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俺と彼女達の下半身事情-魔物娘と過ごす日々-  作者: 黒箱ハイフン
第二話 『まるでアニメのような日常……ただし、下を見なければ』
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015 『蛇と蜘蛛と晒し者なファストフード』

「彰さん、ちょっと来てください」


 そんな依織の言葉に呼ばれ、二人の待つ部屋のほうに行く。


 そこでは、部屋の前にたたずむ依織と、戸の隙間から伸ばされた一本の手。


「まっ、こういうことだよな」


 依織のときと同じようにその手を掴む。変な感触が手を伝わるとともに、「きゃっ」とまだ慣れていないらしいレイアの悲鳴が上がる。


そして、戸が開かれ部屋から出てきたレイアは白いワンピース姿になっていた。勿論、その裾から伸びる両足は人間のもので、彼女の正体がラミアだなどとは思えない。依織と違いソックスは履いてないが、生脚にはまた独自の浪漫と魅力が満ち溢れている。


「ちょっと、黙ってないでなんか言いなさいよ」


「あぁ、すまん。なんだか新鮮でな。似合ってるぞ、その服」


依織のときのように着物から洋服というほどの違いは無いが、いつもの豪奢なドレスとは違う簡素なワンピース姿というのもなかなか似合っている。


「ふふん、どう? まぁこんな地味な服でもあたしが着ればここまで映えるのよ」


 得意げにその大きな胸をそらすレイア。普通ならば自信過剰とも思える言葉だが、彼女のような美少女が言えばとてもさまになっていた。


「しかし、どうしたんだその服? そういう服も持ってきていたのか?」


出会った時に持っていたトランクに着替えなどを入れてたのは知っている。だが、今着ているそれはどう見ても人間用だ。ラミアであるレイアがわざわざ持ってくるものなのだろうか?


「私が織ったんです、先程急いで。一度同じものを織ったとはいえ、この短時間でやるのは大変でした。流石に服だけで限界で、ソックスなどまで織っている余裕はなかったのですが」


「そういえばレイアの服のこと考えてなかったか、ありがとな依織。しかしなるほど、言われてみれば二人とも一緒の服だったんだな。けど、同じ服でもずいぶん印象が違うもんだ」


 同じワンピースでも、依織が着ると清楚な箱入り令嬢の保養地での召し物、レイアが着ると勝気なわがままお嬢様の普段着といった雰囲気だ。どちらも魅力的なことに変わりはないが。


「ふんっ、それはそうでしょう? だって、あたしとこいつでは圧倒的な差があるもの」


 依織の胸元を見て、嘲笑うかのように腕を組むレイア。それにより布地で覆い隠せない豊かな双丘は持ち上げられ、もともと存在感があったものが更に強調される。


「くっ、この……! 何でも大きければいいというものではありませんよ! むしろ、慎ましさこそがこの国本来のあり方なのです! ですから、あなたのような下品な脂肪の塊など、別に羨ましくもなんともありません……!」


 視線から胸元を護るように腕を抱き、依織が声を張り上げ言い返す。どうやら気にしていたらしいが、彼女もそんなに小さいわけではない。ただ、レイアの大きさが普通でないだけで。


「あら、持たざるものの負け惜しみは見苦しいわよ?」


「くっ、言わせておけばこの蛇風情め……!」


 互いに睨み合い、毎度の如く一種即発な雰囲気。しかも、レイアの手を握っている俺は自然と二人に挟まれる形になっている。当然、このままいけば諍いに巻き込まれるのは確定だ。


「あー、もうっ、だから毎回毎回喧嘩するな! そんなんだと、やっぱり行くのなしにするぞ!」


「あう、それは……」


「くっ、卑怯よ、それを持ち出すなんて……!」


 なんとか二人を怯ませて、喧嘩を止める。一応、今回はこの脅しが効くだけマシか。


「もし外で騒いだり喧嘩したりしたら、その時点でもう帰るからな?」


「……はい、分かりました、善処します」


「なによ、そもそもわざわざ騒いだりしてないわ。今のだって、この蜘蛛が……」


「レイア、分 か っ た か ?」


「あぁもう分かったわよ、喧嘩もしないし騒がない! だから早く遊びに連れてきなさいよ!」


「ん、それでいい。くれぐれも、面倒事は起こさないでくれよ」


 言い訳をしようとするレイアを説き伏せることで、ようやく喧嘩も終わる。なんだかんだで、結構時間を使ってしまった。まぁ着替えなどもあったので、仕方ないといえばそうなのだが。


「それじゃ、行くか。ほら、依織もそろそろ切れるだろうし手を貸してくれ」


「あっ、はい、よろしくお願いします」


 差し出された依織の手を握る。いつもの感触があったが、既に変わっていた依織の身体に変化は無い。こうして右手にレイア、左手に依織の手をとり、俺は街へと繰り出すのだった。

 




「とまぁ、いきおいよく出てきたはいいが、この状況は……」


 街に繰り出した俺達がまず立ち入ったのはハンバーガー屋。よくよく考えれば、家を出る前に昼食を済ませてこなかったのだから、腹が減るのも当然の話だ。


 俺の懐具合を考え、ファストフードの店にしたのだが、二人と手を繋ぎながらの注文はとても恥ずかしかった。正直、どこの羞恥プレイだという話である。そんな変態趣味は断じてない。


――だがそれ以上に、今の状況をどうにかして欲しい。


「ほら、口を開けなさい」

「はい、彰さん、どうぞ」


 右からはレイアがバーガーを、左からは依織がポテトを俺に対して突き出してきていた。

両手をそれぞれ二人と繋いでいるのだから、俺が食べるにはこうしてもらうしかないのだけれど、当然ながら食べ辛い。……そしてなにより、ものすごく恥ずかしい。


本性は蛇と蜘蛛でも、今の見た目は完全に人間の美少女の二人。


そんな彼女達にいわゆる『あ~ん』をされている状態であるために、客店員を問わずやっかみや好奇の視線が俺に集まっているのである。だから、そういう趣味はないというのに……。


「わざわざこのあたしが、こいつに食べさせてやってるのよ! あんたは引っ込んでなさい!」


「そちらこそ、邪魔をしないでください。彰さんの御世話は私の役目なのですから。あなたは大人しく、自分の分を勝手に食べていたらどうですか?」


「はっ、あんたがどう媚びようと関係ないけれど、あたしだってこいつに借りばっかり作るのは気に入らないのよ。あたしのせいで手が使えないのなら、その代わりぐらいはしてやるわ」


「ですから、それが大きなお世話なんです。あなたがどう思おうと、彰さんの御世話は私一人で十分なのですから。借りなど勝手に作って、自分の分をわきまえた態度を取ってください」


そのうえ、依織とレイアが例によって張り合い、自分の食事そっちのけで俺に食べさせようとしているのから、この状況で落ち着いて食べられるはずも無い。


「本当に、どうして、こうなった……」


 ため息をつく。しかし、そんな俺の声も聞こえぬようすで二人は言い争い、それが更に店内の注目を集めていく。無関係ならよかったのだが、当事者としては本当に勘弁して欲しい。


街に着いて早々、本来なら休まるはずの昼食で俺の気力と精神は削られていくのだった……。


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