148 『至福』
――至福。
今の状態を一言で表すのなら、その言葉がもっとも適しているだろう。
俺がいるのは先ほどと変わらず死後の国。けれど、今はもう椅子には座っていない。
「……どうしてこうなったのかしら?」
「どうして、か。それはまぁ、そうなるべきだったということだろう」
即ち、運命とでもいうところか。ある意味、こうなるのは必然だったのだろう。
「魂のみとなるここでは、より欲望に忠実になる、望みへのたがが外れる、ということを忘れておりました」
「なるほど、そうなのか。ただ、まぁお前が悪いわけじゃないさ。それに、この魅力的すぎる脚が悪いはずなんてない、つまり、これでよかったんだ」
「……貴方がそれを言うのですか。なんだか、頭痛くなってきましたわ。そもそも、そんな性癖を持っているだなんて、予想できるはずがありませんわよ」
なんだか呆れられたような声をかけられながらも、特に俺は気にしない。重要なのは後頭部に伝わる至高の感触のみなのだから。
「そもそも、そっちから言い出したことなんだから、今更文句を言うのはおかしいだろう?」
「本当に、失言でしたわ……」
力なく溢すヘルの顔を見上げる。
現在、彼女の片手は俺の手と繋がれている。そして、軽く崩されたその膝の上に、俺の頭は乗っていた。つまるところの膝枕である。彼女から言ってくれた提案なのだ、履行してもらうのは当然だろう。
「まぁ、いいですわ。貴方が悪いひとではない、というのはよく分かりました。えぇ、とても面白いひとではありますし、今回に限っては、特例を認めてあげましょう」
「ん? 一体何のことだ?」
「最初に言いましたでしょう、貴方は今仮死状態だと。ただ、その蘇生を許すも阻むも、私の決定次第だったのですよ」
「えーと、つまり?」
「もし、貴方が現世に帰るのが相応しくない、と思えば貴方の蘇生は成らず、そのままここで死後の住人として過ごしてもらうことになったということです」
「ちょっ!?」
唐突に言われた新事実に驚く俺をくすくすと笑うと、ご心配なく、とヘルは微笑む。
「特例を認める、と言ったでしょう。さぁあちらもようやく用意は整ったようですし、貴方が在るべきところにお帰りなさい」
「なっ、いや、いきなりだな……!? というか、そんなに時間経ってたのか?」
「あちらとこちらでは時間の進みが違うのですよ。できるなら、私のことは記憶の片隅に置いて、またいつかお会いしたときにはよろしくお願いいたします。ただ、ここにはなるべくこないようにしてくださいね、蘇生も今回だけの特例ですよ?」
「そう、か。色々と、ありがとな。忘れないさ、絶対にな。いつになるかはわからないが、またそのときはこちらこそ、よろしく頼む」
言いながら薄れる意識に身を任せる。生涯俺は忘れることは無いだろう、彼女のことを、そしてその至高の脚のことを。そして、俺の意識は閉じていく。
「うぅ、脚、つりましたわ……」
……最後に聞こえてしまった涙声に、少し申し訳なく思いながら。
えーと、その、すいません、結局二週間ぶりです……。
色々在って更新できると思いきや、ちょっとよそ事やってたり新作書いてたりでこんなことに。
ただ、時間は色々出来ましたので次回こそ、ちゃんと更新できるはずです。
あ、ないようですが、これでこの章は終わりです。
あとはエピローグ行く予定です。
それでは、今回も読んでいただきありがとうございました。
次回もどうかよろしくお願いいたします。