって思うのは当然だとも思うぞ。まして、霜は今まで自分で動いて出歩くことが出来なかったんだからさ」


「そうですね、はい、うちも、こんな風に望みがかなうなんて思ってもいなかったです。長く在ったというのに、まるで全然その町のことが見えてなかったんですから、お笑い種ですね」


 そんなことを言いながら、感慨深そうに景色を見下ろす霜。夕暮れ時に幼い少女が自らの町を見ている姿は、なかなか絵になる光景といえよう。


 けれど、俺はそこでひとつの違和感に気がついてしまう。


「あれ? なぁ、霜、どうしたんだ、お前?」


 なんと言い表すべきか、霜の姿が薄れていた。ぼやけるような、ぶれるような感じに、まるで電波の悪いテレビのように、霜の姿がぶれてどことなく薄れている。


「あぁ、気付かれてしまいましたか。もう少し、ゆっくりとしていたかったんですが」


「いや、気付かれてって、大丈夫なのか、おい? 何があったんだよ?」


 俺の指摘になんてことはないように霜は答えるが、その態度とは裏腹に、とても大丈夫そうには見えない。原因が分からないことがもどかしくなる。


「主さま、今日まで、本当にありがとうございました」


 こちらを向いた霜が、改まったようにそう言葉を発する。


「えっ、いきなり何を?」


「うちは、主さまとこうして共に暮らせて、お話できて、とても幸せでした。最期に、こんな風に二人で町を見て回ることまでできて、もう思い残すことなんてありません」


「いや、何を言ってるんだ。そんな、これが最後なんかじゃなくて、また今度にもどこかに言ったり出来るだろ? もっと色々見て回る場所も、楽しいところもあるんだからさ。今度は、依織やレイアが帰ってきたら、みんなで街にいったりもしようぜ」


 そう、今日だけで満足されたら困る。彼女を今は居ない二人に紹介するのは勿論のこと、一緒に暮らすのだから、遊びに出かけるのも当然だ。依織やレイアは一人ずつで、と言いたがるかもしれないが、それでも皆で出かける楽しさも分かってくれるだろう。


「ああ、とっても楽しそうですね、主さま。それだけに、心苦しいです。うちのために、そんなことまで考えていただいたのに、それを無駄にしてしまうなんて。こんなことなら、もっと早くお話しておくべきだったのかもしれません」


「いや、まて、一体何を……」


「うちは、主さまの住む家の化身なのです。けれど本来なら、こうして人の身の化身を生み出すほどの力はありません。ですが、空亡さまに魔力を与えていただき、この姿をとれるようになったのです」


「あぁ、そうだったな。空亡のやつが、家事をさせる為に、ってお前に人の姿を取らせたのは俺も知ってるさ。それが、何か問題になるのか?」


「いえ、問題というわけではありません。うちの力が足りない、というだけなのですから。いただいた魔力は有限で、うちにはそれを自力で賄えるほどの力は無い、というだけで」


「そんな……」


 けれど、当たり前といえば当たり前なことでもある。無理やり空亡が魔力を与えて、本来力の無い霜に人の姿を与えたのだ。与えられた魔力が無くなれば、どうなるかなんて考えるまでも無い。


「うちは、幸せでした。本当に、果報者です、こんな素敵な主さまに仕えることが出来て」


「霜……」


「それに姿は出せませんが、うちはずっと、あの家として主さまと共に在ります。そんなに悲しんだりしないでください。もうお話できなくなるのは、ちょっと残念ですけど」


 俺を心配させないようにか笑顔で言いながらも、その姿はより希薄になっていってしまう。もう、後ろの景色がはっきりと見えてしまうほどに。


「そういえば、一つだけ、主さまにお伝えしたいことがありました」


「なんだ、何でも言ってくれ」


 その姿から察するに、彼女と話せるのはもう僅か。その言葉を、しっかり刻みつけておこう。そして、叶えられる限りのことを、やってあげたい。


「そんな気取らなくても大丈夫なのです、ただ伝えておきたかった、ということですから」


 そう苦笑すると、霜は俺の瞳をまっすぐに見て、口を開く。


「主さま、いいえ、彰さま、――お慕いしております」


 愛らしい霜の顔が俺の眼前に迫る。


 そして、唇に何かが触れる感触があったかと思うと、その姿が掻き消えていく。


 最期に見えた霜の顔は、悪戯を成功させたように満足そうで嬉しげな微笑だった。


……すいません、更新遅れました。

休日が、土日から日月に変わったおかげで、日曜一日中遊びまわってたといいますね。

なるべく、今後はこのようなことがないよう、気をつけます。



そして内容。

まぁこういう結末になるのは元からの予定だったり。

それ以上は語るのもアレなので、何も言わずに。

ただ、読み手の方の期待に沿えるような内容にはしたいと思っております。


なお、今話は後一話だけ続きます。

次で終わる予定。



それでは、今回も読んでいただきありがとうございました。

次回も来週末の更新を予定しております。

一応日曜の予定ですが、もしかしたら月曜更新になってしまうかもしれません。



それでは、次回もどうかよろしくお願いいたします。

どうか、最後までお付き合いいただけるようお願いします。

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