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俺と彼女達の下半身事情-魔物娘と過ごす日々-  作者: 黒箱ハイフン
第三話 『恋人として……たとえ、それが偽りだとしても』
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024 『演技の破綻とその結末』


「あぁ申し訳ないけれど、レイアちゃんは後ろの車の方に乗って頂戴。私はちょっと、彰さんと話したいことがあるから」


「あっ、ちょっとママ!」


 娘の静止の声も聞かず、レイアの母は俺の手を引っ張り玄関前に止まっていたリムジンに連れ込むと、運転手に指示を出して発進させる。そのお陰で、運転手を除けば、広い車内には俺と彼女だけという気まずい空間が出来上がってしまう。


「ふふっ、そんなに畏まらなくてもいいのよ? 君もいずれうちに来るんだからね」


 親しげに話しかけてくるレイアの母。もう彼女の中では、俺がレイアの婿となるのは決定事項のようだ。けれどもし、それが誤魔化す為の嘘だったとばれたらどうなるだろうか。


「あっ、あぁ、そうですね。えっと、それで、話ってなんですか……?」


 白蛇家での最後の一件のせいで、とてもじゃないが自然に話しかけることはできず、おずおずといった聞き方になってしまう。機嫌を損なってしまえば、どうなるか分からない。文字通り、蛇に睨まれたような心地だ。


「そうね、まずはおめでとう。とっても格好良かったし、レイアちゃんの為にあんなになって戦ってくれるあなたの姿はとても素敵だったわ。それで、君にこうして車に乗ってもらったのは少し気になることがあったのよ。まずは、ちょっとその服を見せてもらうわね」


 そう言いながら彼女は俺のシャツとズボンに触れてきた。


「なるほど、やっぱりこれは霊装みたいね。しかも、かなり質のいい。けど、それだけじゃ、あの二戦目での走りや、最後のことはやっぱり説明が……」


 ズボンの布地を確かめるように触りながら、呟き首を傾げるレイアの母。柔らかなその手がくすぐったい上、触れるために傍に来たせいでレイア以上に豊かな胸が迫ってくる。レイアや依織とは違う大人の女性の香りがして、緊張でされるがままに固まってしまう。


「ねぇこの服とかはどうしたの? それと、彰さんって本当に人間なのよね?」


「あー、この服はちょっと知り合いが今日のために用意してくれたんです。後、一応俺自身は普通の人間のつもりなんですけど、なにかおかしかったですか……?」


 流石に居候の女郎蜘蛛が織ってくれました、とは言えないので知り合いとぼかして答える。もうひとつの質問の方は、意図がいまいち分からない。両親共に人間のはずだし、レイア達みたいな力もないから、人間だと自分では思っている。『手をつないだ相手の下半身を人間のものにする』なんて人外限定の変な能力がある時点で微妙な気もするが。


「あっ、でも二戦目のときにも言いましたけど、うちは代々脚がやたらに強いらしいです。ご先祖は飛脚だったとかで、親父も爺さんも脚は凄かったですし。流石に、あんなに早く走れたり戦えたりしたのは、この服のお陰だと思いますけど」


 色々ややこしくなりそうなので手のことは省いて話す。しかし、そう考えるとやはり唯の人間ではないのかもしれない。普段から走りこみなんてしてない高校生の俺でも、本気で走れば五輪記録程度で走れる自信はあるし。


「ふぅん、単に脚が強い遺伝だけとは思えないのだけれど、確かにそれ以外、見かけはどうみても人間だものねぇ。残念だけど、私にもこれ以上はまったく分からないわ」


「なんかすいません、色々変で……」


 得体の知れない相手が(実際は演技だとはいえ)娘と交際しているなんて、親からしてみれば不安だし、心配にもなるだろう。


「あら、気にしなくていいのよ。むしろ、私は分からない方が面白くて素敵だと思うしね。それに君の性格や考えは、試させてもらったお陰で信頼できるもの。あまり外へ出したこともなかったから心配したけれど、レイアちゃんの見る目はしっかりしてたみたいね」


「そっ、それは良かったです……」


 どうやら、ますます気に入られてしまったらしい。本当に、演技とバレたらどうなってしまうんだろうか……? 想像するだけで恐ろしい……。


「じゃあ次は、どうして彰さんたちが付き合うことになったのかを……、って私ばかりが聞いてばかりも不公平ね。そうだ、折角だしレイアちゃんの弱点を教えてあげるわ。ふふっ、実はあの娘は――」


 その後は、レイアについて教えてもらったり、逆にこっちから付き合った理由や、普段どんな風にすごしているか等、家に着くまでの間、色々なことを話していく。


 そんな風に車で会話していくうち、俺の家へと到着した。緊張はしたけれど、色々と面白い内容だったおかげで、あまり待ったという感覚はない。


 とりあえず、ドアを開ける運転手に促がされるままにリムジンから降りる。続けて、レイアの母も降りてきて、更に後方に停まったもう一台からレイアがこちらに向かってきた。


「もう、ママは強引なんだから。変なこと、彰に話したりしてないわよね……?」


「大丈夫、心配しないでもちょっと世間話をしただけよ」


 なんて軽く返しているものの、弱点やら幼い頃の失敗談など、聞く側としては面白いが、レイアからしたら堪ったものではない内容を話してもらったのは言わない方がいいだろう。


「はぁ、もういいわ。それより、ほら、さっさと家に招きなさいよ、彰」


 すっかりいつもの調子のレイアに急かされ玄関を開けようと手を伸ばすと、それより先に扉が大きく開かれる。


「えっ?」


「お帰りなさいませ、彰さん! 御無事でよかったです!」


 そう言って、玄関から飛び出してきた依織が俺に抱きついてきた。突然の登場に、俺やレイアは勿論、運転手やレイアの母までもが固まっている。


「えぇと、あなた、彰さんとは一体どういったご関係なのかしら?」


 戸惑いながらも笑みを浮かべ、けれどその裏に隠せないほどの威圧感を漂わせて、突然の娘の恋人(ということになっている)の俺に抱きついてきた依織に問いかける。


 対する依織は、そんな迫力など全く気にした風もなく自然な様子でこう答えた。



「妻ですわ」



「ちょっ!?」


「あんたっ……!?」


 突然の爆弾発言に焦る俺とレイア、けれど当の依織は嬉しそうに照れている。


勿論、依織が言ったことは事実無根であるのだが、そんなこと初対面の相手が分かるはずもない。後ろからの強烈な気配に振り返ると、レイアの母が先ほど以上の笑顔を浮かべていた。


「さて、彰さん、一体どういうことかお話していただけますね?」


「はっ、はい……」


震えた声で、そう答えることしか俺にはできなかった。


「――と、いうことです……」


 恋人のふりをしていた経緯や彼女との出会い、そして先ほどの依織の発言が事実無根であることの説明をする。依織自身にも嘘であることを認めさせたところで、ようやくレイアの母は重苦しい気配を少し緩めてくれた。


「なるほど、あなたは恋人ではないけれど、レイアちゃんの見合いを妨害するために付き合っているふりをした、と?」


 そう言って見つめてくる瞳からは見通すような、どこか値踏みするような鋭さが感じられる。その返答如何で、俺は勿論レイアに対しても彼女の対応が大きく変わるのだろう。


「はい、俺がそのために恋人を演じたことは、事実です。けど、見合いのことを台無しにしたことは謝りますが後悔はしてません。やっぱり望んでもないのに強引に見合いを決める、というのはやっぱり間違ってると思いますから」


「そう。けれど、まったく関係ないあなたにそんなことを言われる筋合いはないわ。自分が何をしたのか本当に分かっていて、そんなことを言っているのかしら?」


「はい、分かってます。けど、やっぱり俺は納得できません。そういうことは、当人であるレイアが決めるべきだと思うんです。だから、俺は自分のやったことは間違ったと思ってません」


「あら、あなたは私に意見するというの……?」


 冷たい瞳で見つめられる。それだけで、少し緩んだ空気が、先ほどよりも更にいっそう張り詰めてきた。あのときの白蛇の怯えた気持ちがよく分かる、恐ろしいほどの威圧感だ。


出来るなら逃げ出したいが、必死で視線を受け止め見つめ返す。もし、ここで俺が折れたのなら、レイアはまた望まぬ見合いをさせられてしまうかもしれないのだから。


「待ってママ、彰は何も悪くないの! そもそもこれはあたしが言い出したことなのよ! 見合いだって何だってするから、彰に手は出さないで……!」


俺をかばってくれるためだろう。けれど、彼女の言い分は聞き入れられない。彼女がなんと言っても、そんなこと本心で望んでいないのは分かりきっている。


「おい――」


「ごめんなさい、彰さん。少し、レイアちゃんと二人で話させてもらえるかしら」


 俺が口を開こうとしたとき、レイアの母がそれを遮る。けれど、この状況で二人だけで話をさせて、無理やり何かをさせられるようなことになったら……。


「あんたって、ほんと心配性ね。大丈夫よ、ママだって鬼じゃないんだから。それに家族なんだもの、無理強いなんてしないはずよ。えぇ、きっとそうよ、そうに決まってるわ……」


「あっ、レイア……」


自分に言い聞かせるようにそう言うと、レイアは自分の部屋の方へと母を案内していく。そして居間には俺と、居心地の悪そうな依織だけが残される。

 

――それから暫くして、話が纏まったらしく二人が戻ってきた。


 その内容自体は聞こえなかったが、時折レイアが声を荒げていたので、何かかなり重要なことを話し合っていたように思えた。依織の方も、なんだか複雑そうな顔をしている。


「それでは、私達は帰らせてもらいます。色々ありましたが、娘がとてもお世話になったことはかわりません。後日、お礼の方を持って行かせますので」


まるで先ほどの気配が嘘のようににこやかに言う母と、俯いたまま手を引かれていくレイア。そのまま二人は、あっさりと家から出て行こうとする。


「あっ、いや、待てよレイア……!」


 そんな俺の呼びかけに、レイアはやはり振り向かず俯いたまま、声だけを返す。


「またね、彰」


 それが彼女の最後に放った言葉。


こうして、様々なことがおきた一日の最後の出来事が終わる。

――レイアとの別れという結末で。


というわけで月曜の定期更新。


これにて、第三話、終了です。

次回より「ここからが本番」と仲間内での評価を下されたり、個人的にも気に入っている第四話開始です。


次は月曜までのどこかで不定期更新入れる予定です。

読んでいただき、皆さんありがとうございました。


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