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俺と彼女達の下半身事情-魔物娘と過ごす日々-  作者: 黒箱ハイフン
第一部 第一話 『美少女が二人突然家にやってきた……けれど、これは』
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003 『両親のお墨付き?』

 トントントン、という規則的に響く硬い音。それとともに漂う香ばしい味噌の香り。

 そんな空腹を感じさせる音と匂いで目が覚めた。


「んっ? なんだ……?」


 目を開くと見慣れた木目の天井が映る。どうやら居間のソファで寝ていたらしい。

 一瞬夢を見ていたのかと思ったが、そんなことはないと視界の端に輝く金の髪を見つけて思い直す。


「あっ、起きたのね」


「おかげさまでな。というか少しは手加減しろよ」


「あんなところを見たあんたが悪いんでしょ。あれですんだだけありがたく思いなさい」


 そんな逆ギレに理不尽だと思いながらも、言い返すのは諦めて身体を起こす。なんとなく視線を下に向けると、レイアのドレスからはやはり長い尾が伸びており、先程の光景が現実だったのだと改めて思い知らされる。


「で、依織はどうしたんだ?」


 見たところ、ここにいるのは俺とレイアだけで依織の姿はない。彼女なら、俺が目を覚ますまでずっと横で心配していそうな気がしたんだが。


「あいつなら、ほら」


「なるほど、音と匂いはそれか」


 レイアに指を指された方向、居間から出た先にある台所に視線を向けるとそこでは依織が料理をしているのが見て取れた。


後ろから見ると、着物で隠れてはいるものの蜘蛛の部分が正面からよりもはっきりと見え、そんな彼女が料理をする姿というのはなかなかシュールな光景だ。


「あぁっ、彰さん、目が覚めたんですねっ!」


「おっ、おう」


 そんな俺の視線に気づいたのか、料理を中断して依織がこちらに向かってきた。なんというか、八本の脚をすばやく動かし駆け寄ってくるのはかなり迫力がある。


「先程は本当に申し訳ありませんっ! 動転していたとはいえ、彰さんに手を上げてしまうなんて、私、なんてお詫びしたら……!」


「うーむ」


 こちらが逆にいたたまれなくなるような謝罪の連打。レイアとは違う意味で、なんだか文句を言う気がなくなってきた。


「そんなに大怪我したわけでもないし、さっきのことはもういいから」


「あうぅ、彰さんはやっぱりやさしいです」


 泣き出しそうな瞳に、感動の表情を浮かべる依織。そこまでされるようなことでもないと思うのだが。もともとあまり怒っているわけでもない、レイアとは違って彼女はしっかり反省しているようだし。


「なによ、なんか言いたいことでもあるの?」


「いや、なにも。それより依織、いい匂いがするけど何を作ってるんだ?」


 睨んでくるレイアを流して、依織に聞く。とりあえず、味噌の香りからして味噌汁は多分確定だと思うが、それ以外は流石にここからではわからない。


「えっと、お味噌汁と、魚の塩焼きに、芋の煮物、それとサラダを。後はサラダを盛り付けるだけなので、すぐにでも夕食のほうはできますよ」


「おぉ、それはありがたい、ちょうど腹減ってきたところだから早速頼む」


「はいっ、わかりました。それで、あの、勝手に冷蔵庫のものを使ってしまいましたが、よかったでしょうか……?」


「それはいいさ。親父たちも帰ってないみたいだし、依織が作ってくれてなかったら、夕食は何もないところだったんだからな」


 見たところ両親が帰ってきた様子はない。普段ならもう帰ってきておかしくないはずなのに。


「えっと、ご両親のことなんですが、これが冷蔵庫の壁に……」


「ん、なんだ?」


 依織から紙を受け取り、それを読む。そしてすぐに固まった。


『彰へ。


 誕生日おめでとう。今日でお前も十六歳、世が世ならもう成人といってもいい年齢だ。

 なので、実際に一人前の大人としての生活をしてもらおうと思う。


しかし学生の本分は学習なのだから、別に働けとは言わない、生活費はしっかりと振り込むから安心してくれ。ただ、これから一年間この家で私達の助け無しで生活していきなさい。


父さん達のことは心配いらない、ちょっと知り合いに誘われて世界旅行にいってくるので。


 父より。


PS もし女の子と縁があったりしたなら、一緒に住んじゃっても構わないわよ?


母より』


「いきなり、そんなこと言われてどうしろと!?」


 本当に何を考えてるんだ、うちの両親は。いきなり何の相談もなく一人暮らししろとか、無茶振り過ぎる。しかも偶然だろうが、この状況を見越したような母さんの追記もまた酷い。


「あんたも親に苦労してるのね……」


「あぁ、ほんとにな……」


 何故か同情してきたレイアに力なく返答する。昔から、あの両親には振り回されてばかりだ。


「つーか、今日って誕生日だったか……。だからって、いきなりこれはどうなんだ……?」


 手紙で気がついたが、そういえばそうである。ここ数年はせいぜい少し食事が豪華になるのと商品券を贈られるぐらいなので、そんなに気にしてなかったせいで完全に忘れていた。だから勿論、こんな嬉しくないサプライズをされるとは思いもよらなかった。


「えぇと、あの、彰さん、家事などの御家の事は私がやりますので、心配しないでください」


「それは助かるが、いいのか?」


「はいっ、少しでも彰さんのお役に立たせてください!」


 笑顔でそう言ってくれる依織が救いの女神に見える。自分で言うのもなんだが、家事はほぼできない俺にとって、この申し出は本当にありがたい。


「ありがとう、依織……! お前のお陰で俺はまだ生きられそうだ……!」


「そんな大げさな。それにそれぐらいは当然ですよ、ここに住まわせてもらうんですから、家事ぐらいはしませんと。……まぁそんな当たり前のことをしない人もいるみたいですけど?」


「誰に言ってるのかしら、それは?」


 付け足された嫌味にレイアが食って掛かる。依織も、わざわざ毒を吐かなくてもいいのに。


「あら、ご自分が一番分かっているのではないですか?」


「言ったわね……!」


 また剣呑な雰囲気が流れ出す。どうして彼女達は、ここまで仲悪いのか。初対面のはずだというのに。しかしこのまま放置するわけにもいかない。


「なぁ、依織! 腹減ったんだけど、早く飯の準備してくれないか! あっ、レイアは食事前に手を洗う場所教えるから、一緒に来てくれ!」


 まくし立てるように言うと、レイアの手を引いてその場から退散する。


「えっ、はい、わかりました」


「ちょっと、いきなりなによっ!」


 急かされて慌てて料理の準備に向かう依織と、文句を言いながらも着いてくるレイア。かなり強引だが、なんとか二人が争うのは止められた。


「もう少し、仲良くしてくれたらなぁ……」


 レイアを洗面所に案内しながら、聞こえないように俺はそうぼやいたのだった。


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