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俺と彼女達の下半身事情-魔物娘と過ごす日々-  作者: 黒箱ハイフン
第五話 『刃の導く彼女の記憶……けれど、それは悪意に塗れたもので』
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055 『最悪な要求』

「あいつの狙いは俺みたいだし、お前は下がってろ。俺が何とか空亡のやつを引き剥がすから、それまであのときみたいに準備をしといてくれ……!」


「っ! 分かりました……!」


 依織を下がらせて、レイアと、――いや彼女の身体を乗っ取った空亡と対峙する。


「くくくっ、戯れで器にしたが思った以上に良いの、この娘は……! 弱りはしているとはいえ、我を身に宿してなお余裕のあるうえに、術の素養もあるとはのう……!」


 レイアの身体を動かし、上機嫌に空亡は語る。


依織のときは、違いはあれど似たような部分も多くあった。けれど、今目の前にいる相手は、レイアとは全く違う。これは姿形が同じだけで、全く別の存在だ。


「楽しそうなとこ悪いが、結局お前は何がしたいんだ? 俺に復讐でもしようって言うのか?」


「先ほども言ったであろう? 我はお主の嘆きが見たい、ただそれだけであるよ。まぁしかし、まずはその苦悶の声を聞くというのも悪くはないの」


「やっぱろくでもない考えか。だが、簡単に当てられると思うな!」


 こちらに迫る尾の一撃を飛び退いてかわす。日々レイアの攻撃を受けてきたのだ、その尾の軌道や間合いに関しては、下手をすれば彼女以上に詳しい自信がある。


「ふむ、そう言われると、是が非でも当てたくなるものよな……!」


 興が乗ったとばかりにそう言うと、空亡の操る尾が激しさを増す。しかし、まだかわせないほどじゃない。たまに掠るなどしつつも、致命的な一撃だけは喰らわないようにかわし続ける。


「けど、このままやってもジリ貧だ……」


 正直、体力は依織の件でほぼ限界に近い。いくら慣れているとはいえ、このままずっと避け続けるのは不可能だ。なにより、避けているだけでは何も変わらない。


「だが、下手な攻撃はできない」


 その身体はレイアのものなのだから。

狙うべきは一つ、彼女の持つその刀――今の空亡の本体たるそこを一撃で仕留める。


「くくっ、一つ良いことを教えてやろう」


「……いいこと?」


唐突に空亡が笑い出した。嫌な予感を感じながらも聞き返す。


「お主が先ほどから伺っておるこれ、今の我が身たるこの刀が砕かれたとき、何が起こるかを教えてやろうと思っての」


「流石に狙いはばれてたか。それで、どうなるって言うんだ? 今度こそお前が復活も出来ず、滅ぶとでも教えてくれるのか?」


 正直なところ、俺は今でも空亡を滅ぼしたくはない。だが、もう迷いはしない。レイアを救い出す為ならば、もういちど彼女を殺すことになっても俺は躊躇わない。


 覚悟は出来ていた。けれど、空亡の言葉はそんな俺の思いを、根底から打ち砕くものだった。


「勿論、我は滅ぶとも。――ただし、それは我と繋がっておるこの娘も共にだがの」


「なっ!? どういうことだ……!?」


「我が滅べば娘が開放されると思っておったのだろう? だが、互いの魔力で深く繋がっておる今、その要たる我が消えれば、この娘の身体も同時に消し飛ぶであろうよ。そして、この身体から魔力を止めぬ限り繋がりは解けぬし、当然我は解くつもりは無い」


 そこ言うと空亡は、攻撃をやめてその手の刀を俺のほうに向けて差し出す。まるで、壊したければ壊せばいいというように。


「嗚呼、よい顔をしておる。理解できたようでなによりだ。何も知らず、ただ砕かれただけではつまらぬからの。ほれ、どうした? わざわざこうしておるのだ、好きにするがいい」


「お前は、何を……!?」


「もとより拾ったこの命、お主の嘆きを味わえるなら、戯れに捨てるのも構わぬさ。さぁその手で我を、そしてこの娘を滅ぼすがよいぞ?」


 そう完全に無防備に語る空亡のその姿は、先ほどまで待ち続けた最大の好機だ。


「そんな……」


 ――なのに、俺は動けない。


「なんだ、なにもせぬのか。ならば仕方ない、先ほどの続きをやるとしよう」


「彰さん、危ないっ!」


「あっ」


 依織が後ろで叫ぶ。けれど、動けず固まっていた俺は、先ほどまで避けていた尾に容易く巻き取られ、捕らえられてしまう。レイアに巻きつかれたときには心地良かった締め付けも、いまはただ苦しく不快なだけの感触だ。


「心配せずともよい、我は別にこやつを殺めるつもりは無いのだからな。ゆえに蜘蛛の娘よ、お主はそこで大人しくしておれ。邪魔をされるというのは、どうにも好かぬ。もしお主が動いたならば間違って、締め付けを強くしすぎてしまうかも知れぬぞ?」


「くっ、彰さん……」


「気にするな、依織。悪いのは俺なんだから、お前はそのまま頼む。どうやら、命まではとられないみたいだしな」


 悪いのは依織ではなく、簡単に捕まった俺のほうなのだ。


 それに俺を殺すつもりが無いのなら、こうして捕まったことは傍に寄ることが出来たとも考えられる。近くにいるということは、隙を突つけば何かができるということなのだから。


「それで、お前は俺をどうするつもりなんだ?」


「ふむ、どうするべきかの。お主を殺さず、そして嘆かせるにはなにがよいものか……?」


 どうやら何も考えておらず、とりあえず捕まえただけだったらしい空亡は思案顔を作る。俺を嘆かせるためになにをするか、そんな最悪な考え事をしているのだろう。


「……よし」


だが、その考えの内容はともかく状況としてみるなら、悪くない。

巻きつかれてはいるが、それは脚から腰にかけてであり手は完全に自由だ。そして、これだけ近いのだから声は必ず届くし、手を動かせば空亡にふれることも問題ない。


そう、刀を握った、その手を掴むことだって。


「言っておくが手から離れても、もはや我と娘の関係は切れぬぞ? だが、あまり騒ぐようだと、少し大人しくしてもらうことに――」


 刀を触ろうとしたと思ったのだろう、空亡は少し鬱陶しそうに告げ、巻きついた尾を強めようとする。けれど俺が触れたかったのは刀ではない、――彼女のその手だ。


「むっこれは、我の身体が……?」


 戸惑う空亡。俺を拘束していたの蛇の身体は、いまや二本の脚の生えた人間と同じものに変わっていた。俺の狙いは刀ではなく彼女の手、そして尾の拘束を解き彼女に伝えること――、


「いつまでもそんなやつに好き勝手にされてるんじゃねぇよ! やられっぱなしは好きじゃないんだろ! こいつがお前と魔力で繋がってるって言うんなら、そんなもん止めちまえ! それともお前はそんなこともできないぐらい弱いやつなのか、なぁレイア……!?」


 その手を掴み、大きな声で呼びかける。依織のときにやったのと全く同じことだ。


 あの時、一瞬だが依織は意識を取り戻した。ならばレイアだって、空亡を押しのけることができるかもしれない。そして俺の言葉が届いたなら、一瞬でもその魔力を止め、空亡との繋がりを断つことだって不可能じゃないはずだ……!


「………………ふむ。それで?」


 けれど、帰ってきたのは退屈そうな問いかけ。そして、繋いだ手は無造作に払われる。

俺の言葉など、空亡は微塵も感じていなかった。当然、身体を奪われているレイアの反応なんてものは無い。


「何をするかと思えば、この身体に声をかけただけか。そんなもの、通じるはずも無かろう? 蜘蛛の娘のときならいざ知らず、宿った身体の意思などに負けると思うたか、この我が?」


「そんな……」


「ほう、お主の手を離せば戻るのか。あぁそういえば、刀に飲まれておった妖どもの記憶にあったのう、その手で触れた妖の身体を人のものにする、だったか。面白い力だが、捕らえる上で使われるのは少々鬱陶しいの」


「ぐっ……」


 なんてことなく言うと、空亡は俺の身体を再びその尾で絡め取る。ただし、今度は腰から下だけでなく、両腕と共に身体までも。


「このっ、彰さんを放しなさい……!」


「お主はそこで大人しくしておれと言ったであろう。さすれば、そこまで悪いようにはせぬと、――む、そうだ。うむ、これはなかなかに良さそうだの」


 声を荒げる依織を無視し、何かを思いついたらしい空亡は、にやりといやらしい笑みを作る。


「蜘蛛の娘よ、お主はこやつを放せと言ったな?」


「できればそのままレイアさんの身体からも出ていって、どこか遠くに消えて欲しいですがね」


「くくっ、我に対してそこまで言うか。だがよいぞ、その申し出を受けてやっても?」


「へっ?」


 予想外の返答に戸惑いの声を上げる依織。ただの嫌味のつもりで言ったであろうことを、あっさり受けると言われたらそうなるのも当然だろう。


 けれど空亡が、人の邪念から生まれたという彼女が、このような申し出を何も無く受けるはずがない。


「ただし、お主がこやつに殺されるというなら、だがの」


彼女が出したのはやはり最悪としか言いようがない、飲めるはずの無い要求だった。


月曜以外の不定期更新という名の定期更新。

まぁ色々矛盾してますが、もはや恒例なことなので、気にしないでください。


なんだかんだで空亡さんは一番好きなキャラだったりします。

幼女趣味は無いはずなんですけどねぇ。


それでは、今回も読んでくださりありがとうございました。


次回は月曜零時の定期更新予定です。

それでは、次回もよろしくお願いいたします。

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