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俺と彼女達の下半身事情-魔物娘と過ごす日々-  作者: 黒箱ハイフン
第二部 一話 『幼馴染がやってくる……そう、幼馴染が』
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073 『予定調和な結末』

「なら、これならどうだ、其は、我が名と同じモノ――夜空を燃え落ちる星よ、この求めに応じ今ここに在れ――メテオッ!」


 再び距離をとったみーくんが天に手を掲げ唱えるのは、レイアの時にも使った魔術。――その言葉に応じ空からは数多の隕石が降り注ぐ、が、


「ふん、そんなもの、我に効くと思うのか?」


 なんて言う空亡の言葉どおり、彼女にそれを恐れる様子は一切ない。防御どころか、会費すらしようとしていない。当然のように、隕石は当る前に不可視の壁に弾かれている。


「いいや、効かないだろうな! だから――重ねて告げる、彼方より求めに応じた星よ、其は石にあらず! 我は求める、天より注ぐ無尽の矢を、星の射手<ザジタリウス>!」


「ほぅ、これは……!」


 その言葉によって起こったことに、楽しげな声を出す空亡。


 当然だろう、その変化は劇的であったのだから。


「隕石が、矢に変わるなんて……」


 唖然としているのは、実際に戦ったレイア。


 その呟きの通り、降り注いでいた燃え盛る隕石たちは、もはやその形を変え、鏃のように鋭利に、そしてより高速で飛来する火矢となっていたのだ。


 けれど、俺が最も驚いたのは、そこではない。


「まさか、あんな堂々とした、痛いセリフを聞く時がこようとは……!」


 中二病末期とも言える、鳥肌が立ちそうなルビ着きの呪文。あまりのイタさに、起こった出来事や、戦況よりも先に、言葉だけで慄いてしまったのである。


「……いや、彰さん、流石にそれはどうなんでしょう?」


 隣の依織がなんだか呆れているが、仕方ない。だって、日本人だもの。


 さておき、重要なのが戦いのほうなのは事実だ。よそ事はさておいて、二人の戦いを見守ることに集中する。


「なかなかやるのぅ」


 戦場である平原では、今も燃える鏃となった隕石が降り注いでいた。

そんな中、空亡は楽しそうに、けれど先ほどとは違い無防備に立ち尽くすだけでなく、その掌から黒い盾を生み出して火矢を防いでいる。


 一方、みーくんは魔術に集中しているのか、いまだその場を動かず、腕を掲げたままの体勢である。


 火矢が降り注ぎ、それを空亡が盾で防ぐという状況。けれど、空亡が防戦一方で、戦況が硬直、なんてことがあるわけが無い。そのような状況、飽きやすい彼女が許容するはずがないのだから。


「では、そろそろこちらからも動くとしようか――闇よ」


 空亡がそう呟くと彼女の足元、ひらひらとなびく着物の裾から黒いものが覗く。そしてまるで、産み落とされるかのように、馴染み深い黒い獣が立て続けに現われた。


「さぁ今度はお主が防ぐ番であるぞ。そら、我を落胆させてくれるなよ?」


 その言葉と共に、生み出された総勢五体の獣がみーくんに襲い来る。


 けれど、みーくんは意に返さない。ただ、毅然と空亡を見つめ、そして天に手を掲げたまま微動だにしない。まるで、この火矢の雨を降らすことだけが大切、とでもいうように。


「そら、いまだ強情を張るのか? そのまま獣に嬲られるというのなら、それもよかろう」


 いまだその場は火矢が降り注いでいるというのに、獣達はそんなもの意に返さぬとばかりに、その身が傷つくことも厭わずみーくんへと殺到していく。

そして遂に、獣達がみーくんに迫り、喰らいつこうと飛び掛ったとき、



「――爆ぜろ」



 静かな、けれどはっきりとした宣言。――そして次の瞬間、激しい爆発が巻き起った。


「爆発……!? 一体、なにが……?」


 土煙が舞い、全てが覆い隠される。その寸前、見えたのはみーくんに飛び掛る獣達と、降り注ぐ幾本もの隕石の火矢が一斉に爆ぜたことだけ。


「みーくんは……?」


 無事なのだろうか? あの爆発は、多分みーくんが起こしたものだ。けれど、その寸前に、獣に襲われてもいた。戦場の様子が一切見えないのがもどかしい……!


 そして、数瞬の沈黙の後、土煙の晴れたそこでは――、


「これで終わりだ、さぁ負けを認めるんだな!」


 と言って、いつの間にか手に持った、まるで曲刀のような鋭さのある弓を空亡の首筋に当てつけて、降伏を言い渡すみーくんの姿があった。


「はぁっ!?」


 視界が閉ざされたとしても一分も無い時間、それも獣達に襲われる最中という絶体絶命の状況。それから一体どうして、離れていた距離を詰め、空亡を追い詰めることになっているのか。


「なに、簡単なことだ。一瞬で我の獣を切り捨て、そのままここに回り込み、首筋にその武器を突きつけたということであろうよ。おまけに、その弓は先ほどの矢と同じく、星より創りし召喚物のようなもの、となれば唐突に現われようと驚くことではないさ」


 まるで自分のことに頓着せず、ただ悠然と俺の疑問に答えるように説明を告げる空亡。しかしその様子は、どう見ても完膚なきまでに絶体絶命な状況である。


「分かっているなら、話が早いな。さぁお前も、ここで負けを宣言して、オレと彰の結婚を祝福してくれ!」


「いや、流石にそれはできぬなぁ。別に我は、この状況に、特に危機など感じぬしの」


 みーくんの要求をあっさり断ると、空亡はあろうことか、その首を押し付けられた鋭利な弓へと押し付けた。そして、例え弓の形をしていようと、鋭さを持ったそれは当然の如く幼子の首を断ち切るには十分なものであり――、


「なっ!?」


 驚愕し、みーくんが慌てて弓を離そうとするがもう遅い。まるで作り物の人形のように、空亡の首から上が、ぽろりと地面に落下する。なんて、悪趣味な光景であろうか。


「そんなっ、一体どうして……!?」


 自身によって巻き起こった凶状に、戸惑いそしてそれ以上に恐慌するみーくん。けれど、普通に考えて、首を落とされて生きられるはずもない。そして、まるで自殺のようであったはいえ、それを為したのがみーくんであったことは変えられない事実。


 精錬な一騎打ちから一転、出来の悪い悪夢へと、目の前の光景は変わっていた。


 そして、それを見て、俺達三人が思うのは、やはり一つ。


「うん、ホント、悪すぎる趣味だな……」


「えぇ、いくらなんでも、性格悪すぎですよね……」


「下手しなくてもトラウマものよね、あれは……」


 つまるところ、空亡の趣味が最低すぎる、という一言に尽きる。


 勿論、誰一人として、空亡の心配なんてしていない。そもそも、半球<本体>には傷一つついてないのだから。


「おーい、悪趣味なのはそのぐらいにして、そろそろ終わらせてやれよ……」


 なんというか、正々堂々、持てる力を使って全力で戦っていたはずのみーくんが、ただの悪趣味な娯楽のために、罪悪感に嘆く姿は見ていて気持ちのいいものではない。


「ふむ、お主がそう言うのであれば仕方ない、それでは幕引きとするか」


 そう地面に転がった空亡の頭が呟くと、その身体もろとも黒い闇へと成り果てて、そのまま立ち尽くすみーくんの身体全体を捕らえる。


「なっ!? なんだ、これ……!?」


 驚いたみーくんが目を見開き、その闇を振り払おうとするが身体は一切動かない。そう、どれだけあがこうとも、その拘束が解けるはずも無い。


「結局のところ、全ては余興に過ぎぬものであった、ということさ」


 なんて言葉を紡ぐのは、本体である半球から生み出された、新たな空亡。


 その光景に、全てを理解したみーくんは、怒るでも無く、ホッとしたように呟いた。


「よかった、生きてたんだな」


「うむ、お主もよかったぞ。様々な手を凝らし、我をしっかりと愉しませてくれたからの」


 それを聞いて諦めるように、けれどどこかすっきりとした表情でみーくんは言葉を紡ぐ。


「オレの負けだ! あーもう、こんな埒外がいるなんて、予想外すぎる……!」


 なんて、恨み言を言いつつも、その顔は楽しそうに笑っていた。


 こうして、結果の分かりきった戦いは、予定調和な結末を迎えたのだった。


31日、年内に一話完結とか言っておいて、この様です、すみません。orz

色々忙しかったというのもありますが、色々戦闘が長引いたりという。

そもそも、戦闘苦手というのもありますが、安心と安定の空亡さんの勝手な動きも、というね。


そして何気にまだ続いてしまうという体たらく。

できる限り、早く次の話をお届けするようがんばりますので、どうか次回もお付き合いお願いいたします。


なお、内容的には予定調和な内容と、悪趣味すぎる某幼女。

ラスボスに対策無しかつ一人で挑んで勝てるはずもありません、という。


それでは、読んでいただきありがとうございました。

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