076 『日本だから仕方ない』
「えーと、君は……?」
「うちは、この家の化身であります!」
俺の疑問に、いきなり現われた割烹着幼女はそう答えた。
やはり彼女こそが、空亡の力によって顕現したこの家の化身なのだろう。
「そう、か。そういえば、ここは日本なんだもんな……」
整ってはいるけれど幼さの残る顔つき。白い三角巾から除く黒髪はぱっつんと真一文字に整えられ、肩にかからない程度のおかっぱの長さで揃えられている。またその身には裾の長い藍色の着物の上から、お腹の部分にポケットがついただけなシンプルな白い割烹着。
我家の化身として現われたのは、和製メイドというべき女中さんな幼女であった。
「主さま、なにかうちのことで気になることでもあるのですか?」
「いや、それは……」
俺の視線に、不安そうに聞いてくる少女に言えるはずも無い。
メイドさんの絶対領域を期待してたからガッカリしてた、なんて……!
いや、日本なんだからメイドは無くて当然なんだけど、もはや絶滅危惧種というべきレア職業の女中さんでくるとか予想外すぎた。なにより門外なのは、女中さんにはニーソも無ければ、スカートも無い、――つまるところは絶対領域が存在しないのだ!
「なに、いつもの病気であるよ。お主には関係のないことだ」
「あ、空亡さま。ありがとうございます、空亡さまのおかげで、うちはこんな姿に」
「うむうむ、喜んでもらえたようで何よりだ」
礼を言う幼女と、それに対して満足そうに頷く空亡。幼女が幼女に礼を言う、ある意味珍しい光景である。封印されていた期間や築年数から実年齢を考えると、見た目とは全く逆の年数が出る気もするけれど。
「あー、んで、君のことは、なんて呼んだらいいんだ?」
名前を呼ぼうにもそれが分からない。主さまと俺を呼んできたり、空亡のことを知っているのだから、彼女はこちらのことを知っているのだろうし、俺達も彼女がこの家の化身とは分かるが、どう読んでいいのか困る。
「あ、そうです、うちのことは霜って呼んでもらえないでしょうか? 霜神の名前から一字とって、霜と名乗らせて欲しいのです!」
「そんなことならかまわないさ。それじゃあ、よろしくな、霜」
「うむ、よろしく頼むぞ、霜よ」
「ありがとうございますなのです! 主さま、空亡さま、よろしくお願いしますです! なにかうちにできることがあったら、何でも言ってほしいのです!」
こうして幼女改め、霜が、新たに(?)我家に加わった。
そして、そんな彼女に、俺と空亡が最初に下す命令は決まっている。
「飯を頼む!」
「食事を頼むぞ!」
そんな俺達の要求に霜はその小さな身体に気合を入れるように頷く。
「分かりましたのです! めいっぱい、美味しいものをご用意させていただきます!」
そして、そう言うと彼女は床に吸い込まれた。
「えっ?」
あっけに取られる俺をよそに、台所から物音が聞こえ出す。多分、霜が台所に移動したんだろうが、一体なんだったんだ、今のは?
「というか、何か台とか用意しなくてもいいのか、あいつの背じゃ流しに届かないだろ」
「ふむ、確かにな。けれど、まずは見に行くのが先決ではないのかの」
空亡の意見にうなずくと、俺達は揃って台所へと向かう。
そして、そこで俺を待っていたのはやはり、俺の想像通り料理をする霜の姿だった。
「……は?」
けれど、俺はその光景に唖然としてしまう。
彼女は台なんて使うことなく、だというのに丁度いい高さとなって料理をしていたから。其れは勿論、急に成長した、なんてことではない。
「あ、主さま達、もうしばらく、料理の完成までお待ちくださいです!」
なんて、俺達に笑顔で答える霜。
元々は引きずるほどに長かった裾は、しっかりとうえに上がっている。
けれど、そこから覗くのは脚ではなかった。
「……木?」
まるで引き伸ばしたかのように床が持ち上がり、そこから床と同じ色の木材が直接伸びて、それが霜の着物の裾へと伸びていた。
そう、霜の腰から下は、あろうことか、床と繋がっていたのである。
日本だから仕方ない、というお話。
前回登場しながら名前を出さなかった割烹着幼女、改め霜たんの話。
そもそも日本の木造建築からメイドが生まれるはずはありません。
けど、和製メイドの女中さんならOK!
そんなわけで、新ヒロインはおかっぱ健気な女中つくもがみ幼女になります。
……毎度の如く、腰から下は、アレですが。w
それでは、今回も読んでくださりありがとうございました。
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