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俺と彼女達の下半身事情-魔物娘と過ごす日々-  作者: 黒箱ハイフン
第四話 『可愛い幼女……だとしても、其れは空を亡くすモノ』
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040 『涙を流す愚か者』

「くそっ、やめろ……!」


 まさか、こんな形で童貞を奪われるなんて……!


 けれど、どれほど嘆いてもどうすることも出来ない。地面に固定されたこの状態では、いくら脚に力が宿っていてもどうしようもない。


 絶体絶命――ただし、性的な意味で。


 もはやそう俺が諦めかけたとき、無限に闇が広がり続けていたこの場所へ、突如上から一筋の光が差し込んだ。


「なっ、これは……!? いや、そんなはずはありえぬ、何故今になりまたこれが……!?」


 空亡のせいかとも思ったがこのうろたえ様を見る限り違うようだ。先ほどまでの余裕が完全に消え去った空亡は、もはや下に敷いた俺のことなど気にしていない。


 そして、そのままに光は俺と空亡を中心に広がり、瞬く間に周囲の闇を消し去っていく。そして闇が晴れた先、空には強い光を放つ不可思議な模様が浮かんでいた。


「どうして、あんなものが空に……!? がっ、ぐっ……!?」


 空に浮かぶ模様を見て空亡は驚愕に目を見開き、苦しそうに息を漏らすと、俺の身体から転がり落ちた。一体、この光がどうしたというのか、そんなに苦しいものではないと思うのだが。


「ぐっ!? 何故、何故あれが、あの忌々しい術式が空に浮かんでいるというのだ――!」


 光を浴び、絶叫する空亡。

その言葉でこれがなんなのかをようやく理解する。あの空に浮かぶ模様が、そしてこの光こそが、かつて空亡を倒す際に使われた結界なのだろう。


『彰さん、ご無事ですか! 遅くなってしまい申し訳ありません……!』

『ここまでお膳立てしてあげたんだから、さっさとどめを刺しなさいよ!』


 空に浮かぶ模様から聞こえてくる二人の声。


――そう、俺はひとりで戦っていたのではないのだ……!


「だったら、俺だけいつまでも寝てるわけにはいかないよな」


 光によって闇が晴らされ、俺を拘束していた地面から伸びた触手も消え去っていた。俺は立ち上がり、そして空亡を見る。


 光に包まれ、苦しそうに地面に伏せる姿は幼い容姿も合わさって、とても脆く弱い存在に見える。先ほどまでの感情が嘘のように彼女のことを憎いとは思えなかった。


「空亡……」


こうして相対したからこそ分かる、彼女は人に害をなす残酷な怪物かもしれないが、同時に無邪気に楽しいことを求める見た目どおりの幼い子供でもあると。さっきはあれほど憎く思えた奈々のことも結局原因は俺であり、空亡を憎むなんていうのは責任転嫁でしかないのだ。


 戦いの際、本気でやろうと思えば十二支のときのように一瞬で俺を倒すことが出来たのに、手加減をしたり時間を与えるなどして少しでも楽しもうとしていた。その根底は、長い退屈にあったのだと思う。つまるところは、彼女はただ遊びたかったのだろう。


「けど、情けなんてかけられない……」


どれだけ可哀想に思えても、このまま放置すれば彼女はきっと多くの人を襲うだろう。そして依織とレイアが張ってくれた結界も、ずっと続いてくれるはずも無い。だから、ここで俺が倒さなければといけないと、頭では分かっている。


――けれど、諦めたくない俺は、空亡に声をかける。


「なぁもう一度聞くが、うちで暮らさないか? 人を襲うのさえ止めてくれれば――」


 最初に聞いた問いかけ。もし、この誘いに乗ってくれさえすれば俺はなんとしても皆を説得し、彼女を我が家の一員として迎えようと思う。そう、俺は彼女を、空亡を殺したくないのだ。


「く、くくっ、今更、またそれを問うか。やはり、お主は面白いの。だが、我の答えは変わらぬ、性質は、変えられぬからな……」


 けれど、帰ってきたのは以前と同じ返答。交渉の余地など無いというように空亡は首を振る。


「さぁ、ならばすべきことは決まっておろう? 我が動けぬうちに、この身にとどめを刺すがいい。我の気が変わらぬうちに、早くその脚で我を踏み砕くがよいさ……」


 そう言って、倒れたままの空亡は俺の前に半球を差し出す。


 身体を二つに割られても、全く効いていなかった空亡。それは、この半球こそが彼女の本体だったからなのだろう。今思えば身体を増やしたりしたときも、半球だけは一つきりだった。


「……すまん」


 半球の上に脚を掲げ、踵落としの要領で振り下ろす。


「謝るでない。退屈な封印と違い、此度の催しは心底楽しいものであった。それに――」


 ばきん、と音を立てて、半球は粉々に砕け散る。


「我の為に涙を流す愚か者に出会うなど、思いもよらぬことまであったのだからのう」


 最後の瞬間、そう言って空亡は満足そうに微笑んだ。


そして空亡の身体とともに、辺りに残っていた闇が急速に薄れて消え行く。闇の払われた向こうから、依織とレイアがこちらに向かってくるのが見えた。


俺はいつの間にか目元に溜まっていた液体を拭うと、思い出したかのように疲れと痛みで悲鳴を上げる身体に従い、仰向けに地面に倒れこむ。

 

こうして、空亡を巡る今回の騒動は終わりを迎えたのだった。


流石に終盤で間を空けるのもアレなので不定期更新。


色々あっさり終わりすぎてる気もするけれど、これにて四話終了です。

そして次回からの五話は第一部最終章にして、ようやくあのキャラの諸々開示できます。


多分、第一部で一番盛り上がる……はず、なのでどうかお付き合いお願いします。


それでは、読んでいただきありがとうございました。


次回は月曜までのどこかでの更新、またはブクマ数十の倍数での御礼更新のどちらかです。次回もどうかよろしくお願いいたします。

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