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俺と彼女達の下半身事情-魔物娘と過ごす日々-  作者: 黒箱ハイフン
第二部 最終話 『失ったものと得てしまったもの……別に、狙ってるわけじゃないのに』
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149 『城から城へ』

「ん……、ここは……?」


 目を開くと、見慣れない天井があった。どうやら、ベッドに寝ていたようだ。

木製和室の我家とは違う、まるで病室のような真っ白な天井である。見覚えなんて全くない。


 辺りを見回そうか、とだるい身体を動かそうとしたとき、



「ごふぁっ!?」



 強烈な一撃を受けて再びベッドに倒れかける。勢いよくボディアタックをかけられたような感じだ。そして、それ仕掛けてくれた張本人はというと。


「彰っ……!よかった、よがったあぁああああああ……! あだしのぜいで、あんたが、目覚めなくて、心臓も止まって、よがっだよがったよぉぉぉ」


 飛びついて抱きついたまま、ボロボロと大粒の涙を流しているレイア。いまいち状況が分からないが、流石に文句を言ったり茶化したりするのは憚られてしまう。


「えーと、どういう状況だ、これ……?」


「ぐすっ。よかったです。彰さん、死んでいたんですよ……? 絶対に還ってくるって約束したのに、あんな無茶な真似して、どれだけ悲しんだか、分かっているんですか……!」


「えっ、死んでた? どういうことだ、生きてる、よな、俺?」


「だからっ、それは私達が頑張って生き返らせたんですよ……! 何度も、何度も何度も何度も失敗して、ようやく、彰さんが起きたんです……! うぅっ、彰さんっ……!」


「ちょっ、お前まで!?」


 話しているうちに興奮してきたらしく、依織まで抱きついてきた。


 そして、そのまま大泣きする少女達に俺はされるがままになってしまう。

 結局、俺が現状を知る――彼女達が落ち着くのには、まだまだ時間がかかるのだった。



「なるほど、死んでた……というか、仮死状態だった、と」


 ようやく落ち着いた二人から聞いた内容は、なかなか受け入れづらいことだった。多少身体はだるいけれど、今の今まで死んでいた、仮死状態だった、なんて。


「本当に、大変だったのよ。回復系のものは何を使っても全く効果はないし、世界各地の蘇生系の秘術や秘宝を試しても何も効果はないしで」


「えぇ。もはや、彰さんが目覚めてくれるのなら人でなくともよいと、知り合ったヴァンパイアの方に頼み込んで吸血してもらったり、はたまたゾンビ化の秘術も何故だか全く効きませんでしたから」


「いや、おい、何してくれてんだよ……!?」


 吸血鬼はまだしも、ゾンビ化って!? 一歩間違えたら、動く死体として蘇ってたのか!?


「それで、色々手を尽くしても駄目だったのに、今になっていきなりあんたが目覚めたってわけよ。ホント、この馬鹿、心配かけさせるんじゃないわよ」


「はい、そのとおりです。私は、彰さんがいないと、駄目なんです」


「あー、その、なんだ、悪かった……」


 色々されたことには文句も言いたいが、目を真っ赤に泣き腫らした二人にとやかく言うことはできそうにない。女の涙には勝てない、なんて古い歌か何かのセリフは正しいようだ。


「それで、ここはどこなんだ?」



「それには私が答えましょうっ……!」



「うおっ!? なんだっ!?」


 そんな言葉と共に、いきなり現われた少女。ゴスロリ風のフリル満載な衣装に身を包んだ、小柄で可愛い少女。例えるなら、西洋人形と言ったような愛らしさである。


……天井の上から、まるで茸のように、にゅるりと生えていなければ、だが。


「えーと、どちらさま?」


「うーん、戸惑った感じね! 私はこの城の化身、ジェーンよ、よろしく! 気軽に御城様ってよんでね♪」


「あ、あぁ。俺は、霜神彰だ。その、よろしく。けど、城?」


 圧倒されながらも、なんとか言葉を返す。その現われ方や、さっきの言い方からするに、この場所の化身、つまり霜みたいな存在ということだろうか。しかし、城?


「えぇ、城よ。私はこの虚城の化身、どこにでも、どれだけでもいるのよ」」


「はっ、えっ、増えた!?」


 話している間に、いきなり後ろからもジェーンが現われた。天井からぶら下がっている彼女もそのままで。まるでいつかの空亡のようにジェーンの姿が増えていた。


「そいつは空亡みたいなもんだから、気にするだけ無駄よ」


「あぁ、なるほど……」


 それだけで彼女がどんな存在なのかよく分かった。それだけで察せられるあたり、いろいろアレである。


「ふむ、なんか我が変な基準みたいにされておるの」


「あー、空亡か」


「うむ、呼ばれた気がしたので来てみたぞ」


 更にややこしくなる奴が現われた。もはやこいつに関しては驚きもしないけど。そもそも言ったところで、というか空亡のやることに何か求めるだけ無駄だろう。


「はぁ、もうどうでもいいさ。それで、これからどうなるんだ? というか城ってことだが、そもそもどこにあるんだ、ここは?」


ここはどこかと聞いて城と答えられた。けれど、確かに城の一室と言われても違和感は無くとも、一体どこの城だというのか。こんな城があるということは多分、日本では無いと思うがそれ以外は見当も付かない。


「ここはどこ、ねぇ。うーん、どこ、と言われても説明するのは難しいわ。そうだ、一度見てみたらいいんじゃないかしら! ほらっ、これが私よ!」


 そう言って、虚空にまるでスクリーンのように光景が映し出される。

それは、確かに城だった。が、何処にあるのかはよく分かるがわからない。


「どこのラ○ュタだよ!?」


 どこかも分からない空を浮遊する古城。厳密には西洋風の古城のため見た目は違うが、この国の人間にとって、天空に佇む城といえばラ○ュタを想像するのは当然である。


「む、そんな空想上のものと一緒にしないで欲しいわね。そもそも、あれが世に出るずっと昔から私は在ったのだから。いわばあれは私のパクリよ!」


「いや、それに対抗意識を燃やされても……」


 というか、知ってるのか。人外だとそういう文化には疎いものだと思っていたんだが。


「それで、空の上っていうのは分かったんだが、どのへんにいるんだ、これ?」


「んー、そうね、今は太平洋の真ん中あたりかしら。色々なところに移動するってことで、私に乗せてあげてたのよ。それで、どこか行きたいところでもあるの?」


「あぁ。そこまで不調ってわけじゃないが、できるなら家に戻っておきたいと思ってな」


 霜がいてくれるはずだから、そうそうおかしなことは無いと思うが、それでも気になることに変わりは無い。というか突然連れさられて帰ってこないとなると、相当心配かけている気がする。空亡が説明してくれていたらいいが、帰ってもまた泣きつかれるぐらいは覚悟した方がいいかもしれない。


「んー、ここからだと普通にいくと数日はかかるわね」


「数日か……」


「む、帰りたいのか? それなら一瞬ですむぞ?」


 そう事もなげに言うのは我らが空亡。よくよく考えれば真面目に移動とかしなくても、物理法則を無視した方法があるんだったか。


「あぁ、頼む。礼はまた何かするから、うちに移動させてくれ」


「ほほぅ、何でもする、と?」


「いや、なんでもはしないからな……!?」


「ふっ、冗談だ。まぁ我としても、いい加減依織の料理が恋しくなって来たからの。うむ、我が飽きるまでのフルコースで手を打とう。無論、材料費とかはお主持ちで、な」


 邪神も餌付けする依織の料理は流石である。だが、美味いから仕方ない。


 どのぐらい食べるのか恐ろしいが、ここは依織を信じるしかないだろう。安く、それでいて空亡が満足するものを作ってくれるはずだ。


「はい、腕によりをかけて作らせていただきます!」


「よし、あたしも手伝うわ――食べるのを!」


「あぁ、期待してるぜ、依織。あと、レイア、それは手伝いとは言わないから」


 意気込む依織と勝手なレイアに、ようやくいつもの二人に戻ったと苦笑する。


「では、皆入るとよい。忘れ物などせんようにな」


 そう言って空亡が作り出したよく分からない黒い渦。ここを通れば家に帰れるということだろう。つくづく便利なやつである。


と、何か気がついたかのようにレイアが空亡に問いかける。


「……ねぇちょっと待って、あんた、前に来たとき自分以外は転移できないとか言ってなかった?」


「そういえば、そうでしたね。あの時は、ただ言いたいことだけ言って帰っていきましたが」


「おや、そんなこと言ったかのう? まぁ、そのようなことを考えるのはやめておけ。我の気が変わってしまうかも知れぬからな。くくくっ」


 とぼけた様子で嘲笑う空亡。けれど彼女の言うとおり、立場も実力も、圧倒的に上なのは空亡のほうである。毎度ながら性格が悪い。


「ホント、嫌がらせが好きですねぇ」


「ぐぬぬ、覚えてらっしゃい……!」


 呆れたように溜息をつく依織と、悔しそうに震えるレイア。けれど、何ができるわけもない。むしろレイアのように悔しがるほうが、喜ばせるだけだろう。


「それじゃ、皆またね~!」


 なんて楽しそうなジェーンの一人に見送られて俺達はゲートをくぐっていく。そして、一瞬のうちについたのは、見覚えのある我家――じゃなかった。


「おい、空亡、お前また勝手に好き放題したな……」


「くくくっ、ジェーンの城に少し触発されてな。折角なので我もやってみたかったのだ。なに、中身はいつもと変わらぬから安心するがいい。飽きたらまた戻すしの」


 そう語る空亡の言葉通り、目の前には西洋風の城が鎮座していた。

 見慣れた我家の周辺地域、ごく普通な日本の住宅地に物凄い場違いな感じに。


「ちょっと、なによこれ!?」


「えーと、彰さん、これは一体……」


 驚くレイアと戸惑う依織。まぁ知らないのなら当然だろう。帰ってきたら家がこんなになってるとか意味不明すぎるし。


「なかなかやるわね! 私には及ばないけど、いいお城だわ!」


 そして、楽しそうにその城を批評するジェーン。

 ……なんかついて来たのである。分裂したまま、片方に見送らせてそのままもう一人が俺たちと一緒に我家へと。流石に埒外存在だけあって、色々制限のあった霜とは違う。



「――主さまっ!」



 微妙な気持ちになりながら玄関を潜ると、そんな声と共に小柄な衝撃が腹部にくる。


「あー、すまん、色々心配かけたな、霜。ただいま」


「はい、お帰りなさいませです、主さま……!」


 涙を浮かべたまま、ぎゅっとしがみつく霜を優しく撫でる。

やはり、空亡は何も伝えてなかったらしい。相当心配させてしまったことだろう。本当に、彼女には悪いことをした。


「ねぇ彰さん、その娘は、どなたでしょうか?」


「えぇ、彰、ちょっと詳しく話を聞かせてもらいましょうか?」


 ニッコリと、けれどとても凄みのある笑顔を浮かべた二人の少女。完全に、何か誤解されている。そして、それを正しく解かないとなにをされるか……!?


「いや、誤解だからな……! そもそも霜は――」


「へぇ、その方が霜さん、ですか。一体何処から連れてきたのですか、怒りませんから仰ってください?」


「なるほどねぇ、可愛らしいわ。だけど、そんなデレデレするのはどうなのかしら」


「いや、違うから……! デレデレもしてないし、どっかから連れてきたわけじゃないから! 霜はそもそもこの家にいた、というかこの家そのものだから、ほら!」


「あっ、主さま……」


 抱きついたままの霜を抱えて二人に向き直る。そして、彼女の下半身、地面からそのまま生えてきているそれを見せて説明することで、なんとか誤解は解けるのだった。


……すみません。

ちょっと、まとめが迷走し続けてました。

一ヶ月以上空いてしまい申し訳ありません。


なんとか固まってきたので更新です。長くなったので分割ですが。

次回はちゃんと火曜までには更新予定です。

あと年内には完結させます。


それでは本当にお待たせした中、読んでいただきありがとうございました。

どうかあと暫く、お付き合い他だけたらと思います。


次回もどうかよろしくお願いいたします。

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