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俺と彼女達の下半身事情-魔物娘と過ごす日々-  作者: 黒箱ハイフン
第一部 第一話 『美少女が二人突然家にやってきた……けれど、これは』
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004 『下半身に対する実験』

「彰、お茶」


「へいへい」


 突きつけられた空のコップに麦茶ついでやる。それぐらい自分で取れよ、とも思うが。


「しかしまぁ」


 手を洗って戻ると、依織がテーブルに料理を配膳し終えており、夕飯の準備が整っていた。先程のようにまた喧嘩を始めるかと心配していたんだが、予想に反してそうはならなかった。


 なぜなら――、


「それにしても美味しいわね、これ♪」


 と、こんな具合だからである。


テーブルに着いたときにはまだ険悪な雰囲気だったものの、料理に手をつけてからはこの調子だ。満面の笑みで依織の料理を口に運び、それを絶賛している。


「まっ、気持ちはよくわかるがな」


実際食べてみればレイアがそうなるのも頷ける。

塩焼きは魚本来の旨みを残しつつ絶妙な塩加減で味付けしてあり、煮物も短時間で作ったとは思えないほどにしっかりと味が染みている。味噌汁は味噌だけではなくだしの風味が効いており奥深い味わいだ。そして生野菜のサラダは、シャキシャキと音が鳴るほどに瑞々しく、口をすっきりさせてくれる。


「本当に、美味いな」


 自然と感嘆の声が出るほどに、依織の料理は美味かった。ごく普通の冷蔵庫のあまり物で、どうすればこんなものが作れるのだろうか。


「ふふ、お口にあったようでなによりです。自分の作った料理を美味しそうに食べてもらえるというのは、嬉しいものですね」


 そう言って俺たちの様子をみて微笑む依織。いくら仲が悪いといっても自分の料理を絶賛されて悪い気分にはならないということだ。


 そんなわけで、俺とレイアが料理を絶賛しては依織がその様子に上機嫌になるという、予想外に和やかな雰囲気で夕食は進んでいくのだった。



「そういえば、さっきのってなんだったんだ?」


 食後、居間で休憩していると頭に浮かんだ疑問。


「さっきってなんのことよ? あの料理に文句でもあるの?」


「もしかして、料理、お口に合いませんでしたか?」


 流石にこんな言い方では伝わらなかったらしい。よく考えてみれば食後に言ってるのだから、料理のことと勘違いされて当たり前だ。


「いや、料理は文句なしに美味かった。俺が聞きたいのはその前の、お前らの身体がいきなり変わったことだ。あれ、結局なんだったんだ?」


「あぁ」


「えっと」


 そういえばそんなこともあった、というようなまるで今思い出したような反応。それと同時に、見られたことを思い出したのか二人の顔が赤く染まった。


レイアにいたってはこちらを睨み付けて、下手したらまた尾で攻撃してきそうである。そうなる前に本題に移るべきだ。


「確か、あのときはこんな風に手を握ったんだよな。……おっ?」


 言いながら、二人の手をそれぞれとる。

手を握った瞬間、夕食前と同じ、何かが手を伝っていくような変な感覚がきた。


「なっ?」


「へっ?」


 二人が声を上げるよりも早く、膨らんでいた彼女たちのドレスと着物の裾がそれぞれ萎んでいた。その中にあるのがごく普通の人間の下半身であるように。


「……変わってるわ」


「はい、私も人間になっています」


 二人とも驚きながらも、その中身を見せず服の上から手で触って身体の変化を確かめている。今回は拝ませてくれないようだが、やはり俺と手を繋ぐと下半身が人間になるらしい。


「えっと、二人とも、手を離すぞ」


 言って、繋いでいた両手を離す。

 けれど、繋いだときと違いすぐに戻りはしない。数秒経ってから、二人の身体は元に戻った。


「ふむ、なら今度は……。ちょっとレイア、手を借りるぞ」


「あっ、ちょっと」


 抗議の声を上げられるが無視してその手をつかむ。先程と同じように、すぐにレイアのドレスが萎み、変化したのが分かる。


「……よし。じゃあ、次は依織だ」


 十秒数えた後、レイアの手はつかんだまま、更に依織の手をつかむ。


「えぇ、はい」


 戸惑いながらも手を差し出してくれた依織の手をつかみ、また彼女の身体も変化させる。

 そのまま二人と更に二十秒ほど手を繋いだ後、同時に手を離す。やはり変化したときと同じようにすぐには戻らないが、それも予想通り。


「さて、これでどうなるか?」


「いったいなんのつもりよ?」


「説明してくれませんか、あっ」


 依織の身体が元に戻った。しかしレイアのほうはまだ変わったままである。


「なんであんただけ戻るのよ? って、あっ」


 依織だけ戻ったことに首をかしげるレイアの身体も元に戻り、その服の裾がまた膨らんだ。


「なるほど、やっぱりか」


「なにがやっぱりなのよ。勝手に納得してないで、説明しなさい」


「あぁ、すまん。だが、そのぶん色々分かったぜ」


 つい気になって説明もせずに、試してしまったことを謝る。だが、おかげでこの現象の法則が分かったと思う。流石にその原因までは分からないが。


「分かったって、彰さんと手を繋ぐと私達の身体が人間のものになるってことでしょうか?」


「あぁ、勿論それもある。だけどもう一つ、結構重要そうなことも分かった」


「一体何が分かったっていうのよ?」


「さっき二人と手を繋いだとき、依織のほうがレイアよりも早く元に戻ったよな」


 手を離してしばらくしてまず依織だけが戻り、その後にレイアの身体は元に戻った。時間的に言えば十秒ほどの差だ。


「確かにそうだけど、それがどうしたのよ?」


「依織のときより、レイアのほうが手を長く繋いでただろ。元に戻るのは手を離してからみたいだが、それまで繋いでた時間が長いほど戻るのが遅れるんだと思う」


「成程、その為に私と手を繋ぐのに時間をあけたんですね……」


「んで、具体的な戻るまでの時間だが、手を繋いでから離すまでの時間だけ、持続するらしい」


 さっき試したときレイアと三十秒、依織とは二十秒手を繋いでいた。そして手を離してから戻るまでにかかった時間は、依織が二十秒、レイアが三十秒だった。


時計を見て正確に測ったたわけではないが、概ね時間は間違っていないと思う。


「あくまで、仮説だがな」


 もしかしたらもっと複雑な法則があるのかもしれないが、今のところ分かるのはここまでだ。


「確かに、言われてみればそんな気もするわね。じゃあ、もう一度試して確かめましょ」


「あっ、おい」


 いきなりレイアに手を握られる。そして先程と同じく、手を何かが伝う感触の後、レイアのドレスが萎む。そして、秒数を数えながら少し待つ。


「それじゃ、あんたも手を繋ぎなさい」


「あなたに指図されるいわれはありませんが、仕方ありませんね」


 そう不本意そうに言いながらも、依織も俺の手を握り、レイアと同じように着物の裾を萎ませた。そのまま、二人と手を繋いだまま更に時を数えていく。


「じゃあ、同時に手を離すわよ」


「おう」


「分かりました」


 二人と同時に手を離す。やはり今までと同じく、手を離してもすぐには元に戻らない。

そして、その状態で時間経過を見守ること二十秒。


「えっと、後十秒で私の体が元に戻るんですよね」


「あぁ、さっきの仮説が正しければだけどな」


 今回は時計を確認してきっかり時間を測って実験を行っている。

まずレイアと二十秒繋いだ後、依織とも手を繋ぎ、そこから三十秒待って同時に手を離した。


俺の想像通りなら三十秒後に依織の身体が元に戻り、その二十秒後にレイアも戻るはずだ。


「あっ、戻りました」


 先程の会話から十秒後、手を離してからきっかり三十秒後、依織の体が元に戻った。


「よし、なら後はレイアだな」


「そうね。…………五、四、三、二、一、ゼロ。ん、戻ったわね」


 丁度ゼロを言ったところで、レイアの身体も元に戻る。勿論、依織が戻ってから二十秒後だ。

今回は時計を見ながら身構えていたこともあり、特に驚くこともなくレイアも自分の体が元に戻るのを確認している。


「やっぱり、あってたみたいだな」


「えぇ、そうみたいね。あんた、人間にしてはなかなかやるじゃない」


 珍しくレイアが褒めてくる。上から目線なのは変わらないが、褒められるのはやはり嬉しい。


「ですが、なんでこんなことが起きるんでしょうか?」


「さぁ? 私だって知らないわよ」


「あなたには聞いてません。ねぇ、彰さん」


「俺に聞かれても困る。そもそも、お前らみたいな奴に会ったのも今日が初めてなんだからな」


 だから自分にこんな変な能力があるなんて知るわけがない。普通に生活して気づくようなものではないのだから。当然、何が原因で、何故そんなことができるのかも分からない。


「まったく、使えないわね……」


「彰さんがあなたにそんなことを言われる筋合いありません」


「あんたに関係ないでしょ」


「いいえ、ここで暮らさせていただく以上、彰さんへの侮辱は許しません」


 また言い争いが始まった。つくづく思うが、相性の悪い二人である。


「はぁ、だから喧嘩はやめてくれと言ってるだろうが……」


 呆れつつも、本日何度目になるかわからない諍いを止める。

ただ、結局一番肝心な原因は分からないままなのだった。


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